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「LISMO」開発者インタビュー
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LISMOの狙い、今後の展開を聞く
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KDDIは、春モデル7機種の投入とともに、新たな音楽関連サービス「au LISTEN MOBILE SERVICE(LISMO)」の提供を開始した。これまでも携帯電話には音楽再生機能が用意されてきたが、LISMOでは、着うたフルやアドレス帳をバックアップできたり、CDから楽曲をリッピングできたりするソフトが用意されるほか、端末側には音楽の嗜好が似た他のユーザーとコミュニケーションできる「うたとも」といった機能が搭載されている。
アップルコンピュータのiPodと比較する声もあるLISMOだが、サービスの狙いや今後の展開について、開発を担当したKDDI メディア本部 メディアビジネス部メディアソフトグループリーダーの八木達雄氏、同グループの上月勝博氏、技術開発本部 開発推進部 マルチメディアグループの渡邊英氏に話を聞いた。
■ 着うたフルスタートとともにプロジェクト始動
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左から渡邊氏、上月氏、八木氏
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楽曲やアドレス帳、メールなどをバックアップできる「au Music Port」
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――LISMOの開発プロジェクトについて教えてください。
八木氏
私と上月が所属するメディア本部はEZweb上のサービスの開発を手掛けています。メディアビジネス部は、レコード会社や出版会社、放送業界の方々とやり取りして、他のメディアとの連携によってEZwebの活性化を図る事業部です。私たちのメディアソフトグループは、音楽系と書籍系のサービスに携わり、LISMOでは同梱ソフトの「au Music Port」の開発にも関わりました。
上月氏
LISMOの開発がスタートしたのは、ちょうど1年前(2005年2月頃)のことです。企画自体は、2004年12月頃に動き始めました。(1曲まるごと配信する)着うたフルが2004年11月にスタートしましたので、それを受けて、という形になります。
着うたフルには、パソコンと連携できない点を心配する声もありましたが、我々は携帯向け市場のほうが大きいと考え、先に着うたフルをスタートすることにしたのです。もちろんパソコンとの連携も行なう必要があると考えていましたので、後から追いかけることになりました。1カ月ほど企画を練って、2005年2月から仕様書を起こし、夏前には具体的な開発に着手しました。
――LISMOは着うたフルを補完するという位置付けなのでしょうか?
上月氏
そもそも(音楽サービスは)携帯電話の世界だけで終わらせたくない、と考えていました。「W41T」というHDD搭載モデルが登場することを聞き、それならば楽曲転送ソフトが必要だろう、という話が出ていたのですが、「単なる転送ソフトだけではもったいない。auの音楽サービスが充実して、統一的なソフトウェアを作って、一斉に提供した方がより広く使ってもらえるのではないか」と考えました。
八木氏
HDD搭載モデルには外部メモリがなく、パソコンに保存しなければいけない、ということで、メーカーにソフトウェアを作っていただきました。一方、auとして年間数百万台という携帯電話をリリースしていく中で、パソコンに対してアプローチしていきたいという話もありました。パソコンと関わることで、ユーザーとの接点を広げるものになる、ということですね。「これだけ(携帯電話の)流通があるのなら、メーカー個別のソフトウェアではなく、統一したソフトのほうが良い。携帯電話の可能性を広げるために必要だ」と上月から提案されました。今となっては単純な話かもしれませんが、当時はそう言われるまで気づかなかったことでした。
上月氏
世の中には、さまざまな携帯音楽プレーヤーが登場していますが、台数だけで見れば携帯電話はメジャーと言える位置にあります。そこに、きちんとした統一プラットフォームを提供できれば、その上でのビジネスにはかなり期待できると考えました。一方、ブラウザの世界に入っていくのは少し難しいという考えもありました。独自サービスに対応したソフトウェア、付加価値のあるソフトウェアを提供するほうが、ブラウザ中心の展開よりも、面白いことができるのではないかというわけです。
■ iPodはどう捉えている?
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LISMOとiPodは、ユーザー層が異なると上月氏は語る
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――その考えで描かれていた利用者像、つまりLISMOのターゲット層は?
上月氏
LISMOは、よくiPod対抗馬、と言われます。私自身もiPodを使っていて、大好きなデバイスですが、現場の開発者はiPodとiTunesのことはあまり意識していません。アップルさんのサービスでは音楽のバックアップはできますが、写真やメールのバックアップはできません。日本固有のケータイ文化は、我々自身でサポートする、といったところでしょうか。
iPodユーザーとLISMOユーザーは、一部重なる可能性はありますが、かなり異なる層だと考えています。着うたフルの利用動向を見ると、楽曲の8~9割がJ-POP、しかも新曲です。そういった楽曲を聴いているのは中高生や大学生前半の層、いわば“お小遣い生活”をしている層です。このユーザー層を音楽方面から見ると、“MD世代”と言うこともできるでしょう。そこへMDプレーヤーが壊れたりして、使えない状況となればどうなるかと考えると、数万円出して音楽専用プレーヤーを買うよりも、たまたま買ったケータイに音楽再生機能が付いているほうが良いのではないでしょうか。入学シーズンでもある春は、携帯電話にとって大きな需要期です。2006年秋には、番号ポータビリティが開始予定ですが、秋よりも春、春を逃すと意味がないと考えていました。
八木氏
一方で、そういうユーザー層がパソコンを使えるのか、という指摘もあります。しかし、小学校の授業でパソコンを取り入れているところもあり、それを体験した層は既に中学生くらいにはなってきている。パソコンへの意識も変わってきています。帰宅してテレビよりも先にパソコンの電源をONにする人は増えており、au Music Portは携帯を置くとパソコンのディスプレイ上に自分専用の画面が表示されるというイメージですね。現在はUSBケーブル、クレードルで携帯とパソコンが繋がっていますが、開発時には、具体的な技術はともかく、セキュアな無線通信で、という利用シーンも想定していました。
■ キャリアが提供する“安心できる”コミュニティ
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「通信会社として、人と人を繋げるサービスは避けて通れない」と述べた八木氏
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――LISMOでは、他のユーザーと関わりが持てる「うたとも」が用意されています。国内の携帯キャリアは、他人同士を繋げるようなコミュニティサービスを控えてきた、と思うのですが。
上月氏
我々が、というよりもユーザー自身がB2Cのサービスに飽き飽きしているのではないでしょうか。実際、そういう声が多く届いており、「根本的な考え方を変えなければ、利用されなくなる」という危機感がありました。
八木氏
当然のことですが、KDDIは、通信会社です。つまり人と人を繋げる仕事をやっていて、そこは避けて通れない部分でしょう。LISMOの開発時期は、SNS(ソーシャルネットワークサービス)が盛り上がってきた時期でもありましたが、携帯の世界で安心して利用できるコミュニティサービスはなかなかありません。そこをキャリアが保証する形にしようということですね。
上月氏
投稿も24時間体制、有人でチェックしています。本当は「うたとも」も全て無料で提供したいのですが、コストがかかるため、サービスの一部は有料(月額315円)ということになりました。
――「うたとも」では、音楽の好みが似ているユーザーを見つけられたりする、といった機能が用意されていますが、その仕組みはどうなっているのでしょうか?
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W41Sでの「うたとも」画面
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八木氏
それらの機能はユーザーの楽曲再生履歴から判定しています。購買履歴を元にした機能、というものはさまざまなサービスで利用されていますが、実際に使われたことを示す再生履歴を使うことで、ユーザーの趣向を本当に反映させたリコメンドが可能になっているというのは、ユニークな点だと思います。
「うたとも」の開発は、まずソニーさんからの提案をきっかけに、両社で検討を行ないましたが、端末側に実装できたのは、BREWだからこそ、という側面もあります。BREWでは“エクステンション”という概念があり、モジュールのように機能を追加できるのですが、「うたとも」もBREWのエクステンションとして組み込まれています。
上月氏
ソニーさんからは、うたともに使われている技術を1年ほど前に提案していただきました。SNSが流行し始め、データベースと連携できれば、単なるコミュニティ機能だけではなく、着うたフルのダウンロードに繋げていけるのではないかと、そのアイデアに大きな可能性を感じました。コミュニティサービスがきちんとしたビジネスモデルになるのではないか、と考えたのです。これまでは、オススメの楽曲があると、携帯ユーザーはメールで「こういう曲があってね……」と伝えていく形でした。パソコンがあれば、販売サイトのURLを伝えれば良いのでしょうが、「うたとも」では、携帯電話でもユーザー同士のやり取りを広げていくことが可能になります。
■ 技術的な仕組み
――開発時にKDDIから端末メーカーに求めた仕様は?
渡邊氏
私は、パソコンと携帯電話で行なわれるDRM、具体的には通信プロトコル仕様や、コンテンツの暗号化仕様などを主に担当しましたが、要求仕様として一番大きな部分は、DRMで定義する通信プロトコル部分ですね。ソフトウェア(au Music Port)と携帯電話がやり取りする部分を完全にサポートしていただくようお願いしました。また、著作権コンテンツですので、暗号化・復号機能の実装も大きなところでしょうか。既に、過去のau端末では、外部メモリカードに著作権コンテンツを書き出せる仕組みを採用していますが、そこで用いられている番号バインド(電話番号を鍵とする仕組み)だけでは、パソコンとの連携はできません、そこで、LISMOでは、既存の暗号化技術をいくつか組み合わせています。
上月氏
機種によって、外部メモリカードがminiSDカードだったり、メモリースティック Duoだったりするなど、環境が異なっています。CPRMなどのメモリカード固有の著作権保護技術を用いると互換性が保てなくなりますので、デバイスの違いを意識することなく、使えるようにしなければなりませんでした。当社の端末開発部門と研究所(KDDI研究所)のメンバーがかなり苦労しながら、やり遂げました。
――音楽コンテンツをパソコンに移動させる、となればレコード会社などの著作権保有者に警戒されると思うのですが、どのような点が決め手に?
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DRM関連を担当した渡邊氏
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渡邊氏
au Music Portでは、ユーザーに見える形の制限として、バックアップした着うたフルをパソコン上で再生するには、携帯電話を接続しておく必要があります。楽曲そのものが、携帯電話かパソコンのどちらに保存されているとしても、結局携帯電話本体が必要となるという仕組みにしています。W21Sなどから採用されてきた、着うたの外部メモリカード保存機能では、厳密に言えば、音楽コンテンツそのものは携帯電話を離れて別のメディアに存在していますが、携帯電話に装着しなければ楽しめません。つまり、au Music Portでも基本的な部分に変化はないのです。
上月氏
音楽を楽しむには携帯が必要、という仕組みに加えて、着うたや着うたフルで培った実績もポイントと考えています。もし、着うたを展開する前にLISMOと同じことをやりたい、と言っても実現はしなかったでしょう。
八木氏
外資系レーベルからは、世界標準のDRMを使って欲しいという要望をいただいていました。しかし、我々は、着うたを始めた当初から注意して取り組んできましたので、今は理解していただいています。
上月氏
独自のDRMはなかなか認めてもらえないという面もありますが、着うたフルのような楽曲配信サービスは日本が一番と言ってもらえています。独自か標準か、という点は、KDDIは日本市場で展開するキャリアですから、国内でいかにスムーズに、いかにタイミング良く低コストで提供できるか、ということが重要です。標準化活動自体は行なっていますが、日本市場が先進的であるため、我々の提案した仕様が標準化されたとしても実際のビジネスでは活用しにくいことは否定できません。独自仕様でも、権利者に納得してもらえるものであれば、問題は起きません。将来はともかく、今はスムーズにいっているということになります。
――au Music Portと携帯電話でデータのやり取りをする際、パソコン側にネットワークセキュリティソフトがインストールされている環境だと、警告が表示され、うまく楽曲データが転送できない、という事例があるようですが。
上月氏
au Music Portを利用する際、パソコンと携帯電話はUSB経由で接続する形になります。写真など暗号化していないデータは、シリアル転送していますが、それ以外の部分、つまり暗号化したデータをやり取りする場合は、インターネットで標準的に使われている「TCP/IP」を使っています。セキュリティソフトは、常に通信部分を管理していますから、au Music Portで楽曲転送する場合は警告が出てしまうのです。
これは既知の問題として認識していますし、放置してはいけない、と考えています。まずは取扱説明書やオンラインヘルプの文章を改訂し、警告の回避方法を示してわかりやすく案内します。また、シマンテックなどソフトウェアメーカーさんに対しては、「au Music Portの通信は問題ない」という形にしていただけるよう、話し合いを進めているところです。
――そもそもTCP/IPを採用したのは、なぜでしょう?
渡邊氏
LISMOを春までに提供する、ということで開発期間はあらかじめ決まっていました。その期間内で、携帯電話とパソコンの通信部分を開発することになったのですが、短い期間で、特に携帯電話への実装が可能なこと、加えて比較的セキュア、かつ自由に扱えるものとして、TCP/IPが最適と判断したのです。
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端末側の音楽再生機能は、基本的に「au Music Player」として統一
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――au Music Portの使い勝手は、カシオソフトのMySyncに似ていると感じましたが、関連はあるのでしょうか?
上月氏
PIMデータなどの管理部分については、カシオソフトさんのMySyncを活用しています。ただメールのバックアップという機能は、MySyncにはないものです。au Music Portは、既存のリソースを元に開発したことになりますが、GUIは最初から構築したもので、そのデザインは、アートディレクターの佐野研二郎氏が手掛けました。
楽曲情報は、CDDBから取得していますが、au Music Portでは、エイムさんが構築した「YOMIデータ」も取得するようになっていて、手入力しなくても、多くの楽曲でフリガナがわかるようにしています。
――端末側に実装されているau Music Playerは、どの辺りまでがKDDIの求めた仕様範囲になるのでしょうか? またメーラーなどを共通化するというKCP(KDDI Common Platform)の一環と捉えてよいのでしょうか?
上月氏
KCPかどうか、というと、それは違うものになるでしょう。端末側の実装については、音楽再生やうたとも、聴かせて検索などが共通仕様になります。ただ、機種によっては過去のユーザーに向けて提供してきたサービスをサポートするため、SD-Audioに対応したものがありますし、W41Tにはイコライザ機能などが用意されています。こうした点は、メーカーサイドの商品企画の部分となり、各機種の差別化部分と言えます。
――W41TのBluetooth機能では独自プロファイルで音楽を楽しむことになりますが、LISMOと関連があるのでしょうか?
上月氏
独自プロファイルの実装は、音質面を重視した結果、と言えます。独自プロファイルは、東芝さんとヤマハさん、当社のBluetooth担当部門で共同開発しました。音質に関しては、ユーザーからも要望が寄せられています。HE-AACというコーデックは変更しませんが、au Music Portでリッピングする際、より良い音質になるようチューニングする予定です。具体的な時期は未定ですが、2月中にもau Music Portのバージョンアップを実施することになるでしょう。「現在提供しているもので終わり」というわけではありません。
■ LISMOの今後は?
――AV家電からCDをリッピングできたり、車載機器などサードパーティ製品が登場したりするとユーザーとしては嬉しいところです。
上月氏
それらについては、技術面での問題はありません。ただ、そういう要望を持つ積極的なユーザーは、LISMOのターゲットユーザーとは、まだ重ならないのではないか、と見ています。開発者としては、技術的に難しいほうへ持っていきがちですが、今、パソコンでCDをリッピングするということになっているのは、何を優先すべきか検討した結果です。欲張っていくよりも、まずは基本をしっかり作ることに注力しました。順調に進めば、いろいろとやっていくことになるのではないでしょうか。
サードパーティ製品についても、情報開示をするかどうか、検討する可能性はあります。実際、周囲からは「iPodでは周辺機器がたくさんあるのに」という声も寄せられています。ただ、先に述べたように、まずは順番に1つ1つクリアしていく、ということになりますね。
――4月には、音楽配信サービスとして「DUOMUSIC STORE」も開始されます。配信楽曲の価格帯はどうなるのでしょう?
上月氏
楽曲の価格は、コンテンツホルダー、そしてマーケットが決めることになります。高いとユーザーが判断すれば、利用されないことになるのではないでしょうか。我々は「DUOMUSIC STORE」に期待して開発を続けていますが、それでも着うたフルと同程度の売れ行きまでにはならないと思っています。ニーズとしては、通信費をかけないでダウンロードしたい方、あるいは1曲ではなく、アルバム丸ごと購入したい方にとって、「DUOMUSIC STORE」のような方法は必要なのです。
八木氏
ユーザーの見る目は厳しいですよね。反感を買ってしまうような流れにはならないと思います。ただ、パソコン向けの音楽配信は、「あって当たり前」のサービスで、メインは携帯での購入になるでしょう。
――EZwebには、音楽以外にも電子書籍など多くのコンテンツが用意されています。それらはLISMOと統合してau Music Portで取り扱えるようになるのでしょうか?
上月氏
一般的な考え方からすれば、一緒にする、ということになるのでしょう。技術的には問題ありませんし、実際、EZムービーやEZブックは、パソコン側で再生できませんが、バックアップはできるようになっています。
ただし有料の映像配信は、着ムービーが受け入れられている程度で、オンデマンド配信などはまだ根付いていないと見ています。著作権についても課題はあって、テレビで過去に放映された番組を取り扱うには、その番組に関わった方々の許諾が必要です。将来的に、法改正などが行なわれれば、それはLISMOにとっても良いタイミングになるかもしれませんね。
――今秋に予定されているMNPに向けて、LISMOはどう進化するのでしょう?
上月氏
進化の方向としては、使いやすさ、そして普及を図るということになるのでしょう。「au Music Portさえあれば、バックアップできるので心配の種が1つ減る」というのも戦略の1つではあります。他社ケータイのデータを扱えるようにする、というのも検討はしましたが、まずは春商戦に向けて開発してきましたので、今後の課題でしょうか。
――ありがとうございました。
■ URL
au LISTEN MOBILE SERVICE 案内サイト
http://www.kddi.com/lismo/
KDDI 2006年春モデル紹介ページ
http://www.au.kddi.com/collection_win/06spring/
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(関口 聖)
2006/02/10 18:10
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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