|
「T-01A」開発者インタビュー
|
|
「Snapdragon」を搭載した東芝製スマートフォンの魅力
|
|
|
5月19日午後、NTTドコモの発表会では東芝製のWindows Mobile端末「T-01A」が発表された。7年ぶりに復活したドコモの「T」は、4.1インチの大型タッチ式ディスプレイに1GHzのCPU「Snapdragon」を搭載し、「ストライプメニュー」と呼ばれる新ユーザーインターフェイス採用するなど、復活にふさわしい意欲的なモデルとなっている。今回は、そんな「T-01A」について、東芝の商品企画担当者とソフト開発担当者に魅力を語っていただいた。
|
東芝の狩野氏(左)と本田氏(右)
|
|
T-01A
|
――それではまず、「T-01A」のおおまかな特徴を教えてください。
東芝 モバイルコミュニケーション社
商品統括部 新規事業商品企画部 参事
狩野明弘氏(以下、狩野氏)
「T-01A」では、4つの大きなコンセプトをかかげました。今までにない薄さ、今までにない大きな画面、1GHzのCPUを使った高いパフォーマンス、片手でも使える使いやすさの4つです。ユーザーインターフェイスの特徴であるストライプのメニューは、店頭で目立ち、手にとっていただけるような派手な彩色としました。まずは手にとっていただきたいとの思いからです。
今回の「T-01A」はWindows Mobile(以下WM)を採用しています。ビジネス寄りのイメージがあるため、従来のビジネスユーザーはそのままにしつつ、さらに裾野を広げられるようコンシューマー向けを意識し、WMの堅苦しさをできるだけ排していこうと考えました。たとえば、使い慣れていない方にはわかりくい機能をメニュー階層の上位に持ってくるなどし、見つけやすいところにおいてあります。
――「T-01A」は、FOMA端末「T2101V」以来、東芝としては7年ぶりのNTTドコモ向け端末ですよね? ドコモ向けの供給を再開した背景に何があったのでしょうか?
狩野氏
我々は携帯電話メーカーですので、全ての携帯電話事業者様に端末を供給することは1つの悲願でした。ただ、開発能力の面や継続性の問題もあり、なかなか転機がなかったのも事実です。今回、我々としても新しいコンセプトを打ち出すということで、返り咲ける転機となりました。我々の思いをドコモ様にも理解をしていただきました。
東芝 モバイルコミュニケーション社
ソフトウェア設計第二部 部長
本田亮氏(以下、本田氏)
これまでも携帯電話事業者様には新商品の提案をしてきましたが、今回ドコモ様のスマートフォンにも力を入れていくという方針と、私どもの戦略が一致し、今回の商品開発が実現したました。
――性能面の特徴として、1GHzの新CPU「Snapdragon」を搭載されました。2月にスペインの展示会で触れたときには、正直なところ、期待した性能を感じることができませんでした。しかし今回、発表会で触ってみて本当にビックリしました。非常にきびきびと動作していて、パフォーマンスの高さを感じられました。Snapdragonを実装されるにあたって苦労された点などありますか?
本田氏
バルセロナで展示した際には、プラットフォームのパフォーマンスとしては十分にCPUの性能を出し切れるところまでほぼ開発が終わっていました。ところが、当時は新開発のUIのチューニング段階ということもあり、なかなかうまく動作しない部分がありました。あれから数カ月がたち、新UIのチューニングや仕様変更などを重ね、1GHzのCPUのパフォーマンスを生かして、さくさくと動作するものに仕上げることができたと思っています。
――クアルコム製のチップセットはこれまでもau向けで開発されてきたと思いますが、WM環境でのクアルコム製チップの採用は初めてですか?
本田氏
海外モデルである「G910」という機種で、クアルコム製のチップセットを使ったWM環境の開発経験はありました。
――過去のノウハウという面では活かせる状況にあったのでしょうか?
本田氏
今回のチップは、クアルコム様もまだ市場に出していないものでした。初モノのチップとなるため、新規開発がほとんどで、クアルコム様とも深夜まで会議をしながら開発を進めてきました。互いに協力しながらもかなり苦労した部分がありましたが、新しいチャレンジをお互い実現できたと思っています。
狩野氏
クアルコム様とは長い間協力関係を築いていたため、お互いの進め方などに不安はありませんでした。チップそのものをパイオニアとして使うということで、生みの苦しみといった面が大きかったですね。
本田氏
新しいものを作る際は苦しみはつきものですが、どこまで協力関係を築いてやれるかというのは非常に重要なことです。今回はこれまでにないぐらいのジョイントワークが行えたと思います。
――ノートパソコン「dynabook」シリーズから名前をとって、「T-01A」には「dynapocket」という名前がつけられています。これまで東芝製のPDA端末などで「Genio」のブランド名をつけていましたが、新ブランドとした意図を教えてください。
狩野氏
元々、ペットネームを何か付けたいと考えていましたが、なかなか良い名前が見つからず、検討の末、国内向けには「dynapocket」にしようと決めました。今回、「T-01A」を新ジャンルとして打ち出したいということもあって、これまでの「Genio」という名前を踏襲することは考えておりませんでした。
――「T-01A」は新ジャンルの商品とのことですが、ターゲットとしているユーザーと想定されている利用シーンなどを教えてください。
狩野氏
当初はデジタル機器などが好きな20~30代男性をターゲットにしています。とは言いながらも、今、家の中でパソコンを使っていない人はほとんどいない状況です。我々は、インターネットを家の中だけでなく、外でもバリバリ使いたいという方がたくさんいるんじゃないかと考えました。このため、サブターゲットとして主婦層を含めた20~30代の女性も考えています。
「T-01A」はドコモのPROシリーズとなるため、少しビジネス寄りの印象ですが、ビジネスだけでなく、コンシューマーも獲得できる仕上がりになっていると思います。
――たとえば、ウィルコムのW-ZERO3シリーズなどは、女性も使われている方が多いようです。ターゲット層としては近いと考えていいですか?
狩野氏
そうですね。まさにそういった層になります。「T-01A」では、よりご家庭や職場で使われているパソコンに近い、大きな画面が利用できることに気づいていただけるとうれしいですね。
本田氏
「T-01A」は、パソコンを持ち歩かなくてもPCサイトにアクセスし、旅行先やカフェでいろいろ調べたり、ブログを書いたりといろいろな使い方ができると思います。我々のようなビジネスマンはパソコンを持ち歩いていることが多いですが、でもそのほとんどが会社のものであり、インターネットを使ってデジタルライフを楽しむという面では、難しいところがあります。
「T-01A」を個人で所有すれば、ブログにもフルブラウザでアクセスできますし、女性がハンドバッグなどに入れても邪魔にならないサイズです。インターネットへのアクセスビリティを高めるツールといえるのではないでしょうか。
|
T-01AはYシャツのポケットに入るサイズを想定したという
|
――4.1インチのディスプレイは、携帯機器としてはかなり大きいものです。しかし、画面が大きくなれば物理的な端末の幅も大きくなります。女性をターゲットに含めるとなると、端末の幅というのにも配慮が必要になりますよね。
狩野氏
女性の場合、ポケットに入れるということはあまりないですが、サイズとしてまず想定したのはYシャツのポケットにすんなり入るものということです。また、手に持ってぎりぎりの幅というのを検討した結果、70mmであれば女性でもなんとか使える範囲ではないかという結論に達しました。
本田氏
大画面を使っていただきたいということと、他社との違いを打ち出すためにも思いきりのよい決断をしました。
――画面が大きいせいもあってか、10mmをきる薄さも非常に強調された印象です。
狩野氏
ポケットに入れても厚みが出ませんし、手軽に持ち歩いてもらえるためにも薄さは非常に重要なポイントです。
――スマートフォンでは、ハードウェアキーボードを搭載しているモデルもありますが、ソフトウェアキーを採用されたのは薄さの追求のためですか?
狩野氏
まず、元々のコンセプトとしてフルタッチで手軽に使えるものと考えていましたので、ハードウェアキーを採用しない方向で検討していました。ハードウェアキーを搭載してしまうと、ほかのスマートフォンとどうしても似てきてしまう部分があります。「T-01A」では徹底的にでっぱりをなくし、フルフラットにしようと考えました。
――外側のボタンなどを意識的に排除されているため、外観上、iPhoneと近い印象をうけました。iPhoneへの対抗意識というものもあったのでしょうか?
本田氏
iPhoneは話題になった端末ですので、正直、対抗意識はありました。ベンチマークを行い良いところと悪いところを分析しました。「T-01A」ではすべてのキーを排除したいという思いもありましたが、ユーザインターフェース的に全て排除してしまうのは難しいところがありました。大画面ということを訴求しつつ、キーを最小限にするようつとめました。
――新UIでは片手操作を想定されているとのことですが、WM自体は片手操作を想定したOSではありません。片手操作に適したUIを考えていく上で、かなり苦労されたのではないでしょうか。
狩野氏
そもそもなぜ片手で使うことを考えたのかというと、会議中やつり革をつかんでいるといった状況の中で利用したいという声が大きかったからです。WMの操作アイコンやUIは上部に偏っているものが多く、また、指では触り切れない細かい部品も多いため、なるべく上部の領域に触らずに色々な機能が使えるように下半分に操作アイコンを集めたり、フリーパッドと言う新しいUI機能を用意して指でも選択できる範囲を広げることを考えました。ダイレクトに機能に飛べることが片手操作には必要なんです。そういったコンセプト決めていくことがもっとも大変なことでした。
キーについても、WMではOKや閉じるが上にきていますので、それを下側の決まったキーで操作できるようにと考えました。コンセプト決めとその妥当性を判断するのは、答えがない分、非常に苦労しましたね。
本田氏
設計側としては、他社メーカー様も非常に頑張られている状況にあって、全てにおいて勝てるものを開発するのは難しいと思いました。その中でユースケースを自分たちで設定して、片手操作、両手操作をしてみてどれだけ利便性が高まるのかというのをテストをしていきました。テストをしながら、コツコツと配置や大きさを変えていきました。
ソフトキーボードも思い切って大きめのものを用意しました。これは、片手で押せるか、エラーはどれだけ出るのかという点を一通りテストした上で仕様を決定しました。使っていただければ、使い勝手の良さがわかっていただけると思います。
ストライプのメニューについては、携帯電話を使っている方は片手でアプリケーションを起動する感覚があるので、配置を検討していきました。また「T-01A」では、フリーカーソルと呼ばれるパッドが表示されるようにしました。マウスパッドのように使える機能です。
こうした機能を用意したのは、スタイラスがなくても届かない部分の操作を可能にするほか、ゲームなどをする場合に片手でも操作できるようなUIを想定したからです。感圧式のタッチパネルであるため、開発には苦労しましたが、慣れていただけるとそれなりにお使いいただけると思います。
――そもそも開発に際して、WMは前提だったのでしょうか?
狩野氏
そうですね。当初からそれは決まっていました。もちろん、さまざまなOSの分析もしていましたが、「T-01A」についてはWMで行くと決めていました。いろいろなものを検討していくよりも、プラットフォームを先に決めて開発に着手していこうと考えました。OSもそれぞれふるまいが違うので、コンセプト決めの段階でプラットフォームは先に決めていく必要がありました。
本田氏
ほかにも、マイクロソフト様がIE6のコアが入ったInternet Explorer Mobileを開発するといった点も大きなポイントにもなりました。
――WM6.1を採用されていますが、マイクロソフトからWM6.5も発表されましたね。
狩野氏
開発に着手した段階では、WM6.5の話は影も形もありませんでした。開発途中で明らかになりましたが、提供予定の時期も我々の思いとは合致しなかったのでWM6.1となっています。WM6.5への対応も次期端末などでは検討していますが、今回のWM6.1のバージョンではInternet Explorer Mobileが新しくなったことで、パソコンの表示再現性がかなり忠実になりました。インターネットをメインに訴求している「T-01A」の必須条件をWM6.1でも満たしているということになります。
――2009年後半にはWM6.5の登場も噂されていますが、購入を検討するユーザーからすれば、WM6.1からWM6.5への対応というのも気になるところです。現時点でのお考えを聞かせてください。
狩野氏
確かに気になるところですね。ただ、こればかりはドコモさんに供給する商品ですので、我々としては何とも言えないところです。
――外部接続端子がmicroUSBに集約されたのは何か理由がありますか?
狩野氏
キーとかなり近い話になりますが、デコボコしたものは限りなく排除したい、薄さと大きさを保つためには割り切りも必要でした。使い勝手だけを考えれば、充電やオーディオコネクタを搭載するなど、いろいろな選択肢がありましたが、大きさと見た目、薄さ、使い勝手のバランスを考えて割り切りました。
――microUSBのインターフェイスは通常のものですか? サードパーティ製品を開発できる環境にあるのでしょうか?
狩野氏
はい、通常のUSBのインターフェイスとなっていますので可能です。
――画面が大きくOSの汎用性もあるため、例えば車載器にするなど、いろいろなことが考えられそうですね。
本田氏
GPSも搭載していますので、そういったこともたしかに実現できそうですね。期待したいところです。
――ネットブックとの切り分けをどう考えていますか?
狩野氏
社内でもさんざん議論しましたが、「T-01A」の良いところは瞬時に起動し、メールもすぐに確認できる点にあります。ネットブックの調査をしたところ、街中でネットブックをインターネット端末として利用しているユーザーは意外に少ないことが分かりました。それは、電源を入れてモデムを装着し、起動するまで待つユーザーはビジネスマン以外にはほとんどいないからです。「T-01A」はすぐに起動できますし、持ち運びの煩わしさもなく、インターネットを積極的に使っていただけるのではないかと思います。
本田氏
移動中にネットにアクセスできる楽しさは、ネットブックとはかなり違う楽しみだと思います。これまでのスマートフォンとは画面の大きさもかなり違いますし、いろいろな使い方を発見して欲しいですね。
――ドコモはスマートフォン市場への期待を示していますが、現状では100万台規模市場と、一般的な携帯電話と比べると市場規模は小さいものとなっています。スマートフォンはどうしてもマニアックに見えてしまうところがあり、一般的なユーザーには取っつきにくく、話題になったiPhoneですらそういった声を聞きます。どうやってこれまでのユーザー以外にも商品をアピールしていくのでしょうか。
狩野氏
スマートフォン的な顔をしている端末は、従来の携帯電話を使われているユーザーさんはなかなか手にとっていただけません。そのため、スマートフォン的な顔とは違うものを目指しました。
そして、よりPCと同じインターネットを意識してもらえるような顔にするということを考えました。WMなどのオープンOSの良いところである、自由な拡張性はまだまだ認知されていない状況です。我々としても端末を売るだけでなく、ポータルサイトを立ち上げ、いろいろな使い方やアプリケーションの追加をアピールしていきたいと思っています。サービス面でも拡張性があるということを分かって欲しいと思っています。
本田氏
オープンOSの端末は、市場に出てから端末が成長していく世界です。これをぜひ体験していただきたいですね。電源を入れた際にユーザーが毎日新しい発見ができるような、たとえばウィジェットとか、インターネットの新しい発見を導く入り口としてご利用いただきたいです。
――本日はありがとうございました。
■ URL
製品情報(東芝)
http://www.toshiba.co.jp/product/etsg/cmt/docomo/t-01a/t-01a_menu.htm
製品情報(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/product/foma/pro/t01a/
■ 関連記事
・ 1GHz CPU搭載のWindows Mobile端末「T-01A」
・ 速報レポート~Windows Mobileの新時代を切り開く東芝「T-01A」
(津田 啓夢)
2009/05/27 11:31
|
ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
Copyright (c) 2009 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.
|
|
|
|
|
|