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キーパーソンインタビュー
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オープンOSとフルタッチの台頭――ドコモ辻村氏が語る今後のケータイ
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世界最大の携帯電話関連展示会であるMobile World Congressには、日本からもキーパーソンが多数訪れていた。世界の最新動向を、日本のケータイ業界のキーパーソンはどのように捉えているのか。また、世界の潮流を日本のケータイ業界はどのように取り込んでいくのか。このような観点から、イベントに足を運んでいたNTTドコモの代表取締役副社長・辻村清行氏に、話を伺った。
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NTTドコモ副社長の辻村氏
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――まずはMobile World Congressの会場をご覧になられて、気づいたことなどを教えてください。
去年もLTEは出てましたが、それがもっと実現に近づきました。この1年間で開発がそれなりに進んだという印象です。端末は、オープンOSを中心としたフルタッチのものが主流になってきていると感じました。
――逆に、ドコモさんのブースでの手ごたえをどう捉えていますか。
今回、NFCのデモを出展していますが、ここに対する関心は高いですね。おサイフケータイをここまで本格的にやっている大きなオペレーターは、ほかにありません。ここは、ドコモならではだと思います。
――iコンシェルに対する、海外の評価はいかがでしょうか。
これも付加価値サービスの1つとして、関心を集めています。データ定額がかなりの国で入ってきたので、定額収入に加えた付加価値が何かないかということで、行動支援が注目されています。
――今回のMobile World Congressでは、Androidに関して、あまり大きなニュースがありませんでした。こちらに関してはどのようにお考えでしょうか。
Androidはまだまだこれからではないでしょうか。我々も2009年度中には一号機を出しますが、今はまだ色々なメーカーがこぞって端末を出すという段階ではありません。今回の会場にも、端末はほとんど出展されていませんでしたからね。これからだと思います。
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Android搭載のHTC製端末「G1」
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――ドコモさんが発売するAndroid端末は、どのような位置づけになるのでしょうか。
とりあえずは、スマートフォンと位置づけています。
――では、オープンOSに関して、ドコモさんのスタンスを教えてください。
オープンOSに対しては、ニュートラルなポジションを取っています。Windows Mobile、Android、Symbian、Linuxを搭載したスマートフォン的な端末がこれからどんどん出てくるので、我々もしっかりと取り組んでいます。
――スマートフォンのニーズは、どう見ていますか。
iPhoneも含め、スマートフォンはこれからの成長分野の1つだと思います。AndroidであればGoogle系のアプリケーションが非常に使いやすいですし、Windows MobileであればPC上のソフトウェアが利用しやすくなります。キーボードがQWERTYになり、フルタッチパネルが付くと、今までのケータイとはちょっと違った体験ができるのではないでしょうか。ただ、ここに集約されるのか、2台目になるのかは市場が決めていくのだと思います。ケータイのニーズとはちょっと違うものなので、マーケットの反応を見ながらアクセルを踏む方向を考えていきます。
――ネットブックの出展が増えていましたが、この影響はどうお考えでしょうか。また、ドコモさんのネットブックへの取り組みを教えてください。
ネットブックとスマートフォンの境界もどんどん薄れていき、“スマートブック”的になるのではないでしょうか。最初はビジネスユースが中心ですが、その後、個人でも動画を見たり、ネットを使ったりといったニーズが出てくるのだと思います。ちなみに、わが社でも「VAIO type P」とのコラボレーション(通信モジュール内蔵モデルでドコモと契約するとキャッシュバックを受けられるキャンペーンなど)をやっています。
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2月20日発売の「BlackBerry Bold」
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――その一方で、現状のプラットフォームはどうなっていくのか、辻村さんの考えをお聞かせください。
iモードは基本的に垂直統合モデルです。それに対してオープンOSは水平分業モデルですが、この2つはしばらく並存するのではないでしょうか。日本のテンキーでメールを打つ文化はしっかり根付いていますが、これは欧米やアジアにはないものです。その一方で、オープンOSやフルタッチパネルは増えていますし、動画や多彩なアプリケーションを売りにしたiPhoneのような機種も登場しました。この2つは、同時に走っていくのだと思います。
――(ドコモ代表取締役社長の)山田社長は、iモードメールをBlackBerryなどに対応させる可能性があるとおっしゃっていました。スマートフォンとiモードの融合という道筋もあるのでしょうか。
これも1つの重要なテーマですね。お客様がiモードメールに慣れ親しんでいることは、我々にとっての大切な資産だと考えています。搭載には色々な方法がありますが、これからの大きな検討課題です。
――ただ、昨年はメーカーの撤退が相次ぎました。この状況に対して何か施策があればお聞かせください。
マクロな視点で見ると、オープンOS時代の到来で構造が変わってくると思います。これが1つ目です。2つ目として、(通常端末の)ソフトウェアの構造の変化が挙げられます。今後、ソフトをグローバルパックとオペレーターパックの2つに分け、前者を世界各国のオペレーターに共通したものに、後者をドコモ特有のものにしていくので、わが社のサービスにも対応しやすくなります。そういう意味では、まだまだこれから変化していくわけで、この変化に対応していけるメーカーさんと付き合っていきます。
――ソフトウェアがそのような構造になれば、メーカーさんの海外進出も今より容易になりますね。ちなみに、富士通さんと一緒に台湾でF905iを発売した狙いなどを教えてください。
F905iを海外で売ったのは、私たちにとっても非常に良いことだと思います。メーカーの海外進出は、わが社にとっても開発費の負担が軽くなります。今回は台数も限られていますが、海外で同時に売っていけば、我々だけが開発費を負担しなくてよくなるので、端末の値段を下げる有効な方策になると思います。
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ドコモ独自のサービスに対応するためのソフトウェア「オペレーターパック」
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――現状ではグローバルパックとオペレーターパックの二段構えになっていませんが、仕様の変更などは大変だったのでしょうか。
それは問題ありません。おサイフケータイやiモードが必要なければ、ソフト的に塞げばいいだけですからね。一番大きいのは多言語化です。通常日本で作っている端末は日本語と英語がベースですが、その他の国で出すには、現地の言葉を使わなければいけません。マルチランゲージにしていくのが、一番お金がかかって大変な部分ではないでしょうか。
――ちなみに、海外キャリアへの出資を進めていますが、iモードを再び世界に広めるという可能性はあるのでしょうか。
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ドコモは、インドの通信事業者であるTata Teleservicesに約2640億円出資。写真は、TTSL社長のサルダナ氏(左)とドコモ社長の山田氏(右)
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それはあまりないと思います。iモードはヨーロッパやアジアの一部で導入されていますが、やはり端末がないといけないのがネックになっています。その一方で、今後はオープンOSの時代になっていきます。(ドコモが出資したインドの)タタにも、iモードにこだわるより、VAS(Value Added Service)を一緒に検討していこうと言われています。
例えば、インドでは固定電話の普及がそれほど進んでおらず、ルーラルエリアでもケータイを使っているという事例があります。インドで農業に携わる人たちが、ケータイで作物の出荷時期や肥料の状況などの情報を得ているということが新聞に書かれていましたが、このようなインドの状況に適したコンテンツなりサービスなりが必要です。日本で成功しているからと言って、iモードをそのまま持っていくのは違うと思います。もちろん、インドに合っていればいいのですが、先にiモードありきで考えるのは、順序が逆ですね。
――タタ以外にも、さまざまなキャリアに出資されていますが、これは今後も継続していくのでしょうか。
日本市場が成熟してきていますから、やはり成長を求めるためには海外への出資を続けていくことが必要だと考えています。ただ、我々の海外事業の中心であるアジア・太平洋地域は出資制限のある国が多いので、基本的にはマイノリティーでやっていくつもりです。
――国内を振り返ると、去年の年末からドコモの復調が伝えられています。新ドコモ宣言が浸透してきた印象を受けましたが、手ごたえはいかがでしょうか。
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ドコモでは昨年7月に企業ブランドを一新
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12月や1月は、MNPでプラスに転じましたが、これは我々にとって自信につながるデータです。MNPは構造的にシェアの大きなキャリアからの流出が多くなる中で、逆に流入がプラスになったのは、ドコモに対する期待や信頼が高まってきているからだろうと思います。もう1つの力強いデータは、解約率が0.4%レベルに落ちてきていることです。低い解約率は、ドコモに長く居ようと思っているお客様が増えていることを意味するので、これも自信につながっています。内部的に調査しているお客様満足度も、色々な分野で徐々に上がってきていて、手ごたえを感じているところです。
――満足度が上がっている原因は、どのように分析していますか。
派手にインセンティブを投じるというようなものではありませんが、エリアを48時間以内に対応したり、電池の無料取り替えをやったりといった、地道な努力が少しずつお客様に伝わっているのではないでしょうか。
――今まで取り組んでいたものの、なかなか伝わっていなかった部分ですね。
そうですね。新規のお客様や純増ももちろん大事ですが、それと同時に5000万以上いる既存のお客様に満足してもらえることに、力を入れてきました。その結果が表れているのだと思います。
――本日はどうもありがとうございました。
■ URL
NTTドコモ
http://www.nttdocomo.co.jp/
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(石野純也)
2009/02/19 12:52
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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