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“ケータイソムリエ”を養成する「モバイル実務検定」
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3Gが一般的になり、ケータイの機能は日増しに複雑化している。販売制度も二転三転し、一消費者が完全に理解するのは難しい状況だ。こうした事態を鑑み、総務省が主催していた「モバイルビジネス研究会」が、販売員のための資格作りを後押しすることを決定した。
この枠組みの中で生まれたのが、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)が実施する「モバイル実務検定」だ。この第1回目の試験が、来る1月28日に東京・名古屋・大阪の3地域で開催される。新聞やテレビなどでも“ケータイソムリエ”と報道され、一般の認知度も高い検定だが、実態はどのようなものなのか。試験開催を目前に控えた今、改めて検定の理念や内容、運用体制や実績などを、MCPCの金森忠昭氏に聞いた。
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モバイルコンピューティング推進コンソーシアム 事務局 モバイルシステム技術検定プロジェクト担当 金森忠昭氏
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――まずは、モバイル実務検定が始まるまでの経緯を、改めて教えてください。
従来から、私どもでは「モバイルシステム技術検定」という、システムに関わる検定を実施してきました。この検定には2級と1級があり、ITの世界をモバイルという切り口で、全部この中にまとめていました。したがって通信からコンピューターまで、ものすごく幅広い範囲をカバーしています。去年の11月で第7回を迎え、受験者も1万3000人になりました。この検定の3級、つまり、もう少し入門に近い技術の検定を出してほしいという声が会員から上がっていて、一昨年の春から検討を進めてきました。
一方で2007年9月に、総務省のモバイルビジネス研究会が、「ケータイの販売員のために資格が必要」という答申を出しました。MCPCは技術検定の3級を作ろうと進めていたのですが、基礎なら当然販売員も知っていていいのではないか、技術に加え、セキュリティや個人情報保護、消費者保護などの知識を教えたら、いい販売員が育つのではないかということで、私どもにやらせてください手を挙げ、去年の2月に公募に応じました。これが認定までの経緯です。
――総務省の「後援」という形になっていますね。
名前だけです(笑)。ただ、その代わり、どういうことをやって、いくらお金を使ったかを報告しなければなりません。「認定」ではありませんが、資格として履歴書にも書けます。国のお墨付きがあることに意味があるのだと思います。
――2008年11月に開催する予定が、一度延期になっています。それはなぜでしょうか。
テキスト制作の都合です。当初、技術ベースで作ってきたものなので、原稿が技術寄りに偏っていました。その後から実務のフォローも入れた形です。我々だけではダメだということで、実際に販売をされている会社の方々にも制作に加わっていただきました。本当は去年の8月に試験をやりたかったのですが、11月に延び、最終的には今年の1月になってしまいました。その分、手前味噌ですが、よくまとまったテキストができたと思っています。実務をやられている方々の評価も上々です。
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「モバイル基礎テキスト」。このテキストから出題される
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――ケータイはキャリアによって用語が全く異なることがあります。その調整はどのように行ったのでしょうか。
そこも、時間がかかった部分です。各社独特の用語があるので、偏らないように、1つ1つ汎用のものに変えていき、写真などもバランスを取って平等になるようにしました。そういう意味で、汎用的な入門書といえます。その代わり、ドコモ独自の、au独自のという点が足りないので、キャリアならではの知識を求めている方には物足りないと思います。そのような方々は、一歩進んでキャリアの試験を受ければいいというのが、我々の考え方です。
――モバイル技術検定の2級/1級と比べると、テキストもコンパクトにまとまっていますね。
できるだけ薄くしたいという方針がありました。作っている最中には、200ページでも厚いのではという意見がありました。今は全て左ページがテキスト、右ページが図版という形になっています。さすがにこれ以上は薄くできませんが、逆に厚くするつもりもありません。
――出題はそのテキストの範囲と考えてよろしいのでしょうか。また、試験はどのような形式になるのかも教えてください。
試験は、このテキストから出題します。問題数は販売員用のモバイル実務検定が50問、従来のモバイルシステム技術検定の3級に当たるモバイル技術基礎検定が60問で、両方とも同じテキストから出題されます。ほとんどの問題は併用ですが、テキストには技術と販売というタグが振ってあって、1冊で両方の検定をカバーできるようになっています。また、実務検定に関しては、50問/60分で、試験は全てマークシート方式です。
――合格ラインなどの目安はありますか。
モバイルシステム技術検定の2級の足切りラインより、ケータイ実務検定はもう少し高くなるのではないでしょうか。と言うのも、パイロットテストとして100名集めて問題を解いてもらいましたが、正解率が高かったんです。パイロットテストを受けたのが実際の販売員だったこともありますが、逆にそれでいいと思っています。最終的には、平均点や偏差値を見て、合格ラインを決めていきます。
――もうすぐ第1回目の検定試験が開催されますが、受験者数は何名になりましたか。
私どももビックリしていますが、実務検定は2200名が集まりました。正直、スタートは600人ぐらいで、2回目以降は1000人を超すだろうと想定していたのですが、1回目から2000人以上集まってしまったので、てんてこ舞いです(笑)。会場も大幅に広げて、追加、追加で場所を押さえていきました。
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テキストの内容はタブで区切られ、2つの試験に対応している
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――その中で、合格する方は大体どの程度の割合になるのでしょうか。
合格率は70%前後になると思います。今回申し込んでいただいた方の1700人ぐらいは、販売に携わられています。そのほか、一部には大学生や、派遣会社に登録された方々がいます。このような方々は経験がないので、平均点が低くなるのかもしれません。とは言え、全体数は販売会社の方が多いので、平均点は高くなると思います。
また、この検定は落とすための試験ではありません。モバイルビジネス研究会がこの制度を作ることになったきっかけの1つに、販売員のモラルアップやスキルアップがあります。あまりに合格率が低い検定では、モラルアップにつながりませんよね。もう1つが消費者保護なので、それをキチンと学んでもらえるようにしました。変な引っ掛け問題もありませんし、MCPCでは他の検定を含め、過去問を一切オープンにしていません。このテキストをちゃんと勉強すれば合格するようになっています。問題を公表すると、試験を受かるために、それだけやってしまう方もいますからね。
――検定に合格したことを証明するものは、もらえるのでしょうか。
合格した人のために「ケータイアドバイザーカード」を作ることを予定しています。これは、販売店が申請すれば発行するようにしていて、個人が申し込めないようにしています。と言うのも、皆さんに与えてしまうと、これを悪用して高齢の方に高いケータイを売りつける、というようなことも起こってしまいかねません。そういったトラブルが起こらないように、カードの発行先は限定しました。
――では、実利の面で、この資格を取得するとどのようなメリットがあるのでしょうか。給料がアップする、就職がしやすくなるなど、具体例があれば教えてください。
ケータイ各社、それぞれ自社の資格制度を持っています。その制度だと、受かるといくら、というような報奨金があります。しかし、この実務検定は、私どもからお金を出すことができません。将来的には、この資格を持っていれば、キャリアが実施している資格制度の一番下のランクは免除されるというような制度にしていければと思います。正直、今は「余計なことをするな」と思っているキャリアもあると思います(笑)。そこまではいかなくても、「立ち上がりは様子を見させてください」というのが各社の本音だと思います。
――各社のケータイを併売しているショップの反応はいかがでしょう。
併売店なので一社の制度に偏るわけにはいけないというお店には、好評です。先ほど申し上げた派遣会社の社員というのも、併売店の方々だと思います。あとは量販店ですね。とりあえずどんな試験か見てみようと、名のある大手量販店も各社最低数名は受験されるようです。とは言え、まだ各販売店で4~5名ずつです。おそらく様子を見ているのでしょう。これが、全員受けるとなれば受験者数が4~5000人まで行くと思います。
――最終的には、キャリアの公認を目指しているのでしょうか。
モバイルシステム技術検定は、すでにキャリア公認なんですね。各社が独自で行っている検定にも取り入れてもらっています。ただ、公認までには時間がかかりましたし、元々なかったところにできたものなので受け入れやすかったのだと思います。実務検定に関しては、すでに各キャリアの中にあったところにいきなりできたので、反発もあるのでしょう。ちょうどファイナンシャルプランナーができたときも、各会社でそれぞれの制度があって、官が資格を作ることに反発がありましたが、それと同じことだと思います。
――ケータイは技術刷新も速いですし、法制度や運用方法なども、すぐに変わってしまいます。この点は、どのようにフォローしていく予定ですか。
テキストは、2年に1回更新する予定です。資格自体にも2年で更新という期限を設けており、放っておくと、失効してしまいます。更新講習を受ければいいという形で、変わったところをきちんと教えることになりました。
――国が後援した検定でビジネスを行うのはいかがなものか、という意見もあります。検定のコスト構造を簡単に教えてください。
テキストまで含めて、プラスマイナスゼロになるように計画しています。とは言え、第1回はテキストの作り直しが相当あったので、私どもの持ち出しになってしまいそうですけどね(笑)。総務省の後援をいただく際に、ビジネスしてはいけないということが条件になっていましたから、これで儲けるということはありませんし、我々もNPOに近い任意団体です。元々、利益を生み出すような仕組みになっていません。
――この検定が広がれば、今後は、予備校のような講座も開設されるようになるのでしょうか。
これから開発されていくと思います。まだ申請も認可も例がありませんが、今後は受け付けるようにしていきたいと思います。実はすでに、私どもの版権を侵害しないという条件でやっているところが、2つほどあります。1つが講座で、1つが模擬試験です。ただ、模擬試験などの内容に関しては、一切関与していません。公認にあたっては、テキストを使っていることを明記することと、著作権料を支払うこと、この2つを条件にして、内容を精査することまではしないと思います。
――ケータイやPCで勉強できるとありがたい、という人も多いのではと思いますが。
業者の方々から、そういったタイアップができませんかという声はかかりました。しかし、一度試験をやってみてから検討することにしています。というのも、ケータイなどで勉強すると、ゲーム感覚になってしまい、勉強になるのかなという疑問が私どもにあるからです。ちょっと古臭いですが、テキストで勉強してもらうのが一番だと考えています。
――最後に、枝葉末節かもしれませんが、なぜ「ケータイソムリエ」という名称にならなかったのかを教えてください。
「ケータイソムリエ」という言葉は、すでに商標を取られていまして……(笑)。もう1つ、ソムリエ協会から「ソムリエは本来、ワインの識別ができるスペシャリストを指す言葉だ」とのご意見があり、公的な資格で使うべきではないと判断しました。
――本日はどうもありがとうございました。
■ URL
MCPC
http://www.mcpc-jp.org/
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(石野純也)
2009/01/22 16:04
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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