ミニPC(ネットブック)とのセット販売や、10月に発売したTouch Diamondが好評を博した2008年のイー・モバイル。音声通話サービスを始めたのも、昨年の話だ。こうした施策の結果、大手3キャリアに迫る純増数を記録し、開業から2年経たずにユーザー数は100万件を突破、2008年12月末時点で112万件となっている。同社は2008年をどう評価しているのか。また、2009年以降はどのような手を打ってくるのか。イー・モバイル 執行役員副社長の阿部 基成氏に、展望を語ってもらった。
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イー・モバイル 執行役員副社長の阿部 基成氏
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■ PCとのセット販売が好調
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ヒットモデルとなったTouch Diamond(S21HT)
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――2008年は相対的にイー・モバイルの好調さが目立ちました。手ごたえはどのように総括されていますか。
携帯電話におけるブロードバンド通信が、ようやく認知されてきました。特にこの冬商戦では、それを感じています。それまでは、「イー・モバイルってなんですか?」という感じで、モバイルデータ通信をよく分かっていないお客様が多かったんです。しかし、12月ぐらいからは、「イー・モバイルは知ってる」「これがイー・モバイルなんだ」というように、それなりに事前知識のあるお客様が増えている印象です。
――開業当初からモバイルブロードバンドを打ち出していましたが、なぜ、“昨年の冬商戦から”なのでしょうか。
10月に出したTouch Diamondが、滑り出しから非常に好調だったことが、要因の1つだと考えています。他社に先駆けて一番に出すことができ、ある調査では第1週で1位を獲得できました。その後も安定して売れ続けていますし、モバイルブロードバンドが身近なケータイとつながったと感じています。
――昨年「100円PC」として話題になった、ミニPCとデータ通信専用端末のセット販売も大きかったのでしょうか。
はい。最近はお店によっては“0円”みたいですけどね(笑)。あくまでお店が設定するセット商品ですが、パソコンの購入と同時に当社のサービスを定期契約していただき、同時にパソコンをいくらか値引きするという仕組みなので、色々なものをセットにできます。価格的にミニPCが最適だということで、まずはここから始まりました。A4型のノートPCも最近は値段が下がってきており、ミニPCに限らず色々なPCとの組み合わせも期待できるのではないでしょうか。
――そもそもミニPCとのセット販売が生まれた経緯を教えてください。ケータイのインセンティブ(販売奨励金)とは考え方が違うのでしょうか?
そうですね。ケータイのインセンティブは端末自体を値引きするために生まれたものですが、私どもはあくまで購入時の初期費用を抑えるという仕組みです。イー・アクセスの時はADSLの月額料金を上げるという仕組みはなかったので、むしろそちらの方がケータイのインセンティブに近かったのだと思います。
――最初のミニPCである「Eee PC」がヒットしてからまもなく、セット販売が始まった印象ですが、「マーケティングの勝利」ということでしょうか。
そうですね。そこは自負しています。元々パソコンが安くなれば追い風になると思っていましたが、2008年1月に日本で発売されて一瞬で完売したのを現場で営業が見て、「これはいける」と判断しました。当社は量販店がメインの販売チャンネルなのですが、店頭では当社の社員や、直接業務委託関係のある会社の社員に販売してもらっています。代理店経由ではないので、素早く、ダイレクトにお客様の動向が当社に上がってくるのです。
――最近はいわゆるケータイショップでも、セット販売を見かけます。
量販店以外のショップにも、秋ごろから拡大しました。分割販売が他社で始まって、小さいショップは厳しいと聞いていますが、やはり強いショップは強いので、そういうところには、今後も広げていきたいですね。
――一部の量販店でデータ通信カードとPSPなどをセットで販売していましたが、PC以外の機器へ、セット販売の対象を拡大することはありますか?
お店側が決める話なので、こちらでは決められませんが、ご提案があれば検討はしていきます。ミニPCの時はお店の方から「いくらで売りたい」という要望があって、それを実現する仕組みを私どもが作った形です。
――データ通信市場を見渡すと、ウィルコムは純減していますが、トータルで考えると、データ通信自体の市場規模は広がっているのでしょうか?
確実に広がっていますね。ミニPC自体もパソコンの需要を拡大していて、一家に1台のパソコンが、1人1台に広がっています。
■ 音声端末と今後の課題
――2008年3月には、音声サービスも開始しました。こちらはどう総括していますか。
音声端末の比率はまだ2割弱ですが、本音ではもう少し加入していただけると思っていました。端末も通信の利用がメインで、「音声も使える」という形です。地下鉄にエリアが広がれば、現在の“2台目ケータイ”の音声定額ニーズを取り込めますから、データ通信にも強い我々の端末を、2台目として持っていただけると思っています。やはり、エリアは“10年かけて作っていくもの”ですね。これをようやく実感しました。他社もやっていることなので、エリアはじっくりと厚みを出していきたいです。
――最近は、都営地下鉄などにもエリアが広がっています。
私どもの一存で決められるわけではありませんが、徐々には広げていきたいですね。
――ヒットしたTouch Diamondもやはりデータ通信が中心なのでしょうか?
恐らくそうだと思います。通話するというよりも、アクセスポイントやモデムとして使っているケースが多いのではないでしょうか。モデムで使おうが単体で使おうが、データプランの範囲に収まるのも、イー・モバイル版Touch Diamondの特徴ですからね。
――2009年にAndroid搭載端末が国内にも登場するとうわさされています。御社では、どう取り組んでいくのでしょうか。
特にOSにはこだわっていません。オープンであれば、イー・モバイル向きだと考えています。
――“オープン”ですが、Touch Diamondなどは絵文字に対応しています。仮にAndroid端末を出すとしても、この部分は必須なのでしょうか。
これはどちらかと言うと、HTCさんの意気込みでやっていただいた部分です。ただ、絵文字はGoogleがPCでやっているぐらいですから、ほぼオープンになったものだとも言えますよね。メールとブラウザについては、必ずオープンで、いいものを提供したいと思っています。
――スマートフォン以外の端末を拡大する予定はありますか。
正直、日本のメーカーさんが作っているケータイは、オープンではありません。キャリアが仕様を決めて、それに基づいて作るという意味でです。深いレベルまでキャリアの仕様が入っているので、同じことを当社がやろうとすると、コスト的に難しい部分があります。ですから、結果的にWindows Mobileだったり、オープンOSであるAndroidだったりを志向しています。
――メーカーのバリエーションを増やすという選択肢はあるのでしょうか。
できるなら増やしたいですが、まだまだ我々の音声端末の比率が低いので、メーカー側にそのリスクを取って参入しようというところがあるかどうかです。HTCさんも試行錯誤をして、3機種目でヒットしましたから。
■ 2010年には下り最大42Mbpsの「DC-HSPA」を検討
――2008年は他社に先駆けてHSUPAを導入されました。今後のロードマップを、改めて教えてください。
本当は他社に先を越されるのではと、ドキドキしていたのですが(笑)。データをメインにする以上、やはり上りもそこそこの速度がないといけません。これはイー・アクセスのADSL時代から実感していました。サービス向上のためには、いつかはやらなくてはいけない。やるのであれば、なるべく早くやりたかったんです。
LTEの導入は2011年ぐらいを計画しています。いただける周波数でMIMOをどのようにするかで変わってきますが、少なくとも84~100Mbpsオーバーを目指します。
HSDPAとLTEの間が、我々にとって、本当の“勝負のしどころ”だと思います。そこで総務省に働きかけ、技術条件をクリアしたのが「DC-HSPA」です。これは42Mbpsを出せる通信規格です。導入するかどうかは未定ですが、2010年にやるという前提で総務省に働きかけました。
――導入を見送って、そのままLTEにする可能性もあるということですか。
現時点で可能性に言及できませんが、引き続き技術開発を続けながら最適なものを早期に導入するつもりです。
――まだ御社にアドバンテージはありますが、ドコモやauが始めたデータ定額の価格も下がってきています。何か影響はありましたか。
今のところそれほど影響はありません。ただ、確実に対応端末が店頭に並ぶようになってきているので、これから本腰を入れられるのかなと予想しています。この2月、3月に激しいバトルがあるかもしれませんので、頑張ります。
――間もなく、モバイルWiMAXやWILLCOM COREといった、高速データ通信サービスも始まります。何か対策は考えられているのでしょうか。
2年間培ってきたエリアを、引き続き広げていくことが1つです。あとは、実用上の品質を増強して、速度低下に対処していきます。時間帯と場所によっては速度が低下してしまうエリアについては、解消するまでにタイムラグはありますが、基地局を追加するなどして、なるべく事前に手を打っていきたいと思います。現在は想定していた以上に利用が東京に集中していまして……。
――そこまで一極集中型なのでしょうか。
お申込みいただくユーザー分布よりも、さらに首都圏の利用率が高いですね。大阪も同じような状況です。やはり出先で使うものなので、都会中心になっているのだと思います。そこを中心に基地局の増強を頑張っていきます。
――昨年は、純増トップになりそうな月もありました。純増数で目標はありますか。
「純増数トップ」が一般のお客様にどれだけ価値があることなのか、正直微妙なところです。会社を単月黒字にしなければいけないので、まずはそこを目標にしたいですね。拡大しながら黒字を達成するのが、一番難しいところです。
――現状で4000円前後と推測されるARPUですが、上げるような目標はありますか。
アドオンできるオプションはもう少し頑張らないといけないですが、通信料として現在のARPUは十分な額だと考えています。
――では、2009年の目標をお聞かせください。
数字的な目標はまだありませんが、エリアを広げて厚みを出しつつ、この勢いを継続させていきたいですね。ただ、音声については仕切り直しをしたいと考えています。売り方を少しずつ変えて、音声“も”売れるようにしていきたですね。元々“音声も使えるモバイルブロードバンド”だったのですが、ユーザーの方々は「これはケータイです」「これはデータカードです」と考えるので、中間だった当社の端末は分かりづらかったのだと思います。普通のケータイとしての売り方もしていかないと、広がりがないですからね。
――御社の場合、機種変更が分かりづらいという印象もありますが……。
仕組みとしてはありますが、ちゃんと打ち出せていないので、「機種変更」という見せ方をしっかりしていきたいと思います。カード端末から音声端末への機種変更も、これからの課題です。
――では、最後に読者に向けて、2009年の抱負を一言お願いします。
まずはイー・モバイルという名前を本当に覚えていただきたいですね(笑)。ネット媒体は別ですが、大抵のメディアだと、大手3キャリアとウィルコムで終わってしまいます。まだ認知度が低いので、ミニPCに連動してでも、ユーザーに覚えていただけるよう頑張っていきたいと思います。
――本日は、どうもありがとうございました。
■ URL
イー・モバイル
http://emobile.jp/
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2009/01/13 12:27
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