■ 総合音楽サービス「au LISTEN MOBILE SERVICE」
1月17~19日に掛けて、NTTドコモ、ボーダフォン、auが相次いで発表した新端末や新サービスを、3回に分けて紹介してきたが、最後はauが発表したau LISTEN MOBILE SERVICE(LISMO)について触れておこう。
auは2002年12月にパケット通信料定額制時代に向けたサービスとして、「着うた」のダウンロードサービスを開始した。それまで、ケータイで扱える音楽といえば、着信音として利用する着信メロディが中心だったが、音楽CDと同じ音源を利用した着うたは本物と同じ楽曲の一部が聴けるということで、確実にユーザーに浸透していった。それを裏付けるように、累計ダウンロード数も2004年7月に1億、2005年4月に2億と順調に伸ばし、1月25日にはついに3億ダウンロードを達成した。また、2004年11月には楽曲をフルに聴くことができる「着うたフル」のサービスも始まり、昨年末の12月28日には3,000万ダウンロードを達成した。2005年2月からはケータイの呼び出し音に着うた相当の楽曲を設定できる「EZ待ちうた」のサービスを開始し、すでに50万人が利用しているという。
「着うた」そのものはソニー・ミュージックエンタテインメントの商標であり、現在は着うたのコンテンツも複数のプロバイダが提供している。後発ではあるが、NTTドコモのFOMAやボーダフォンのVodafone 3Gの対応端末でも着うたが利用できるようになり、着うたはわずか数年でケータイ業界を支えるひとつの大きなビジネスに成長している。しかし、ここ数年、auが着うたを軸としたサービスを積極的に展開してきたこともあり、一般消費者の間には「着うたはau」というイメージがすっかりできあがっている。
今回、発表されたau LISTEN MOBILE SERVICEは、着うたに始まったケータイ向けの音楽ダウンロードサービスをさらに発展させたものだ。ケータイだけに閉じることなく、パソコンと連携することにより、ケータイの音楽再生環境を一段と使いやすいものにしようというサービスだ。市場ではiPodをはじめとするデジタルオーディオプレーヤーがたいへんな人気を得ているが、au LISTEN MOBILE SERVICEはどのように市場に受け入れられていくのだろうか。
■ キャリアが提案する統一的な音楽環境の強み

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19日に発表されたW41シリーズは、いずれも「au Music Player」対応だ
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今回発表されたau LISTEN MOBILE SERVICEは、大きく分けて、2つの要素から成立している。LISMO対応端末に搭載される「au Music Player」、パソコン上で動作するアプリケーション「au Music Port」だ。それぞれのサービス内容については、すでに発表会のレポートにも掲載されているので、そちらを参照していただきたいが、ここではいくつか補足的な情報を含めて説明しよう。
まず、LISMO対応端末に搭載される「au Music Player」だが、メールやEZwebを閲覧しながらのBGM再生が可能だ。ケータイを音楽プレーヤー的に活用する場合、ユーザーとしては移動中などに利用できるだけでなく、メール作成時などにも聴きたいところだが、au Music Playerはそういった使い方ができる。これはau Music PlayerがEZアプリ(BREW)としてプリインストールされているのではなく、各対応端末の機能として実装されているためで(関係者は『スタティックで実装』と呼んでいた)、サウンド機能を使わないものであれば、EZアプリ(BREW)などもBGM再生中に利用することが可能だ。たとえば、EZナビウォークも目的地検索や現在地検索、経路検索であれば、利用できるということだ。

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携帯電話内のアドレス帳などもバックアップできる音楽管理ソフト「au Music Port」
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一方、パソコン上で動作する「au Music Port」については、LISMO対応端末でダウンロードした着うた、および着うたフル、写真、ムービー、アドレス帳、メール、スケジュールなどのバックアップ、音楽CDからの音楽データの取り込み、4月に開始される「DUOMUSIC STORE」の閲覧や楽曲の購入などができるアプリケーションだ。簡単に言ってしまえば、iTunesやSD-Jukebox、SonicStage、MUSICMATCH Jukeboxといったパソコン環境でおなじみの音楽データ管理アプリケーションに、ケータイと接続するためのモジュールを盛り込んだイメージに近い。ちなみに、発表会で配布されたアプリケーションを見る限り、ケータイとパソコンを接続する部分はau向けのケータイ用アプリケーションとして広く利用されている「MySyncシリーズ」のリソースを受け継いでいるようだ。
従来のケータイの音楽再生環境は、iTunesで生成した音楽データを再生できるようにしたり、SD-Audio対応の音楽再生機能を端末に搭載するといった形で実現されてきたが、LISMOはキャリア自身が統一された音楽再生環境を提供し、パソコンと連携することで、音楽再生をより幅広く楽しめるようにしたことを意味する。これにより、ユーザーはLISMOというサービスが継続して提供されている限り、パソコンでも端末上でもほぼ同じ環境でケータイの音楽再生機能が利用できるようになるわけだ。端末を開発するメーカーとしても音楽再生機能のために、別のリソースを用意する必要がなくなるため、その他の機能に開発のリソースを投入できるというメリットがある。
ただ、実際の利用ではいくつか気になる点がないわけではない。たとえば、au Music Portでは、ユーザーがパソコン上で生成した他形式の音楽データを扱うことはできない。つまり、すでにMP3形式やAAC形式などで音楽データのライブラリーを構築していてもそれらは利用できないわけだ。原則的に言えば、音楽データを持っているということは、元の音楽CDを持っているはずなので、もう一度、au Music Portで音楽CDから録音すれば済むことなのだが、せっかくのライブラリーが活かせないのはユーザーとしても不便だ。MP3形式やAAC形式の音楽データをCD-R(現実的にはCD-RWだろうが)にCD-Audio形式(音楽CD)で復元して、au Music Portで再録音するという手もあるが、いずれにせよ、手間が増えることは変わりない。これを避けられるとすれば、SD-Audioに対応したW41HやW41CA、W41SAを利用し、LISMOとSD-Jukeboxを併用するしかないわけだ。
こうした形式を取らざるを得なかったのは、auが着うた及び着うたフルを配信している音楽コンテンツプロバイダー(レーベル)に配慮したためだが、au自身もユーザーが不満に感じるであろうことをある程度、予測しているようで、「今後、ユーザーからの要望があれば、検討したい」とコメントしている。
■ au LISTEN MOBILE SERVICEは打倒iPodなのか?

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W41SAの「au Music Player」画面
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ケータイではカメラをはじめ、さまざまな機能がトレンドになってきたが、昨年来、もっとも注目を集めているのは、やはり、音楽再生機能だろう。すでに、十数機種以上が音楽再生機能をサポートしており、アンケートなどでも今後、ケータイを購入するときに重視したい機能のひとつに挙げられている。このタイミングでauからLISMOが登場してきたことは、非常に大きな意味を持つ。
ただ、市場ではiPodをはじめとするデジタルオーディオプレーヤーが数多く販売されており、「あまり魅力がないのでは?」「iTunes&iPodに勝てるのか?」といった声も聞かれる。確かに、iPodやウォークマンなど、デジタルオーディオプレーヤーは各社とも激しい販売競争を繰り広げており、売れ行きも好調だ。利用できるデジタルオーディオのデータを比較してもLISMOで利用できる音楽データは、他の形式に比べ、ビットレートがあまり高くなく、音質的に一歩譲ると見る向きもある。
しかし、筆者はLISMOがターゲットとしているユーザー層は、iPodを購入するユーザー層と少しずれていて、十分に受け入れられる素地があると見ている。iPodなどのデジタルオーディオプレーヤーの存在は知っているものの、実際に商品を購入しなかったり、パソコンで音楽CDから録音をするといった作業がめんどくさい、よくわからないと思っているユーザーは確実に存在する。LISMOはそういったユーザーに受け入れられるのではないだろうか。また、発表会の質疑応答でも触れられていたが、iPodをはじめとする既存のデジタルオーディオプレーヤーは巨大な市場を築いているものの、ケータイは1モデルで100万台近くを出荷し、半年に一度のペースで新モデルが登場することを考慮すれば、十分に対抗できる勢力になる可能性を秘めている。今後はLISMOでデジタルオーディオプレーヤーの楽しさを知り、iPodなどの専用プレーヤーを移行する、パソコンで音楽ライブラリーを管理するといった使い方に進化するユーザーも登場するかもしれない。
ただ、最終的にLISMOが今までのデジタルオーディオプレーヤーのユーザー層以上に拡がりを見せるか否かは、auがアプリケーションの使い勝手やガイダンスなども含め、どれだけわかりやすい環境を提案できるかにかかっていると言えそうだ。
■ 番号ポータビリティへ向けた第一ラウンドのゴングは鳴った
4回に分けて、各社が発表した2006年春商戦向けモデルと新サービスについて解説してきたが、発表会レポートと合わせてみていただければ、わかるように、各社とも今秋に控えている番号ポータビリティ導入へ向けた意気込みの感じられる内容だったと言えるだろう。
しかし、これはまだ第一ラウンドのゴングが鳴ったに過ぎず、今秋の本番へ向けて、各社の新機種投入や新サービスの開始はさらに激しさを増すことになりそうだ(筆者やスタッフはもうお腹いっぱいの気分だが……)。NTTドコモやボーダフォンは、目前に他の新モデルが控えていると言われており、2006年春商戦向けモデルもまだまだ目が離せない。
今回の各社の発表を見て、全体的な傾向として見えてきたことは、各事業者が幅広いユーザーのニーズに対して、きめ細やかなラインアップやサービスで応えようとしているという点だろう。今まで、各事業者は年齢や性別といった切り口で、ユーザーをセグメント化したラインアップを構築してきたが、ケータイだけで約9,000万契約を超える時代に入ったことにより、ライフスタイルやファッション、方向性なども意識したモデルが少しずつ増えてきたということだ。
ユーザーとしても事業者やメーカーの意図する部分をしっかりと読み、自分のニーズにマッチした端末やサービスを上手に選ばなければいけない(選び間違えないようにする)時期に入ってきたのかもしれない。
■ URL
「au LISTEN MOBILE SERVICE」Webサイト
http://www.kddi.com/lismo/
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(法林岳之)
2006/01/26 12:40
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