2月19日まで開催されていた「Mobile World Congress 2009」(以下MWC)の中で、多くの話題を振りまいていた会社のひとつがマイクロソフトだ。同社は、既報のとおりWindows Mobileの時期バージョン「Windows Mobile 6.5」を披露。これと同時にメール、写真、連絡先などのデータを同期・共有する「My Phone」、ケータイとWebサイトの双方から操作ができるアプリケーション配信サービス「Windows Marketplace for Mobile」も発表しており、各種のサービス群を含めた新たなスマートフォンの世界観を実現しようとしている。
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スティーブ・バルマー氏
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米マイクロソフト 最高経営責任者のスティーブ・バルマー氏は、「PCとモバイルとインターネットのテクノロジーが融合した世界がやってくる。PC、電話、テレビ、ウェブ、それぞれのスクリーンで“full Windows”の世界が始まる。新しい「Windows Phone」(Windows Mobile搭載機)は、優れたUIで操作性に優れ、Internet Explorerのような使い勝手を実現するデバイスだ」という。
そこで、日本市場での展開イメージをマイクロソフト コンシューマー&オンライン マーケティング統括本部 本部長の越川 慎司氏に、MWCの会場で話を伺った。
■ WM6.5搭載機は、NTTドコモ、ソフトバンクモバイル、ウィルコムから登場
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Windows Mobile 6.5
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――まず、“Windows Phone”の日本での展開について教えて下さい。
Windows Mobile 6.5(以下、WM6.5)搭載機、「My Phone」、「Windows Marketplace for Mobile」(以下、Marketplace)ともに、基本的には英語版から大幅に遅れることはなく、ほぼ同じタイミングで提供したいと思っています。2009年の10~12月頃がターゲットになってくるでしょう。
――提携先にドコモ、ソフトバンク、ウィルコムがありました。
WM6.5搭載機の出荷を決めていただいているパートナーの方々の一部です。いま発売を表明していただいているのがあの3社さんで、ほかのパートナーが検討をしていないわけではありません。
――では、ほかにもある?
そう考えていただいて構いません。
――バルマー氏は、WM6.5になるとInternet Explorerのようにウェブサイトが見られると言っています。具体的にはどんなことを指しているんでしょうか。
WM6.5に搭載されるInternet Explorer Mobileは、Flash Liteのプラグインにも完全対応します。MWCに合わせて他社もいろいろとリリースしていますが、我々はPCで見ているウェブサイトを、“Windows Phone”でも同じように見られるようにすることを考えています。現状で何ができて、何ができていないかは把握していますので、そのギャップを縮めるというところがチャレンジングなところです。そして WM6.5では、そのギャップが極めて小さくなると考えています。
可能性としては、WM6.5が出る前にもInternet Explorer Mobileの新しいもの、既にCES(毎年1月に米ラスベガスで行なわれる国際家電見本市)でバルマーが発表していますが、WM6.5を待たなくても同等のInternet Explorer Mobileが新しいデバイスに載る可能性はあります。なので、WM6.5搭載機までFlashが見られないというのではなく、「徐々に進歩していき、WM6.5では、(PCとの)ギャップが極めて小さくなる」とご期待下さい。
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マイクロソフト コンシューマー&オンライン マーケティング統括本部 本部長の越川 慎司氏
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WM6.5に搭載のInternet Explorer Mobile
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――それはWM6.1搭載機でも新しいInternet Explorer Mobileが搭載されるという意味ですか?
厳密に言うと、Windows Mobile 6.1(以下、WM6.1)とWM6.5に載るInternet Explorer Mobileのバージョンは異なります。ただWM6.5向けにほぼ近いものがWM6.1にも搭載される可能性はあります。社内では何%のウェブサイトがInternet Explorer Mobileで見られるかという指標を出していますが、今後搭載されるInternet Explorer Mobileは(現行バージョンよりも)飛躍的にパフォーマンスが向上します。
――ウェブサイトが表示できない理由としてハードの性能が足らない場合もあると思います。そういう問題は?
もちろんハードウェアに依存するところがあるのは事実です。WM6.5に限らず今後出てくる機種の中には、スペックがずば抜けているものもあれば、そうでないものもあるでしょう。どのInternet Explorer Mobileを搭載するべきなのかはケース・バイ・ケースです。そのあたりはメーカーさん、キャリアさんなどとお話を進めながら決めていくことになると思います。
――現在Internet Explorer Mobileでケータイサイトを見ると、PC扱いになってしまいます。このあたりは改善されるのでしょうか。
料金プランについては、PCサイトであってもだいぶハードルが下がってきたと感じています。また、一般ケータイサイトをWindows Mobile上で閲覧することについては、コンテンツ保護の問題をクリアしないといけないケースもあり、いまキャリアさんと改善に向けて前向きなお話をさせていただいています。1年先、2年先まで改善されないということにならないように取り組んでいきたいと思います。
■ 大幅に改良されたインターフェイス。WM6.5で絵文字対応はある?
――WM6.5のスライドするインターフェイスなどは、何かモチーフがあるんですか?
(UIについては)ユーザーさんのフィードバック、パートナーのフィードバックを参考に大幅な改善ができたと思っています。やはり今までPDAを作ってきたWindows CEからのインターフェイスでやっているところはありますから、スタイラス操作が基本になっていました。しかし、WM6.5では片手で、簡単な指の動作でスムーズに操作できるインターフェイスになっています。
――カレンダーやアドレス帳の見た目が変わっている印象がします。機能自体も変わるのでしょうか?
アイコンや文字を大きくするなど、見やすさを大幅に改善しています。ただし、コンセプトは、PCで使っても、ウェブサイトで使っても、モバイルで使ってもユーザービリティを統一すること。とくにメールやカレンダーは、OutlookやMicrosoft Exchange Serverを使っている方が多いので、そこを変えるのは大きなチャレンジです。ベースを同じにしたままで、ボタンを大きくする、見やすくする、などUIのところで電話のような操作性を表現しています。
――WM6.5では、絵文字には対応しないのですか?
現状ではMMSのサポートや絵文字対応は、マイクロソフトとして標準では行っていません。しかしながらウィルコムさん、イー・モバイルさん、ソフトバンクモバイルさんは対応していますし、今後も対応は広がっていくと思います。
ご存じだと思いますが、Windows Live メッセンジャーでは、絵文字などを使ったコミュニケーションをお楽しみいただけています。なのでケータイでも、そうしたメール文化を移植するということは可能です。
日本のワイヤレス市場は各国に比べて進んでいるので、本社の開発チームをマイクロソフト調布技術センターに移すなど、日本市場への取り組みは積極的です。私も、日本担当として嬉しいのは、例えば日本でやっている絵文字は全世界で知られているんですけれど、デコメとかを意外に知らなかったりする。それをWindows Mobileに搭載したいとか、Outlookで標準化したいなんてアイデアが出るんです。なので、日本のものを世界に発信するというのは十分にあると思います。そのひとつが独自絵文字なのか、デコメのテンプレート化なのか分かりませんが、いろいろと可能性はあるでしょう。
――そうするとWindows Mobile間では、キャリアが違っても絵文字が共通化するということはありえますね。
それ、理想的ですね!(笑) Windows MobileとPCの間では絵文字が化けないとか。そういうのがあると、WMはキャリアをまたがった共通プラットフォームなので、ケータイのユーザーが抱える問題を解決できると思いますし。絵文字を使わないPCユーザーでも、ケータイからのメールが化けないようになるわけですから。
そう考えるとOutlookがコミュニケーションのハブになるんじゃないかという構想も成り立つ。ケータイメールも、PCメールも、絵文字入りメールも全部搭載できれば、PC、電話、ウェブの世界を統合できる。そういうこともチャレンジし始めているところです。
――エディション別の名前はどうなるんでしょうか?
今年出すWM6.5は、Professional、Standard、Classicという名称は変えない予定です。ただWM6.5は指でタッチすることを意識してアイコンを大きくしたり、ウィジェットを採用しているので、タッチ操作に対応するProfessionalを採用するケースは多くなるんじゃないでしょうか。
――ウィルコムがClassicを選んでいる理由には、電話まわりの使い勝手をカスタマイズしたいという思いがあると聞いています。それは現在のProfessionalなどに対するアンチテーゼだとも受け止められます。シャープなどは自社で電話系のソフトを開発しているわけですし。
確かにそういう部分はあると思います。ただWM6.5になると、タッチ操作が中心になります。私たちがパートナーさんから耳にするいちばんの要望は、スタイラスでないと操作ができないのを改善して欲しい、という点です。これは電話なのに許し難い、と。なので、スタイラスがなくても操作できることを意識しました。これは日本のユーザーさんからもたくさんの声をいただいたんです。そうした要望をWM6.5では盛り込めたと思うので、Professionalを使っていただく機会も増えるでしょう。
現行のWindows Mobileのいくつかの機種では、パートナーさんがシェル(独自メニュー)をかぶせてユーザーの操作性を向上させています。パートナーさんがオリジナリティを追求する、差別化する意味では非常に価値があると思うのですが、それがなくても使えるデバイスがあってもいいのではないかとも思っています。そうすると、ユーザーにとってもWindows Mobile搭載機の選択肢の幅が広がっていくはずなので。
――あの独自メニューは、各メーカーとも相当にリソースを割いているわけですものね。
そのようですね。あのような素晴らしいUIを作るのはナレッジリソースが必要で、ノウハウの蓄積があるパートナーさんから提供していただいています。ただ、WM6.5ではそのままのUIで提供するパートナーさんも出てくるのではないかと思いますので、サービス連携やスクリーンの大型化など、ユーザーインターフェイス以外でも差別化が進んでいくと思われます。
――Windows Media CenterがPCのAV化を加速しましたよね。Windows Mobileでも似たようなことが起こる?
日本のケータイは既にAV化していますので、WM6.5で大きくAV機能が変わるわけではないと思います。一方、WM6.5になることで、ワンセグや高画素のカメラなどを搭載したハイスペック型、そして手頃な価格のシンプル型という2つの柱で進んでいくのではないかと思います。UIの改善やサービスの連携を強化したWM6.5によって、シンプル型が出てきやすい環境が整うのではないでしょうか。
■ メール、予定表、連絡先を一元管理する「My Phone」はWindows Live IDでPCと同期
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PCから見たMy Phone(ベータ版)のイメージ
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――写真、動画、メッセージ、連絡先、カレンダーなどを同期するMy Phoneですが、有料化してサービスを充実させる予定はありますか?
基本的には、先日発表したとおり、無料、200MBでスタートします。ただ可能性として、上のクラスが出てくることはあると思います。たとえばストレージのサイズを大きくするとか、コントロールエリアを広げるとかはありますし、プレミアムクラスとして月額いくらというメニューも考えられます。あとプラットフォームの広がりでいうと、Windows Mobile だけでやるサービスではない。将来的には、いろいろなプラットフォームに広げていきます。一般的なケータイ、Symbian OS、iPhone、Androidにも広げていきたいと思っています。それらに対しては、機能の差などで選択肢が設けられる可能性はあります。
――スマートフォン、ケータイ、PCを別々に持っていて、それぞれから変更したりしたときに同じ状態になるマルチ同期も可能ですか?
はい、できます。現在でもActiveSyncを使って、メール、予定表、連絡先を同期することが可能ですし、My Phoneサービスを使えば、Webサイト上でWindows Live IDでサインインしていれば、バックアップしたコンテンツを簡単に編集、管理することができます。
――現在、SOHOやビジネスコンシューマー向けにMicrosoft Exchange ServerのASPなどが出てきています。こういうサービスとはどう棲み分けていくんですか?
現在提供されているMicrosoft Exchange ServerのASPは、コンシューマーというよりもスモールビジネス、それも従業員が最低5人くらいの事業所だと思うんです。そういうユーザーさんは、サーバーを社内に設置せずに、容易にメールアカウントをセットアップしてスマートに管理するのが大きなニーズです。そこはMy Phoneで提供する部分ではない。アカウントの管理とマネージメント、このほか追加のバックアップや暗号化などはパートナーさんのExchange ホスティングサービスでやっていただくことになるでしょう。ただ、デバイス自体のバックアップはそういうパートナーさんは提供しないと思いますので、われわれ自身が手を伸ばす領域なのかなとは見ています。
――将来的には?
将来的にはMy PhoneやMarketplaceのAPIができるでしょうから、Microsoft Exchange ServerのASPとシームレスな連携なんてことも十分あると思います。
――では、現在PCで使っているの他社のメールやカレンダーも“Windows Phone”デバイス上で同期されるようになるのでしょうか。また同期の仕組みを他のプラットフォームとして広げていく見込みは?
はい。その方向で進めていくことになると思います。先般グーグルさんにActiveSyncのライセンスを提供させていただきました。それによりGmailやカレンダーがWindows Phone上で同期できるようになりました。また、iPhone 3G/iPhone、ノキアのNシリーズといった主要なスマートフォンのプラットフォームすべてにActiveSyncが提供されていますので、プラットフォームに限らず情報をシンクするという仕組みはActive Syncがひとつのスタンダードになりました。
■ Marketplaceは、クレジットカード、キャリアの回収代行課金と2パターンを検討
――バルマー氏の会見で日本のキャリアのロゴが入ったスライドが出たときに「日本では回収代行課金をするのかな」という印象を受けました。実際はどうなんでしょう?
はい。Marketplaceは、クレジットカードによる直接課金と、キャリアさんの与信管理による回収代行課金の、2つのパターンが検討されています。
――マイクロソフトとしては交渉している、というところまでがオフィシャルコメントですか?
はい。ただ前にも言いましたとおり、WM6.5発売と合わせて、なるべく大きな遅れのないようにMy PhoneとMarketplaceをサービスインしたいと思っています。2つの課金パターンで始めるのがわれわれの理想ですが、最低限クレジットカードによるダイレクト課金は可能です。それから先の話はパートナー様との話し合いしだいです。
――いまのところ他社はダイレクト課金のみですが、Marketplaceはなぜキャリアによる回収代行のすべを探ろうとしているのでしょうか?
モバイル向けのアプリケーションを全世界市場に広げていこうと考えるとき、マイクロソフトだけでは限界がある。やはり開発者、マイクロソフト、そのサービスの中継となるキャリアさんの三位一体のしくみを作らないといろいろなアプリケーションは広がらない。この三者がWin-Win-Winな関係になるにはどうしたらいいかと考えた結果が回収代行課金の仕組みです。アプリを提供し、その何%かの手数料をレベニューシェアということになれば、三者ともメリットが出てくると思うので。
――ダイレクト課金だと、キャリアにはお金が入らないですよね。
現状のアプリ配信サービスでは、キャリアはダウンロードでパケット収入が上がるけれど、結局はそれだけ。2009年後半から2010年になるとWiMAXやLTEなどモバイルのブロードバンド環境が整ってくる。そのとき、そうしたインフラをいかに有効に使うかということをキャリアさんと一緒に考えていきましょうということです。
――回収代行課金があれば無線LANだけで使うユーザーからも収益が上げられる。そういうイメージですか?
そうです。ユーザーさんがWi-Fiなどキャリアのネットワークを使わないとなると、通信料収入が入らない。となるとキャリアさんもWindows Phoneに対するモチベーションが上がらない。回収代行課金をキャリアさんにやっていただければ、仮にWi-Fiでダウンロードをしてもソフトウェアの回収代行手数料は入るので、彼らにとっても必ず売り上げが上がるビジネスモデルになる。そうすると、キャリアさんもアプリのディストリビューション(配布・流通)というところに力を入れることが期待できる。なので回収代行課金はわれわれにとって重要なコンポーネント(構成要素)になると考えています。
――キャリアと話合いを進めていて、反応はどうですか?
とても良いです。この(MWCの)会場にはたくさんキャリアさんがいらっしゃるので大声では言えないんですけれど(笑)。多くのキャリアさんが「通信インフラが2009年末から2010年にかけては変わる。これまでキャリアは“水道管”(=通信網)を作ることがメインだった。が、中にを流れる新しい“水”(=サービス、コンテンツなど)を一緒に探していきましょうと言われている。なので“水”を一緒に流すパートナーエコシステムを活性化させようと、さまざまなパートナー、コンテンツプロバイダーと前向きな話し合いをしています。
筆者付記:スティーブ・バルマー氏の会見でロゴが出ていたNTTドコモ、ソフトバンクモバイルに、上記の回収代行課金について取材したところ、「現時点では何もお話をすることはない」とのことだった。ウィルコムは、「回収代行課金の仕組みが既にあり、これと連携できるよう検討していく」と前向きなコメントが得られた。
――それは海外のキャリアもですか?
私は日本の担当なので海外の動きは完全には把握していませんが、ただバルマーの会見にOrange(フランステレコム系の携帯電話事業者)がその一例として出てきたことでもわかるとおり、各国で似たようなポジティブフィードバックをいただいていると聞いています。
――Marketplaceの登場で、Windows Phone向けのアプリは充実していきそうですね。
日本では12月に開発者支援プログラムを立ち上げて、すでに登録は1000名を超えています。WM6.1など現行バージョンには、日本だけで現在1400以上のアプリがあり、世界では2万以上と言われています。Marketplaceが登場すると、さらに開発者の方のモチベーションが変わるはず。われわれは積極的にサポートしていきます。
現状ではアプリの開発にMicrosoft Visual Studioを使います。PCソフトの開発プラットフォームがクラウド化していくことをバルマーも示唆していますので、モバイルもそういうトレンドにあると思います。
――どんな方がMarketplaceにアプリを提供しようと興味を持っていますか?
モバイルのゲームだけを作る方って少ないんですね、スケールアップしないので。モバイルで作ったものをPCにも、Xboxにも展開したいという形のほうがビジネスとして広がる。ケータイのコンテンツプロバイダーの方たちは世界に出て行きたがっていますよね。なので、まず似たプラットフォームへというのが自然な動きだと思います。
将来的には.Microsoft .NET Framework上で作っていただくことを目指していますが、まずはアプリのラインナップを増やしたいので、我々が(ケータイなどで一般的な)Javaのアプリを変換してMarketplaceで提供する動きも支援します。日本のゲームメーカーさんともお話し、大きなプロモーションをしかけていくことも考えています。将来のロードマップとしては、Xboxなどいろいろな資産を“Windows Phone”へ展開していくということも視野に入れています。実は組織的にも同じですからね(笑)。
――現行の独自ソフト配信サイトと競合はしませんか?
競合という関係は取りたくないので、基本的には棲み分けということになると思います。これは単なる思いつきですけれど、将来的にはMarketplaceに特定のパートナーさんのショップがあるとか、そういう可能性もあるはず。いろいろとお話はしていきたいと思っています。
最終的な目的は、ユーザーさんにソフトウェアを使っていただくことなので、提供元をMarketplaceひとつにするのは違うと思っていますし、いくつかの選択肢は残しておくべきだと思います。
――Marketplaceでは、どの“Windows Phone”のバージョンまでをサポートしていくんですか? たとえば旧バージョンのOS向けのアプリを販売できる?
Marketplace自体はWM6.5以上でないと動作しません。われわれの認定プログラムでは、セキュリティやコンプライアンスなどの審査と最低限の動作確認をします。ただ他のプラットフォームと違い、Windows Mobileはたくさんの時期に、たくさんのデバイスを出しているので、おそらくどれで動くかがわからないと思うんです。なので日数は確定していませんが、アプリの配信では一定期間、動くかどうかをユーザーさんに確認していただいて、それから了承の元で課金が開始されるシステムになる予定です。なので、WM6.5以前のバージョンで動作していたアプリが、WM6.5用にMarketplaceで提供される可能性は多いにあります。
――アプリの審査の方法をもう少し詳しく教えて下さい。
まず本社で認定プログラムを立ち上げます。そこに申請する形になりますが、日本の方々に対し、本社へ直接申請してくれというのは大変なはずです。日本では私たちが受け付けて、本社との橋渡しをすることになると思います。日本では開発者支援プログラムを作っていますので、そこが窓口になることを検討したいと思います。
日本では有害サイトなどが社会問題化しつつあり、公式サイトに対する信頼性は高まっています。マイクロソフトの認定基準も最低限はキャリアさんの基準に合わせる必要があると考えています。ただキャリアさんの公式アプリということではなく、マイクロソフトが責任を持って提供するアプリという見え方になるはず。そこの責任はマイクロソフト側が負います。とはいえキャリアさんに回収代行をしていただくとなると、そうした棲み分けが難しいことも理解しています。このあたりはさまざまなご意見に耳を傾け、慎重に進めていくことになるでしょう。
アプリの表現の問題は、各国それぞれに社会、文化、歴史、宗教などの背景があり、一概にはくくれません。UIによってフィルタリングをかけるとかの議論が出ているのは、そういった事情を加味しているからだと思います。
コンプライスは持ち続けていきますが、あまりに制限しすぎても面白さが損なわれてしまう。そこはバランスだと思っています。われわれの認識では、他のスマートフォン向けのアプリサービスの中でも中庸をいくと思っています。あまり自由にしすぎてウィルスが混入することは絶対に許されないですし、登録などが厳しすぎては自由さが損なわれる。セキュリティは守りながら、自由度を保っていきたいと考えています。
ちなみに、開発者側への支払いはドル建てか、円建てかという質問をいただいたこともあるんですが、まだ未定です。ただ柔軟な選択肢を設けるはずですよ。
――他社のスマートフォンはコンピューターにケーブルを差し込むだけで情報がシンクロするなど、その使い勝手も話題になりました。My Phoneでもようやくサービスが整ったという印象です。ああいう使いやすさは実現できないのでしょうか?
既にWindows Vistaなどの PCとの連携では、Windows Mobileデバイスセンターを使って、ケーブルを差し込むだけで簡単にシンクロできるようになっています。今回発表したMy Phoneにより、ケーブルを指すことなく、(気づかぬうちに)自動的にバックアップ(シンクロ)されることになる。PC、電話、Webの三位一体の仕組みは我々が得意とするところですので、新たな利点を多くのユーザーに広げていきたいと思います。技術的には可能でも、それをOSに組み込むとなると、さまざまな問題もある。そうした点は、パートナーさんと協力して体制を整えていきたいと思っています。
――本日はありがとうございました。
1990年代後半、「ハンドヘルドPC」のOSとして登場したWindows CEの流れをくむWindows Mobile。今回のWM6.5では、ケータイ的なUIを備え、新たな価値を提案している。インタビュー後に越川氏は、今年のスマートフォン業界のキーワードを“同期”ではないかと語っていた。これはスマートフォンに限らず、ケータイやネットブックにおいても見られる傾向で、ユーザーがハード志向からサービス志向に移っていることも示唆しているように思える。ハードからサービスへの傾向は、今年のMWCでも顕著に見られた流れ。マイクロソフトへの取材、そして越川氏へのインタビューで、そうした波を改めて感じた。
■ URL
マイクロソフト
http://www.microsoft.com/JAPAN/
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(橋本 保)
2009/02/25 14:36
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