ケータイ Watch
インタビューバックナンバー

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「P-08A」開発者インタビュー
“P”らしく進化させたスライドケータイ
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「P-09A」開発者インタビュー
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[2009/06/19]



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新規デバイス搭載で個性的なラインナップを実現
[2009/06/18]



「N-08A」「N-09A」開発者インタビュー
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[2009/06/17]



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[2009/06/12]



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[2009/06/03]



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[2009/05/22]



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ケータイらしさを取り込んだ新Cyber-shotケータイ
[2009/04/09]



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「P-02A」開発者インタビュー
“D”の遺伝子を受け継ぐ「継承と進化」のスライドケータイ

 パナソニック製「P-02A」は、スライド機構を採用したSTYLEシリーズのFOMA端末だ。最大の特徴は、くるくる回して操作する“スピードセレクター”を搭載することだ。

 2008年春に携帯電話事業から撤退した、三菱電機のFOMA端末で採用されていた“スピードセレクター”を受け継ぎながら、パナソニックとしての進化がはかられている「P-02A」は、どのような経緯で開発されたのか、プロジェクトマネージャーの山口徹也氏、商品企画の菅田誠氏、ソフトウェア担当でNTTデータMSEの湯川順子氏、機構設計担当の大平明典氏、コンテンツ担当の關智子氏に聞いた。


スピードセレクター搭載の経緯

左から山口氏、菅田氏、大平氏

左から山口氏、菅田氏、大平氏
――パナソニックのスライド端末としては、過去にP905iTVなどがありましたが、今回のP-02Aは、どういったコンセプトのもと開発されたのでしょう?

菅田氏
 NTTドコモの冬春モデルでは、「P-01A」「P-02A」「P-03A」とVIERAケータイとなっていますが、「P-02A」はその中でのスライドモデルという位置付けです。一番の特徴はやはり、スピードセレクターを搭載したことでしょうか。開発を開始するころ、ちょうど三菱さんが携帯事業からの撤退を表明され、その後、スピードセレクターの技術を継承できる機会を得られました。

 当社では、これまでにさまざまな操作デバイスを検討、評価してきましたが、三菱さんのスピードセレクターはとても操作しやすいものと素直に評価していました。今回、ノウハウを伝授してもらえる機会に恵まれ、スピードセレクターを搭載することになったのです。

――スピードセレクターの搭載は、パナソニック側から打診したことなのですか?

山口氏
 常日頃から携帯電話の新しいスタイルの提案については検討し続けていますが、「三菱さんから教示していただけるのなら……」ということで打診したという経緯になります。


――かつてパナソニック製のムーバ端末で、円状のパーツを使った操作デバイスがありました。

山口氏
 今回もそのデバイスの採用を検討はしましたが、三菱さんの“スピードセレクター”は「あれがあるから買う」とまで言ってもらえるほど、ユーザーから評価されていました。そこまで魅力のあるものですから、これはぜひ搭載したいと考えました。

――「ノウハウを教示されずとも、同じ部品を調達できれば似たようなモノができる」というものではないですよね?

山口氏
 同じ部品メーカーに打診すれば、部品単体の情報はおおよそ把握できます。ただ、それを1つの携帯電話として仕上げるには、それなりの苦労があります。三菱さんも過去のモデルでいろいろと苦労され、トラブルを乗り越えてノウハウを積み重ねてきたと思います。今回、当社と三菱さんの間で交わされた契約では、スピードセレクターという商標を使えるようになったことに加え、部品を組み込む際の設計ノウハウなどもライセンスしていただけました。

大平氏
 部品メーカーの情報では、部品だけのノウハウに留まり、端末に組み込む際の寸法やクリアランスといった設計、あるいは評価方法といったところまでの情報が得られません。三菱さんの協力があったからこそ、そのあたりはクリアできましたし、設計サイドからすると大変助かりましたね。

菅田氏
 「事業の構造改革」という大変な時期にも関わらず、三菱さんの担当者には好意的に対応していただきました。これは本当に感謝していて、今回のインタビューを通じて、ぜひ申し上げたいと思っていました。

 ユーザーからすれば、「本当に同じスピードセレクターか?」という疑問があると思います。当然ながら、見てくれのイミテーションとして搭載するつもりはなく、1年、2年と長期間きちんと使えるスピードセレクターを搭載したいと考え、実際にその品質に達したと自負しています。

山口氏
 設計ノウハウの詳細は公開できませんが、三菱さんが数多く積み重ねたものがあるからこそ、P-02Aのスピードセレクターの品質は向上しています。ちなみに、部品レベルで見ると、スピードセレクターの部品そのものは、実はパナソニックのグループ会社が供給していたものなのです。そういった歴史的な背景もあって、スムーズにノウハウは継承できたと思います。


スピードセレクターを裏から見たところ スピードセレクターは2つの部品でできている。
スピードセレクターを裏から見たところ スピードセレクターは2つの部品でできている。

――スピードセレクターそのものは、難易度が高い部品なのでしょうか。

山口氏
 これまでに数多く三菱さんからリリースされていますので、馴染みある機能となっていますが、実際に開発に携わってみると手強いですね。なんといっても稼働する部品であり、もっとも良く使う部分です。しかも正面に出ていて、普段使っているとちょっとした水滴や埃が入り込む。そういった汚れなどが溜まって、くるくる回した感触が固くなってしまうのはダメですよ。長期間使えるようにするため、三菱さんはそういった面でもノウハウを重ねてこられたのでしょう。


ソフトウェアもスピードセレクター向けにチューニング

ソフトウェアもスピードセレクター向けにチューニングを重ねたという

ソフトウェアもスピードセレクター向けにチューニングを重ねたという
――ハードウェアの完成度を高める一方、画面表示も追従してくれなければ、心地よい操作感にはなりませんよね。

菅田氏
 スピードセレクターは、スクロール操作に向いたデバイスですが、快適な操作感を実現するには、ソフトウェア側に「正確さ」「クイックさ」が求められます。回転した分だけ、意図した通りにスクロールをスピーディに行うということです。行きすぎたり、スピードセレクターの回転が終わってしばらく経ってから画面表示も追従する、といったことでは、操作感に不満を覚えます。

山口氏
 三菱さんの携帯電話は、Symbian OSベースでしたが、P-02Aはスピードセレクターを採用したものの、ソフトウェアは当社が採用するLinuxベースのプラットフォームです。ソフトウェアそのものが異なりますが、快適な操作感を実現すべく、発売直前までチューニングしていました。11月の発表時と比べても、快適さは増していますよ。

――快適な操作感を実現するには、CPUやメモリなどハードウェアの増強をつい想像してしまいますが、そういう手法ではないのですか。


左から湯川氏と關氏

左から湯川氏と關氏
山口氏
 そういったマシンパワーを向上させると消費電力が増加しますし、マシンリソースは有限ですから、あくまでチューニングで対応しました。スピードセレクターを1回転させると、方向決定キーが8回ほどクリックされたのと同等のイベントが発生します。これを全て処理するともたついてしまうので、きびきびした操作感と意図した通りの操作を実現するために、(イベント処理の)適度な間引きが必要になります。従って、今回のチューニングは「高速化」というより「感性に対する最適化」と言うべきものになりました。

湯川氏
 パナソニックとして初めてのデバイスでしたので、明確な基準はありませんでしたが、方向決定キーなどの操作感の基準を作成したノウハウも活かし、チューニング中は、多くの人に触れてもらい、「思った通りの操作」になるよう徐々に調整していきました。

山口氏
 レスポンスという部分では、三菱さんの仕様は少し頂戴していましたが、そのままコピーしても作れないのです。また、機能1つ1つに対して、スピードセレクターのキーアサインをどう割り当てるべきか、という点も追求しました。

――一方はSymbian OS、もう一方はLinuxで、根本から異なるわけですが、Symbian OSを利用することは検討しなかったのでしょうか。

山口氏
 そのあたりは全く迷いはなく、当初からLinuxプラットフォームで開発する考えでした。今回は、冬春モデルにあわせて当社の端末開発プラットフォームは新世代に切り替わっています。旧来の“D”ユーザーさんからは意見をいただくかもしれませんが、覚悟を決めて、従来の資産を活かしていくことにしました。

菅田氏
 パソコンではマウスというポインティングデバイスがありますが、現在ではMac OSやWindows、Linuxなど幅広い環境で利用できるようになっています。デバイスとしての素地の良さをOSが引き出していったからこそ普及したのでしょう。スピードセレクターもそういったポテンシャルを持っているのではないでしょうか。

――冬春モデルでプラットフォームが切り替わったということですが……。

山口氏
 ちょうど「P-01A」で切り替わったことになります。同時期に発表した当社の携帯電話は、そのプラットフォームをベースに、個々の開発を行ないました。共通プラットフォームだからこそ、短い開発期間で510万画素カメラや、モバイルWスピードなどのワンセグ関連機能、下り7.2MbpsのHSDPA対応などの機能を搭載できているのです。

――「P-02A」独自の部分の1つがスピードセレクターですよね。その他には、どういったカスタマイズが行われたのでしょうか?

山口氏
 スピードセレクターとカメラは新しい部分ですね。スライド機構にあわせて、誤動作防止用のロック機能を採用していますが、ロック機能そのものは以前にも開発したことはあるのですが、今回は“三菱らしい機能”として、ロックをかけて閉じると、画面表示もすぐ消えるようにしています。スピードセレクターの採用を決めた後、操作感や機能面については、開発中に多くの方々から要望をいただきましたよ。


コンテンツもスピードセレクター対応に、女性ユーザーを意識

デコメ絵文字も女性ユーザーを意識したものをプリセット

デコメ絵文字も女性ユーザーを意識したものをプリセット
菅田氏
 「P-02A」独自のものとしては、プリセットコンテンツもスピードセレクターに対応しています。

關氏
 メニュー画面もスピードセレクター対応で、回転に連動した構成になっています。メニューの操作感も出荷直前までチューニングしています。三菱さんの“回るメニュー”は人気でしたので、研究させていただいたところは多くあります。

山口氏
 内蔵コンテンツの制作時にお願いしていたのは、女性ユーザーを意識することでした。というのも、当社の携帯電話は、20代~30代の男性ユーザーが非常に多い。三菱さんのユーザー層はまったく逆で、20代~30代の女性ユーザーが中心でした。P-02Aでは、そういった方々に選んでいただけるようコンテンツも注力したのです。

關氏
 今回は女性に人気のデコメ素材サイト「デコガール」さんと協力して、オリジナルのコンテンツを用意しました。これまでの“P”になかったような素材を多く収録しています。


継承したのはスピードセレクターのみ

――デザインを見ると、パナソニックらしさよりも三菱らしさが強いという印象を受けたのですが……。

菅田氏
 「P-02A」の開発は「継承と進化」という言葉を掲げて進めてきました。開発当初から一貫したテーマです。継承したものはスピードセレクターであり、進化するものは、ワンセグやカメラ、スイングスライドといった部分です。

 デザインにあたって気をつけたことは、模倣のための模倣、差別化のための差別化に陥らないようにすることです。スピードセレクター搭載のスライド端末が持っているもともとの良さを素直に活かしながら、そこに私たちのアイディアを加味して、より使いやすいデザインに進化させることを心がけました。

大平氏
 スイングスライドという機構は、端末を開くとキー側ボディが顔の近くに寄るようになっています。一般的なスライドケータイは、まっすぐにスライドして、向こうに倒れているように見える。通話だけではなく、メールやWebブラウジングなど手にとって使いやすいデザインを考えたときに、キーとディスプレイの角度が折りたたみケータイと同じになるデザインを追求したのです。

 スイングスライドを実現するために、スライド部分の金属パーツは弧を描くように動作する機構にしています。横から見ると、わずかに丸くなっているのがわかります。これは三菱さんから受け継いだものではなく、パナソニック側のデザイン、機構です。三菱さんから継承したものは、あくまでもスピードセレクターだけですね。


スライド機構を実現するレール部分 弧を描くようにスライドする
スライド機構を実現するレール部分 弧を描くようにスライドする

――スイングスライドは、ディスプレイ部が弧を描くようにスライドする機構ですが、その分、厚みに影響しますね。

山口氏
 開発時には、「なぜスイングスライドにするのか」と侃々諤々の議論が重ねられました。携帯電話の内部には、真っ平らな基板が入りますし、0.1mmの薄型化を追求するなかで、厚みを増す構造ですから。またスライド機構も金属パーツを使うため、軽量化には不利ですが、新しい形を提案すべきだと説き伏せましたね。ただ、薄型化を追求するため、金属パーツ(レール)は、キー側ボディに埋め込んでいます。


大平氏
 レールが本体内に埋め込まれると、その分、他のパーツを配置する空間がなくなります。しかし、「P-02A」は510万画素カメラを搭載するなど、スペック面はハイエンドの「P-01A」に近いのです。それでいて「P-02A」には、独自機能としてフォトライトも用意しています。さらに半押しでフォーカスをあわせる機能も搭載しました。

山口氏
 中でも難しかったのは、“半押しのフォーカス”ですね。この機能を実現するためのシャッターボタンは、比較的大きめの部材で、当初は「入れる場所がない」ということで、出っ張りができる予定だったのです。

――しかし「P-02A」には出っ張りはありません。

大平氏
 そうです。実は、「P-01A」にはあるけれど「P-02A」にはない部品……その場所を見つけたおかげで、半押しシャッターボタンを出っ張りなく搭載できたのです。

――「P-01A」にあって「P-02A」にはない部品……どこでしょう?

山口氏
 「魔法のフック」と呼ばれる部品ですね。「P-01A」はWオープンスタイルで、魔法のフックは横開きのときにディスプレイ側ボディとキー側ボディをつなぎ止める役割を果たします。この場所を見つけたときには、半押しシャッターボタンが入るかどうか検証する前に「ここに入れよう」と決断しました。

大平氏
 機構設計としては、シャッターボタンが現在地ではなく、もっと左(右側面の上部)にあれば悩むことなく配置できるのですが、カメラのシャッターは、カメラ本体の右側に置いてあるものですから、あくまでもその位置にこだわろうと。

――ワンセグ用アンテナが伸縮式のアンテナになっていますね。最近のパナソニック製端末では、ワンセグアンテナはボディと一体化したものでしたが……。

大平氏
 スライド機構では、レールという金属パーツを用いることもあり、伸縮式アンテナのほうが感度を高められるのです。他の機種にひけをとらないほど、高感度に仕上げています。

――他社が培った資産を継承しつつ、共通プラットフォームをカスタマイズして開発されたのが「P-02A」という印象を受けました。昨今の携帯電話の開発トレンドからすると、時代を象徴する機種に思えます。最後にもう1つ、スピードセレクター搭載は今後も続くと期待していいでしょうか?

山口氏
 当社と三菱さんで契約を交わした後、尼崎(兵庫県)にある三菱さんの事務所でお話を伺ったとき、「契約したから伝えている」といったものではなく、「事業を撤退してもなお、三菱の遺伝子を後世に伝えたい」という気持ちを感じました。その想いを軽々しく扱ったり、ないがしろにしたりすることはありません。

 このインタビューをご覧になる、携帯事業を担当されていた三菱電機の方々には、あらためて「本当に感謝している」とお伝えしたいです。いわば“見えないたすき”を渡されたと言いますか……いろいろな意味で苦労して組み上げられたものを、「P-02A」一回だけで終わらせる気はありません。

――ありがとうございました。



URL
  製品情報
  http://panasonic.jp/mobile/docomo/p02a/

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(関口 聖)
2009/01/27 11:10

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