京セラがウィルコム向けに開発した「WX340K」と「BAUM」。PHS初のおサイフケータイ対応モデルとしても注目される。これらのモデルがどのように誕生したのか、京セラのマーケティング部 マーケティング課の宮坂俊至氏、同デザイン課の下條誠氏、小佐井眞也氏、三田真由氏に伺った。
■ 「WX340K」はコンパクト&ハイパフォーマンス
――まずは「WX340K」の開発コンセプトから教えていただけますか。
宮坂氏
開発コンセプトは一言でいえば“コンパクト&ハイパフォーマンス”です。弊社の従来製品よりもさらにコンパクトサイズとしたうえで、機能をしっかり盛り込む端末としました。ターゲット層は20代~30代のPHSシングルユーザーでPHSをメイン端末としてお使いになる方となります。今回のWX340K最大のポイントは、PHS初のおサイフケータイへの対応でしょう。今まで「この機能がPHSにあればな」と思っていた既存ユーザーと、これからPHSを使いたいけれどおサイフケータイの機能があれば購入を考えるという新規ユーザーの両方のニーズに応えられる製品を目指しました。
――主要スペックを携帯電話と比較すると、ワンセグの有無程度の違いになってきたなと思いますが、やはり携帯電話を意識して機能の底上げに力を入れたのでしょうか。
宮坂氏
はい、おっしゃる通りで、携帯電話を意識して基本機能の底上げを図っています。京セラのPHS端末は、今後も機能の充実に注力して参ります。
――ここまできたらワンセグが欲しいよね、とユーザーには言われそうですが、それについてはいかがですか。
宮坂氏
ワンセグ非対応の理由は幾つかありますが、一つはサイズ感となります。今回はコンパクトさを優先した結果、ワンセグは非搭載としました。
――前モデルから引き続きW-SIMではなく、モジュールを組み込んだ形になっていますが、その理由を教えてください。
宮坂氏
コンパクトなサイズ感の追求のため一体型としています。また、PHS1台だけでお使いになるユーザー向けのモデルとして、W-SIMよりも一体型が適していると考えました。
――機能面で何かこだわった部分はありますか。
宮坂氏
メインメニューや待受画像を好みに合わせてカスタマイズできるようになりました。一番使いやすいメニュー構成にできるだけでなく、よく見に行くブログのURLを登録して、メニュー画面からすぐに閲覧するといった使い方も可能で、一番使いやすいメニューにお好みにカスタマイズができます。
――ソフトウェアも新たに作り変えているんですか?
宮坂氏
はい、Flash対応になったほか、日本語変換システムとして「iWnn」を搭載するなど、中のソフトウェアも従来モデルからだいぶ手を加えています。
――ハードウェアとしては、おサイフケータイに対応というのが大きなポイントだと思いますが、PHSというプラットフォームに搭載するにあたり、特に難しかったことがあったら教えてください。
宮坂氏
PHSとしては初のFeliCa対応機ですから、本体開発に先駆けてFeliCaパイロットプロジェクトとして事前検討を行いました。また、FeliCaビジネスは参加プレイヤーが多いこともあり、各社の調整などには、ウィルコム様の協力をいただきました。
――他社の話ですが、ドコモがおサイフケータイを立ち上げる時にはかなり苦労されたということですし、ソフトバンクやauがそれを追いかける過程でも、やはり難しい点が多々あったようです。
宮坂氏
そうですね。PHS端末では初ということで、メーカーである弊社とウィルコムさんだけでは完結しない部分、例えば性能評価などもありますからね。やはり今回も試行錯誤を重ねました。
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宮坂氏(左)と三田氏
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――次にカメラ機能ですが、今回オートフォーカス機能付きの200万画素のカメラを搭載していますね。携帯端末ですと最近は300万画素以上がスタンダードになりつつありますが、200万画素というのはサイズとコストのバランスを考えた結果ですか。
宮坂氏
はい、その両方です。ただ、携帯端末ではなく、PHS端末の既存製品と比較して考えれば、進化したと考えています。
――携帯端末の方ではソフトウェア側で顔認識をするなど、コンパクトデジカメ並みの作りこみがされてきていますが、それについてはどうお考えでしょう。
宮坂氏
カメラ機能を全面に押し出すモデルであればそれも考えますが、WX340Kはあくまで使いやすさを重視したスタンダードなPHSとして、カメラ周りには特化せずに、全体的なバランスを意識し、機能の底上げを図りました。
――そういえば、いきなりFlash Lite 3.1に対応したのも興味深いですね。
宮坂氏
新しいものを好む京セラのPHSユーザーを意識して最新のものとしました。
――デザイン面でのこだわりやコンセプトについても教えていただけますか。
小佐井氏
まず、第一にこだわったのは実用性です。充実した機能をいかにしてコンパクトなボディに収めるか、というところに注力しました。第二に、大人の感性に訴える上質さと快適さの両立を求めました。
――確かにサイズ感にこだわりつつも、イヤホンマイクのカバーがスライド式になっているあたりは、実用性へのこだわりが見えますね。キー部分のデザインについてもこだわりがありそうですね。
小佐井氏
カラーバリエーションごとに、あけた時の印象が異なる演出をほどこしました。ミッドナイトブラックですとキー周辺がブルーに、カンパリレッドは鮮やかなカンパリレッドに、ブリリアントホワイトは全体が白く光るようになっています。また、パネルのテクスチャーや柄もそれぞれ異なっています。
――サブディスプレイがこの位置にあるのは、なぜでしょう? デバイスとしては有機ELを採用されていますね。
小佐井氏
そうですね、サブディスプレイの位置はコンパクトさを追求し、位置を決定しました。また、デバイスですが、こちらもコンパクトさを求めてフルフラット形状にこだわったため、サブ液晶を背面に配置した時に厚みを抑えられる有機ELを採用しました。有機ELですので、視認性が高いです。また、筐体の強度を保つためにメインLCDには強化ガラスを採用した上で、ガラス繊維入りのケースで強度を確保しています。
――その他にデザインでのこだわりはありますか。
小佐井氏
カラーバリエーションですが、大人が備えていたい感性として華・遊・躍・知がコンセプトになっています。
――テーマが4つなのにカラーバリエーションが3種ということは、この後もう1色追加されるということでしょうか?
小佐井氏
いえ、これはあくまで全体コンセプトのイメージです。今のところ追加色の予定はありません。
――画面デザインについてもご説明いただけますか。
下條氏
今お話ししたコンセプトを元に4パターンのFlashを用意しました。ターゲットが20代~30代の男性ですが、幅広いユーザーを想定して、誰からも好かれる使いやすそうなデザインを心がけました。ブリリアントホワイトだけが女性向けですね。Flashを生かして開閉するたびに表示パターンやカラーが変化する、遊び心がポイントになっています。2年間使い続けても飽きさせない工夫として、クリスマスやハロウィンといった季節イベント時には、ちょっとしたお楽しみ要素も見られますよ。
――カラーごとに初期設定のメニューは違ったりするんでしょうか。
下條氏
今回は残念ながら初期値は1パターンですが、メニュー画面の追加コンテンツについては、弊社のメーカーサイト「サイトK」で準備する予定です。
――ユーザーの間で“京ぽん”の復活などと言われていますけれど、メーカーとしてその点は意識されてますか。
宮坂氏
これが“京ぽん”かどうかについては、実際に使ったユーザーさんのご判断にゆだねたいと思いますが(笑)、京セラのスタンダードモデルとして、正統進化したモデルという風に考えています。
■ 見た目はお洒落、実は隠れハイスペックの「BAUM」
――続いて「BAUM」(WX341K)についても開発コンセプトやアピールポイントを教えてください。
宮坂氏
まずは「BAUM」という名前の由来ですが、BAUMはお菓子のバウムクーヘンから名付けました。丸い輪の形のバウムクーヘン同様にBAUMユーザー、つまりPHSユーザー同士が繋がってコミュニティに厚みが出て欲しい、という願いをこめました。製品型番としてはWX341Kですが、愛称をつけることでユーザーの皆様に可愛がっていただければと思います
ターゲット層はデザインを重視する若年層、女子大生を中心に考えています。ただ、見た目のインパクトだけではなく、機能面でもWX340Kとほぼ同等という、しっかりした製品ですから、購入動機はデザインでも、使い込むうちにBAUM1台あれば何でもできる、という点に気が付いていただけると期待しています。特に、今まで携帯電話とPHSの2台を使い分けていた方には、充実した機能を実感していただけるでしょう。
――機能面ではWX340Kとほぼ同等とのことですが、違いはどこに?
宮坂氏
赤外線の使用とカメラ部分です。WX340KはIrSimple対応ですが、BAUMは従来の方式を採用しました。カメラは同じ200万画素ですが、WX340Kはオートフォーカス、BAUMはマクロ切り替えスイッチとなっています。違うのはこの2点ぐらいになります。
――製品のイメージとしては、BAUMはHONEY BEEの後継モデルにも見えますが、それについてはいかがでしょう。
宮坂氏
たしかにそう見られる方もいらっしゃるようですが、我々としては、HONEY BEEとBAUMでは担っている役割が違うと考えています。HONEY BEEはポップな色とデザインを切り口に、まずは京セラのPHSに興味を持ってもらう誘導という役割です。一方のBAUMですが、こちらも購入のきっかけとなる入り口はHONEY BEE同様にデザインやカラーでしょうが、実際に使い始めてからは単純な通話機能だけに終わらせず、この1台で物足りないと感じさせない製品とし、機能面でも十分にご満足いただける端末として期待もこめています。ですからBAUMがHONEY BEEの後継モデルなのかと問われれば、違うというのが答えになります。
――では、HONEY BEEは今後も並行販売されると。
宮坂氏
はい、そうなります。
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小佐井氏(左)と下條氏
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――デザインを重視するユーザー層がメインターゲットというお話でしたが、デザインコンセプトやこだわったポイントを教えてください。
三田氏
端末の前面にデザインが施されてる製品は数多くありますが、BAUMの特徴はやっぱりこの側面にあるラインですね。2本のラインをつなぎ目なく平行にまわすというのは、非常に難しく苦労した点です。詳しいことは申し上げられませんが、特殊な製法を使用しました。
――だいぶサイドのデザインにはこだわりが見えるようですけれど、BAUMの“顔”は側面だということですか。
三田氏
端末の一面だけではなく、背面のカーブなど全体にBAUMというコンセプトを散りばめたとお考えください。そもそも、どうしてお菓子のバウムクーヘンが製品イメージになったかといいますと、最初に宮坂がお話ししたユーザー同士がつながるという基本コンセプトを、目に見える分かりやすい形でどう端末に表現するかを話し合ううちに、「繋がる=輪」でバウムクーヘンになりました。お菓子の持つ可愛らしい印象も同時に取り込むことができますし、最近は有名店舗の人気スイーツとして行列ができるバウムクーヘンもあるくらいですから、旬なイメージも同時に取り込めるかなと考えました。
――画面デザインについてはいかがでしょうか?
下條氏
BAUMは端末デザイン&製品コンセプトが先に立ち上がっていましたので、それを元に作りました。バウムクーヘンだからといってお菓子のイメージでは少し安易すぎると考えまして、側面に使われているストライプを基調に、若い女性に受け入れられやすい可愛さとお洒落感を目指しました。ファッション雑誌などを研究すると、10代後半~20代の女性はガーリーなものが好きだったり、大人っぽい格好を目指していたりと好きなテイストの幅がとにかく広いんですよ。それぞれのテイストに合わせつつ、かつ男性向けの画面デザインも1パターンは最低用意しなければならず、わりと苦労しました。もう一つのこだわりは、動物をモチーフにした「デコラティブメール」でして、鮮やかなカラーと動物を使って楽しい雰囲気を演出してみました。
三田氏
動物が出たところで紹介させていただきたいのですが、HONEY BEEの時にも蜂のキャラクターがいましたが、今回BAUMでもバウムクーヘンと動物をモチーフトシタキャラクターを用意しました。
――しかし、どうしてBAUMで犬なんでしょう?(笑)
下條氏
本当のところを言うと、BAUMだけでキャラクターにするのはちょっと難しくて……。バウムクーヘンにはせっかく穴が開いてるので、そこに何か付け加えようという発想です(笑)。
――そのほかに何かアピールポイントはありますか?
宮坂氏
繰り返しになりますが、BAUMは見た目はお洒落、実は隠れハイスペック機というところを、ぜひ使って実感していただきたいです。
――本日は長時間、ありがとうございました。
■ URL
WX340Kの製品情報(京セラ)
http://www.kyocera.co.jp/prdct/telecom/consumer/wx340k/
BAUMの製品情報(京セラ)
http://www.kyocera.co.jp/prdct/telecom/consumer/wx341k/
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(編集部, 麻生 ちはや)
2009/03/17 12:04
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