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【キーパーソン・インタビュー】
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請負から提案へ、東芝の目指すモバイルインターネットの世界
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東芝の携帯電話事業が新たな動きを見せている。新CPUや新UIを搭載したスマートフォン「TG01」を武器に、従来の携帯電話事業者主導のビジネスから、グローバル市場に主軸を移しつつあるのだ。今回は、同社のモバイルコミュニケーション社の統括技師長である湯嶋彰氏に、東芝のモバイル戦略について話をうかがった。
■ 国内工場の再編

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東芝の湯嶋氏
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――5月20日に携帯電話の製造拠点である日野工場の再編が発表されました。一部では「東芝、国内製造撤退」と報じられましたが、あらためて再編の意図を聞かせてください。
湯嶋氏 正直言って、撤退と書かれたのは甚だ遺憾でしたね。我々としては、海外に元々ある工場に生産を大きくシフトしていくというのが狙いでした。海外への移管はほかの携帯メーカーもやられていることです。今の経済状況もありますし、より安く生産できるところに移そうと考えた結果です。
――生産はEMS(Electronics Manufacturing Service:製造業務を専門に請け負う企業のこと)を使うのでしょうか?
湯嶋氏 海外生産の足りない部分は、EMSも含めて検討していきたいと考えています。現時点では、NTTドコモさん向けの「T-01A」が中国にある東芝の工場で生産されています。この端末は、海外向けには「TG01」という名称で展開されているものですが、当初から海外生産を計画していたモデルとなります。時々、Made in Chinaに対する偏見も聞かれるのですが、もともとPCを作っている工場ですので日本で生産するのと遜色ない製品となっています。
――それでは国内に供給される携帯電話の生産体制に変わりないと?
湯嶋氏 そうですね。変わりないと考えていただいて大丈夫です。
――海外への工場移管は、グローバルの展開を強めていく姿勢にも見えますが、いかがでしょうか?
湯嶋氏 「TG01」のようなスマートフォンは、グローバルを視野に入れたモデルとなります。今後、スマートフォンの需要がさらに拡大すると見られ、生産量は海外向けモデルの方が増えていくことになるかと思います。もちろん、国内向けモデルもしっかり提供していきます。
――「TG01」「T-01A」はグローバルモデルとなるためか、国内向けモデルとしてはほぼ標準機能となる赤外線通信機能や、ワンセグ、おサイフケータイなどに対応していません。グローバルという視点で見た場合、そういったローカルのニーズをどうやってくみ取っていきますか?
湯嶋氏 スマートフォンに関して言えば、ローカルな需要というものはなくなっていくと思います。むしろ、パソコンとの連携がさらに強まるのではないでしょうか。例えば、iPhoneがパソコンと連携するように、PC連携が大きなポイントになってくると思います。
ただ、個別の対応も手段としては考えていくつもりです。今回はグローバルの台数からすると、国内で出荷される数が少ないため、グローバル標準としてまずはピュアなもの提供することになりました。
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スペインで2月に公開された「TG01」
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NTTドコモ向けに供給される「T-01A」
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■ 端末開発は提案型へ
――「TG01」「T-01A」の販売目標などありますか?
湯嶋氏 残念ながら公表していません。もちろん売れれば売れるだけありがたいです(笑)。日本とグローバルで見た場合、海外での販売の方がかなり大きくなるでしょう。
――5月25日、NTTドコモとスペインのテレフォニカが協力して「TG01」を展開していくと発表されました。国内の携帯電話事業者を通して、海外の事業者に拡大していく方針ですか?
湯嶋氏 それもひとつの手段ではあります。我々はこれまで、携帯電話事業者の要望に応じて端末を提供してきましたが、「TG01」の場合、東芝が端末を企画・開発し、事業者に「買いませんか?」と提案した提案型の商品となっています。その点はこれまでの端末とは大きく違います。そういった提案に対し、評価してくれる事業者にどんどん展開していきたいと思います。今回の場合、ドコモさんに非常に高く評価していただきました。
――今後の端末開発は提案型にシフトしていくのでしょうか?
湯嶋氏 キャリアさんがポートフォリオを決める時期があるので、そういった時期にも展開していきますが、それとは別に、我々のタイミングでも積極的に提案していきたいと考えています。
グローバルでは、CES(米国で行なわれるエレクトロニクス関連の展示)やMWC(Mobile World Congress:スペインで行われる携帯電話関連の展示会)に合わせて携帯電話関連のミーティングが集中します。そのタイミングでも継続的に展開していきたいですね。
iPhoneやAndroid端末もそうだと思うのですが、事業者からの要請で開発されたのではなく、メーカー主導でメーカーのタイミングで登場した提案型の製品だと思います。Windows Mobileの端末も今後、Windows Mobile 6.5やWindows Mobile 7がひかえており、そういった時期にも積極的に提案していければと考えています。
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biblio
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■ AndroidとWindows Mobile
――Androidへの取り組みについて聞かせてください。
湯嶋氏 我々はOHA(Open Handset Alliance)のメンバーでもありますし、Androidについて研究ベースでは手掛けています。ただ、Androidの場合に考えなくてはならないのが、まだ新しいOSなのでどれぐらい対応アプリケーションが用意されるのか? という点です。Googleのサービスだけ対応している端末を開発するのであればすぐできますが、それ以外のものが出てこなければなかなか難しいというのが正直なところです。
Windows Mobileの場合、事業者さんを含めていろいろなサービスがあるため、現状ではWindows Mobileの方が提供しやすいですね。ユーザーが端末を購入してからの広がりを含め、さまざまなアプリケーションも用意されています。これまでの市場は大きなものではありませんが、ずっとやってきた歴史もあります。
――提案型の「TG01」のような端末と、国内キャリアさん向けの垂直統合型モデルの端末は、今後どういった位置付けになるのでしょうか?
湯嶋氏 今後は提案型のモデルが増えてくると思います。やはり数の面ではグローバルの市場規模は魅力ですから。東芝としても世界でシェアを獲得しなければなりません。国内だけのビジネスではおそらく生き残っていけないと思います。最終的にはグローバルの比率が大きいものになることは見えています。
もちろん国内向けモデルも重要です。これまでドメスティックにやってきましたし、これまでの繋がりや一定の市場規模もあります。ただ、そんなに時間はかからず国内外の比率は逆転すると思います。
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WILLCOM NS
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■ 東芝グループ連携の技術開発
――国内では夏モデルが発表されました。ここ最近の東芝製端末というと、フルチェンケータイやfanfun.シリーズといった端末の外観に注力したモデルが続いていた印象があります。しかし夏モデルでは、「T-01A」や「biblio」、防水ケータイの「T002」など、意欲的なモデルが登場していますね。
湯嶋氏 いつもがんばってはいるのですが(笑)。設計陣、商品企画ともにこれまでも良いものを提供してきたと思っています。そう言っていただけるのは、事業者さんの要望と、我々の提案が非常にうまく合致した時にそういった印象をもたれるのかもしれません。
――東芝の大きな強みであるREGZAやVARDIAといったAV機器との連携など、東芝グループでの連携体制について教えてください。
湯嶋氏 例えば、「TG01」の画像処理はREGZAの映像技術を搭載しています。YouTubeなどのネット上の動画をよりきれいに見せる技術です。
我々は研究所を持っており、研究部門から技術を受けるほか、パソコンとデジタルメディア、モバイルの3つの部門でデジタルプロダクトグループを作っています。3つの部門でファンドを作り、その連携の中から生み出される技術もあります。

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「まずはお客さまが欲しいものを提供するというのが前提」と湯嶋氏
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――夏モデルでは、ドコモへの端末供給が明らかになり、au、ソフトバンクと3キャリア提供となりました。また、夏というわけではありませんが、ウィルコムやイー・モバイルでも東芝製端末がラインナップしており、これで国内のすべての事業者へ端末供給している形になりました。他のメーカーでも多キャリア展開を行っていますが、最近のモデルはベースモデルを共通化し、端末を複数展開する戦略が目立ってきています。こうした中、東芝製モデルは事業者ごとにずいぶんバラエティに富んだ製品展開されていますね。
湯嶋氏 そういえば全部違いますね(笑)。我々としては、ユーザーニーズに合わせて端末を出しており、まずはお客さまが欲しいものを提供するというのが前提になっています。今回のドコモさんへの提供もそうですが、KDDIさん、ソフトバンクさん、ウィルコムさんとそれぞれニーズが違うため、同じ製品に統一はできないという判断です。
――なるほど。そうなると当然開発コストの面で負担が大きくなるのではないでしょうか?
湯嶋氏 そうですね、コストについてはいろいろ勉強させていただいております。実際、機種によってはODMの要素を取り入れたものもあります。そういったバランスを考えながら展開しています。
――今回の「TG01」は、インターネットデバイスとして注力されたことがうかがえます。
湯嶋氏 通信速度が高速化し、いろいろな分野でインターネットが当たり前の生活になってきています。そうした中でユーザーは、もっと情報が欲しい、もっといろいろな場所でアクセスしたいと要求が高くなっていきます。LTEや4Gが見えてくると、これまで自宅のパソコンでなければできなかったことが、「TG01」のようなスマートフォンでどんどんできるようになってくるのではないでしょうか。本当の意味でインターネットがポケットに入る時代がすぐにやって来ると思います。「TG01」では新しいCPUを搭載し、これまで以上にさくさく操作が実現されました。今後は通信網の高速化にも期待したいところです。
――そういった近い未来、モバイル機器のバッテリーについても気になるところです。
湯嶋氏 我々もそこは検討しています。今回の「TG01」でもL電池を作ろうという話もありました。将来的な解決策としては、燃料電池なども視野に入れて検討しているところです。
いずれにしてもグローバルな製品ということになると、いろいろな対応が必要になりますが、燃料電池をはじめ半導体や映像技術などの東芝が持つ新しい技術を駆使し、日本発世界に通用するモバイルインターネットデバイスを次々と市場に送り出していきます。
――お忙しい中、本日はありがとうございました。
■ URL
東芝
http://www.toshiba.co.jp/
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(津田 啓夢)
2009/06/09 16:15
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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