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「P-10A」開発者インタビュー
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“防水Wオープン”の難しさと開発の狙い
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「P-10A」は、一見するとシンプルなデザインの携帯電話だが、パナソニックのお家芸となった縦・横に開閉する“Wオープンスタイル”を採用したことに加え、IPX5/IPX7準拠の防水性能も備えている。
端末コンセプトや特徴、防水の仕組みなどについて、プロジェクトマネージャーの福岡栄春氏、商品企画担当の笠原亮一氏、機構設計担当の友部真治氏、電気設計担当の井川恵一氏、ソフトウェア担当の市川英哉氏に聞いた。
■ 最初は“折りたたみ型の防水”だった
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商品企画担当の笠原氏
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プロジェクトマネージャーの福岡氏
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――最初にコンセプトから教えてください。
福岡氏
やはり、パナソニック製のドコモ向け端末として、初めての防水ケータイというところです。Wオープンスタイルでの防水ですが、外観は通常の携帯電話らしいデザインに仕上げ、持ちやすさを追求するなど、こだわった点です。メインターゲットは、20代~30代の女性ですね。
笠原氏
ドコモ向け端末では防水仕様を備えた機種がなかったのですが、ニーズとしては根強く求められてきたものですし、今回は防水でいこうと考えました。しかし、当初の予定ではWオープンでの防水は今夏ではなく、まだ先になる予定だったのです。
――前倒ししたのですか?
福岡氏
当初は折りたたみ型の防水ケータイで開発はスタートしたんですよ。しかし、商品力などを見直したとき、Wオープンの防水が目玉になるだろうと考えました。ちょっと先の予定でしたが、技術陣にがんばってもらいました。
――前倒しするにしても、ある程度見通しが立っていないと決断できないように思えます。
笠原氏
もちろん以前から「Wオープンの防水」というものの検討は行われてきました。しかし、「P-10AをWオープンの防水でいこう」とした時期は、技術的な見通しが立つかどうか、微妙な時期ではありました。
――それでも前倒ししようと。
笠原氏
防水そのものの必要性は以前から感じていました。“ドコモのP”でも防水を、ということはずっと問われていて、「防水でWオープンならユーザーの使い勝手ともマッチする」と見ていたのです。競争環境も踏まえて、今夏やろうと判断しました。「水回りでもヨコ大画面で安心して使える」ということは、日常の中で、携帯電話の新しい使い方として提案できます。
――タフネス路線など他のデザインもあり得たと思いますが、通常の携帯電話らしいデザインにしたのは何故でしょう?
笠原氏
1つは市場に受け入れられる防水ケータイは、「いかにも防水」よりも「さりげなく防水」のほうだということですね。
――そういった考え方は、開発時では当初から合意できた部分だったのでしょうか?
笠原氏
うーん、そうですね……いろいろ思い出しますが、やっぱり防水ケータイとしては後発ですから、「防水ケータイとして、どれだけPらしさを出せるか」というのは一番の命題でした。その結果の1つはWオープンという形状で、もう1つが通常のケータイらしいデザインです。
■ 防水Wオープンの仕組み
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Wオープンを成り立たせるヒンジ付近の防水に苦労したという
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――パナソニック製の防水ケータイとしては、昨年、ソフトバンクモバイル向けの「823P」がありました。当時のノウハウは今回も受け継がれているのでしょうか。
福岡氏
それはきちんと受け継がれています。当時課題となった部分も進化させました。
友部氏
Wオープンを防水仕様にするときの難しさはいくつかありますが、1つは「大量生産」ですね。そもそも防水端末の生産は色々な管理が増え、非防水端末に比べ生産は非常に大変になるので、Wオープンで防水にしながら製造しやすい構造にする、というのが難しいんですよ。
――やはりヒンジ付近の防水が難しいのでしょうか。
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機構設計担当の友部氏
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友部氏
初めてWオープンを採用したP905iでは、横オープンするためのヒンジのそばが出っ張っていました。今回も出っ張らせれば(ボディ内部に余裕ができて)比較的防水の仕組みを入れやすいのですが、それでは昔の形状に戻ってしまいます。すっきりしたボディ形状でありながら、防水の仕組みを入れるわけです。このヒンジ部分の防水は、今回もっとも難しい部分でした。
――ケータイを防水にするときにはパッキンで隙間を塞いでいくというのが基本なのでしょうか。
友部氏
P-10Aの場合、キー側とディスプレイ側と箱状の2つのボディがあります。隙間は基本的にパッキンで浸水しないようにしています。そして上下2つのボディをつなぐ電気配線ですが、通常は紙のように薄いフレキシブルケーブル、通称“フレキ”を用いているのですが、P-10Aでは細いケーブルを束ねた“細線同軸ケーブル”を使っています。
――細線同軸ケーブルが上下のボディを繋いでいるのですね。その出入り口部分をパッキンで塞ぐのでしょうか。
友部氏
出入り口を塞ぐことに加えて、今回は防水化のため、細線同軸ケーブル全体をやわらかいチューブが包んでいます。このチューブの中を細いケーブルの束が通っているのですが、この構造自体も技術的には難しいですし、これを工場で作りやすく設計するのも難しい。というのも、細線同軸ケーブルは可動部分でもあり、繊細な部分なのです。
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電気設計担当の井川氏
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――だったらケーブルを太くすれば、と思ってしまいますが、そうするとヒンジが大きくなりますね。
友部氏
はい、今回ケーブルの軸は太くしていません。
井川氏
細くすると強度面で不安になりますね。
友部氏
端末内部に入れるパッキンは、輪ゴムのような細さで、そのままでは取り扱いづらい。そこで一工夫して、手で持っても垂れないよう腰のある形にしたりするなど、作りやすい構造にしています。
――エンドユーザーには見えない部分ですが……。
友部氏
通常使う分には関わりのないところですが、そういった工夫がなければ多くの方へ届けられません。また工場で組み立てた後は、製造されたP-10Aの全てで防水試験しています。何か異常があれば不合格になります。
福岡氏
それでも生産工数は、通常の携帯電話と変わらないレベルにしています。防水だからといって作る手間が2倍になる、というわけにはいきませんから。
■ “スペック重視”とは異なる訴求点
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カラー有機ELサブディスプレイを搭載。時刻表示では数字によって色が異なる
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――防水ですが、厚みはそれほど感じませんね。
友部氏
握りやすいよう丸みを持たせた形状ですが、先代モデルの「P-03A」と比べると、スペック上は17.9mmで約3mm厚くなっています。しかし防水によって増した厚みは1mm程度です。「これじゃ分厚くて売れない」という声がありましたが、デザインでうまくまとめて、持ちやすくすっきりと見せられればユーザーに響くでしょう。防水でありながら、ある程度丸みを持たせたP-10Aは、我ながら良い仕上がりだと思います。
――スペック重視ではないということですか。
笠原氏
国内の携帯電話はスペックがどんどん進化していますが、P-10Aは、ベースとなったP-03Aと比べ、防水以外でのスペック上の進化はあまりありません。しかし、スペック以外の点で携帯電話を選んで購入される方は存在します。今回はイルミネーションやカラー有機ELを使った演出で、「かわいい」と評価されることを目指していました。たとえば「8メガカメラはかわいいね」と、スペックで“かわいい”と言われることはありませんよね(笑)。
――カラー有機ELの搭載で、技術的に難しい部分はあったのでしょうか?
井川氏
これまでのサブディスプレイは単色が主流です。単色であれば「1色1画素」になりますが、カラーにすると「RGB三色で1画素」になります。そうなると、有機ELディスプレイの寿命を確保したり、色味のバランスを取ったりするなど、単色ディスプレイにはなかった新しい課題が出てくるわけです。単純に言えば、「カラーになると3倍難しくなる」のです。
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サブディスプレイ表面はやや盛り上がっている
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“シートキーの進化版”というテンキー
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ソフト担当の市川氏
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笠原氏
カラー有機ELのサブディスプレイでは、時計の時刻表示やアニメ再生など細かな演出を加えています。
市川氏
ソフトウェア面はP-03Aとほぼ同等ですが、サブディスプレイの表示関連は新たに開発したところです。サブディスプレイそばにはLEDが配置してあるのですが、LEDの点灯とサブディスプレイ上のアニメ再生のあわせこみには苦労しました。演出は細部までこだわっています。
笠原氏
デザイン面でもサブディスプレイ周辺はアクセントになっています。背面は、携帯電話にとって“顔”と言える部分ですが、今回はシンプルですっきりした外観にしながら、サブディスプレイ周辺は少し盛り上がった形状にしています。この盛り上がり方も、やり過ぎると破損につながりますし、バランスが難しいのですが、ギリギリのところまで追求しました。
――なるほど。
笠原氏
Wオープンスタイルという機構を採用すると、サイズ感など突き詰める方向がある程度同じになるため、どの機種でも似たような雰囲気になりがちです。しかし、そうならないためにも“顔”の仕上がりは、ユーザーの関心を得るためには重要なポイントです。
――P-03Aがベースモデルとのことですが、テンキー部分は異なる形状ですね。
友部氏
P-10Aのテンキーは、シートキーの進化版と言えるものです。シートキーそのものについては、過去のμシリーズなどで「文字入力しづらい」という声が寄せられていましたので、ある程度盛り上がった形にして、隣り合うキーとの隙間をきちんと設けてあり、かなり打ちやすくなっています。
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パンソンワークスが手がけたNHK人気キャラクターのコンテンツが収録されている
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キッチンタイマーとしても使えるレシピアプリ。プリセットの待受画像には、日付と連動して表示が変わるものもある
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――コンテンツ面ではいかがでしょう。
笠原氏
さきほど「かわいいと評価されるケータイを目指した」と申しましたが、そのコンセプトに基づくコンテンツとして、NHKの人気キャラクターをモチーフに、パンソンワークスというデザイナー集団が手がけたコンテンツを収録しています。待受画像やメニュー画面などで楽しめるものです。登場キャラクターは、20代~30代の方には馴染みのあるものばかりで、懐かしさと新鮮さが入り交じったキャラクターになっています。ターゲット層にあわせたコンテンツという形ですね。
――メインターゲットは20代~30代の女性でしたね。
笠原氏
はい、「できるかな」のキャラクターが登場するレシピ&キッチンタイマーアプリもプリセットしています。防水ですので、キッチンのそばに置いていても安心ですし、料理しながら使ってもらえたらと。レシピは50種類ほどありますし、サイトにアクセスして新しいレシピを参照することもできます。
――サブディスプレイやコンテンツといったあたりも、「スペックより感性に訴える」という方向ですね。メインディスプレイがQVGAサイズ(240×427ドット)ですが、これは防水の影響ではないのでしょうか?
笠原氏
いえ、防水仕様が影響した結果ではないですね。VGAディスプレイの搭載も可能でしょうが、今回はスペック重視ではないユーザー層に向けたモデル、ということです。
井川氏
VGAよりもさくさく動きますし、VGAディスプレイと同じ写真で見比べても、さほど遜色があるわけではないですよ。
福岡氏
今回は、楽しさを表現したいと考えて開発を進めてきました。防水だけではなく、コンテンツやデザインにも注力しており、「使ってみて楽しい」と感じてもらえれば嬉しいですね。
――本日はありがとうございました。
■ URL
製品情報
http://panasonic.jp/mobile/docomo/p10a/
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・ 女性ユーザーを意識、薄さ14.7mmのWオープン
(関口 聖)
2009/06/12 12:31
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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