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【キーパーソン・インタビュー】
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フィルタリングは万能なのか?――MCF岸原氏に聞く
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年間1兆円と言われる規模にまで成長した携帯電話コンテンツ市場だが、一つの転機が訪れようとしている。青少年向けのフィルタリングサービスの導入である。今、この業界に何が起きようとしているのか。MCF(モバイル・コンテンツ・フォーラム)の事務局長、岸原孝昌氏に聞いた。
■ 第三者機関でフィルタリングの基準を
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MCF事務局長 岸原孝昌氏
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――各キャリアが一斉にフィルタリングサービスを導入することになりました。
昨年12月に総務大臣からの要請があり、携帯電話事業者各社が18歳未満の青少年に対してフィルタリングサービスの原則適用を決めました。青少年向けのフィルタリングサービスについては、昨年11月に開始された総務省の検討会においてフィルタリングの検討を進めていたのですが、かなり急に一斉導入が決まってしまいました。
――これから導入される、あるいはすでに導入されている各社のフィルタリングサービスの内容を見て、どこが問題だと思いますか。
フィルタリングサービスの導入によって、青少年が有害なコンテンツから守られるというメリットはあるのですが、たとえばホワイトリスト方式の場合、基本的に公式サイト以外にはアクセスできなくなってしまうわけですから、個人のホームページはもちろんのこと、学校や行政機関のホームページにもアクセスできなくなってしまいます。ブラックリスト方式の場合も、ユーザーが自由に書き込める掲示板を用意したサッカーチームのサイトへのアクセスもNGになってしまいます。
いずれの場合においても、現状のリストでは健全なサイトにまで網がかかっており、ユーザーが大きな不利益を被ってしまうのです。リストに載せるか載せないか、そこが全て外形上でしか判断しないキャリアの基準で大丈夫なのか、ということです。18歳未満に同じリストを一律適用する形になっていますが、小学生と高校生では随分と差があるはずです。本来、子供にどのサイトへのアクセスを許可するかは、各家庭の中で決めるべきことではないでしょうか。とりあえず原則適用しておいて、適用を外したければ親権者がショップに来い、という運用のしかたも少し乱暴なのではないでしょうか。
――そうした問題に対してMCFではどんな取り組み、働きかけをしていこうとお考えですか。
誤解しないでいただきたいのですが、我々もフィルタリングサービスが悪だと言っているわけではありません。導入するなら導入するで、しっかり議論し、きちんとしたものを導入して欲しい、ということです。
そこで、我々は第三者機関を設立して、フィルタリングの基準を示し、それを各キャリアに採用してもらえるように働きかけていこうと考えています。昨年12月にも発表しましたが、今春設立を目指しています。この第三者機関では、フィルタリングの話だけではなく、健全なコンテンツを普及を目指してさまざまな取り組みを行なっていくつもりです。
■ フィルタリング以外の方法
――フィルタリング以外では具体的にどのようなことを行なっていくのでしょうか。
非常に大切なのは、フィルタリングは万能薬ではないだろう、フィルタリング以外の方法もあるだろう、という発想です。フィルタリングサービスを導入したから安心です、ということではありません。根本的には何も解決していません。
有害だからアクセスできなくしてしまえ、というのは禁酒法のようなもので、厳しくすればするほどアンダーグラウンドな市場が広がってしまうことが容易に想像できますよね。好奇心旺盛な若者は、すでに手に入れた便利なツールをそう簡単に手放すとは思えません。Webがダメだと言えばメールを、携帯がダメだと言われれば、無線LANスポットのようなものをうまく活用していくでしょう。
一律規制するのではなく、親に子どもの利用を「見える化」するというのもひとつの方法だと思います。パソコンでは当たり前ですが、子供のWeb利用履歴を親が確認できます。あるいは、ブラックリストのあるサイトの利用回数だけを知らせるだけでも、親が子供のWeb利用を管理できるようになります。子供もそうですが、親にもきちんと意識してもらう。「お前、こんなサイトにアクセスしちゃダメだぞ」と、親が叱ってやるのが一番です。
また、これだけSNSやブログが若者の間に普及しているのであれば、そのプラットフォームを使って啓発・教育していくということも考えていいのではないでしょうか。ネット上にはどんな危険が潜んでいるのか、どんなことをすると他人を傷つけてしまうのか、ということを、きちんと教えていく必要があると思うのです。
――ちゃんと理解できたら特別なアバターが貰えるとか、ポイントが貰えるとか(笑)。
そうですね(笑)。第三者機関では、そうした啓発プログラムにも取り組んでいく予定です。教育機関とも連携して、若者を育てていけたらと考えています。SNSサイトが集まれば、日本中の若者に啓発プログラムを提供することが可能です。
――ただ、我々がケータイコンテンツを見ている限りでは、コンテンツプロバイダー自身の自浄努力も必要なのではないかと思います。たとえば、電子コミックなど、公式メニュー内でもかなり過激な内容のものが多数見受けられます。
それはまさにそうだと思います。実際、iモードの公式メニュー内の電子書籍配信サイトは、キッズ契約すると2サイトしかアクセスできなくなっています。コンテンツプロバイダーの意識として、「儲かれば何をやってもOK」「まだブラックリストに載ってないから大丈夫」ということでは困ります。MCFでも、各業界団体と自主規制のガイドライン作りで相談しているところです。
一方、総務省でユーザーIDのオープン化について議論されているところですが、契約者の生年の情報を環境変数のパラメーターとして取得できるようにしてもらえないかとお願いしています。未成年がアクセスしてきた場合、サイト側でそれを判別して表示内容を変更する、というようなことが可能になります。
――総務省といえば、最近はMVNOの創出にも積極的ですが、小学生向けのMVNO、高校生向けのMVNOといった風に、フィルタリングのレベルが違う事業者が登場してもいいですよね。
MVNOには本当に期待しています。何千万人という顧客を抱える既存キャリアにはできないことを実現できるのがMVNOでしょう。小・中・高、せめて小中・高で異なるフィルターを適用できるようになってもらいたいものです。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。
■ URL
MCF
http://www.mcf.to/mcf.html
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(湯野 康隆)
2008/01/31 19:29
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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