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「INFOBAR 2」担当者インタビュー
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INFOBAR 2とau design projectのこれから
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auから発売される「INFOBAR 2」は、au design projectとして初めての“セカンドモデル”となる端末。話題を集めた初代「INFOBAR」から「INFOBAR 2」に至るまでの経緯や、これまでの取り組み、今後のau design projectの活動などについて、担当者に話を伺った。
インタビューは、KDDI コンシューマ商品企画本部 プロダクト企画部 デザイン企画グループ 課長補佐の砂原 哲氏と、同部 プロダクトマネジメントグループ 課長補佐の加本 泰浩氏に応じていただいた。
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加本 泰浩氏(左)と砂原 哲氏(右)
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――まず、今回の「INFOBAR 2」が発売に至るまでの経緯を教えて下さい。
砂原氏
まず、2006年にINFOBAR 2のコンセプトモデルを発表しました。“2”を作ろうという考えに至った経緯ですが、2003年に発売した初代のINFOBARから3年が経過し、常に違うデザイナーと組んで革新的なデザインを提案するスタイルも一段落ついたと考えていました。また、au design projectとして発売した端末は、それぞれが“原形”になり得る、完成度の高いデザインで、“2”へと進化していくのが自然だと考えていました。しかしau design projectが始まって間もない頃は新しいモデルに注力していたため、“2”について具体的に考える余裕がありませんでした。2006年になってようやくその機会が訪れたということになります。
テーマとしたのは「継承と進化」です。初代INFOBARのデザインを継承しながら進化した姿は一体どのようなものなのか、私たちも見てみたいし、みなさんにも見てもらいたいという思いで発表したのが、INFOBAR 2のコンセプトモデルです。そしてコンセプトモデル発表からちょうど1年で製品を発表できました。
例えば、ヒットした映画の続編として制作される“2”のように、一般的に“~2”というと前作を超えられないイメージもありますが、INFOBAR 2は単純なマイナーチェンジではありません。自動車の世界で例えるなら、ローバーのMINIとBMWのMINI、あるいはフォルクスワーゲンのビートルとニュービートルのような、単純なセカンドモデルではない、定番として親しまれたモデルのDNAを受け継いだ進化形としてのモデルです。新しいMINIもニュービートルもデザインは先代と同じではありませんが、MINIらしさ、ビートルらしさを継承しています。INFOBAR 2も、初代INFOBARとは違うけれども、INFOBARらしさを継承している。MINIが40年の時を経て全く新しいMINIに生まれ変わったように、INFOBARは4年の時を経て、INFOBAR 2へと進化をとげたわけです。
――初代のINFOBARは、当時として最先端の機能を搭載したモデルではなかった、と今では言われていますが……。
砂原氏
初代INFOBARが発売されたのは2003年の10月末です。11月末にはCDMA 1X WINがスタートしました。WIN端末ではなかったという意味では最先端ではありませんでしたが、他の機種と比べて性能が劣っていたわけではなく、1X端末としてはハイエンドクラスの機能を搭載していました。
ただ、初代INFOBARの元となったコンセプトモデル「info.bar」(2001年)で想定していたいくつかのアイデアは、量産にあたって諦めざるを得ませんでした。コンセプトモデルのinfo.barは「ファッションとしての価値を持つ携帯電話」というテーマで、タイルキーはひとつひとつ着せ替えできるという想定でした。また、携帯電話の顔とPDAの顔の、二つの顔を持つ携帯というコンセプトも併せ持っていて、背面はPDAとして使えるという想定でした。アンテナも内蔵、もしくは突起することなく矩形の本体にスマートに収納できるという想定でした。
つまり、コンセプトモデルのinfo.barと製品化された初代INFOBARとの間には、かなりギャップがあったわけです。これに対し、今回のINFOBAR 2はコンセプトモデルのデザイン、サイズを全く崩さずに、有機ELや内蔵ワンセグアンテナ、197万画素AFカメラ、ステレオスピーカーなどを搭載し、機能面でも妥協することなく量産化できました。
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2006年10月末に展示されたINFOBAR 2のコンセプトモデル
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――INFOBAR 2では、初期の段階から量産を考慮したデザインが施されていたということでしょうか?
砂原氏
au design projectでは、どのくらいのサイズのディスプレイを載せようとか、音楽の機能やワンセグをどうするか、といったことは、コンセプトモデルを制作する段階で想定しますが、基板や様々なデバイスをどう実装するかまでは考えていません。製造メーカーもその段階ではまだ決まっていないので、常識的にこうなるだろうというところを、デザイナーと我々で相談しながら進めていきます。
――2006年に初めて展示されたコンセプトモデルを実際に見た時、LEDランプや外部メモリスロットなどの現実的なディテールに驚きました。
砂原氏
あの段階で、すでにINFOBAR 2の量産開発が進んでいた、ということはありませんよ。当時、製造するメーカーは決まっていませんでしたし、メーカーの意見が入っていたわけでもありません。これまでの経験からこのデバイスはこのあたりにレイアウトするのが適当だろうとか、この機能は技術的にある程度実現可能だろうという見込みの下にコンセプトモデルをデザインしていますが、現実的にそのデザインに収まる量産・実装可能なデバイスが存在するかどうかまでは、分からないまま進めているわけです。そういった意味でも、コンセプトモデルのデザインそのままに、“2”の名に恥じない進化した機能を詰め込んで製品化を実現した鳥取三洋電機のエンジニアの方々には脱帽しますね。
――初代INFOBAR開発時のノウハウが活かされた、ということでしょうか。
砂原氏
初代INFOBARだけでなく、au design project第3弾モデルのtalbyもそうですし、au design projectではありませんが、岩崎一郎さんがデザインを手がけたA5405SA、柴田文江さんがデザインを手がけたSweetsシリーズやジュニアケータイ A5525SAと、鳥取三洋電機はこれまでにケータイデザイン史上に残る数多くの携帯電話を開発してきました。INFOBAR 2は、これらで培われたノウハウの集大成と言えるのではないでしょうか。
――初代のINFOBARが発売され、その後INFOBAR 2の発売が決まるまで、ユーザーの意見やフィードバックが反映されるような部分はあったのでしょうか?
砂原氏
アンケートやブログなどを通じ、これまでたくさんの方から初代INFOBARに対する意見や、コンセプトモデルのINFOBAR 2に対する意見、あるいはau design project自体についての意見をいただきました。いただいた意見、要望を参考にしつつ、また励まされながらINFOBAR 2の商品化を進めてきました。もちろん全ての意見や要望に応えられているわけではないのですが。
――デザイナーからの提案や意向がある中で、セカンドモデルとしてユーザーからの要望をどこまで採り入れるのか、バランスが難しい側面もあるのではないでしょうか。そのバランスが、既存の端末と全く異なるという意味においてau design projectは革新的だったと思うのですが。
砂原氏
au design projectの方法論は、ユーザーからの要望・ニーズを受けて商品開発を行なうのではなく、また、需要を先取りしたようなシーズありきで商品開発を行なうものでもなく、まずコンセプトを提示する、というものです。
商品開発は多くの場合、「マーケティングリサーチでこういう意見があるから、こういう商品を開発していこう」という形で進んでいきます。どういう物が欲しいですか? こういったものがあったら欲しいですか? と尋ねたりするものですね。ただ、そういったアンケート調査の結果を集積したものが必ず欲しいモノに仕上がるわけではありません。また、シーズありきで商品開発を進めると、一体誰が欲しいのか分からない商品ができる危険性がありますよね。
au design projectでは、まずデザイナーのアイデアを具体化したコンセプトモデルを見てもらう。それが魅力的なものかどうかは、誰もが直感的に分かります。それが欲しいものであれば、その場で「これが欲しかったんだよ」と言ってもらえますし、欲しくないものであれば反応が返ってこないでしょう。
――au design projectにおいて、コンセプトモデルの発表は、製品化に至るまでの必須の過程ということでしょうか?
砂原氏
公式にはコンセプトモデルを発表しなかったモデルもありますが、基本的な考え方はそうです。通常のやり方では生まれてこない新しいデザインをKDDIとデザイナーで考え、モックアップという具体的な形に置き換え、まずみなさんに見てもらいましょう、というものです。
そもそもau design projectは、コンセプトモデルを発表することで、auの携帯電話、あるいはauというブランドが、こういう方向に進んでいきたいと思うのですがどうですか? とユーザーに問いかけることを目的にスタートしたものです。そうした目的を持ってau design projectがスタートしたので、コンセプトモデルの発表はau design projectにとって、とても大事なイベントです。
ではコンセプトモデルのうち、商品化されたモデルと商品化されなかったモデルの基準は何なのか、とよく聞かれるのですが(笑)、単純な人気だけではなく、さまざまな理由によります。今までコンセプトモデルは19機種を発表し、7機種を商品化しましたが、そもそも量産に結びつけるのが難しいコンセプトもありますし、商品化のポテンシャルは十分にあっても、タイミングの問題で商品化されなかったモデルもあります。
――19機種を発表し7機種を商品化したという実績は、当初のau design projectで予想していたことでしょうか?
砂原氏
全く予想していないですよ(笑)。発表したコンセプトモデルが19機種もあったことは、INFOBAR 2発表の機会に数えて初めて知りました(笑)。量産モデルは年間1機種ぐらいのペースで出してきましたが、当初から7機種分のプランがあったわけではありません。
“au design project”というタイトルと大枠の構想があるだけですから、先が見えていないという意味では、小説を書くようなものかもしれません。書きながら、次の展開を考えていく感覚です。
――商品化が7機種という数は、多いと思いますか?
砂原氏
多くはないと思います。au design projectは、auというブランドを愛されるブランドにしたいという思いからスタートしています。ミリオンセラーになるような商品の開発を目的とするのではなく、本当にユーザーに感動を与えられるような携帯電話をつくり、それをauの象徴にしたいというものです。そういった部分を大切にしていくと、年に1機種程度を商品化するのが精一杯かな、というのが正直なところです。
■ 特徴的な曲面形状を再現
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製品化されたINFOBAR 2はコンセプトモデルと変わらない形状を実現
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――有機ELディスプレイの搭載やユニークなボタン形状、ワンセグアンテナ内蔵といったように、技術面でもトピックが多いですね。
加本氏
ワンセグアンテナは内蔵すると当然ながら感度は鈍くなりますし、そのあたりはすごく時間をかけて調整してもらいました。FeliCaのアンテナも難しい部分で、表面のアール(曲線)形状により、通常の端末と比べてアンテナと端末表面との間に3mm程度の距離が出てしまうため、感度調整に時間がかかった部分です。
――ディスプレイ部分の表面も曲線でできていて、強度や見え方の面でも難しそうですね。
加本氏
有機ELディスプレイそのものの強度や色再現性は難しい部分でしたし、表面のアクリルも、メガネのように凸レンズ状にすると画面が歪んで見えてしまいますから、アクリルの板を曲げて作っています。
――削り出したのではなく、板状のアクリルを曲げているということですか?
加本氏
曲げたものですね。均一に、ムラなく曲げるというものです。実は中央部は、強度の観点から0.1mmだけ厚くしています。
――INFOBARで特徴的だったボタン形状は、INFOBAR 2では曲面に這うような形状ですね。
砂原氏
初代INFOBARの開発時、タイル状のキーをいかに実現するかは鳥取三洋のエンジニアの方々が苦労した点のひとつでした。今回、難易度が高かったのは、やはり美しい曲面をいかに実現するかというところでした。INFOBAR 2の曲面は非常に微妙な曲面で、少しでもいじってしまうと四隅から中央に向って不必要なハイライト(光沢)が走ってしまうんです。そうなっていないというのは、恐ろしい程に絶妙な曲面が実現できているということですね。
■ au design projectのこれから
――“原形”になりうるデザインを振り返られる時期になった、というお話がありました。一方で、小説を紡いでいくような感覚、というお話も伺いました。“~2”というセカンドモデルが出たことで、今後ほかのモデルにも同様の動きが広がると考えていいのでしょうか? それとも、全くシナリオはできていない状態なのでしょうか?
砂原氏
いろいろな“~2”が欲しいという意見はありますし、できれば実現したいと思います。ただ、年に1機種程度を商品化するペースの中で、仮に“~2”を出すにしても、いつ出すのがいいのかなど、いろいろと考えなければならないことは多いですね。今、はっきりとした方針があるわけではありませんが、「継承と進化」というテーマは、これまで商品化したすべてのモデルに当てはめ得る、と思っています。
これまでのau design projectは、とりわけプロダクトデザインに注力してきました。おかげさまでMoMA(ニューヨーク近代美術館)にも4機種が収蔵されました。au design projectのスタート当初に思い描いていた目標は、ここに至る流れの中でほぼ達成されたのかなと、私は感じています。
この流れはこのまま大切に続けていきたいと思いますが、別の流れとして、7月に発表した「sorato」「actface」「ヒトカ」のようなインタラクションデザインに注力した活動も積極的に進めていきたいと考えています。
――新しいタッチパネルなのか、何かのセンサーなのか想像がつきませんが、今後ユーザーインターフェイス(UI)の変化を促し、UIのあり方を変えてしまうような可能性のあるデバイスが普及した時、au design projectはプロダクトデザインだけではなく、UIを含めて、もっと包括的な内容の活動に発展している可能性もあるわけですね。
砂原氏
そうしていきたいと思っています。プロダクトデザインだけの時代は終わりだと思っています。表示デバイスが大きくなれば、プロダクトデザインはそれに反比例して希薄になっていきます。その例がiPhoneということになるかもしれませんが、アップルはもともとインタラクションデザインに長けた会社です。我々は別にiPhoneと同じものを作りたいわけではなく、auとして、日本人ならではの感性で、日本のテクノロジーの中から生まれてくる面白いインタラクションデザインの可能性を探っていきたいと考えています。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。
■ URL
製品情報
http://www.au.kddi.com/au_design_project/seihin/infobar2/
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(太田 亮三)
2007/11/28 13:04
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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