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WRISTOMO開発者インタビュー
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SII佐藤氏、「CES大賞で商品化への道が開けた」
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販売開始後わずか10分で初回分を完売したNTTドコモの腕時計型PHS端末「WRISTOMO」。その開発を担当したセイコーインスツルメンツ(SII)WD部部長・佐藤弘親氏とWD部 WD企画営業グループ副主査・橋本陽夫氏にインタビューを行なった。
■ WRISTOMOはどのように誕生したのか?
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1984年に発表された「腕コン」。ここから全てが始まっているという
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--そもそもWRISOTMOはどのような経緯で開発されたのですか?
佐藤弘親氏 コンピュータ付き腕時計(1984年)から、時計に付加価値をつけていくという方向性で多機能化させていましたが、高機能というだけでは売れない。そこでマスに訴求力のあるものを考えたところ、通信機器と時計の融合というところに行き着いたんです。
ただ、腕時計型端末で腕に向かって会話するスタイルだと、会話が周りに筒抜けになってしまう。これはどうしたものかと思っていました。また、左腕に時計をつけたままでは、話す時や操作する時に左手が死んでしまう。この問題もユーザーインターフェイスの課題として残っていました。
橋本陽夫氏 ある夜「腕時計を腕からはずしてもいいんじゃないか」とパッと頭にヒラメキましてね、もうその夜は眠れなくて(笑)。それで翌日から開発チームで変形する機構(WMS)を作りだそうってことになりました。しかし、当時はSII社内でも「売れるの?」といった声が強かったんですよ。
変形機構を装備したWRISOTMOの試作品は以前から完成していて、2001年のCESにも出展していました。そうしたら、なんとその年の「CES大賞」を受賞しましてね。ノキアやモトローラを差し置いて受賞するとは思わなかったんで、となりの外人から「Congratulations!」って握手されてはじめて気が付いたぐらいです。正直驚きましたよ。
佐藤氏 でも今思えば、この受賞が商品化に向けて動きだすための大きなきっかけになったのではないかと思います。
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2001年のCESに出展された試作機
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こちらもCESに出展されたモデル
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■ 商品化に向けて
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WD部部長佐藤弘親氏 ご本人自ら実証テストに参加したという
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--開発の規模などはどうだったんでしょうか?
佐藤氏 開発人員は社内だけでも30数名以上ですね。開発に要した費用や期間も通常の携帯電話の開発に匹敵するものだと思っています。また、WRISTOMO特有の構造など調整する部分が多かったので、4月に行なわれた製品の発表以後も細かい調整は続けられていました。
--開発する際に削ってしまった機能は?
橋本氏 10キーやカラー液晶を搭載させたかったんですが、10キーは防水構造の妨げになるんですよ。
佐藤氏 それからカラー液晶は小型化が難しいことと搭載しても画面を高精細化するのが困難だったことで搭載を見送ったんです。リリースボタンについても、完成品では2つですが、2つのボタンを1度にリリースできるボタンの搭載も考えていたんです。しかし、さらにボタンを追加すれば端末が大きくなることは明らかだったのでこれも取りやめました。
--企画段階ではなかったが、開発する際に付け加えた機能などは?
橋本氏 企画段階では、アーム部分の調整はアッパー・ロアそれぞれ3段階で調整できるようになっていましたが、しっかりフィットするように無段階で調整できるようにしました。アームの先に取り付けるターミナルピースについても腕が太い人向けに後から追加しました。また、裏側のラバーカバーも実際に人の手がふれるところということで追加しました。2001年のCESに出展したモデルには、こうした機能は搭載されていませんでした。
--特に開発で苦労された点は?
佐藤氏 WRISTOMOは、3つのボックス(アッパーアーム・本体・ロアアーム)で構成されていまして、それぞれに回路が張り巡らされています。PHSなどの通信モジュールを搭載すること自体はそんなに難しいことではありませんが、それをある程度小型化したなかで、信頼性などを高めていくことに対しては試行錯誤の連続でした。
また、時計として利用も当然考慮してまして、防滴(1気圧までの防水)ではなく生活防水(3気圧までの防水)にこだわりました。腕につけてもらう以上は、手を洗ったり雨に濡れたりした時に壊れてしまっては商品として世に出してはいけないと思っていますので。
2002年12月末までには、製品として98%完成していましたが、残り2%を埋めるのが大変な作業でした。数百人規模の実証的な耐久テストも行ないまして、例えばリリースボタンの高さも調整を重ねた結果なんです。当初リリースボタンは通常の生活をしていればほとんど誤動作しないと考えてまして、バネの圧力を高めたり、ボタンを位置を飛び出させたりして押しやすさを念頭に考えていました。しかしテストの結果、満員電車などで車内の棒などに当たってリリースされてしまう可能性が判明し、0.1mm単位でボタンの高さなどを「作っては削り、作っては削り」して現在の形状に落ち着いたんです。
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完成品では、無段階のアジャスターを装備しているが、試作機では3段階のものだった
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液晶画面の上下に取り付けられたリリースボタン。高さなどの調整には最後まで時間がかかった
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--長野五輪時の腕時計型PHSや、サムスンの腕時計型GSM端末などは参考にしたのでしょうか?
佐藤氏 これらはいずれも参考にしていません。スピーカホンとして腕に付けたまま使用したり、イヤホンを使用したりする腕時計型端末と、ヘッドセット型に変形して通話ができるWRISTOMOは全く異なるものと認識しています。
--なぜドコモから販売することになったのですか?
佐藤氏 以前マスコミ各社で「NTTドコモ、腕時計型端末発売か」といった報道がされました。その時点では誤報だったのですが、以来NTTドコモの入鹿山剛堂氏から声をかけられ、SIIからのサプライヤー提案という形で提案させてもらいました。これが2002年4月頃になります。
■ 次世代WRISTOMOはどうなる?
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SIIのウェアラブルパソコン「Ruputer」(左)と「WRISTOMO」
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シーメンス モバイルのGSM対応携帯電話ブランド「XELIBRI」シリーズ。WRISTOMOの次世代端末はどのようなものになるのだろうか?
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--今後新しい機能を付加する予定は?
佐藤氏 PHSとしては、@FreeDなどのデータ通信に対応することは考えています。ただそれよりも優先度が高いのは、「小型化」「表示の高精細化」「質感向上」「入力方法の高性能化」の4つです。特に入力方法は、指で端末をなぞるだけで入力ができるような方法など、従来の方法にこだわらないWRISTOMOならではの方法を模索していきたいと思ってます。
--他事業者への供給は?
佐藤氏 NTTドコモ以外の他事業者とも話があれば、端末を供給する用意はあります。実際の商売にこそ繋がってませんが、2001年のCES以降海外メーカーからの引き合いが多いのも事実です。今回の売れ行き次第で今後の展開も変わってくるのではないのでしょうか。
--腕時計以外のウェアラブルな形へ変わる事はない?
佐藤氏 メガネ型やペンダント型のウェアラブルパソコンや携帯電話というのは確かにウェアラブルな方向性としては考えられます。ですが、機能をいろいろ搭載したメガネを着けている姿が、果たしてスタイリッシュでしょうか? ペンダント型の携帯電話も登場していますが、それであれば大きさや使用方法も現在の携帯電話とかわりません。やはりウェアラブルで新規性の高いものということであれば、腕時計型に集束していくのではないのでしょうか。
--最後に、本誌読者に一言お願いします
佐藤氏 私としてはWRISTOMOが従来の携帯端末に与える影響を、ウォークマンがテープレコーダーに取って代わった時と同じくらいのインパクトだとイメージしています。また、時計メーカーであるSIIとして、よりスタイリッシュな端末にして行かなければならないとも思っています。左腕につけるアクセサリー、例えばロレックスの時計などをライバルと考えて次の端末を開発していますのでご期待ください。
--本日はありがとうございました。
■ URL
WRISTOMO情報サイト
http://www.wristomo.com/
Wrist Mount System
http://www.wmsworld.com/
ニュースリリース(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/new/contents/03/whatnew0326.html
ニュースリリース(セイコーインスツルメンツ)
http://speed.sii.co.jp/pub/corp/pr/newsDetail.jsp?news=409
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(鷹木 創)
2003/05/15 14:15
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