2月13日~16日まで4日間に渡って、スペイン・バルセロナで開催されていた移動体通信関連の大型イベント「3GSM World Congress 2006」。会期中のバルセロナ市内で、NTTドコモ プロダクト&サービス本部 マルチメディアサービス部 執行役員の夏野剛氏に、RealNetworksとの提携や、ワンセグ、ナンバーポータビリティなどについて聞いた。
■ インターネットから自由にVライブを配信できる

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NTTドコモ執行役員の夏野氏
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――まず、一番新しい話から伺います。RealNetworksとVライブを配信するサーバーソフトの開発について提携しました。この提携の目的は?
これまで正直、「イケてないなぁ」と思っていたVライブが僕の担当の範疇に入ったのが1年半前。テレビ電話のプロトコルを使って、インターネット上のビデオストリーミングが観れたら面白いなというのはずっと思っていましたので、まず、最初に(Vライブのチームに)オーダーしたのは、「自分のサーバーからVライブが配信できるように、Vライブをiモードのようにオープンプラットフォームにしろ」ということでした。
ドコモのサーバーではなく、インターネットのサーバーからテレビ電話のプロトコルを使って配信することに、何のメリットがあるかといえば、エンドレスで動画が流せることです。10分でもいいし、5分でも60分でも自分のリソースが許す限り配信できるからです。そして、こうしたシステムを開発したのはいいんですが、インターネット上のストリーミングサーバーがそれに対応してくれなければなんの意味もない。それなら、一番シェアを取っているRealさんと組めばいいじゃないか、と。そしてコンテンツプロバイダさんがそれに対応したストリーミングサーバーを買えるような環境を整えよう、というのが今回の提携の意図です。
――Vライブをインターネットから配信できるようになったら、具体的なアプリケーションとしてどういうものが想定されますか。
具体的にはまだ言えないのですが、今までのVライブでもやっているコンテンツプロバイダさんが、ドコモに頼まなくても設備さえ用意すれば勝手に配信できるようになるので、いろいろな可能性があるでしょう。今まではコンテンツをいちいちドコモのサーバーに預けなければなりませんでした。これでは制約が多くて、僕もそういうのはイヤなんです。インターネット的じゃないですし。さらに今回のソフトの大きなポイントは、iモード接続に使っているユーザーIDをVライブでそのまま利用できるので、コンテンツプロバイダはいつ誰がアクセスしたのかがわかり、iモードコンテンツと同じように課金できること。コンテンツを持っている人が自分のサーバーから勝手にどんどん流し、課金できる環境を整えれば、必然的にコンテンツは増えると思っています。
たとえば、今、楽天イーグルスのサイトでは、会員だけが試合中継を生で見られるようになっていますけれども、今回のオープンVライブを使えば、自分のサーバーから配信し、なおかつユーザーIDやパスワードの入力もなしに、iモードの課金システムをそのまま使えます。これは大きなメリットですよね。
――対応機種の制限はあるのでしょうか。
すべてのFOMA端末で利用できます。2,000万人以上いるユーザーがそのままマーケットになります。ちなみにVライブに関しては、ゆくゆくは全面的にオープンな仕様にしたいと思っています。
■ 日本以外でiモードユーザーは600万人超
――日本ではドコモのiモードサービスが世界でどのように受け入れられているか、あまり報道されることはありませんが、現在、どのような状況でしょうか。
日本以外のiモードサービスの契約者が600万人を超えました。フランスやスペインでは特に、成功してますね。イギリス、ギリシャ、オランダも順調に立ち上がってきています。
――日本人としては、やはり海外でどのようなコンテンツが受け入れられているかが気になります。
よく聞かれる質問ですが、どこでも同じですよ。どこでも着信メロディは流行りますし、占いや待受画面も定番ですね。どんな種類の占いが、というのは地域差はあるでしょうが、まぁ、それくらいです。
――欧米の動向を見ていると、日本におけるドコモのような、ビジネスを引っ張っていく立場に、端末メーカーがあると思います。この違いについてはどう思いますか?
(ビジネスを引っ張っているとは)全然思わないですね。着信メロディが流行ったときに、ノキアさんあたりは「我々もコンテンツをやる」と言っていましたが、事実うまくいってないですよね。端末ベンダーさんは基本的に、通信やサービスを使うリアルユーザーの動向よりも、端末そのものを売ることが目的ですから、やっぱり事業者が本気にならないと難しいでしょう。ヨーロッパでは先進サービスは大分、日本に比べて遅れていますが、その理由の一つは事業者さんが本気になっていない、ということだと思います。自分から新しいことをやらずに、人と同じことしかやっていないような印象ですね。
■ HSDPAになってもコンテンツ中心、サービス中心の基本方針は変わらない

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ドコモが発表したHSDPA対応の試作機
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――ドコモのブースでもHSDPAが展示されました。HSDPAを使ってどんなサービスが提供されるのでしょう?
詳しくは言えませんが、HSDPAを使うとより楽しくなるような面白いサービスを同時にリリースしますよ。HSDPAはよく話題になりますが、2Gから3Gよりは変化が少なく、3Gのスペシャル版にアップグレードするような感じです。コンテンツ中心、サービス中心のこれまでの基本方針は全く変わりません。サービスが重要であって、通信方式そのものはあまり大きな問題ではないですね。
――今、HSDPAと言うと、携帯電話で何かをやるというより、パソコンでの定額通信が話題になることが多いですよね。
よく言われますがどうでしょうね? 僕自身は興味ありません。全体からみたらすごくニッチなマーケットですし。多くの方が使うプラットフォームの方が僕は興味がありますね。
■ ワンセグはサイマル規制が外れた後、いい番組構成ができるかがポイント

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ワンセグ対応のP901iTV(未発売)。
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――今年4月1日には、ワンセグが始まりますね。
ワンセグは半分、大きく期待している反面、もう半分は不安があります。やはりケータイでテレビが見られるというのは十分インパクトがあるんですが、サイマル放送で始まるので、見たいときに見たい番組が見られないんですね。サイマル規制が外れた後、本当にお客様の気持ちをつかめる番組構成ができるかどうか、これは我々も放送局さんにお願いしていきたいところですね。
――ワンセグは通信事業者にとってメリットがない、という意見もありますが。
いや、シナジーはたくさんあると思いますよ。フジテレビさんに出資させていただいたり、日テレさんとファンドを作ったりしているのは、これから放送業界と通信業界がもっと近くなるからです。ビジネスモデルがどうこう言う前に、お客様が望むものをきちんと提供することが大事だろう、まずやってみよう、そういう風に思います。
■ MNP後はタイムリーな経営が必要
――2006年はモバイルナンバーポータビリティ(MNP)制度の導入という大きな節目を迎えますが、今、MNPについてどのように思っていますか?
MNPが導入されたからといって、競争がさらに激しくなるだけで、基本的な競争構造は変わらないと思います。それぞれの事業者には苦手な部分があると思います。たとえばドコモはサービス開発能力はあると思いますが、マーケティングはヘタクソですね。MNPが導入され、こういう苦手な部分が顕著になったとき、競争に負けるスピードが今よりもぐっと速くなるんです。今までだったら、なんとかユーザーさんに我慢してもらって、逃げられずに済んだケースでも、あっという間に逃げられるようになるでしょう。全体的に弱いところがないように、きちんと自分たちの体制を正していかなきゃいけない。サービス開発にしろ、マーケティングにしろ、タイムリーにやっていけるかどうかが重要になると思います。
■ 90Xiシリーズにデザインモデルがあってもいい

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デザイン端末が揃った702iシリーズ
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――端末について伺います。最近発表された702iはすごく個性的で、「90Xiシリーズから機能を削ったモデル」という印象を払拭したように思いました。
そうでしょう! 最初の70Xiはまったく特徴がなかったんです。それで個性が立つように、一生懸命やりましたよ。人間のライフスタイルって、ものすごく多岐にわたるんですよね。それにきちんとフィットするような端末ラインナップを揃えていかなきゃなと思うわけです。今回の702iは特にデザイナーさんと調整するのに苦労しましたけど、本当によくやっていただいて、メーカーさんもデザイナーさんの意図をきちんと反映してもらって、あとは我々がしっかりとお客様のところに届ける、そういう段階までもってこれました。ただ、これは70Xiだけに関わらず、90Xiも同じです。今後は90Xiシリーズでデザインモデルがあってもいいと思うし、もっとバリエーションを増やしていきたいなと思います。
――欧米でも最近、30ユーロ端末など盛んに低価格機の開発が叫ばれるようになりました。端末の高機能化、高価格化や市場の飽和に伴い、日本でもメインストリームはミッドレンジクラスに移ってくるのでしょうか。
いやいや。日本のユーザーさんはヨーロッパに比べたら遙かにレベルが高いです。もちろん価格もありますけど、それ以上に新機能や機能の多さが求められるケースが多いですね。まぁ、両方とも重要なポイントではありますが、メインストリームが90Xiシリーズということに変わりはないと思います。
■ 全部見てもらった上で、選んでもらえるようがんばる
――最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。
使われるサービスをきちんと提供するという我々のやり方は、一見不器用なんですよ。見た目は派手で飛びつく人も多いけど、すぐに使われなくなるような、そういうサービスは極力排してやってきています。
今年、MNPが導入されたら、是非他社さんのユーザーさんはiモードを試してみてほしいと思います。逆に、うちのユーザーさんも機会があれば他社さんを試してみればいいんです。今もクオリティには自信がありますが、全部見ていただいた上でうちを選んでもらえるよう、これからもがんばるだけです。
――ありがとうございました。
■ URL
NTTドコモ
http://www.nttdocomo.co.jp/
3GSM World Congress 2006(英文)
http://www.3gsmworldcongress.com/
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