国内の携帯電話事業が今後さらに発展するには、何が必要なのか。18日、総務省で開催されてきた「モバイルビジネス研究会」の第10回会合が開催された。1月から開催されてきた同研究会は、今回で終了となり、報告書が近日中に公表される見込み。
今回の会合では、総務省側から報告書の最終案が示され、パブリックコメントで指摘された箇所について追記した部分、記述を変更した部分を中心に紹介された。構成・目次は変更なく、第一章の「はじめに」「モバイルビジネス市場の特徴」は、ほぼ従来案と同じ記述となっている。
■ 分離プランは部分導入、2010年に影響を評価
第2章では、携帯電話の販売状況に対して言及している。これも内容としては、従来案と同様だが、最終的な報告書がどのようにまとめられたのか、あらためて確認したい。
料金プランについては、通信料と端末代金をできるだけ切り離す方向で検討し、「分離プラン導入が望ましい」とされた。導入は各キャリアの自主判断という前提になっているものの、同時期に導入されなければ、ユーザーが混乱することも考えられるため、「総務省側が政策方針を明確にして各キャリアが分離プランを導入すれば、円滑な導入が可能になる」と記述されている。まずは各社の動向を見た上で、何も動きがなければ総務省が腰を上げる、という流れだ。
利用期間を決めた契約プランの導入にも触れられており、今後のスケジュールとしては、2008年度を目処に各社が部分的に分離プランなどを導入し、影響を見た後、2010年頃にも総合的に評価して本格導入に向けて結論を出す。
■ 販売奨励金は「減少に期待」
販売奨励金については、端末代金と通信費どちらに対するものか、現状では見極めにくいため、見直しが適当とされた。端末販売は電気通信事業ではなく、それに付帯する事業との見解が総務省から示されており、奨励金のうち、端末販売に関する部分は今後、付帯事業収支として計上する。
報告書では端末販売の収支が明確になることで、奨励金減少に向けた期待感も述べられている。今後は、2007年度中に、販売奨励金の取り扱いに関して、電気通信事業会計規則を改正し、2008年度からの施行が想定されている。あわせて総務省側から、販売奨励金の分計に関する「運用指針」の提示が必要とされている。
■ SIMロックは2010年に最終結論
A社の携帯電話がB社では使えないようにするため、携帯電話本体に施されている「SIMロック」については、現状ではauだけ異なる通信方式を採用しているため、ユーザー利益が限定され、「制限のないSIMロックの解除はむしろ事業者間競争を歪める可能性がある」と指摘されている。
総務省では、「現行の垂直統合モデルを否定するものではない」(料金サービス課長の谷脇 康彦氏)としており、報告書では「SIMロックは解除が望ましい。しかし、今後の無線高速通信サービスなどの動向を見て、2010年時点で3.9Gや4Gを中心に、SIMロック解除を法制的に担保するかどうか、最終結論を得ることが適当」とされている。しばらくは現行と同じ仕組みで行き、次世代通信方式でのSIMロック解除が今後議論されることになりそうだ。
■ MVNOには「標準プランを公開せよ」
このほかMVNOについては、野村総合研究所(NRI)の北俊一氏から経済効果の試算データが示された。2015年までの動向を予測したもので、安さをアピールするMVNOはデータに含まず、高付加価値を提供するMVNOや法人向けMVNO、プロ野球やサッカーなどのチームが手掛けるコンテンツMVNOなどの登場が想定されている。
それによれば、2008年から開始した場合、2015年時点で端末出荷台数は約1,700万台、回線数は約4,300万回線に達する。端末市場規模は約5,000億円、通信料などの負荷収入は約1兆6,000億円になる。ただし、その数値は従来市場にプラスアルファとなるものや創出されるものではなく、1台目の置き換えという部分も重複した数値となる。また、WiMAXのような無線高速通信サービスのユーザーを含め、MVNOの活性化によって、国内の移動体総回線数は2015年に約1億3,000万契約に達するとされている。
こうした市場効果をもたらすため、MVNOを促進させる方向で報告書はまとめられており、既存キャリアに対してはMVNO希望の企業との個別交渉だけではなく、標準となる料金プランを公開するなど、情報開示に努めるよう求めている。
■ モバイルビジネスの活性化に向けた政策パッケージ
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増田総務相
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端末プラットフォームやネットワークプラットフォームのオープン化についても触れられているが、特に端末プラットフォームは各キャリアが既に計画を進めているため、それを見守る形になる。ネットワークプラットフォームについては、2007年度中に別の会合を発足させて、検討が進められる。
また端末販売員については、本会合構成員と総務省側のやり取りを通じてキャリアを横断した知識を擁するスタッフの育成に向けた公的資格の導入について、今後検討することも明らかにされた。
報告書の内容を踏まえた施策を実施するにあたり、総務省では「モバイルビジネス活性化プラン(仮称)」を策定している。これは6月の第8回会合でも示されていたものだが、今回の会合で挨拶を行なった、増田寛也総務大臣は「モバイルビジネスにおける料金透明性などを検討してもらったが、総務省では報告書を受けて、モバイルビジネス活性化プランを策定した。2011年に向けて取り組んでいきたい」と述べており、日本の携帯電話事業の今後に向けた政策パッケージと位置づけられている。
モバイルビジネス活性化プランでは、携帯電話事業を端末や通信サービス、コンテンツなどのレイヤーに分け、MVNOの促進や、プラットフォームの検討、分離料金プラン、SIMロック解除などの実現を目指す。これまでモバイルビジネス研究が検討してきた内容を受け継ぐ形となっており、今後は「モバイルビジネス活性化プラン評価会議」が開催され、市場動向と施策の影響力などが検証される見込みだ。
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モバイルビジネス活性化プラン(仮称)の概要
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■ URL
モバイルビジネス研究会 案内
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/mobile/
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(関口 聖)
2007/09/18 14:32
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