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ケータイの安全
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EMA、カテゴリーの見直しと認定制度で健全化を図る
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昨年末の「総務大臣要請」を受け、各キャリアが18歳未満(一部20歳未満)へのフィルタリングを前提にする動きは一気に広がった。一方で、キャリアのフィルタリングは、サーバー側で一律にかけられ、親が見せたいと思うサイトですら、“有害サイト”扱いになってしまう。当然、コミュニティサイトを運営する事業者などからも、一斉に反発の声が挙がった。こうした状況を受け、民間中心の「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」が発足。すでに、いくつかのサイトはEMAの基準を満たし、「認定サイト」となった。キャリア各社も、EMA認定サイトをフィルタリングの対象外にすると発表している。だが、まだまだEMAに関する情報は、一般にまで行き渡ってるとは言えない。ネットの声を見る限り、組織に対する“誤解”も多々見受けられる。そこで、EMAの設立経緯や、審査の意義などを、事務局広報を務める岸原孝昌氏に聞いた。
■ フィルタリングの問題点とEMAの役割
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モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)、事務局広報、岸原孝昌氏
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なぜ未成年者へのフィルタリングが大きな社会問題になったのか。まずは、この点を改めて整理しておこう。事の発端は2007年12月の総務大臣要請。これを受け、主要キャリアは、未成年者へのフィルタリング運用方針を変更した。契約時に「不要」との申告をしない限り、原則としてフィルタリングを適用していくことになった。既存契約者も、所有者と契約者を峻別したうえで、フィルタリングを適用していく旨が発表されている。関係各社(者)など意見を取り入れる形で、当時と詳細は変わっているが、大枠では「フィルタリングが未成年者に原則適用になった」と考えて間違いない。
問題が大きくになったのは、ケータイの場合、「端末の能力が十分でないこともあり、サーバー側でフィルタリングを提供せざるをえない」(岸原氏)からだ。現状ではサイトごとにアクセスの可否を決められないうえに、未成年者のユーザーすべてに、同じ方針のフィルタリングが適用されてしまう。
ブラックリストに含まれるカテゴリーも、物議をかもした。現時点では、ドコモやウィルコムのブラックリストでは「宗教」のカテゴリー全体がフィルタリング対象となっており、伝統的な宗教のサイトも、見られなくなってしまう。政治に関するサイトも、主張のいかんを問わず、アクセスできない。各キャリアともブラックリストの「ライフスタイル」に、「同性愛」を含んでおり、「性同一性障害の子どもが拠りどころとするサイトにも、アクセスできなくなってしまう」(岸原氏)といった問題も起きている。そもそも、ジャンルの分類自体も、非常に曖昧だ。
「『成人嗜好』というジャンルに普通のコミック雑誌が分類されていて、見られないこともある。フィルタリング会社はお客さんの要望でカテゴリーを作っていたが、そのお客さんはほとんどが、『法人』や『学校』。つまり、業務や学業に関係ないサイトはザックリ弾いてもOKだった。同じ基準をそのまま個人が持つケータイに適用したので、問題になっている」(岸原氏)
とは言え、表現の自由と密接に関わるため「フィルタリング会社や通信事業者には『良い・悪い』を判断できない」(岸原氏)。第三者機関が必要とされたのは、そのためだ。岸原氏は、当時を振り返りながら、次のように語る。
「昨年から総務省で、『インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会』が開かれており、『来年(2008年)の春に向かって報告書を出してください』ということになっていた。しかし、昨年末に総務大臣要請が出て、未成年者へのフィルタリングが前倒しで実施されることになってしまった。現時点でフィルタリングをかけると、弊害が大きい。そこで、総務省の会議と同時進行で、EMAを設立することになった」
岸原氏らの尽力もあって、EMAはスムーズに設立された。総務省も、4月にこうした動きを後押しする「中間取りまとめ」を発表。結果として、キャリア各社もフィルタリングの運用方針を見直した。未成年者にかけるフィルタリングは、すべて「ブラックリスト方式」となり、既存契約者への実施も延期された。カテゴリーを見直し、EMAの認定サイトをブラックリストから外す旨も発表されている。
■ カテゴリー改善と認定の二本立てで健全化を図る
フィルタリングの問題に対し、EMAでは、「カテゴリーを細分化するための意見を出したうえで、対応できないところは認定基準を作る」(岸原氏)という二段構えで、改善を図ろうとしている。
まず、カテゴリーに関しては「アクセス制限対象とすべきカテゴリーの5要件」を定め、それに該当しないものを、ブラックリストから外すようキャリア各社に要請した。「フィルタリング会社のカテゴリーはサイトの外見で判断するため、どういう書き込みがされているかといった“中身”までは踏み込めない」(岸原氏)というコミュニティサイトでは、「認定制度」も始まり、すでに「モバゲータウン」や「GREE」「大集合NEO」などの大手も含めたコミュニティーサイト7つが、認定を受けている。
コミュニティサイトの審査基準は「基本方針」「監視体制」「ユーザー対応」「啓発・教育」の4分類、22項目が設けられている。これを満たしたサイトが、「認定」を得て、ブラックリストから外れるという仕組みだ。サイト上で公開されている審査項目はあくまで概略程度だが、「広告掲載の基準や、書き込みの削除基準などを6本ぐらい作った」(岸原氏)という。このほかにも、EMAで最低限の“監視ワード”を持ち、基準を満たしていないサイトを指導したり、退会方法を分かりやすくするように要請したりと、さまざまな角度から、サイトの健全化を模索している。
審査は厳格で「認定サイトになったところすべてに、改善要求が出ている」(岸原氏)ほどだ。これは、モバゲータウンやGREEなどの大手サイトも例外ではない。「悪用されるため、どの程度までやればいいのかという“レベル感”までは公表できない」(岸原氏)というが、岸原氏が一例として挙げた「広告の掲載基準」からは、審査の厳しさがうかがえる。
「(過激な性描写を含む)電子書籍のバナー広告を、18歳以下で登録したユーザーには、見せないようにしてもらった。バナーだけでなく、リンク先のページも、しっかり目視で確認して判断している」(岸原氏)
現状では、広告が選別されていることが、大人の目に見えないため、「『青少年には見せていません』という表示も検討している」(岸原氏)という。これらの基準を定める「基準策定委員会」や運用方針を監視する「審査・運用監視委員会」は、「理事会とは独立している」(岸原氏)ため、公平性も担保される。
「理事会に事業者が名を連ねているだけで『お手盛りだ』という批判をされたが、それはまったくの誤解だ。理事会は基準作りにタッチしていないし、審査を受けるだけなら、EMAの会員になる必要もない」(岸原氏)
■ 審査・運用監視の今後
EMA発足当初は、悪質なユーザーをデータベース化し、サイト間で情報を共有していくという目標も掲げられていた。これは今後の課題だ。
「本当に悪質なユーザーはIDも変えてしまうことが分かってきた。これは、キャリアも含め、もっと大きな枠組みで対処していきたい」(岸原氏)
また、「今はまだ過渡期」(岸原氏)のため、審査のコストも決して小さくはない。サイトの規模によっては、数百万円の料金がかかってしまい、ベンチャー企業にとっては“負担”になりかねない。
「利用者もまだ分かっていない状況なので、基準を作って管理をしてと、フルフルでEMAがやらなければいけないため、コストがかかる。将来的には、基準だけをEMAが作るようにして、サイト側のコンプライアンスの元に自己申告できるようになれば、コストはぐっと下がる」(岸原氏)
EMA設立によって、ジャンルで一律にアクセス制限がかかるという、“検閲”に近い状況は回避された。一方で、この基準が万人に適しているわけではない。より厳しい審査を行う団体があってもいいし、サイトが自己診断で付けられる基準があってもいい。EMAが、そのきっかけになり、ケータイサイトの世界がさらに健全化することを期待したい。
■ URL
モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)
http://www.ema.or.jp/
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(石野純也)
2008/11/05 11:04
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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