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「P905iTV」開発者インタビュー
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国内最大の3.5インチ液晶で映像を楽しむケータイ
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パナソニック モバイルコミュニケーションズ製「P905iTV」は、先に発売されたWオープンスタイルの「P905i」と同じくパナソニックのテレビブランドを冠したVIERAケータイだ。だが、「iTV」という型番が示す通り、大画面をアピールするデザインを採用し、テレビのみならず、いつでもどこでも高画質な映像を楽しむプレーヤーを目指したのだという。
プロジェクトマネージャーの山口 徹也氏、商品企画担当の野中 亮吾氏、映像技術担当の横山 洋児氏に、開発コンセプトや技術の仕組みなどを聞いた。
■ 大画面が「進化のポイント」
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3.5インチ液晶を搭載
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左から横山氏、山口氏、野中氏
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――最初に「P905iTV」を目にしたときから、3.5インチという画面サイズが印象的でしたが、こういったスタイルを採用した理由は?
野中氏
905iシリーズ全てがワンセグ機能を搭載する中、自社内でも「P905i」という特徴的なスタイルを採用した機種を開発していました。パナソニック全体として、AV機器は中心的な位置づけの製品群であり、これまでも「P901iTV」「P903iTV」でワンセグケータイに取り組んできており、より進化させようと「P905iTV」の開発に取り組みました。
過去のモデルで、画面の美しさや受信感度の高さ、視聴時間の長さが評価されていましたので、それらを押さえながら、さらに進化させるポイントとして大画面化をテーマにしています。先に登場したP905iに比べ、P905iTVはより映像に軸足を置いたモデルという位置付けです。
――これまでもP901iTV、P903iTVが存在しましたが、そもそもなぜ“テレビ”にフォーカスした機種の開発が進められたのでしょうか?
野中氏
P905iTVで一番先進的な特徴は、画面の美しさ、綺麗さです。携帯電話初搭載となる「モバイルWスピード(30fpsでの映像再生機能)」もありますし、テレビだけではなく、WMV形式のファイル再生も可能ですから、マルチソースの映像を楽しむ時代にあわせた端末と言えます。テレビ特化、というよりも映像プレーヤーの側面に重きを置いているのです。
山口氏
たとえばP903iTV(2007年2月発売)を開発、リリースした時期は、ワンセグというサービスが普及し始めて、搭載することでユーザーに受け入れられる、つまり追い風があった時期です。それから1年、存在価値を磨き上げていく中で、大画面を活かした画作りを追求することで、ワンセグに加えて幅広い映像ソースを楽しめることを目指しました。
野中氏
もちろん、端末のコンセプトについて、すんなり決まったわけではなく、社内で議論を重ねました。その一方で、パナソニック全体として、AV機器を中心的なジャンルと位置付けています。テレビだけではなく、全般的なAV機能を重視したということです。
■ 簡単には追いつけない画面サイズ
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プロジェクトマネージャーの山口氏
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――3.5インチという画面サイズは、開発当初からの目標だったのでしょうか?
野中氏
携帯電話としての持ちやすさを実現しつつ、どこまで大画面化を進められるか。開発スタート時に検討しましたが、そのなかで3.5インチを目指すことになりました。
山口氏
他製品との差別化、という観点で見ると、技術的には何パターンか検討していました。ただ、携帯電話の持ちやすい幅は、48~50mmと言われています。3.5インチより大きなサイズも検討していましたが、もし採用すると携帯電話に適したサイズを超えてしまう。P905iTVのディスプレイは、狭額縁(ディスプレイ横の本体部分、つまり額縁のような部分が狭くなっている)ですが、それでもカタログスペックは、幅53mmという数値です。
3.5インチよりも小型な画面サイズにすることも検討しましたが、過去の経緯を振り返ると、P901iTV(2.5インチ)もP903iTV(2.8インチ)も、開発当時における業界最大サイズを意識していました。しかし実際には、発売から半年も経たないうちに他製品に追いつかれてしまうサイズでした。画質や受信感度、バッテリーの持ちは特徴となったと考えていましたが、今回は他社が簡単には追いついてこられないだろうと考え、3.5インチを実現しなければならないと考えたのです。
野中氏
53mmという幅ですが、キー側ボディのデザインを、徐々に細くなる形状にすることで、ディスプレイサイズを維持しながら、持ちやすさも実現しました。さらに、映像を楽しむ際に音質も向上させるべきと考え、ディスプレイの隣にスピーカーを1つずつ配置して、画面を左右に挟み込み、ステレオサウンドを実現しています。
■ オリンピックイヤーに向けて
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充電台と本体にスピーカー2つずつ搭載する
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――今年はオリンピックが開催されますが、商品開発にあたって、そのあたりは意識したのでしょうか?
山口氏
正直言って……2008年にリリースする端末として、(オリンピックのことは)意識していましたね。いろいろな商品が登場する中、ワンセグ重視で選ばれる機種として、1年間所有するに値する機種は、この子(P905iTV)になると。
■ スライド採用の理由
――Pシリーズの90Xiシリーズでスライド機構を採用した機種は珍しいですね。大画面が強いインパクトを与える一方、閉じたままでは、キーが正面にないため、操作できないという印象を受けます。
野中氏
スライド機構を採用したのは、やはり画面サイズのインパクトを与えることを目指したためです。国内のスライド型端末では、ディスプレイ側ボディにも操作キーを備えたモデルが多くありますが、そういったキーがあると画面サイズのインパクトが減少してしまいます。どーんと大画面感を出すスタイルにすることで、驚きを演出するデザインを目指したのです。
もちろん、操作キーがディスプレイ横にないため、操作できないこともわかっていましたが、それを踏まえてもなお、画面サイズのインパクトにこだわったのです。
山口氏
開発初期段階では、タッチセンサーのようなデバイスを採用することも検討しましたが、デザイン性などを踏まえて、この形にしました。映像を重視したモデルということで、勇気を持って特徴を打ち出したということになります。
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商品企画担当の野中氏
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キー面積を確保するため、スライド距離を長くした
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野中氏
ユーザー調査の結果、タッチセンサーというデバイスを肯定的に捉えている率は多くないと見ています。本当に便利なのか、液晶部分を汚さずに利用できるのか、よく考える必要があります。閉じたままでもスピーディに操作できるというメリットがあるでしょうが、P905iTVは異なるコンセプトを追求したのです。
――過去のワンセグ対応のPシリーズは、端末をL字型にして楽しむことを提案していました。また、過去のパナソニック製端末で採用されたスライド機構とは、異なる機構ですね。
山口氏
L字型を継承しなかった背景としては、さまざまな形状の携帯電話が登場する中で、これまでと同じ形状ではアピール度に欠けることが挙げられます。新しい形状をデザインし、イメージチェンジすることも重要なのです。
野中氏
繰り返しになりますが、今回の最重要ポイントは大画面化です。過去のモデルと同じ形状にして、なおかつ大画面化を図る場合、ボリュームあるヒンジ部が邪魔になりますし、より縦長な形状になってしまいます。大画面というコンセプトを活かす形として、今回のデザインがひとつの回答であったと考えています。それに、実はP905iよりも軽くて薄い(カタログスペックではP905iTVが0.6mm薄く、8g軽い)のです。
山口氏
映像再生だけではなく、メールやWebブラウジングなど、今どきの携帯電話として一般的な機能を使う場合にも大画面の恩恵を受けられると思います。
野中氏
当社開発のスライド端末では、P704i、ソフトバンクモバイル向けの810Pがあります。それらのモデルで採用したフラットスライド機構は、スライドのレールを左右に配しています。しかし、その仕組みでは大画面化が難しいんですよ。
山口氏
キー側ボディに操作系を集約したことで、どうしてもキー面積は狭くなります。しかし、ボタンが小さくなっては意味がない。そこで、スライドする距離を60mmと長くしています。このスライド距離は業界最長だと思いますね。
――スライド距離を長くすると、持ったときのバランスや強度にも影響するのでは?
山口氏
ええ、そうなんです。強度と安定性の確保には苦労しました。一般的な携帯電話と同じキーサイズにするには、あと20mm程度、つまり8cm程度のスライド距離が欲しいのですが、ギリギリを攻めた、と言えます。
野中氏
長くなるほど、開く手間がかかります。そのあたりの限界はどこか、検証を重ねて今のバランスに行き着きました。
■ モバイルWスピードの秘密
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映像技術担当の横山氏
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――P905iTVの特徴として一番印象的なのは、30fpsで映像再生するという「モバイルWスピード」です。ただ、ワンセグは15fpsという映像ソースですが、これを30fpsにするというのは、どういう仕組みなのでしょうか?
横山氏
簡単に言えば、前後のフレームから、どの物体がどこに移動したか、動きを計算しているのです。その分析結果から、中間にある場所を予測して描く、というイメージです。理屈の上では、急に構図が変わったりすると、カバーできない部分が出てきてしまいますが、そうなる場合は、表示がおかしくならないように工夫しています。
――映像によっては、モバイルWスピードという技術が苦手とするモノもありそうですね。
横山氏
うーん、どうでしょう。モバイルWスピードの効果がわかりやすいかどうか、ということであれば、人間の視点のようにカメラが動いて、あちらこちらを行くような映像はモバイルWスピードの効果がわかりづらいですね。一方、定点で映し出すような映像であれば、30fpsになったことが体感しやすいと思います。
――据置型のテレビでは、倍速再生が既に搭載されています。
横山氏
処理時間の課題を含めて、携帯電話という限られたリソースの中に、倍速再生の処理自体を落とし込むのは難しかった部分です。あまり無理な電力は使えませんし、ほどよいバランスに調整することに苦労しました。
山口氏
もともと、モバイルWスピードは、P905iTVよりも将来にリリースされるであろう機種を想定して、開発が進められていた技術でした。ただ、AV機器として特徴ある機能を模索していた時に、予定より前倒ししてP905iTVに搭載することにしました。結果的には業界初の搭載ということになりましたね。
――モバイルWスピードの処理自体は、パナソニック開発のチップセット「Uniphier(ユニフィエ)」で行なわれているのでしょうか? 予定よりも早めて搭載した理由は?
山口氏
ええ、Uniphierと、モバイルPEAKSプロセッサーですね。予定よりも前倒ししたのは、もし2009年頃に発売する機種に搭載したとしても、他社に対する優位性を確保できないかも、と考えたためですね。
野中氏
一歩先をこだわった結果とも言えます。ビジュアル面とサウンド面では、他社さんに負けないよう、努めていきたいですね。
――なるほど。今日はありがとうございました。
■ URL
製品情報(パナソニック)
http://panasonic.jp/mobile/docomo/p905itv/
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(関口 聖)
2008/03/14 18:58
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