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P905i
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28日発売のパナソニック モバイルコミュニケーションズ製「P905i」は、一見すると、ありふれた折りたたみ型のように見えるが、実際は縦と横に開閉する「Wオープンスタイル」を採用したユニークなFOMA端末だ。
その独特な機構はいかにして誕生したのか。端末コンセプトやこだわりの映像技術など、パナソニックの開発担当者に聞いた。
■ 携帯電話らしさとテレビ視聴の利便性を追求
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P905i開発陣。左から佐藤氏、久保田氏、石原氏、福田氏、春元氏、友部氏
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今回、インタビューに応じてくれたのは、プロジェクトマネージャーの福田 正宏氏、商品企画担当の佐藤 恭子氏、機構設計担当の友部 真治氏、カメラ技術担当の石原 崇氏、映像技術担当の久保田 孝介氏、3Dグラフィックの春元 英明氏だ。
――Wオープンスタイルという特徴を持つP905iですが、開発コンセプトを教えてください。
佐藤氏
ハイエンドの90Xiシリーズの開発に対しては、先行的な要素を含めて、プロジェクトがスタートする前から技術開発などが進められています。たとえば映像や省電力化、3Dグラフィックなど、個別の機種ごとに開発するというよりも、技術開発を積み重ねてきて、その時々で最適化した技術を機種に搭載するというイメージです。
(例年、90Xiシリーズは秋冬に登場するため)プロジェクトも前年の秋口から話が始まり、冬場で固まるというパターンですね。昨年は、P903iなどがあまり高く評価されなかった辛い時期で、その中でどういうものを出していくか考えていました。
状況としては、auさんの端末でもワンセグが一般的になってきており、90Xiでも搭載しないと、という考えは当初からありました。最初から“VIERAケータイ”を名乗る予定だったわけではありませんが、Wオープンスタイルという形は、できれば実現したい形状として開発を進めていたものの、やはり初めての機構で未知数の部分が多く、目標のボディサイズに仕上げられるかわかりませんでした。そこでP905iの開発当初は、ディスプレイ部を回転させて折りたためる回転2軸ヒンジ機構も検討していました。その後、技術的に目処が立ってWオープンスタイルを採用することになったのです。
福田氏
P905iのヒンジ部は、実は回転2軸ヒンジとほぼ同じ仕組みと言えるものです。回転2軸ヒンジでは、ディスプレイ回転のヒンジが中央に位置しますが、P905iはそれが端のほうに寄った形です。ヒンジが中央からなくなったことで、結果的に510万画素のカメラモジュールをうまく内蔵できるようになり、底面をフラットにすることができました。
――縦横に開く機構は、国内ではソニー・エリクソン製のau端末「W44S」がありましたし、過去には海外の携帯電話で採用された事例があります。「W44S」はマルチメディア志向の機種でしたが、海外端末はノートパソコンを意識したスタイルでした。
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商品企画担当の佐藤氏
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佐藤氏
そういう意味では、Wオープンスタイルはテレビ視聴からの発想ですね。独自調査をしてもテーブルなどに置きながら見たいという声がありました。他社さんのワンセグ対応ケータイでも設置しやすい形状を追求されていますよね。実際に利用することを考えても、“ながら視聴”をするには、端末を置いたままのほうが使いやすい。本気でテレビ機能を考えた結果、置いて観るというところに注力しました。
――P901iTV、P903iTVとこれまでのパナソニック製ワンセグケータイは、P505iSのFlexスタイルを継承した形状で、Wオープンスタイルを採用したのは大きな決断に思えます。
佐藤氏
P903iTVなどの形状は、ディスプレイを横に回転させてL字型で視聴できますが、その場合はキー操作しやすいというメリットがあります。その一方で、ヒンジの小型化が難しく、大画面の採用が難しいといったこともありました。
福田氏
もう1つ、大きな点としては“登場感”を出したいと考えていたことが背景にあります。P903iなどをリリースした際には「代わり映えしない」と評価されていましたので、新鮮さをアピールしたかったんです。
――そういえばカスタムジャケットが採用されていませんね。
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一見すると折りたたみ型だが、横方向にも開閉できる
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プロジェクトマネージャーの福田氏
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佐藤氏
代わり映えしないという評価は、カスタムジャケットにも一因があったと思います。また(採用を検討していた)回転2軸タイプではカスタムジャケットを装着するのは無理でした。そこで今回、カスタムジャケットは一旦お休みすることにしました。
――なるほど。ところで、P905iを最初に見た時は、普通の折りたたみ型のようにも感じられました。たとえば店頭で、縦横開閉することが伝わるかどうか、不安はありませんか?
佐藤氏
機構設計担当の友部には、当初から「閉じたら(縦横開閉できることが)わからないくらいにしてください」とお願いしていました。重要視していたのは、普通の携帯電話らしさと、ワンプッシュオープンボタンでしたから。狙い通りになった一方で、確かに店頭ではわかりやすい展示の工夫が必要だろうと思います。
――テレビ視聴でWオープンスタイル、ということであれば、この端末こそ「P905iTV」という型番が似合うような気がします。
佐藤氏
スライド機構のP905iTVは、卓上スピーカーを大胆に採用したもので、置いた時にテレビらしい使い方ができるという機種です。「P905i」はあくまで携帯電話としての使い方を前提にしています。ですから、通常は折りたたみとして使っていただき、テレビを観るときには横に開く、というスタイルなのです。
――携帯らしさを強く意識した結果ということですか。
佐藤氏
もともと通話だけだった携帯電話にネット機能が搭載され、カメラが付いて、音楽も再生できるようになった。そういう歴史の流れを踏まえた結果と言えるのではないでしょうか。
■ 魔法のフック
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磁力で引き出す「魔法のフック」
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機構設計担当の友部氏
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――Wオープンスタイルを目にして「壊れないだろうか」と不安を抱く人は少なくないように思えます。
福田氏
そうでしょうね。早い段階から、「これは面白い、すごいね。でも壊れそう」という声が寄せられていました。このあたりの不安を払拭したいと考え、横開きしたときにはしっかりホールドする機構を採用することにしました。
友部氏
社内では、その保持機構を“魔法のフック”と呼んでいました。ヒンジと比べるとサブと言えるものですが、10種類以上のアイデアを出した上で、その中で一番具現化できそうなものということで、フック機構を開発しました。
福田氏
通常はひっこんでいて、横開きするときだけ磁石で引っ張り出して……という仕組みの“魔法のフック”ですが、最初の頃は出っ張ったままで引っ込まない形でした。「これじゃ顔に当たるじゃないか」という声もありましたね。その後、フックの形状もT字型やリングなどを検討しました。
佐藤氏
デザイナーからは異議が上がりました。このフック部分は塗装できないですし、余計なモノという扱いでした。
――最初に触れた時は、どういう機構かさっぱり見当がつきませんでした。
友部氏
よくできてますよね(笑)。固定するだけではなく、強度を持たせることが目的でしたので、その効果を出すという点でも難しい部分でしたね。
■ 90Xiだから5メガピクセル
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510万画素カメラを搭載
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カメラ技術担当の石原氏
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――テレビを意識した、ということであれば、その他の機能はほどほどでも良いのかなと思えるのですが、たとえばカメラは510万画素と国内最上級です。
石原氏
もちろん開発中は、大きさなどの要素から1ランク下のカメラモジュールを検討したこともありましたが、そこはやはり「90Xiは最強モデル」という意識でやっていましたから。
これまでの90Xiシリーズでのカメラ機能の反省を活かしており、たとえば信号処理のDSPは、P901iから進化させて、今回で5世代目です。レンズも最適化しており、液晶のVGA化もあわせて、撮影画像を美しく表示できます。
また、動画撮影時にはコンティニュアスAFが動作しており、常に対象物がくっきり撮影できるようになっています。これまではQVGA液晶でしたので、固定焦点でも問題ありませんでしたが、VGAサイズ、しかも30fpsであれば、ごまかせません。たとえば遠くから近くに対象が動いた場合などに対象物がぼやけてしまいますから、画質向上の一貫としてコンティニュアスAFを搭載しました。
――ワンセグ機能に家電ブランドが活用されるケースが増える中、携帯電話のカメラ機能についてもデジタルカメラのブランド名が付けられるようになってきました。パナソニックのデジタルカメラと言えば“LUMIX”があるわけですが。
石原氏
デジタルカメラ開発部門の知識やノウハウをもらいつつ開発しましたが、その一方で携帯電話のカメラ機能に求められるニーズは、一般的なデジタルカメラとは異なります。小型化はその一例です。いわば光学系をいじめる仕様ですが(笑)、過去の反省を踏まえながら、携帯電話ならではの進化を続けてきています。
小型化について言えば、やはりノイズとの戦いになるのですが、カメラ信号処理エンジンの進化によって、P905iではクリア感がぐっと向上しています。特にノイズリダクション機能は格段に進化していて、暗いところの撮影もさることながら、明るい場所でのすっきり感は過去モデルと比べて違うところだと思います。
液晶画面の表示時には、モバイルPEAKSプロセッサーが動作して、最適な表示になっています。動画再生時にもモバイルPEAKSプロセッサーの補正が効いているんですよ。端末内部での表示も美しく、写真としてプリントしても美しい画像になっています。
■ ワンセグだけではない「モバイルPEAKSプロセッサー」
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11月5日のパナソニック説明会でも、モバイルPEAKSプロセッサーの特徴が紹介されていた
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映像技術担当の久保田氏
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――以前、P903iTVのインタビューでは、モバイルPEAKSプロセッサーはワンセグ視聴時のみ動作するということでしたが、今回は液晶表示全てで補正されるということですか?
久保田氏
確かにP903iTVではワンセグに限っていましたが、P905iでは全体に広げたことになり、液晶画面に出力する映像は全てモバイルPEAKSプロセッサーが効いています。もちろん静止画などコンテンツごとに最適な補正になっています。
――たとえばモバイルPEAKSプロセッサーが動作しないと、どういうことになるのでしょう?
久保田氏
そうですね、ワンセグ映像はQVGAサイズですから、VGAサイズの液晶に出力する場合は拡大することになります。そのままではギザギザが目立ったり、映像がぼけてしまって、もやもやした映像になったりますが、補正することでしゃっきりさせます。
コントラストも、モバイルPEAKSプロセッサーがなければ奥行きがないというか、霞がかかったような映像になりますが、黒はより黒く、白はより白く表示させており、リアルタイムで映像を補正しています。
石原氏
カメラでもモバイルPEAKS、と先ほど述べましたが、撮影時のプレビュー表示などでも美しい画像で楽しめます。外部に出したときに綺麗な画像、というだけではなく、いつも綺麗という点は、他社にない強みになると思います。
久保田氏
白黒写真を表示させてみると、液晶表示の能力がわかります。物によっては、中間色が赤っぽくなったり、緑っぽくなったりしますが、P905iはきちんと白黒が表示されます。
■ 家庭用ゲーム機に迫るグラフィック
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リッジレーサーズモバイルをプリセット
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――Wオープンスタイルということで、横画面表示でのゲームも特徴の1つとされていますね。
春元氏
P905iの開発が始まる時点で、液晶画面がVGAクラスになるのは念頭にありました。QVGAと比べると、描画領域は4倍になりますので、それに耐えられるスペックを設計段階で検討していた。いわば、VGA時代にあわせた下準備をしっかりしていたのです。アーキテクチャー的な部分から、スペックを向上させることになり、特に横画面表示ということで家庭用ゲーム機レベルに向けて頑張っていこうと考えました。
携帯電話ということで、システムリソースは限られていますが、ボトルネックを排除することに取り組んでおり、ストレスなくゲームを楽しんでもらえると思います。
――単にバージョンアップしたソフト、パワフルなハードウェアに載せ替えるだけではないということですか?
春元氏
私自身の担当はポリゴンのエンジン部分ですが、そこだけ高速化してもダメです。Javaフレームもキーレスポンスも重要ですし、プリセットゲームの開発についてはコンテンツプロバイダとの密な協力関係も欠かせません。3D描画はOpenGL ESで、足回りから強化しなければいけませんので、そのあたりは「UniPhier」というチップセットが力を発揮しています。
2Dだけ、3Dだけではゲームになりません。個別要素としてのチューニングになりますが、全体としての底上げを図りました。
Javaアプリが携帯電話で動作するようになってから、PシリーズはJavaに関する部分で評価されていましたので、今回もその期待を裏切らないようにしたのです。
――ゲームについても最強クラスの携帯電話を目指したと……。
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3Dグラフィック担当の春元氏
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春元氏
ワンセグなどの映像技術と比べれば、正直言って「私たちも存在感を出さないと」と思うこともありますよ(笑)。単にグラフィックを強化するのであれば、より高性能なハードウェアを搭載すれば良いのですが、そこは携帯電話ですからボディサイズに限りがありますし、熱や消費電力も含め、制約がある中で開発していくというのは、一番しんどい部分でもありました。
佐藤氏
国内の携帯電話で、エンターテイメント性は当初ゲームが端緒となっていました。「最初にやってきたゲームは落とせないね」と考えていました。今回、プリセットゲームの1つに「リッジレーサーズモバイル」がありますが、いつまでも遊べるゲームとして、またAV OUTでテレビ出力して楽しんでもらえると思います。
マルチタスクのキー(MULTIキー)は当初中央に配置してあったのですが、レースゲームの操作をするとき間違って押してしまうとゲームが中断されてしまいます。それを避けるため、キー位置を中央から端に移動させたのです。
福田氏
「リッジレーサー」というゲームタイトルは、実は新たなゲームプラットフォームが登場すると、ベンチマーク的な存在としてリリースされてきたゲームでもあります。プリセットゲームとしては難易度が高いですし、「P905i」の高性能さを示したとも言えます。
■ 進化したポイントなど
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ワンセグ関連のメニュー。画面下部を見ると、ソフトキーが最大4つになることがわかる
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――このほかP905iで新たに備わった機能、特徴は?
佐藤氏
細かな点ですが、メニュー関連ではソフトキーが2つから4つに増えました。またフォントもVGAにあわせていますし、日本語入力・変換も進化しています。microSDHC対応も、コンテンツの大型化を踏まえて採用しました。
福田氏
Blutooth機能は、今回Ver.2.0+EDRに対応しています。ただこれはペアリングする機器もEDR対応でなければいけませんが、高速化が見込めます。905iシリーズ全てでGSM方式に対応していますが、世界各地を試験のために訪れましたね。
友部氏
サブ液晶ディスプレイや着信LED部をいかに隠すか、という点も注力したことの1つですね。
――ありがとうございました。
■ URL
製品情報(パナソニック)
http://panasonic.jp/mobile/docomo/p905i/
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