|
【キーパーソン・インタビュー】
|
|
アッカ湯崎氏が語るオープン・水平分業のビジネスモデル
|
|
|
|
アッカの湯崎氏
|
従来よりも高速な無線通信サービス(BWA)の実現に向け、ウィルコム、オープンワイヤレスネットワーク(OpenWin)、ワイヤレスブロードバンド企画、アッカ・ワイヤレスの4社が2.5GHz帯の免許に名乗りを上げている。
このうちアッカ・ワイヤレスは、NTTドコモが資本参加しているものの、固定網でサービス提供するアッカ・ネットワークスが事業運営を担当するため、4社の中では移動体通信への関わりが少ない事業者と言える。
アッカ・ネットワークス副社長で、アッカ・ワイヤレス取締役の湯崎 英彦氏は、アッカ・ネットワークス社内のWiMAX推進室長も務めており、アッカのWiMAX事業では中心的な存在だ。湯崎氏に、アッカが考えるサービスの姿を聞いた。
■ アッカがワイヤレスに手を挙げた背景
――根本的なところですが、そもそも固定網でサービス展開しているアッカがなぜ無線通信事業に取り組むことになったのでしょうか?
確かにアッカと言えば、DSLサービスの印象が強いでしょうが、会社としては「コミュニケーションサービスを提供する」という使命があります。ADSLも光も無線通信もその手段の1つ、本来やることの1つなのでしょう。
――そうなると、今回はBWA向けで2.5GHz帯が割り当てられるというタイミングに合ったことから、アッカは手を挙げたと?
そうですね。とはいえ、無線と固定では、技術的にもビジネスモデル的にも異なる部分が多くあります。免許割当の機会は、2年前に携帯向けで1.7GHz帯と2GHz帯が審査されましたが、そこで新規参入しなかったのは、たとえば携帯電話では技術的に先んじているプレイヤーが既に存在していることなども影響していました。
一方、今回のWiMAX、BWAというものは技術的にも携帯電話などと異なります。IPベースであることやデータ中心であること、MIMOなど先端的な技術を用いていることなどの特徴があり、さらに市場の拡大が見込めるということで、参入のチャンスと考えたのです。
――1/3ルール(2.5GHz帯の認定要件で、3Gキャリアの資本を制限した点)が発表されるまで、アッカ単独で無線事業を手掛けていく可能性もあるかと考えていましたが。
|
10月11日にアッカ・ワイヤレスの記者会見が開催された
|
いえ、認定要件が発表される前から、パートナーシップを組むことは選択肢の1つであり、全て単独でやりきるつもりはなかったのです。いや、選択肢の1つと言うよりもパートナーと協力すべきと考えていましたね。もっとも、結果としてドコモさんと協力することになったのは、さまざまな議論や交渉を進めて、アッカの方針に賛同してくれるパートナーを募った結果と言えます。
――ドコモと協力することになった理由は?
「パートナーが必要」と考えながら、3Gキャリアと組むかどうか、という点は議論と検討を重ねた部分です。1/3ルールが発表される前は、3Gキャリア側が資本の大勢を占めることを望んでいる可能性や、携帯電話というサービスとの兼ね合いについて懸念がありました。総務省から1/3ルールが発表されると、3Gキャリア側が中心となって事業を推進するという可能性はありましたが、話し合った結果、アッカが主導的な役割を担い、サービス展開していくことでドコモさんにも同意してもらえたのです。ドコモさんからは無線技術、基地局展開などに協力してもらえますから、これ以上ないパートナー、枠組みと考えています。
■ WiMAXという技術
――技術としてのWiMAXをどう考えていますか?
アッカはベンダーではなくオペレーターですから、WiMAXというツールを使わせてもらう立場です。その立場からすると、コストやサービス展開の問題などがあります。そして、世界標準であることが必要かつ有利と言えます。当社だけのための技術であれば高コストになってしまいますから。
もう1つ重要なのが、標準的な存在だからこそ、国内で使っているサービスを海外でも同じように使えることがあります。サービスの連続性はモバイルで重要な点です。
――もし2.5GHz帯でWiMAX2社と仮定した場合、同じ技術でありながら他社とどう差別化していくのでしょうか?
ビジネスモデルの考え方でしょうか。ユーザーの利便性を踏まえれば、技術自体は差別化するのではなく、むしろ2社間で合わせていくべきですよ。そうなると、エコシステムをどう作っていくのか、という点が大きな違いになっていくのでしょう。
■ アッカはプラットフォーム提供者に
――アッカでは、自社のデータ通信サービスを提供することになるのでしょうか?
一番最初の時点では、WiMAX対応のチップを内蔵したデータ通信カードを提供することはあるでしょう。ただ、アッカ独自のコンテンツサービスを垂直統合で提供する考えはありませんし、パソコンなどにWiMAX対応のチップセットが内蔵されていけば、アッカのデータ通信を拡充させていくことはないでしょう。その段階になれば、基本的にプラットフォームまで含めた基礎的な部分を提供することになると考えています。
――利用料は、事業計画からすると、1IDあたり月額3,000円程度と思えます。
これまでに、月額3,000円~5,000円と説明してきましたが、MVNOもやれば、その分マージンがとれますし、MVNO独自のマーケティングなどがあれば、そこのコストが必要なくなりますので、さらに安くできるかもしれませんね。
我々は接続会計や販売費用などをきちんと示すつもりです。はたして他社はそこまでできるのでしょうか。
――これまでの会見などでの説明を振り返ると、1つのIDで複数機器の通信が可能なサービス(one IDと呼ばれるコンセプト)が目玉に思えます。
|
アッカ・ワイヤレスの事業計画
|
確かに「one ID」はエンドユーザーの視点からすれば大きな特徴ですが、ビジネス全体で見た場合、オープンで水平分業ということの方が大きいかもしれません。オープンで水平分業とは、さまざまな企業に参加してもらい、多様性のあるエコシステムを作ることです。それは携帯電話のビジネスと大きく異なる部分です。
これまでは携帯電話で株価をみたり通販を利用したりしています。そこへオープンな水平分業モデルが入れば、エンドユーザーが利用できるサービスも大きく変わると考えています。
――さまざまな企業というのは、MVNOとして参画することになるのですね。しかし携帯電話ではMVNOが進んでいません。
携帯ではそうだったかもしれませんが、固定網では「回線卸売り(ホールセール)が難しい」という話などはありませんよ。携帯電話でMVNOが進まなかった理由は携帯電話の理屈であって、それに囚われる必要はない。WiMAXという新しいものがスタートするのであれば、それは新規参入事業者がやるべき、という点は我々の主張の1つです。
――アッカが描くサービス像はすぐに理解してもらえるでしょうか?
それは、まさに「エコシステム」でやることでしょう。1社が全てをやることはないのです。たとえば携帯ゲーム機にWiMAXのチップが入っていれば、自然とWiMAX経由での通信が利用されることになるでしょう。そのためには、ゲーム機メーカーの力が必要です。ゲームタイトルも通信網にあわせた形にすべきでしょう。そういった意味でも、エコシステムが重要なのです。
――既にアッカ・ワイヤレスへ参加を予定している各社を含め、期待できる分野は?
鉄道もありますし、テレビのようなコンテンツホルダー、ゲーム機器ですね。それから、デジタルサイネージ(電子ポスター)などでしょうか。とはいえ、最初の中心はパソコンユーザーでしょう。そこから先は、おそらく進み方によって天と地の差があるというか、ものすごく増加するかもしれませんし……やってみないとわからない部分はあるでしょう。ここまで広がった携帯電話も当初は疑問視する声がありました。携帯ゲーム機や音楽プレーヤーの利用スタイル、普及度を見ていると、WiMAX事業は、浸透する可能性がかなりあると思います。
――もし事業がスタートすれば、たとえばエンドユーザーが利用できる“キャリアショップ”がどうなるのか気になるところです。
直営店はある程度必要だと思います。特に、当初はデータカードで展開することになるでしょうから。その一方で、エコシステムを考えていくと「ショップは必要なのか?」とも考えています。つまり、WiMAXで通信する端末としてはノートパソコンやPDAが出てくるでしょうが、それをキャリアショップで販売するのでしょうか。アッカが販売するのは、あくまで接続部分、IDを販売するのですから、ネット経由のほうが便利ではないでしょうか。
――コンテンツやサービスの課金スキームも提供するのでしょうか? 課金とone IDは関連があるように思えますが。
ええ、提供します。いわゆるシングル・サインオン、IDの連携といったところも提供していくつもりですし、そのために必要な仕組みも用意します。ただ、MVNOによっては独自のシステムを導入したいと考えるでしょうから、そのための環境も整えます。基本的に自由にしたいですね。ただ、システムとしては大変ですよ。インターネット上でサービス提供していて、認証の仕組みや決済の手段などが整っていれば問題ないでしょうが、そのような仕組みを持っていない事業者がMVNOとなるのであれば、アッカが仕組みを提供することになるでしょう。
――回線部分だけではなく、MVNEとしての役割も果たすということですか。
いきなりMVNOとして独立していくのは難しいでしょうから、我々がお手伝いすると。まぁ、このあたりは一番大変な部分でしょうね。MVNOやりますと手を挙げたとしても、料金プランの設定や顧客管理の部分はアッカブランドで提供して最終的なサービスは各事業者が……ということでも良いのです。重要なのはパートナーシップということですね。
――WiMAXという技術が注目されがちですが、アッカの考え方では技術に依存しているわけではないという印象です。
いやいや、技術自体は重要であり、クリアすべき課題はあるでしょう。一方で、アンテナの位置をどうするとか、そういった点はサービスの在り方とは関わりがない。機器はデータの通り道でしかないのです。そのパイプを使って、何を実現するかが肝心でしょう。
――エコシステムへの参加者を増やすためには、最初の段階で「何ができるか」を想像しやすい製品の登場が必要に思えます。
そうですね。それは最初の鍵でしょう。今から取り組んで、何年か先のことになるでしょうが、やっていきたい部分です。最初はノートパソコン、その次のステージ……という流れですね。
――携帯機器向けのマルチメディア放送が検討されていますが、アッカ・ワイヤレスではどう考えているのでしょうか?
リアルタイムの放送は、ビジネスドメインからすると違うかなと思います。基本は双方向というところです。もっともMVNOとして放送対応の通信機器が提供される可能性はあるでしょうが。
■ 免許割当について
――免許割当についても、オープンで水平分業という事業計画が最後の決め手になるのでしょうか。
そりゃあ我々は、そのように審査して欲しいと期待していますよ。事業計画もあるでしょうが、根本的なところで言えば、「BWAを立ち上げてさまざまなサービスが提供され、国民生活を豊かにする」ことが目的ですよ。その観点でいえば、誰が一番推進できるのか、継続できるのか。そういう観点から見るべきだとは思います。
――2.5GHz帯を巡っては、11月22日の公開カンファレンスで、OpenWinの孫氏がウィルコムに対して2GHz帯の利用を提案したことなどから、その後、報道を通じた議論が続いています。
|
オープン・水平分業というプランは、他社より秀でている部分と自信を見せた
|
他社についてコメントすべき立場にはありませんし、そのつもりはありません。ただ、2.5GHz帯の世界的な利用方法を踏まえれば、WiMAXが2.5GHz帯を使うべきかなと思います。
――割り当てられる免許のうち、一方は30MHz幅で、もう一方は2015年まで20MHz幅となっていますが、どちらでも良いというスタンスでしょうか?
20MHz帯が割り当てられれば、対応することもできます。しかし、理想としては最初から30MHz幅でスタートしたいですね。
――他社よりも秀でている部分は、どこになるでしょうか?
我々はオープンなエコシステムを真剣に推進しようと考えていますし、実際パートナーと計画を進めています。また、BWAの目的である「高速無線通信を使った多様なサービスを展開しよう」という観点から見ても優れていると思います。また、新規参入というところでも、ドコモさんの力を借りますが、無線で新規参入と言えるのは我々だけでしょう。もう一度、免許の認定要件を読み直していただきたいですよ。
――ありがとうございました。
■ URL
アッカ・ネットワークス
http://www.acca.ne.jp/
■ 関連記事
・ アッカ・ドコモのWiMAX事業に放送や鉄道、韓国事業者が参画
・ ソフトバンク松本氏にウィルコムへの提案・KDDI批判の背景を聞く
・ ウィルコム近副社長に次世代PHSの展望を聞く
(関口 聖)
2007/12/07 19:25
|
ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.
|
|
|
|
|
|