|
【キーパーソン・インタビュー】
|
|
ウィルコム近副社長に次世代PHSの展望を聞く
|
|
|
|
ウィルコムの近氏
|
従来よりも高速な無線通信サービス(BWA)の導入に向け、既存携帯キャリアを除く、新規事業者に対して2.5GHz帯が割り当てられる。9月~10月の申請期間中には、ウィルコム、オープンワイヤレスネットワーク(OpenWin)、ワイヤレスブロードバンド企画、アッカ・ワイヤレスの4社が名乗りを上げ、11月22日に開催された公開カンファレンスのOpenWin陣営の孫 正義氏の発言が話題を呼んだ。
4社のうち3社は、通信方式としてWiMAXの採用を明らかにしているが、ウィルコムは次世代PHSを2.5GHz帯で実用化する考えだ。ウィルコム取締役 執行役員副社長の近 義起氏に次世代PHSの利点、2.5GHz帯を巡る議論などについて話を聞いた。
■ 公開カンファレンスを終えて
|
次世代PHSの事業計画
|
――22日の公開カンファレンスでは、喜久川社長から次世代PHSがあらためて紹介されましたが、ウィルコムとしては、十分アピールできたというところでしょうか?
BWAをやるには、あまり難しい話はなくて、次世代PHSが一番良いシステムであり、マイクロセルじゃないとできないよ、ということですね。ウィルコムは12年かけてインフラの準備を整えて来ましたから、それでやっていくという。
――ただ、マイクロセルでは、ネットワークを整備するのに時間がかなりかかるのではないか、と考えてしまいます。
俗に「ニッパチ(2:8)の法則」と言いますが、全ての基地局が同じトラフィックではありません。働く基地局と働いていない基地局を対比すると、そんな極端な比率になります。16万カ所の半分を次世代化すればトラフィックの8割~9割はカバーできるでしょうし、3割を交換した段階でトラフィックの6割程度をカバーできるでしょう。「速くなったな」と体感してもらえるのは、わりと早い時期なんですよね。
――2.5GHz帯の免許申請にあたり、ウィルコムの計画では2年間で人口カバー率5割強、となっていますが、これはウィルコムにとってハイペースではないと?
そうですね、たしかイー・モバイルさんは最近5割を超えたのではないでしょうか? エリア展開のスピードとしては、同じようにできるのではないかと思いますし、あまり心配していません。
一方、我々のネットワーク設備は償却が終わりつつあって、設備の交換時期なのです。ここで交換できれば効率的ですね。タイミングとしても、2.5GHz帯の割当時期と重なって、良い形になってきています。12年間かけて作ってきたインフラをさらに飛躍させるには、ちょうど良いですね。
――ウィルコムは、1.9GHz帯でPHSサービスを提供していますが、次世代PHSで2.5GHz帯を利用するのはなぜでしょうか?
どの周波数帯を使うか、という点は1年や2年で決定できるものではありません。総務省さんも前々から「○年からこの周波数帯が使えます」という計画を明らかにしています。かつて2GHz帯は、3Gの携帯電話用として計画され、割り当てられましたし、2.5GHz帯は世界的にBWA向けとなっていますから、次世代PHSに限らず、BWA向けシステムは2.5GHz帯向けに開発されているのです。
――時期が異なれば他の周波数帯がありえたのでしょうか?
いや、そういうものではなく、4年に一度の世界会議で「この周波数帯はこの用途で使いましょう」と決まるのですから、BWAは2.5GHz帯しかなかったということですよ。
――先の公開討論では、OpenWinの孫氏が「ウィルコムは2GHz帯に」と発言していました。
今回は2.5GHz帯の割当の話ですよ。確かに2GHz帯には辞めた人(アイピーモバイル)がいますが、今後どう扱われるか、まだわからない帯域です。
今回申請した4社は、「2.5GHz帯でBWA」という前提に賛成しているわけで、その前提を踏まえてなお他の周波数の話をするのはおかしい。前提に疑義があれば申請を辞めれば良いのですよ。
「役人的な手続き論」と言われるかもしれないが、2.5GHz帯の扱いは何年も前から話し合われており、その枠組みに沿ってやってきた。BWAの世界標準帯域でもあり、次世代PHSも標準技術の1つです。「2GHz帯にPHSを割り当てるかもしれない」という仮定の話をされても……。2.5GHz帯の話し合いをするつもりでカンファレンスに参加し、そういった提案を突然されても眼中にありません。あの場では、申請事業者の株主構成についても指摘されましたが、我々自身が審査されるのであって、株主が審査されるわけではないと思いますよ。せっかくの機会なのに、ちょっと論点がずれてしまったのは残念ですね。
■ 次世代PHSについて
|
マイクロセルが重要と説明した近氏
|
――ウィルコムの歴史を踏まえると、次世代PHSというシステムの採用は当然であり、他のBWAシステムの採用はありえなかった、ということになるのでしょうか?
確かにウィルコムがPHSをやってきて、それを外に出したいという気持ちはありますが、一方で我々はオペレーター(通信事業者)です。一番安くて良いものを運用するのがユーザーのためになり、オペレーターの努めですから、当然、他の技術も検証しています。
その上で、ウィルコムが今持っているインフラはBWAに最適だと確信しましたし、逆に「BWAを実現するにはマイクロセルでなくてはいけない」と言えます。ここまで培ってきたマイクロセルシステムをサポートできる通信技術は、次世代PHS以外にないという冷静な判断があったため、次世代PHSの開発に踏み切ったのです。
――16万局整えるまでは、次世代PHSに対して、ハンドオーバーなどの面でマイナスイメージを持たれる不安はありませんか?
そういう印象は言葉の問題ですよね。ただ、モビリティ、ハンドオーバーの性能といった部分の基本は、利用する周波数帯や、1キャリアあたりの周波数幅という2点にほぼ依存しています。そういう意味では、次世代PHSもWiMAXに違いはない。もちろん細かい違いはありますが、極端な差はない。たとえば3G方式の携帯電話を見ると、W-CDMAとCDMA2000は、細かなところで違いはありますが、ほぼ同じ性能と言えます。そういう意味で、同じ世代の技術であるWiMAXと次世代PHSに違いはあまりない。
カーレースのF1でたとえてみましょうか。レギュレーション(仕様)が同じであれば、同じような速度が出ます。でも時代によっては6輪車が登場したりターボエンジンが搭載されたりして毎年チャンピオンが変わる。でも、F1はF1であって、F2はF2なんです。WiMAXと次世代PHSの間に、軽自動車とF1カーのような違いはありません。
2.5GHz帯でOFDM……という中で規格を作っているのですから、どれも同じようなシステムで、どこかが他のシステムよりも倍の速度を出せるわけではない。ただ、その中で我々は一番良い、勝てる車を作ったと思っています。
――であれば、違いはどこになるのでしょうか?
やはりマイクロセルでしょう。システムを設計する立場から想像すると、既存の3G事業者ばかりのなかで、そこでマイクロセルの通信システムを開発することは考えられない。マクロセルベースで設計するでしょう。ただ、我々はBWAにマイクロセルが必要と考えていますし、それに適した仕様にしています。
他の通信システムをそのまま持ってきてもマイクロセルには適しません。だから、WiMAX陣営は全て「携帯電話の補完になる」「無線LANと補完しあう」という説明になっているのです。一方、ウィルコムはマイクロセルで綺麗なモバイルブロードバンドを作れる立場にある。
■ 高速無線通信こそマイクロセルは必須
――なるほど。ウィルコムではかねてより、マイクロセルだからこそ大容量のネットワークになると説明してきました。今は16万局という基地局数ですが、マイクロセルと名乗るには、どの程度の基地局数に到達すれば良いのでしょう?
それは、単純に基地局数が倍あれば倍の容量、という表現すべきでしょうか。スループットはユーザーが増えれば増えるほど低下しますが、ユーザー増加数にあわせて基地局数を増やしていければ速度は低下しません。基地局増加をいかに柔軟にできるか、というのは1つのポイントです。たとえば、PHSの基地局は1カ月半で1カ所設置できます。おそらく携帯電話であれば1年程度かかるのではないでしょうか。
マクロセルの場合、基地局間の周波数調整が難しいのですが、もし半径10kmをカバーする基地局を設置する場合、どのくらいの精度で基地局を置くのか、おおまかに見て、中心から半径1km以内に基地局が設置できれば良いでしょうか。もし、半径1kmをカバーする基地局を設置する場合、中心点にできるのは100m以内になる。半径100mならば10m以内の場所と……ここで実際に設置しようとして、ビルオーナーに「ダメ」と言われると、基地局の設置箇所は大きくズレることになる。隣のエリアとの干渉を考えると、マクロセルでは、半径数百m程度が限界でしょう。どうやってもマイクロセルにはなれません。
――PHSがTDD(時分割方式)だからマイクロセルを実現できたのでしょうか?
いやいや、WiMAXもTDDですから、それは違います。PHSには、自律分散という考え方があります。マクロセルでは、ハチの巣のように厳密にセルを設計しますが、PHSはどんどん基地局を設置して、端末は一番条件が良い基地局と接続します。
自律分散はダントツで効率が良いわけではありませんが、基地局を設置すれば設置するほど効率がアップする。最初からマイクロセル前提かどうか、というのは決定的な違いです。努力で解消できるものではない。
|
|
マイクロセルで重要な点は、「自律分散」という考え方だという
|
次世代PHSでの技術的な新要素はOFDMやMIMOなど
|
――次世代という名前では、従来のPHSとどう違うのか? と考えてしまいがちですが、マイクロセルという強みは、次世代化しても引き継がれているのですね。
かつて携帯電話は、2,000万~3,000万も加入すれば帯域がいっぱいになって、それ以上利用できなくなると言われていました。だから「今後はPHSのようなシステムを作らなければ国民全員は利用できない」と信じられていたのです。15年ほど前のことですよ。世界中で皆そう思っていて、欧米もそれぞれ独自のマイクロセルシステムを開発した。ところが、携帯電話の技術はその数倍のユーザーが利用できるほどまで進化した。当時、マイクロセルをデザインした人にとって、その後の歴史は思惑が外れることになりましたが、「周波数が足りなくなればマイクロセルにするしかない。そのためには自律分散にするしかない」というコンセプトは今も生きています。
ウィルコムは12年かけてマイクロセルネットワークを構築してきたのですが、「周波数が足りなくなる」という一度外れた予言は、12年後の現在、ワイヤレスのブロードバンドで、本当のことになった。予言は当たらなかったというよりも遅れたのですね(笑)。当社はネットワークも完成済ですし、スマートアンテナなど昔はできなかった新たな技術も導入しています。BWAをするため12年間かけて勉強してきたのかなとも思えますよ。次世代PHSで新たに追加しなければいけないのは、OFDMとMIMOくらいであり、技術的にはあまり大きなチャレンジをしていないと言えます。
■ 次世代PHSの現状は?
――次世代PHSの開発状況はいかがでしょうか?
規格としてファイナライズされました。ただ、機器は実験用のものだけですから、見て触れるものは、今春ころから変化はありませんが、MIMOなども実験し、きちんと仕様として固まりました。今は商用に向けた製品を開発しており、その仕込みの最中です。次に出てくるものは「いつでも市場に出せるレベル」のものでしょう。
――もっと段階を踏んで商用化を目指すのかと思っていましたが……。
過去10年の技術的な進化には目を見張る物があります。たとえば、複数の通信方式で、どちらを採用するか検討するとしましょう。かつてはA社のチップセットにするか、B社のチップセットにするかという選択肢は、通信システムを根本的に変更せざるを得ない違いでした。ところが、今はソフトウェア無線技術の発達で、1つのハードウェアで複数の方式をサポートできる。
もちろん周波数帯の違いは、根本的な違いと言えるものですが、通信方式の違いは楽に吸収できるようになったため、物作りという観点で心配はありません。どの通信方式が良いのか、その善し悪しが重要で、当社は次世代PHSが良いシステムだと確信しています。
――現在のライバルはWiMAXと言える状況ですが、数年後には携帯電話側は4Gを実用化し、さらに高速化を図る予定です。
周波数の利用効率には理論的な限界があります。ちょちょいと速度を倍増させる魔法はありませんから、周波数幅を拡大するか、S/N比の改善などをやっていくしかない。このあたりはPHSに限らず、皆同じでしょう。
時速1,000kmで走行できる自動車があっても、道が狭くて渋滞していれば意味がありませんよね。無線通信において、道路を広げるにはマイクロセルしかないのです。WiMAX陣営が携帯電話の補完、無線LANとの補完と言っているのはそういう側面もあるのです。
次世代PHSでは、消費電力などでチャレンジはありますが、通信速度などの面では心配していません。
――WiMAX陣営は、まずノートパソコン向けなどの市場で展開するという説明をしています。次世代PHSはどうなるでしょう?
|
22日の公開カンファレンスで披露された次世代PHSのプロダクトイメージ
|
確かにスタート地点はパソコン向けなどのモバイルサービスかもしれませんが、MVNOなどいろいろとやっています。新規市場も開拓することになるでしょう。いわば、オフィス内や家庭でできることが、外出先でもできるということです。
重要なアプリケーションとしては、プッシュ配信するものですね。端末をポケットに入れていて、メールが届けばすぐわかるというものですね。基本ですが、重要なところだと考えています。
――プッシュ配信と関連し、携帯電話向けマルチメディア放送サービスの導入が検討されていますが、ウィルコムでは放送のような技術はどう捉えているのでしょうか?
次世代PHSでは、放送モードの検討もしています。固定網で光ファイバーの普及にあわせて映像コンテンツが利用されてきたように、BWAも同じように大容量コンテンツのニーズが高まるでしょう。そのとき、オンデマンドかブロードキャストか。技術仕様としては両方備えておきますが……個人的にはマイクロセルがもっと大容量化していけば、ブロードキャスト風の仕組みが実現できるのではないかと考えています。
――マイクロセルはずいぶん万能で、魔法のように思えてきました。
魔法というか、大容量ネットワークのためには、マイクロセルしかないのです。ただ構築するのは非常に困難で難しい。「BWAをやるために、過去12年間を頑張ってきた」と思えるほどベストマッチです。
――まもなく2.5GHz帯をどこに割り当てるか決まることになりますが、自信のほどは?
自信や確信はないですよ。ただ、我々がやれば皆さんのためになるんだと固く信じているだけですね。
――ありがとうございました。
■ URL
ウィルコム 公開カンファレンス資料(PDF形式)
http://www.willcom-inc.com/ja/corporate/open/pdf/conference.pdf
■ 関連記事
・ ウィルコム喜久川氏、次世代PHSの事業計画を語る
・ OpenWin孫氏、「他社に負ける理由なし」
(関口 聖)
2007/11/30 18:29
|
ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.
|
|
|
|
|
|