「W44K」から続くスリムケータイのコンセプトをそのままに、ワンセグ機能が追加された京セラ製の「W53K」。マーケティング部デザイン課の播磨隆太氏、マーケティング部マーケティング課の宮坂俊至氏、端末第3技術部機構設計課の長谷川隆氏、平岡通明氏に開発の狙いを聞いた。
■ 利便性と遊び心の両立を狙う
――「W44K」のスリムケータイというコンセプトはそのままに、ワンセグ機能を搭載するには何かとデザイン面での苦労があったのではないでしょうか。
播磨氏
確かにスリムケータイという基本はもちろん引き継いでいますが、W44Kのデザインコンセプトからはまた進化しています。W53Kの新たなコンセプトは「ACCENTED SLIM」。単に薄いだけではなく、そこに上品さや華やかさをアクセントとして取り入れる、というのがテーマになっています。イメージしたのは腕時計やアクセサリのように、毎日使うものでありながら、毎日の生活に心地よい彩りを与えるファッション小物のような存在感、そんな携帯電話を目指してデザインしました。
――W44Kも高級感を打ち出すカラーリングでしたが、W53Kではさらに強調したということですか?
播磨氏
今回は「パッショネイトレッド」「ルミナスシルバー」「シャンパンピンク」の3色を採用しましたが、外側部分、中央を貫く帯にあえてちがう色味を持ってくることで、W44Kに比べてより華やかな印象を生み出しています。例えばシャンパンピンクは可愛らしい色というイメージがありますが、帯の部分とハーフミラーパネルを見てください。ほんの少しゴールドが入っていますよね? これがピンクという可愛い色に深みを持たせ、大人の女性も持てる携帯になっています。
――確かに、少し角度をつけて見ると、外側の液晶も1つ1つ色味がちがうんですね。大人の女性も持てるというお話が出ましたが、W53Kは全体的に女性向けカラーが中心という印象を個人的には受けました。実際のターゲット層はどのあたりなのか教えて下さい。
播磨氏
特に女性層を強く意識したということはなく、むしろ男女問わず幅広い年齢層をターゲットにしています。こちらが想定しているユーザー層を申し上げますと、パッショネイトレッドが30代男性、シャンパンピンクは大人の女性向け、シルバーは性別を問わず好まれる手堅いカラーという感じです。
宮坂氏
社内調査でも、パッショネイトレッドは30~40代男性の購入意欲が強かったということもあり、この3色で展開することになりました。キーのフォントもそれぞれデザインとカラーに合わせて変えてあります。
播磨氏
もう1点、注目していただきたいのが着信やメール受信時を教えてくれる、イルミネーションです。着信時などには一見ランダムなアルファベット8文字が浮かびあがり、その組み合わせで様々な情報を伝えてくれます。
――全部で何パターン用意されているんですか?
播磨氏
着信中、Eメール受信、Cメール受信、アラーム、充電中、お知らせ表示の6パターンですね。当初はごく一般的なメールアイコン、着信アイコンを表示させようと考えていたのですが、単にそのまま情報表示するのではなく、文字遊びのような仕掛けを盛り込むことで、利便性と同時に「大人の遊び心の演出」を試みています。
■ 薄さ14~16mmの“ベストスリムゾーン”へのこだわり
――スリム化にあたっては、どこが難しかったのでしょう?
播磨氏
スリムさ・上品さ・機能性の3つを同時に実現するために、技術のスタッフにそれはもう、かなり努力してもらいました。とはいえ、薄いだけで使いにくい携帯では意味がありません。最近の薄い携帯端末には薄さを維持するために、平らな「シートキー」を採用するメーカーが増えていますが、弊社は使い勝手を重視した上でベストな薄さを実現するというのが方針です。W53Kでは、薄さをキープしながら、凹凸のあるフレームレスキーを採用し、スリムだけれども操作性の高い端末を目指しております。テンキー部分などはうっすら反り上がった形をしており、親指を置いた時にちゃんとフィットするのが特徴です。
宮坂氏
シートキーをという声は社内からも出ましたが、使いやすさを優先すると、やはり従来同様にフレームレスキーがベストでしょう。薄さだけを追求するとニッチなユーザーには受けますが、文字入力がしにくい、安定感が損なわれるといった意見も出てきます。今回も薄さの違う試作機を数パターン用意して、実際手に取った時、どれが一番なじむかという社内テストを行ないました。その結果、薄さ14~16mmというのが“ベストスリムゾーン”と判断しました。
――ワンセグ搭載ということで2軸ヒンジを採用されていますが、企画の段階でこれ以外の案もあったのでしょうか。最近はスライド型を始め、だいぶバリエーションが増えてきています。御社には過去に“リボルバー”という特徴的な端末もありましたよね。
播磨氏
今回については最初から2軸ヒンジで決まっていました。というのも、W53Kはギミックにこだわるタイプのユーザーではなく、ベーシックで幅広いユーザの方に受け入れられる携帯を目指していたからです。
平岡氏
我々も「W44Kにワンセグが付きました」という単純な考えからスタートしましたので、実は最初の頃は、一般的な折りたたみ型でいいじゃないかと提案していたんです。2軸ヒンジにすると物理的にどうしてもヒンジ部分が膨らみ、見た目にもスマートさに欠けてしまいますから。ところがマーケティングチームから「ユーザーの使い勝手を考えるならば、ターンクローズでワンセグを利用できるべき」という意見が出て、我々の案は却下されてしまいました。
宮坂氏
そこは譲れないポイントでしたから(笑)。
■ 辞書機能強化で使いやすさ向上
――では次に、機能面について伺います。今回W44Kから大きく進化した、あるいはかなりチャレンジした機能というと?
宮坂氏
今回はバッテリーの消費を抑える「長持ちモード」、そして辞書機能が強化されています。
まず長持ちモードですが、従来からある機能ではありますが、W53Kではデバイスに「光センサー連携」を採用したことで、周囲の光に応じて液晶とキー照明両方の輝度を自動的に調整できるようになりました。今までの長持ちモードと違うのは、キー照明のON/OFF設定も可能になった点です。これまで長持ちモードを使用していると、確かにバッテリーの消費は抑えられますが、暗い場所でキー照明も全てOFFに設定されてしまいました。これでは使いづらいというご指摘をいただき、今回から従来の「一括モード」に加えて、「光センサーモード」を搭載し、より周囲の状況に合わせて賢く輝度のアップダウンを行なうようになっています。
文字入力周りについては、まず、予測語彙数がW44Kと比較して飛躍的に増えました。具体的な数字を言いますと、約1,500語から30,000語ですね。さらに文字選択を行なう際に直感的に操作できるよう、インターフェイスも改善されています。
――使いやすさ、操作しやすさという基本的な部分も改良され続けているわけですね。
宮坂氏
はい、ユーザビリティの向上という弊社の基本スタンスは、もちろんワンセグ関連にも活かされています。それがワンセグ一発起動という機能になりました。W53Kのメインターゲットはワンセグを初めて使うようなユーザーですので、設定が分からない、見たいけれど使い方が難しいといったことがないように、液晶を回転させて閉じる、つまりターンクローズするだけですぐにワンセグが起動します。敷居を低くすることで、ワンセグをいつでも気軽に楽しんでいただけるというわけです。
ただ、ターンクローズするたびに必ずワンセグが起動するのは逆に使いづらい、というユーザーさんがいることはもちろん考慮して、こちらもON/OFFが任意に設定できます。逆にワンセグを頻繁に利用するユーザーのためには、予約録画機能などを搭載していますので、ワンセグ初心者から上級者まで幅広く対応できるはずです。
――機能面で1つ気になるのが「FeliCa」に非対応という点です。
宮坂氏
W53Kの場合、幅広いユーザー層をターゲットにまずはワンセグに親しんでもらい、ワンセグを使う楽しさを知って欲しいというのが目的です。FeliCa対応については社内でも議論しました。FeliCaについては、市場でのトレンドを形成しつつあると思いますが、まだ、全ての方にとっての必須機能となってはいないこと、また、カードなどの代替手段があることを考慮して、ケータイ電話でこその機能として、あえて今回は、ワンセグに絞りFeliCaは非対応としました。
■ 幅49mmに納める
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左から宮坂氏、播磨氏、長谷川氏、平岡氏
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――機構についてもぜひお聞きしたいのですが、やはり強度を保つのは難しいのではないでしょうか?
平岡氏
はい、その通りです。強度というか品質を維持しながら薄いデザインを実現するのは非常に難しいです。さきほどシートキーの話も出ましたが、使用するパーツを薄くしてしまえば、薄型デザインを保つのは全く難しいことではないんですよ。しかし使いやすさを損なわず、他の部分を工夫してスリムな端末を作り上げるためには、かなり苦悩しました。あくまで一例ですが、薄型にすることで部品1つ1つの隙間をつめる必要が出てくると、従来は部品同士があたらないだけのスペースを確保できていたのに、それができない。といった問題が次から次に出てきます。
――W53Kは構造的にはW44Kをベースにしているということですが、外側に強化ガラスを使用している部分も変わってないのでしょうか?
平岡氏
剛性を維持するために、今回も強化ガラスは採用しました。薄さだけに着目されがちですが、実は幅も細くなっているんです。幅50mmを切った、正確には49mmですが、これも機構的にはかなり厳しいものがありました。搭載する機能が増えているということは、すなわち部品も増えているわけで、ワンセグのアンテナのように面積を取る部品をどう収納するか、本当にせめぎあいでしたね。
平岡氏
ちょっとデザインを変えられてしまうだけで、中に入るパーツの収納に影響するので、デザイナーとはかなり頻繁にやりとりがありましたね。幅については電池とアンテナぐらいのスペースを取るだけで本当にギリギリですから。とはいえ品質を落とすわけにはいかないので、特殊樹脂を使う等、様々な要素を複合させて、剛性を維持しました。正直、しんどかったです。
――その他に、特に機構で苦労された部分がありましたら、教えてください。
長谷川氏
ヒンジ部分ですね。見た目は全く普通の2軸ヒンジですが、LCD側をかなり薄くしていますので強度を確保するのは難しかったです。弊社で2軸ヒンジ採用の端末はこれが2モデル目ということもあり、他社製品も参考のためにいくつか触っていますが、できるだけ硬いしっかりしたものを目指しました。実はヒンジに関しては一から設計したオリジナルのものなので、かなりコンパクトかつ独特な形状になっています。
背面のふくらみについても、デザイナーから突起部分を少しでも目立ちにくくするよう、細かな指示を受けました。
――最後に一言、読者へのアピールをお願いします。
宮坂氏
W53Kは男女問わず、大人が持っても恥ずかしくない高級感あるカラーリングやスリムなデザインにワンセグ機能を搭載し、直感的に操作できるインターフェイスを採用しています。厳しい制限の中で割り切る部分は割り切って機能を削ぎ落とし、一方で軽いキータッチや予測変換がしやすさ、辞書機能の容量アップなど、使いやすさにはとことんこだわった携帯端末です。飽きずに長く使える端末として、多くのユーザーに使っていただきたいですね。
――ありがとうございました。
■ URL
製品情報(京セラ)
http://www.kyocera.co.jp/prdct/telecom/consumer/w53k/
W53Kスペシャルサイト
http://w53k.jp/
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(編集部, 麻生 ちはや)
2007/11/19 16:16
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