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発表会から若干変更されたロゴマーク
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NTTドコモは、11日より発売する902iシリーズにおいて、新サービス「プッシュトーク」の提供を開始する。
専用ボタンを押して発言権を得てから、交互に相手と会話していくという機能だが、従来の音声通話と異なり、多人数参加が可能なこと、定額プランが用意されていることが特長だ。
米国で生まれた「PTT(Push-to-Talk、プッシュトゥトーク)」を、日本でも受け入れられるようにアレンジされたという同サービスは、どのような考えに基づき提供されることになったのか。NTTドコモのプロダクト&サービス本部マルチメディアサービス部の山脇 晋治氏に話を聞いた。
■ 個人向けサービスとしてシンプルに徹する
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NTTドコモ プロダクト&サービス本部マルチメディアサービス部の山脇 晋治氏(右)と、同席した飯高 剛士氏
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――米国で誕生したPTTですが、どういう経緯で導入を検討してきたのでしょうか?
山脇氏
これまで主なコミュニケーションツールとしては音声通話とメールの2種類が中心となっています。音声通話は、世代を問わず幅広く使われていますが、メールは若年層が中心と我々では捉えていました。新しいサービスを考えていく中で、「特に音声系サービスで若年層に受け入れられるものを」という思いがありました。
米国のPTTに興味を持ち、調査を開始したのは2003年12月頃でした。米国でのサービスは、法人向け中心の定額という点が特長というものでしたが、単純に米国でのサービス内容をそのまま日本に持ってきても、法人向けが中心となれば対応機種が限られてくるでしょうし、市場そのものも限定的になる可能性があります。しかし、当社が新サービスとして提供する際に、作り方次第でコンシューマー層でも利用されるのではないかと考えたのです。
30代以上のユーザー層には「トランシーバー風に使う」という捉え方になるかもしれませんが、10代~20代前半のいわゆる学生層では、トランシーバーそのものを知らない人、使ったことがない人が多いのです。それならば、「プッシュトーク」は新鮮さをアピールできるのではないかと考えました。
実際に、マーケティング調査で、デモ機をモニターに使っていただいた際には、若年層の方では使い方がわからない反面、「新鮮で面白い」という反応でしたが、30代以上の方では、あらためて説明しなくても「どうぞ」と会話を終えて専用ボタンを離す、というところまで操作していただけましたね。
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10月19日の発表会では、ドコモから個人向けの利用シーンが紹介された
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左からF902i、D902i、P902i、N902i、SH902i。このうち、F/D/Pは左側面に、N/SHは右側面に専用ボタンがある。今回は披露されなかったが、SO902iは左側面に専用ボタンが設けられる
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――確かに発表会では、個人向けをアピールする内容でした。
山脇氏
もし米国での事例を参考にして法人向けを中心に据えれば、市場規模などはイメージしやすいものの、プレゼンス機能を実現するためにサーバー側に登録する作業などが必要となります。
それは個人ユーザーにとって非常に高い壁です。個人向けだけを意識して提供すると、法人ユーザーには物足りない部分もあるでしょうから、法人向けについては「プッシュトークプラス」もリリースしました。当社としては、「法人向けもあるから一般層も」という形ではなく、「まず個人向けで提供する」という前提で入ったのです。
個人向けとするには、よりシンプルな形の内容、使い勝手にすべきと考えました。料金面で従量制を用意したのは、収益を図るというよりも「対応機種を持つとすぐに使える」という環境、あるいは気軽に試用できる環境を実現するためです。これは非常に大きなポイントと言えるでしょう。
ちなみに「カケ・ホーダイ」という名称は、もともとパケット通信の定額プラン「パケ・ホーダイ」があったこと、そして「プッシュトーク」が電話に近い音声サービスであることから名付けました。また、「プッシュトーク」が1種類の料金体系だけであれば、「カケ・ホーダイ」というサービス名称はなかったかもしれません。しかし、気軽に体験してもらうためには従量制を用意する必要があり、定額プランはアピールするためにも独立したネーミングが必要と考えました。
ユーザーインターフェイスについては、専用ボタンを設けて欲しいとメーカーには要望しました。一回押すとプッシュトークの機能が立ち上がり、専用の電話帳が開くという形ですね。「プッシュトーク」は、単に新しさだけを提供するのではなく、実用的でなければ広がらないでしょう。通常の音声通話と比べると、やや手間がかかる「プッシュトーク」をいかに実用的にしていくか、ということを考えると、ボタンを押して相手を呼び出せる、あるいは電話帳から選べば発信できるというシンプルな操作にするところが大変重要なのです。
新しいボタンを設けたことは、お客様に「プッシュトーク」というサービスを認知してもらえるきっかけになるのではないでしょうか。ボタンの位置は機種によって異なりますが、これはユーザーによって利き手が異なるなど、使い勝手の範疇ですので、メーカーごとの個性です。
もっとも、対応機種を持つ人が身の回りにいなければならないサービスですから、902iシリーズの登場と同時に、あちこちで利用されるとは考えていません。ユーザーの買い替えサイクルなども考えると、「プッシュトーク」が日常的に使っていただける環境になるためには、1年~2年かかるのではないでしょうか。“楽しく、面白く、実用的に、リーズナブルに”長い間使ってもらえるという、音声通話・メールの次になる新コミュニケーションツールとして使って欲しいですね。
■ 仕組みは標準的なもの
――プッシュトークの仕組みについてお伺いします。利用時には、SIPサーバーを経由して相手を呼び出し、自分と相手にIPアドレスが割り当てられてやり取りするという形になるのでしょうか?
山脇氏
その通りです。ネットワーク面では、PTTとしては標準的なものですね。ドコモ独自の仕様をあえて挙げるならば、端末側のインターフェイスでしょうか。ネットワークとしては、iモード網ではなく、FOMAのパケット通信網を使っています。
相手を呼び出す際には、SMSを活用しています。SMSの料金も1通5.25円ですが、課金システムは異なっており、「プッシュトーク」の1プッシュ5.25円という設定とは関連ありません。
■ プッシュトークのアドバンテージ、将来像について
――PTTの仕組みを使ったサービスとして、auからは「Hello Messenger」というサービスが登場します。「プッシュトーク」のアドバンテージはどこにあると考えているのでしょうか?
山脇氏
発表内容を拝見して、auさんのサービスをいろいろと勉強させていただいています。「プッシュトーク」導入を検討する際、「Hello Messenger」と同じように、テキストや静止画をやり取りするアイデアは当然ありました。しかし、「何でもできる」という形は、面白そうな印象を与えるかもしれませんが、複雑な操作が必要となります。我々としては、本当にプッシュトークを日常生活で使って欲しいと考え、まずはベーシックな形で提供し、お客様に慣れ親しんでいただきたいのです。
auさんの「Hello Messenger」では、我々が外した部分がカバーされていて、サービスのコンセプトは「プッシュトーク」と大きく異なると認識しています。その存在は当然意識していますし、今後の対応策は考えていかねばならないでしょう。
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プッシュトークで会話する際は、画面を見て誰が話しているか確認できる。端末を顔に密着させなくても、会話には支障ないようだ
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――シンプルさに徹した分、「プッシュトーク」のほうが利便性が高いということですね。一方、「プッシュトークは音声だけ」というイメージで捉えられるのは怖い点でもあると思うのですが?
山脇氏
直接比較できるのは、音声をやり取りする部分だけですね。そこだけであれば、auさんのサービスは定額制ではありませんし、専用ボタンではなく通常の発話ボタンを使うと発表されていますね。最終的にはお客様の評価次第ですが、我々としては自信をもって「プッシュトーク」を提供できます。
ベーシックな形でのスタートですが、それで終わるつもりはまったくありません。サービス内容だけではなく、料金的な部分を含めて、検討すべき課題は多くあります。具体的な話はまだできませんが、我々も準備を着々と進めています。
将来的に発展していくとした場合、それを提供する際に最も重要なのはタイミングでしょう。まずはベーシックなサービスを慣れ親しんでもらい、どこで普及したのか見極めるのが一番重要でしょう。
――今後について気になるのは、国内外の他キャリアとの相互接続や、今後のFOMAにおいて標準機能になるのかどうか、という点です。
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「まずはベーシックな形で慣れ親しんで欲しい」と語った山脇氏
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山脇氏
相互接続という面では、現在のところ予定はありません。一方、他社から要望をいただく可能性や、うまく普及した場合にお客様から要望をいただく可能性がありますので、相互接続の可能性そのものはあると言えるでしょう。
技術的に(相互接続は)可能と思われますが、たとえばauさんとの接続となれば、サービス内容や料金プランなど大きく異なる部分がありますし、実現に向けては難しい課題が多く存在するのではないでしょうか。まだスタートしていないサービスですし、まずはドコモユーザーに対して普及させていきたいですね。
また、今後のFOMAについては、90Xiシリーズでは標準搭載していくつもりです。我々としては対応機種が多いほうが良いのですが、他のシリーズについては、現時点で何も決まっていません。70Xiシリーズなどは独自のコンセプトに基づいていることがありますが、そういったコンセプトと合致すれば搭載することもありえるでしょう。
我々の願う通りに、日常的に使われるサービスになるのであれば、他シリーズでも搭載される可能性はありますが、実際にどうなるか、どのタイミングになるかは、その都度判断されることになるでしょう。
――将来的な機能追加という面では、コンテンツプロバイダ参入の余地、ボイスメールのような機能やBluetooth機能との連携については、どのような考えでしょうか?
山脇氏
今回は、シンプルでベーシックな内容ですので、まずはドコモ提供のサービスとなります。もちろんアイデアとしてはいろいろありますので、将来的にコンテンツプロバイダさんも何らかの形で関わることはありえます。
ボイスメール機能をもし搭載すれば、ユーザーインターフェイス面でも工夫を凝らす必要があり、かえって複雑化してしまう要因になることが懸念されたので、今回のサービス開始時では見送りました。
Bluetooth機能は、902iシリーズでは1機種のみですし、現時点では「プッシュトーク」とは連携できませんが、技術的に連携することは可能でしょうし、将来的に連携することもありえるかもしれません。
グループで活用できるコミュニケーションツールとして、携帯電話で本格的なものは「プッシュトーク」が初めてと考えています。今から提供していく機能だけでも我々の想定を超えた利用スタイルが生まれるのではないか、という期待もあります。利用シーンにあわせて、新しい文化が広がってくれれば非常に嬉しいことです。Bluetoothに限らず、そういった動向に合わせた機能を提供していくこともあるでしょう。
普及に向けては、さまざまな形でプロモーションが必要と考えていますので、902iシリーズを発売しただけで留まることはありません。街中での体験イベントなどを通じてぜひ一度触れていただきたいですね。半二重という仕組みがお客様に理解いただければ、「カケ・ホーダイは安い」と捉えていただけるのではないでしょうか。
――ありがとうございました。
■ URL
プッシュトーク サービス概要
http://www.nttdocomo.co.jp/service/pushtalk/
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(関口 聖)
2005/11/09 15:31
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