auより発売されたCDMA 1X端末「A1403K」、ツーカーより発売された「ツーカーS」は、いずれも“使いやすさ”をポイントに開発された京セラ製の端末だ。「A1403K」は誰もが使いやすい端末を目指したモデル。分かりやすいメニューに加え、特徴的な丸いボディは、持ちやすさ・使いやすさといった優しさをテーマにデザインされている。
一方の「ツーカーS」は、説明が必要な機能は搭載しないというシンプルさを追求した端末。主に高齢者の使用に配慮されたデザインが施され、高齢者向け市場という新たな携帯電話市場の拡大を担う。
両端末の開発に携わった京セラ 移動体通信機器統括事業部 マーケティング部 商品企画部 商品企画課 国内企画係 責任者の矢島 孝之氏にお話を伺った。
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「A1403K」 Blue×Green
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ツーカーS
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■ お年寄りから子供まで、誰にでも使いやすい端末を目指した「A1403K」
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京セラ 矢島 孝之氏
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――まず、「A1403K」のコンセプトなどを教えていただけますか?
WINは若年層など着うたフルのようなサービスに興味を持たれる層がメインになっていると思いますが、1Xはどちらかというと料金や端末の価格も含めて幅広いユーザーが買われるということをまず念頭に置いています。auが打ち出したフレンドリーデザインという考え方に我々も共感しまして、京セラとしてもユニバーサルデザインを推し進めていきたい、という点を軸に「A1403K」の企画を進めました。
デザインが印象的だと思いますが、岩崎一郎さんにコンセプトや市場背景をお伝えしてデザインしてもらっています。このデザインを実現するための要素技術として内蔵アンテナを採用し、京セラの技術でこの中に搭載しています。また、機能的には「誰にでも使いやすく」というユニバーサルデザインのコンセプトに基づき、音声による読み上げ機能を搭載している点が特徴です。
――開発するにあたって、デザインが先にあったのでしょうか、それもと使い勝手が先だったのでしょうか?
はじめは、お年寄りからお子様まで、誰にでも使ってもらえる商品、というところからです。1Xというカテゴリーは幅広い層のユーザーがいますので、どういった物であれば受け入れられるのか、というところからスタートしています。
――音声読み上げ機能や分かりやすいメニュー構造などは、ドコモでいえば「らくらくホン」のような機能ですが、あまり「らくらくホン」のような売り方はしていませんね。
お年寄り向け、と分けるのではなく、誰にでも使いやすくというのがauのフレンドリーデザインの考え方だと思っていますので。
――たしかに若いユーザーが持っていてもおかしくないデザインです。
岩崎さんからこのデザインを提示していただいたのですが、幅広く受け入れられるためにはもう少し保守的で、ケータイ然としている方がいいのではないかという意見はありました。ただ、市場において携帯電話に対するデザイン性が今まで以上に求められてくるようになってきていたので、少し進んだデザインを市場に提案していくのもアリではないか考え、このデザインを採用しました。結果的に、このデザインが特徴となって幅広いユーザーに受け入れられていると思います。
――実際、どういう年齢層が買われているのでしょうか?
幅広く分布していますが、通常の端末と比べると若い層と高齢の層が多めになっています。
――ボディカラーは今、どの色が人気なのでしょう?
女性のユーザーが丸いデザインに惹かれて買われるということもあって、ホワイト、ブルー、ブラックの順番です。
――おもしろいサブ液晶を搭載していますが、これは岩崎さんからのリクエストでしょうか?
そうです。もともと提出していただいたデザインスケッチに色の付いた液晶が描かれていまして、こういうことをやりたい、という提案でした。岩崎さんの考えとして、今の携帯電話のサブディスプレイ、あの矩形がデザインを支配してしまうので、違った形のものにしたい、ということと、バックライトが点いていない真っ暗な状態では電源が入っているにも関わらず死んだように見えるので、そこはデザインの一部という観点から常に色を主張させたい、ということでした。
この液晶を具現化するために色々検討した結果、モノクロ液晶を使用するということになり、社内のデザイナーと渋谷の時計店や百貨店を回りました。今回のイメージに近い表示を行なう時計を偶然見つけることができ、それを参考に検討を行ないました。また、液晶パネルは通常矩形ですが、丸いボディに収めるために角を削ったりといった工夫もしています。
――ほかにこの形状のボディで苦労された点はありますか?
アンテナですね。通常は板状のアンテナをどこに搭載するかという問題ですが、「A1403K」では面に沿って湾曲させながらアンテナを実装しています。
あとは、どうしても厚みが出てしまうということで、どういう面を構成すれば薄く見えるのか、という点に苦労しました。岩崎さんと機構技術設計の担当が、ボディ形状をコンマ何ミリの世界で煮詰めて仕上げています。
今回のコンセプトがユーザーに受け入れていただけるか当初不安もありましたが、現在では順調に受け入れられています。昔から言われていることですが、デザインのいい物が売れるということを再認識しました。今後もデザインへのこだわりを大切にしていきたいと思います。
■ 巣鴨で調査、コードレスホンのようなイメージを打ち出した「ツーカーS」
――次に「ツーカーS」についてお伺いします。この端末の発想は京セラからでしょうか? それともツーカーからのオーダーでしょうか?
ツーカーからです。企画自体は以前からあったようですが、なかなか表に出てきませんでした。実際に開発を進めることになって、本当にこのようなコンセプトの端末が受け入れられるのか? ということで、巣鴨へ市場調査に行きました。そこで得られた結果を元に、こういった端末が受け入れられる素地があると判断しました。そこからは企画も比較的うまく進行しました。
すべてのお年寄りが、家で黒電話を使っているかといえばそうではなく、現在は普通に売られているコードレスホンなどを使っていると思います。ではなぜコードレスホンは使われていて、携帯電話を使われないのかといえば、難しそうとか、怖いイメージを携帯電話に対して持っていることが調査で分かりました。便利な物ですし、高齢者同士の横のつながりもありますから、悪いイメージを払拭し、公衆電話だったり、家のコードレスホンのような端末のイメージをうまく打ち出せれば、使ってもらえるのではないのかと思いました。
――開発期間はどのくらいだったのでしょうか?
通常1年ぐらいですが、これはおおよそ10カ月程度です。液晶や機能をどうするかといった仕様面での線引きという点において時間が掛かりました。
――サイズ的にはもっと小さくできると思うのですが、やはり持ちやすさなどを意識したものでしょうか?
市場調査で、高齢者の方々にいろんな形のモックアップを実際に触ってもらいました。やはり電話ということでイメージされているのは家庭用電話機の子機で、そのサイズやボタンの押しやすさ、見やすさを参考に検討しました。
――電源ボタンの形状も調査の結果でしょうか?
携帯電話を持っている高齢者の方に対しても調査を行なったのですが、マナーモードをどう使っているか? と尋ねると、使っていなかったり、マナーモード自体を知らなくて、携帯電話を使わないときは電源を切るという方がほとんどでした。そういった声を参考にして、マナーモードは搭載せず、使いやすいスライド形状の電源スイッチを搭載しました。
このように、さまざまな点でユーザーの声を参考にした割り切った仕様が今の需要と合致したのかなと思います。
――アンテナを内蔵型にしなかったのは何故でしょうか?
高齢者の方はアンテナが出ていた方が安心するというように、携帯っぽさ、通信機器らしさをアンテナで感じとっているようでしたので、あえて外に出しています。
――端末のコストは安いのでしょうか?
ディスプレイが無い分、通常の端末と比較すると確かにコストは安くできます。高機能の端末が全盛の中で、「機能がない」という割り切ったコンセプトに対し、多くの方々が共感していただき、結果的に高機能な端末と同等の対価を払ってくれるというのはおもしろいですね。
――スピーカーホンのような機能も便利だと思うのですが。
今回のモデルは説明が必要な機能は搭載しないというのが企画の出発点で、機能をできるだけ削いで削いで、できたのがこの形です。今後はもう少し発展した形の物もあっていいと思っていますので、アイデアのひとつとして、スピーカーホンのような機能もあってもいいと思います。
――やはり買われている層はお年寄り、ということでいいんでしょうか?
はい。60代以上です。
――高齢者向けの端末というのは、ツーカーにしかできない領域でしょうか?
飽和気味の携帯電話市場において、高齢者向けの市場は今後非常に重要になってくると思います。そういう意味で他の通信事業者も検討されるのではないでしょうか。
どうしても高機能な端末に目を奪われがちですが、市場を眺めるとまだまだこういう端末を求めている人がかなり存在するのだなと、反省材料になりました。
――ツーカーSが売れたとなると、後継機も考えなければいけないのでは?
買っていただいたユーザーの方などに対してツーカーさんと共同で再調査を行なっています。この端末を買われた方が次にどういう機能を必要とするのかという点は、考えていかなければならないと思います。
この端末を使っていただいた方の中には、次の端末にステップアップしたいという方も出てくると思いますので、そこをうまくつないでいくことは大切なことだと考えています。
60代、70代以上の方々は、社会に対して疎遠になっている方もいると思うのですが、携帯電話に対する知識が何もない方に、携帯で生活がこんなに便利になった、と思ってもらえるきっかけになればいいなと思います。
一方で、あるお年寄りのコミュニティの中で、機器に疎い方がこの端末を買われ、コミュニティの中で自慢したら「あの人にも使える携帯なら私にも使える」となって結局まわりの方がみんな買った、という話もあるようです。
――今後の課題みたいなものはありますか?
発売後の最初の市場の反応として、ディスプレイやマナーモードといったさまざまな要望が多く寄せられています。今後そのような要望をどうするのかが課題だと思います。この端末ではいろいろな方の貴重な声が聞けていますので、今後の参考にしていきたいと思います。
――本日はどうもありがとうございました。
■ URL
京セラ
http://www.kyocera.co.jp/
京セラ 携帯電話案内ページ
http://www.kyocera.co.jp/prdct/telecom/consumer/
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(太田 亮三)
2004/12/16 15:11
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