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シャープ、松本常務インタビュー
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「技術の融合」「他人に真似される製品作り」で国内シェアを動かす
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国内で初めてカメラ付き携帯電話を市場に投入したシャープは、その後の携帯電話の流れに大きな影響を及ぼしたメーカーだ。国内の携帯電話市場に停滞した雰囲気が漂う状況でも好調ぶりを見せている同社だが、本格的に市場が3Gへ移行する中で今後の事業展開が注目されるところだ。今回、シャープ 通信システム事業本部長 常務取締役の松本雅史氏にお話を伺う機会を得たので、シャープの事業戦略などについて聞いた。
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シャープ 通信システム事業本部長 常務取締役の松本雅史氏
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-携帯電話市場の現状と、今後の見通しをどう見ていますか?
国内に関しては、3Gに大きく加速するだろうと考えています。各キャリアさんも3Gへの舵取りを行なっており、そういう意味では先行している日本メーカーが優位に立てるチャンスが出てきたのではないでしょうか。
-3Gへの移行、USIMカードの採用、携帯電話の新規加入者数の増加も今後爆発的には見込めない状況で、現在さまざまな意味で転換期だと思います。その中でシャープはどこへ注力していきますか?
キャリアさん主導のインフラやネットワークがベースにあった上で、キャリアと連動しながら新しいサービスを展開していきたいですね。その中で、他社との差別化をどうつけていくかに注力していかなければなりません。デザイン的な差別化であるとか、デバイス面での差別化、コンテンツなどのソフト側の差別化をうまく連動していかないとダメだと思います。
ただ、その根底にあって、一番大事なのはARPU(1加入者あたりの月間平均収入)をいかに上げるかにあると思います。通信事業者の収入源になるARPUをいかに提供できるかがキーになるかと思います。我々の知恵の出しどころですね。ARPUは下がり続けており、定額制になってしまえばさらに下がるでしょう。アクセスするとサービスコンテンツに手数料がかかるので、課金のしっかりした携帯電話では今後はそちらが主になってくるんじゃないでしょうか。端末メーカーとしては、キャリアをサポートできる企画や目に見えるハード面での差別化を提案していかなければならないでしょう。
■ 事業部制によって技術の融合が強みに
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技術の融合がシャープの強みに
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-シャープには液晶やカメラという評判のいいデバイスがあって、手数料なりARPUを上げる場合に、今後どういうデバイスやサービスを提供したいですか?
現在、SVG-Tや「ドキュメントビューア」の様に、ExcelやWordなどパソコンで作ったデータをSDカードやサーバーを経由して携帯電話で閲覧でき、しかも拡大・縮小表示が可能です。例えばプレゼンの資料を忘れた場合に、携帯電話からアクセスしてデータを取りに行き、携帯電話上でPCと同じ様に表示できる、とても便利な世界が更に広がってゆくでしょう。これは液晶の高い表示能力があってはじめて可能となる技術で、この分野ではシャープは一歩リードしていると思います。
-SVG-Tでデータを見るといった用途はビジネスシーンが多い印象を受けますが、一番パイの大きいコンシューマー向けには何かこれだというものはありますか? シャープは液晶テレビAQUOSなどAV系に強いという印象もありますが。
地上デジタル放送の1セグメント放送で、携帯電話も当然、放送と通信の融合が図られます。シャープのAVシステム事業本部は栃木にあり、そこの技術との融合が重要になるでしょう。携帯電話向けの地上デジタル放送が登場した場合に、AVシステム事業本部の技術を小型化し、自社内で融合技術を提供できる強みが我々にはあります。
分社化していないため、技術の融合や人の融合を行ないやすく力を1つに集中しやすい体制なので、放送と通信の融合だけでなく、ザウルスやパソコンといった各機器の辞書機能やPIM機能などと融合するなど我々の力を発揮できるでしょう。他社さんもいることですし安心はできませんが。
AVと携帯の会社自体が分かれていたなら、それぞれの目的が違うため、本当の意味での連携はなかなか難しいのではないでしょうか。我々は1つのLSIを開発するにしても、例えば携帯電話向けのLSIを開発し、その技術に手を加えて今度はそれをAVでも使えるようにできます。デバイスも含めて他社よりも先行できるのではないかと考えています。
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SVG-T技術で拡大表示でもフォントがきれいに見える
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Exelのグラフを表示
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-携帯電話で撮影したものをAQUOSで見られるなど、なかなか他社が手を出しにくいAV系に積極的に挑戦している印象ですが、そこは意識されていますか?
そうですね。携帯電話の場合は画面の制約がありますが、誰もが持っている携帯電話で撮影したものをAQUOSでみんなで見られる。デジカメやビデオカメラはいつでも持っているものではないので、いつも持っている携帯電話で撮影し大画面で見られるAQUOSとの連動は意識的にやっています。
-デバイスの開発に関して、従来のカメラと液晶のほかに注目しているところはありますか?
液晶とカメラはどんどん進化しており、それは今後も継続していかなければならないと思いますが、もう1つはICでしょうか。ICによってRF周りの小型化も可能となるため、広い意味でIC事業との連携も考えています。それと、暗いと充電できませんが、将来的にはソーラー部門もどうですかね?(笑)
-確かにテレビなどの機能を搭載することで充電の持続時間も問題になってきます。2005年終わり頃には地上デジタルも開始されますが、そのころまでに画期的なバッテリーが登場するとも考えにくく、バッテリー問題について何かお考えになられていることはありますか?
当面はやはりリチウム電池の高効率化を図っていくのが最初でしょうね。燃料電池もありますが、そこはまだ研究開発段階で、他社と連携してやっていくにしてもやはり根本は省電力化でしょう。ICの開発、ソフト制御など根本の部分の低消費電力化を進めていくことが我々のターゲットになっています。
-今後4Gに向けて、無線LANと携帯の融合という話もあるかと思いますが、そこでも省電力化が必要になってきますね。
3G、Beyond 3Gと進化していく中で、最終的には無線LANがいいのかBluetoothがいいのか判断する必要があります。どこでも誰とでもつながるデュアルの組み合わせを考えていかなければならいでしょう。その中で低消費電力化を図り、サイズを小さくすることは課題ですね。
-Bluetoothでは、過去にFOMA SH2101Vで独自プロファイルによる音声通話をサポートされましたが、最近またBluetoothが少しずつ盛り上がってきているようです。我々としてはAV機能でBluetoothが活躍するのかなと思っているんですが。
SH2101Vでは子機間でBluetoothの通信が可能でした。あの時点では先進的だったのかなと思います。国内では赤外線通信が拡大しており、欧州ではBluetoothが普及しています。車社会の海外では、携帯電話をBluetoothと連携させて通話するのが一般的で、我々も海外向けの端末についてはBluetooth対応モデルを提供しています。国内でも道路交通法が改正されるとそうした動きが出てくるのではないでしょうか。
■ 海外市場への展開
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「国内でも3Gに積極的に移行した場合にもチャンスがある」と松本氏
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-欧州やアジアではヘッドセットを使った通話が浸透していますが、一方国内ではまだそうした動きは小さいように思えます。この点ついてはどう感じていますか?
そうですね。確かに日本だとヘッドフォンマイクで話していたらなんだか奇妙な感じがすると思います。ただ、こうした文化の違いも法制化されることによって少し変わってくるのかなと考えています。
-海外ではボーダフォンとともに端末を提供されていますが、今後他のキャリアさんと提供したり、メーカーブランドで投入するといった動きはありますか?
香港やマレーシア、台湾などで別のオペレーターに提供しており、先日ロシアでも提供すると発表しました。ロシアではメーカーブランドで提供することが決まっています。日本の場合だったら、我々が供給する価格に対してキャリアさんがインセンティブを出していますが、欧州ではインセンティブを出す国とそうでない国があります。国によってユーザーに対する負担を変えているケースがあるため、それらに合わせながら商品を供給していきたいです。
-海外では北米・中国などの市場もありますが、力配分についてはどうお考えですか?
今、大半を欧州市場向けに提供しています。今後、GSMでカバーされているエリアがGSMと3Gの双方をカバーするようになるでしょうから、欧州に注力することは変わりませんが、中国だけでなくアジアなどでも積極的に展開していくつもりです。最終的には欧州と北米・アジアで半々ぐらいまでにしたいですね。
また、今後の成長市場という意味では、ブラジル、ロシア、インド、中国などの普及率が低いエリアにも注目しています。GSMのカバーエリアは全世界に広がっており、我々がGSMで展開し始めたのは正解だったかもしれないですね。
-他メーカーでは、NECが今後国内よりもむしろ中国市場にフォーカスして展開すると発表していますが、シャープの中で海外市場はどういう位置づけになりますか?
我々は、国内で今後3Gに積極的に移行した場合にもチャンスがあると思います。国内を主に展開してもまだまだ伸ばせるんじゃないでしょうか。我々は中国で携帯電話を販売する権利を現状持っていないため、他の企業と提携して販売してく形になるでしょう。販売権を得るまでは欧州やアジアの他の国に提供していくようになると思います。
-どのメーカーさんも北米市場にあまり注目していないように感じますが、北米市場は期待できないとお考えですか?
確かにアメリカの通信市場は少し遅れていると感じています。特に携帯電話は、日本や欧州の方が進んでいるでしょう。その割にアメリカ市場は価格のハードルが厳しく、端末の特長を価格に反映しにくい面もあり、値頃感が低いためハイスペックな端末を投入しにくい状況です。とはいえ次の大きなマーケットであることは確かですね。
以前、ベライゾン向けにBREW端末「Z800」を提供したことがありますが、話題にはなったものの、やはり値頃感のハードルが越えられませんでした。
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海外でも利用可能なW-CDMA端末「V801SH」
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メガピクセルカメラ、QVGA液晶を搭載したGSM/GPRS端末「GX30」
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■ シャープ製au端末の可能性、PHSの今後
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発売されたばかりの「V602SH」で説明する松本氏
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-国内では、NTTドコモとボーダフォンに端末を提供されていますが、最近勢いのあるもう1社、auへ端末を提供する可能性はありますか?
現時点では考えてないですね。本当であれば全部をやれることが望ましいんでしょうが、開発資産を集中するのは重要な視点だと考えます。
-国内向けには、ドコモ向けにPHS端末も提供されていますが、今後PHSはどうでしょう?
ドコモさん自身も新たな開発を行なわないと言っており、発表済みの端末については受注をいただいているので供給していきます。新たな開発はないでしょうね。
-市場でシャープが評価されているのはディスプレイやカメラ機能によるところが大きいと思いますが、ユーザーの視点で見てみると、実はそこではなく、細かい部分での使い勝手や、まとめ方のうまさにあると思います。社内からそうした柔らかい発想が生まれる要因は何だと考えていますか?
職場環境がかなり明るいということがあげられると思います。ある程度、個人の裁量を認めながら良い点を活かしていくし、大きな所帯でもないので職場内での情報交流も盛んです。大きな所帯であれば、それぞれの開発・企画部隊の統一性を保つことも難しいでしょう。開発拠点のある広島の環境自体が柔軟な発想を生みやすい状態にあると思います。私も抑えないし、毎日部屋に集まってわいわいがやがややっています。酒どころなので、“飲みニケーション”も多いですよ(笑)。
-国内の端末では依然としてN、Pが強い状況にありますが、カメラ付き携帯電話の投入以降、シャープが急成長し、今後、1番手2番手に食い込んでいくための鍵は何になるでしょう?
1つは3Gでいかに成功するかだと思います。3Gの成功によって、今後のシェアを動かすことになるかと思います。NもPも強いですが、勢力図を変えられるように頑張っていきたいですね。
これはシャープの社風でもありますが、「他人に真似される商品作れ」というものがあります。排他的になるのではなく、新たな市場を創造して他社に真似されることでその市場を大きくしていくというものです。それが良いのか悪いのかはわかりませんが、今後もそういう気持ちでやっていきたいと思います。
-本日はお忙しい中、ありがとうございました。
■ URL
シャープ
http://www.sharp.co.jp/
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(編集部)
2004/07/13 21:24
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