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エアーナビ「AVIC-T10」
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ケータイの無線通信技術は、“電話”以外の分野でも幅広く活用されている。自販機などの通信モジュールや、PCを接続するためのデータカードなどがその一例だ。契約数が1億件を突破し、飽和しかかっているように見えるケータイ市場だが、“非携帯電話”の分野は、まだまだ開拓の余地があるのだ。
こうした通信の“応用分野”として、高い注目を集めているのが、PNDだ。PNDとは「Personal Navigation Device」の略で、持ち運び可能な簡易ナビゲーションシステムのことを指す。この分野で、通信とナビの融合を目指した画期的な商品が発売され、高い評価を得ている。それが、「モバイルプロジェクト・アワード2008」のモバイルハードウェア部門で、優秀賞を受賞した「エアーナビ」だ。
同製品を開発したパイオニア、モーバイルエンタテインメントビジネスグールプ、事業企画部、ナビゲーション企画部、テレマティクスプロジェクト推進グループ、リーダー、宮澤辰之氏に、商品化までの経緯や、特徴、今後の展開などを聞いた。
■ 通信連携によってCGM的な情報を取り込む
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パイオニア モバイルエンタテインメントビジネスグールプ 事業企画部、ナビゲーション企画部 テレマティクスプロジェクト推進グループ リーダー 宮澤辰之氏
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「エアーナビ」は、簡単に取り付け/取り外しができる、“お手軽さ”が特徴。同じパイオニアが発売する「CYBER NAVI」や「楽ナビ」と比べてもコンパクトで、価格も手ごろだ。「シガーライターソケットに挿すだけで、取り付け工事もいらないものを目指した」(宮澤氏)というように、パーキングブレーキとの接続も必要もない。とは言え、機能は高く、高感度GPSのほかに、ジャイロセンサーや加速度センサーを内蔵し、ナビの精度は高い。AV機能も充実しており、ワンセグや、WMA/MP3/AACファイルなどの再生にも対応している。ディスプレイは5.8インチのワイドVGAで、他のPNDと比べ、地図や文字の視認性もよい。
だが、このようなデバイス面の売りは、あくまで「エアーナビ」の優位性の一部。他のPNDとの最大の違いは、“通信”や“コンテンツ”にある。「エアーナビ」はオプションの通信サービスに契約し、ネットワークにつながることで、「渋滞情報や駐車場情報などのリアルタイム性を持たせることができた」(宮澤氏)という。また、同製品専用の「ナビポータル」に接続することが可能となり、コンセプトの1つである。「家とナビの連動」(宮澤氏)が実現されている。「ナビポータル」はPCやケータイからも接続でき、事前に設定したルートを共有したり、おすすめの情報をチェックしたりできる。
「暗いガレージでナビを起動して、入力するのは面倒なこと。従来だと、どこを、何時間走るということを調べるだけのために、わざわざ暗いガレージでナビを起動しなければならなかった。PCで事前に調べた情報も、当日、もう一度ナビに入力する必要があった」(宮澤氏)
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オプションで提供される通信モジュール
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通信を手に入れたことで、「新しいお店の情報や、CGM的な口コミ情報を取り入れたかった」(宮澤氏)というコンセプトも実現した。「ナビポータル」はYahoo!JAPANがコンテンツを提供しており、周辺のおすすめ情報やイベント情報などを、確認することができる。
「出かける要因として考えられるのが、テレビや雑誌のスポット紹介だが、それだと情報が新しすぎて、ナビがデータを持っていないことが多い。また、三浦半島に行ってマグロ料理を食べたくても、単にお店の情報の羅列だと、どこがおいしいのか分からない。Yahoo!グルメなどのサイトでは、評価ランクは当たり前。ナビにも“CGM”の要素を持たせたかった」(宮澤氏)
「エアーナビ」の通信機能にソフトバンクの回線を使っているのも、コンテンツを重視した結果だ。「Yahoo!JAPANに入ってもらえるのが大きかった。一緒にプラットフォームまで作れるのは、ソフトバンクだけ」(宮澤氏)という話からも、ナビポータルの重要性が分かるはずだ。「接続率などは非公開」(宮澤氏)としながらも、通信機能の評価も上々で、テレビ番組で紹介されたスポット情報と連動した「番スポ」や「周辺おすすめ情報」が特に人気だという。
■ 通信部分をオプションにして“現実”と歩調を合わせる
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ガソリンスタンドの検索結果。CGMにより、ガソリンの値段が分かる
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では、なぜそこまで重要な通信機能が、“オプション扱い”なのか。パイオニアは2002年にも、「AVIC-T1」という型番の「エアーナビ」を発売している。この機種は、通信モジュール内蔵で「すべてをサーバー側に持たせていた」(宮澤氏)というように、ある意味、現在発売中の「AVIC-T10」よりもチャレンジングな仕様だ。宮澤氏も「思想自体は間違っていなかった」と認める。しかし、2002年はようやく3Gが始まったばかりで、HSDPAやCDMA 1xEV-DO Rev.Aなどは、影も形もなかった。AVIC-T1には「通信はCDMA2000 1Xを使っていた」(宮澤氏)というが、速度は現行の方式と比べ、はるかに遅い。
「地図や店舗名などがすべて最新でになるが、通信費用や速度、カバーエリア、ハードの金額といった問題があって、『AVIC-T1』はあまり成功しなかった」(宮澤氏)
そこで、開発に当たっては「ユーザーの利用シーンを徹底的に見直した」(宮澤氏)という。通信機能を切り離し、単体でもナビとしては十分な機能を持たせた。地図も「方向的にはSDカードで更新する形になる」(宮澤氏)で、通信は比較的容量の小さなコンテンツのやり取りに特化している。HSDPAで、最大3.6Mbpsの通信が可能になったとはいえ、移動時にはスループットが落ちるし、エリアも完璧ではない。料金も一般的なケータイよりは割安だが、毎月1029円~2079円かかってしまう。モジュールを内蔵にしなかったのは、通信の現状と上手く折り合いを付けるため、といえるだろう。
■ 次世代の高速無線をにらんだ今後の展開
もちろん、今後の通信環境次第では、「AVIC-T1」のコンセプトが復活する可能性もある。宮澤氏は「当初は(HSDPAなどと)ハイブリッドになるだろうが、将来的にはWiMAXに対応した製品も出していきたい」と、2008年からUQコミュニケーションズがサービスを開始するモバイルWiMAXを検討していることを明かす。
現状では、「エアーナビ」専用サイトのように思えるナビポータルに関しても、「他社と乗り入れていかないと、プラットフォームとしての価値が高まらない」(宮澤氏)と、カーナビ用サイトのスタンダードを目指している。今は通信費用から持ち出しの形でコンテンツを運営しているが、「ゆくゆくは広告収入を得ていくことや、動画配信などの有料コンテンツもやっていきたい」(宮澤氏)という。PNDは成長性の高い分野で、パイオニアとしても、積極的に取り組んでいきたいそうだ。
「カーナビ自体がまだ4割しか導入されていない。だからといって、全員が『CYBER NAVI』や『楽ナビ』を望むわけではない。ポータブルなどがどんどんPNDに置き換わっていくので、『エアーナビ』の販売はまだまだ伸びると思う」(宮澤氏)
2008年にはUQコミュニケーションズとウィルコムが、それぞれモバイルWiMAXやウィルコムコアをスタートする。また、NTTドコモも2010~11年ごろに、LTEの商用化を目指す。こうした通信環境が普及したとき、「エアーナビ」がどのような進化を遂げるのか、今から楽しみだ。
■ URL
エアーナビ
http://pioneer.jp/carrozzeria/airnavi/
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(石野純也)
2008/10/29 12:56
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