イー・モバイルに続きドコモやソフトバンクモバイルへの導入が発表された「Touch Diamond」や、ウィルコムの「WILLCOM 03」のように、Windows Mobileを搭載しながら、あえて独自のUI(ユーザーインターフェイス)を加え、差別化を図るスマートフォンが増えてきた。海外市場で発売間近なソニー・エリクソンの「XPERIA X1」も、その典型例だ。「PCに近い操作性」を売りにしていたWindows Mobileだが、やはりフルキーボードと大画面モニターが大前提のPCと、コンパクトで入力デバイスが限られるケータイでは、求められるUI異なっていたのだろう。
こうした“差異”を埋めるために作られたソフトの1つが、ソフトバンクモバイルが提供する「XRoof」だ。同製品が「モバイルプロジェクト・アワード2008」のモバイルソリューション部門を受賞したことを契機に、開発経緯などを聞いた。
■ 「ケータイの使い勝手」と「Windows Mobileの自由度」を融合
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上段左から、BBソフトサービス モバイル事業部 長井孝氏、コネクトテクノロジーズ 営業本部 植木正道氏、BBソフトサービス モバイル事業部 ディレクタ 新木啓悟氏、ソフトバンクモバイル プロダクト・サービス本部 移動機開発統括部 開発2部 課長代理 柴田暁穂氏、コネクトテクノロジーズ 特命プロジェクト室 担当マネージャ 村上修一氏
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XRoofとは、ソフトバンクのX01T、X01HT向けのソフトで、UIをより“ケータイらしく”するものだ。ソフトの開発は、次のようなコンセプトで行われた。ソフトバンクモバイル、プロダクト・サービス本部、移動機開発統括部、開発2部、課長代理の柴田暁穂氏は、同ソフトの特徴を「『Windows Mobileに初めて触る人は、今までのケータイ的なUIを引き継げたほうがいいのでは』ということから検討がスタートした。一方で、すでにWindows Mobileを使っているユーザーの邪魔をしてはいけない。XRoofでは、双方の良いところを取り込めたと思う」と語る。
一番の売りは、タスクの管理だ。Windows Mobileでは、アプリがバックグラウンドで起動したままになるが、この点がケータイユーザーはもちろん、PCのWindowsユーザーにも分かりづらい。XRoofを開発したコネクトテクノロジーズ、営業本部の植木正道氏は「Windows Mobileだと、タスクを終了させるには5階層下の項目を呼び出さなければならない」と、タスク管理の複雑さを指摘する。そこで、同ソフトでは、「×」を押すとアプリが終了するという仕様を採用した。
「アプリを終わらせないと、気づいたらメモリがいっぱいになってしまう。ケータイのユーザーは、わざわざメモリまで意識しない。そこで、『×』を押すだけでアプリを終了できる機能を追加した。XRoofなら、アプリの切り替えも簡単」(コネクトテクノロジーズ、特命プロジェクト室、担当マネージャー、村上修一氏)
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「×」ボタンでアプリを終了できるようになる
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また、ケータイらしさを追求する上で「ネットワーク機能を自動で切る機能を入れた」(村上氏)という。メールやWeb接続後に、自動で通信の切れるケータイとは異なり、Windows Mobileでは「今ネットワークアクセスしているかすら分かりづらい」からだ。安定性も重要視した点の1つ。「キャリアが出す以上安定性は欠かせない」(柴田氏)ため、プリインストールソフトとの相性は、すべて検証したという。
X01TやX01HTにXRoofがプリインストールされていないのは、「ユーザー全員が望んでいるわけではない」(柴田氏)という理由がある。一方で「アプリの追加が初めての人もいるのを意識した」(BBソフトサービス、モバイル事業部、ディレクタ、新木啓悟氏)と考え、インストーラーもあえてPC経由と直接端末からダウンロードするものの2つを用意した。
こうした取り組みはユーザーに好評で、「かなりの数がダウンロードされた」(新木氏)という。植木氏も「ネットのメディアに取り上げてもらえたのはもちろん、ファンサイトでもほぼ良い評価だったのがうれしかった」と、当時を振り返る。
■ カスタマイズの主導権をあえてユーザーに残す
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タスクの移動や管理も容易
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XRoofの開発に当たっては、ケータイらしさを目指しながらも、Windows Mobileの自由度を残すことにも気を配った。インターネット上では、同ソフトの見た目を変更するスキンが多数公開されているが、これは開発当初からの狙いどおりだったという。
「フォルダの画像を入れ替えるだけでスキンを変更できるのは、カスタマイズしやすくするため。アナウンスはあえて行わなかったが、目論見どおりネット上でオリジナルのスキンが公開されていた」(村上氏)
カスタマイズに関しては「どんどんやっていただきたい」と話す柴田氏。キャリアが提供するソフトだが、「我々のものも、オプションの1つでしかない」(柴田氏)という考えだ。
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スキンの設定画面
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ユーザー主導のカスタマイズができるようあえて簡単に設計されたスキン
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■ Windows MobileのUIはどうなる?
X01HT、X01T用に開発されたXRoofだが、その後のスマートフォンには対応していない。なぜ、(バージョンは違うが)同じWindows Mobileを搭載したX02HTやX03HTでは、XRoofが使えないのだろう。この疑問に対し、柴田氏は「XRoofがタッチ操作前提のUIであることと、X02HTやX03HTには独自のタスク管理アプリがあるため導入を見送った」と答えた。
メーカー側で一貫したコンセプトのUIを提供している端末に対して、無理にカスタマイズツールを用意する必要はないということだ。今後も、製品の特徴に応じて、柔軟にソフト提供の方針は変えていく。「ユーザーの声があったり、素のWindows Mobile端末が出るようなことがあったりなど状況によるが、Touch Diamondのような端末にはこのアプローチは合致しない」(柴田氏)からだ。もちろん、ソフトの開発自体を止めるわけではなく、スマートフォンに対しては「何らかのソフトは提供していきたい」(柴田氏)という。
HTCの「Touch Diamond」や「Touch Pro」のように、同じスマートフォンが複数キャリアから発売されるということは、いずれは珍しくなくなるだろう。XRoofのような決め細やかなサービスは、キャリアがスマートフォンを販売していく上での重要な差別化ポイントになるのかもしれない。
■ URL
XRoof
http://mb.softbank.jp/mb/software/X/xroof/
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(石野純也)
2008/10/09 11:58
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