少子高齢化の影響などで、アルバイトの求人難が叫ばれている。単に労働力が足りないというのはもちろん、求人誌に広告を掲載し、面接を経て採用という、時間や費用の無駄も、中小企業を悩ませる一因だ。こうした問題を、ケータイの位置情報で解決するサービスが、話題を集めている。それが「おてつだいネットワークス」だ。同サービスは、ビジネスモデルの革新性が評価され、「モバイルプロジェクト・アワード2008」をモバイルソリューション部門で受賞している。サービスの狙いやビジネスモデル、今後の展開を、運営元のロケーションバリューに聞いた。
■ 位置情報で不可能だったマッチングを可能にする
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おてつだいネットワークス
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「おてつだいネットワークス」とは、ケータイの位置情報を利用した、人材マッチングサービスだ。仕組みはシンプルで、仕事を募集したい側が求人を出し、あらかじめ登録したワーカー(働き手)がそれに応募するという流れとなる。ここでポイントになるのが位置情報。ワーカーが「今ヒマ」ボタンを押すと、現在地がサイトへ通知される。ワーカーには周辺の仕事情報がメールで届くので、あとはそこから働きたい仕事を選ぶだけだ。
依頼者(雇用者)とワーカーを結びつける“場”という意味では、従来からある紙やPCサイトの求人媒体と同じだが、ケータイの位置情報を利用したことで、“リアルタイム性”や“場所”までもが、価値を持つようになった。では、なぜこのようなサービスを始めたのか。
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ロケーションバリュー 代表取締役CEO 砂川大氏
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ロケーションバリュー、代表取締役社長CEO、砂川大氏は「大学時代に労働経済学を専攻し、モノと同じように労働力にも資産性があると学んだ。では、なぜ労働力だけがモノのようにバラ売りできないのか。1つは、労働力が時間の経過と共に資産性を失ってしまうため。もう1つが勤務地の問題で、働きたい場所と現在地があまりにも離れていると効率が悪い。位置情報がついているケータイなら、経済的な範囲を限定でき、ビジネスモデルが成り立つ」と話す。
ケータイの即時性を活かせば、「ちょっと人が足りない」という時でも、すぐに人を集めることが可能となる。逆にワーカー側からすれば、空いた細切れの時間を“換金”できるというわけだ。まさに、「おてつだいネットワークス」は、位置情報が備わったケータイならではの「新しい求人媒体」といえるだろう。アルバイトニーズの高い飲食業やサービス業に加え、これまでいい方法がなくて人材確保が難しかった、当日限りの封入れやデータ入力などの事務作業を依頼する一般企業も増えているという。
■ 「中抜きOK」や「相互評価」などで他媒体と一線を画す
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位置情報を利用し人材のマッチングを行う
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「おてつだいネットワークス」は、依頼者とワーカーがお互いを評価でき、それがプロフィールに反映される。これによって2つの効果が生まれる。1つが質の向上、もう1つがモチベーションの向上だ。依頼者側にもワーカーによる評価が蓄積されるため、良い評価が貯まると時給を下げても人が集まるようになり、逆に依頼条件と異なる仕事をさせるようなことが繰り返されると、悪い評価が蓄積して次第に人が遠ざかっていく。結果、時給などの条件を上げざるをえなくなる。一方、ワーカー側も、良い評価を集めると採用される確率が上がり、無断欠勤をしたりすれば評価が下がり、採用されにくくなってしまう。
砂川氏によれば、「市場原理にさらされるのは依頼者もワーカーも同じ。評価は客観的な指標なので重視されている。評価が悪くなったのを気にして、電話をしてくるユーザーもいるほど」だという。
「依頼内容はすべて目視し、怪しげなものは事前に電話で確認を取っている」(砂川氏)というが、相互評価があれば、そのような仕事も激減するはずだ。さらに、「評価が付くので働く側にも責任感が生まれる」(砂川氏)という効果もあるという。
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労働者と雇用者の相互評価が可能
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また、同社のサービスは、「中抜きOK」を売りにしているのも特徴。一度このサービスで仕事ができるアルバイトが来れば、あとは直接交渉次第で、何度でも働いてもらえる。募集のたびに費用が発生しないため、増える一方のコストに頭を抱える依頼者には打ってつけだ。ワーカーにとっても、理想の職場でじっくりと仕事に打ち込める可能性がある。だが、これだとロケーションバリューに1銭も入らない。
この疑問に、砂川氏は「それでもいい」と語る。「定着してほしいから『中抜きOK』にしているが、そもそも、アルバイトは回転するもので、半年以内に辞める人が約50%ぐらい、というのが現実。囲い込むよりも、戻って来やすい場所を作った方がいい」(砂川氏)のだという。
■ 10万人のユーザーを抱え独自のビジネスモデルで戦う
ユーザー数の伸びは好調だ。目新しさや利便性が評価され、2006年4月の正式サービス開始からわずか2年強で、約10万人ものユーザーを集めている。ほかのケータイコンテンツと比べると、一見規模が小さいようにも思えるが、砂川氏は「人材ビジネスとしては奇跡的な数字」と胸を張る。「生涯顧客価値が高い、履歴書ベースの人たちが登録している」(砂川氏)ため、無料でユーザーを集め広告で運営するサイトより、1人辺りの単価が高い。それを考えると、10万人という数字は、決して小さなものではないことが分かるはずだ。
同社のサービスを使って見ると一目瞭然だが、ユーザーの利用は非常に活発。1年前には「平均4人が応募し、最初の反応があるまで、平均で8.9分しかかからない」(砂川氏)という状況だったが、最初のリアクションがあるまでの時間は「確実に縮まっている」(砂川氏)という。「放っておけば30人以上の人が集まる可能性もある」(砂川氏)と、パフォーマンスでも従来の求人媒体を圧倒する。
砂川氏が「薄く広くやっていけば成り立つ」と述べるように、コスト面でも、既存求人媒体の常識を覆す。ワーカーは完全に無料で、どれだけ利用しても、一切お金はかからない。費用を負担するのは雇用側で、支払った給料の50%に当たる手数料を、ロケーションバリューに支払う形だ。つまり、時給1000円で3時間働いたとすると、給料は合計で3000円で、ロケーションバリューに支払う手数料は1500円となる。先に述べたように「中抜きOK」を特徴としているため、この1500円が、定期のアルバイト採用に直結することも多い。
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昨年からひと月3万円の定額制を開始
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2007年11月には「定額プラン」を開始した。このプランでは、月額3万円で50人まで採用でき、1人辺りの採用コストはわずか600円にまで下がる。「まともに求人媒体に広告を打つと7万円程度かかる」(砂川氏)というから、「おてつだいネットワークス」の価格設定はインパクト絶大だ。砂川氏は、この「薄く広く」の思想を突き詰め、「マーケットのプラットフォームになりたい」という目標を掲げる。サービスを一部無料で開放にすることも検討しているという。
新たなビジネスも模索中で「当初は人材ビジネスだったが、今は軸足を位置情報に変えている。さまざまなマーケットに、位置情報を“挿していく”のが僕らの仕事」(砂川氏)と、新サービスの準備にも余念がない。今年4月にソフトバンクと資本提携したことで、キャリアとのつながりも密接になった。すでに成果は、「おてつだいネットワークス」に簡単かつ素早くアクセスできるアプリが搭載された、「おてつだいケータイ」という形で出ている。「飲食店などはPCのない店舗も多く、『ケータイで求人できないの?』という声がくすぶっていた」(砂川氏)というニーズに応え、端末、回線、サービスをセットで提供する。
このように画期的なビジネスモデルを採用する「おてつだいネットワークス」だが、名前はあくまで“お手伝い”。ここには、熱い思いが込められている。砂川氏は「近所にあった助け合いのコミュニティを復権させたい」と語る。
まだユーザー数10万人という段階だが、規模は拡大中。ケータイが1億台以上普及した社会インフラだと考えると、この目標が“夢”で終わらない可能性も高い。同社の手腕に期待したい。
■ URL
おてつだいネットワークス
http://otet.jp/
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2008/09/09 11:33
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