iPhone 3Gの登場によって、UI(ユーザーインターフェイス)がにわかに注目を集めている。だが、iPhone 3GのUIは、あくまでUIに対する1つの回答でしかない。それとは対極の方法論で、UI市場を席巻する企業がアクロディアだ。同社は「VIVID UI」というミドルウェアを開発しており、ドコモの「きせかえツール」やauの「EZケータイアレンジ」「ナカチェン」、ソフトバンクの「おなじみ操作」「きせかえアレンジ」といった形で、ユーザーに提供されている。端末やOSの差異を吸収し、柔軟なUIの変更を可能にしたのが、「VIVID UI」の特徴で、今では業界のデファクトスタンダードに近い。そこで、同ミドルウェアの特徴や普及の経緯、今後に向けた取り組みを、アクロディアに聞いた。
■ MNPを契機に導入が進んだ「VIVID UI」
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アクロディア 代表取締役社長 堤純也氏
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「日本ではすでに1億台以上、端末が普及している。この状況だと、誰がどの端末を買うかということは想像できない。メーカーが想定しなかったユーザーが購入する可能性も考えられるため、1つのUIで全てのライフスタイルを相手にすることは間違っている」と語るのは、アクロディア、代表取締役社長の堤純也氏だ。
堤氏は、ケータイのUIがほとんど議論されていなかった4年ほど前から「UIの進化はこのままでいいのか?」という疑問を抱いていたという。それに対する回答が、同社の「VIVID UI」だった。「UIの流れは両極化する。アップルやソニーのように自社のUIを押す会社がある一方、UIを開放してしまう会社も出てくるだろう」という堤氏だが、後者をサポートするのが、このミドルウェアの役割だ。採用が進んだ背景には、MNPという市場環境があった。
堤氏は「当時は、メーカーの差別化ポイントとして、UIが残されていた。だが、これだと、例えば、ドコモ内で別のメーカー機種に乗り換えるより、MNPで他キャリアの同メーカー機種にした方が、操作性が似てしまう」と話す。
結果として、直接、間接の違いはあるが、ほぼ同時期に3キャリアが同社の技術を取り入れた。「4年も前からそんなことをいっている会社はなかったので、ドコモ、au、ソフトバンクの3社に共感してもらえ、採用が決まった」(堤氏)そうだ。昨年度末時点で、対応ケータイは約2600万台。シェアにして、およそ25%といったところだ。「恐らく、現時点でのシェアは30%近いと思う」(堤氏)というように、「VIVID UI」は業界のデファクトスタンダードになりつつある。
■ 3キャリアの思惑に合致しUIのデファクトスタンダードに
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第2階層までカスタマイズ可能な「きせかえツール」
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とはいえ、「VIVID UI」の活かし方は、キャリアの“性格”に寄る部分が大きく、「ちょっとずつ方向性が違う」(堤氏)という。UIをiモードと同じコンテンツプラットフォームに昇華させ「コンテンツという方向に味付けした」(堤氏)のが、ドコモだ。ドコモでは、2006年11月に「きせかえツール」という名称でサービスを開始した。2007年11月発表の905iシリーズからは「VIVID UI」が採用され、メニューの第2階層までカスタマイズできるようになっている。動画メニューにも対応し、表現力は大幅にリッチ化した。
「『きせかえツール』はUIをメーカーから開放した。コンテンツプロバイダーが『VIVID UI』というプラットフォームの上で、自由に競争してくださいということ」(堤氏)
この取り組みは成功を収め、「年間数十億円のきせかえ市場」(堤氏)が誕生した。今でも、市場規模は右肩上がりだ。ドコモが仕様を開示しているため、公式サイトだけでなく、一般ユーザーが自由にメニューを作成するという動きも活発化。無料をうたう勝手サイトも多数登場した。
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「ナカチェン」は広範囲にカスタマイズできる
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対するKDDIは、2006年秋冬モデルの一部から「EZケータイアレンジ」を始めている。当初は「イノパスという会社への技術提供として取り組んでいたが、KCP+端末から本格導入が決まった」(堤氏)という。2008年8月には、アクロディアとKDDIの業務提携が発表されている。
「KCP+をやるに当たって、メーカーが簡単にUIを切り替えることができるプラットフォームがないと、どの端末も金太郎飴のように同じになってしまう。メーカー間のバリエーションを出すために、採用が決まった側面がある」と語る堤氏。
そもそも、「VIVID UI」は「リテラシーの低い人向けに専用のメニューを用意したい」(堤氏)というコンセプトでスタートしているが、KDDIの活用方法は、比較的原型に近いといえる。また、夏モデルからは、「ナカチェン」という、インターフェイスをauショップでガラッと変える新サービスも始まった。
堤氏が「ドコモはコンテンツプロバイダーに開放するため制限を設けざるをえないが、ショップでメニューを切り替える『ナカチェン』は、『URL To』を埋め込んでコンテンツへ誘導できるなど、かなり自由にカスタマイズができる」というように、コンテンツの“量”と“質”どちらを重視するかは、キャリア次第。前者を重視したのがドコモ、後者を重視したのがKDDIといえるだろう。
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あの端末の操作を実現する「S!おなじみ操作」
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これとは別の軸で、実利を重視するのがソフトバンクだ。堤氏によれば、「ソフトバンクになって、孫社長のアイデアで『おなじみ操作』が始まった。このプラットフォームとして『VIVID UI』が使われている」という。
「おなじみ操作」とは、他キャリア・他メーカーのメニューをそっくりそのままダウンロード可能にするサービスで、AQUOSケータイの2ndモデルである911SHからスタートした。2007年10月に名称が変更され、今では「S!おなじみ操作」と呼ばれる。2008年3月からは、UIカスタマイズサービスの「きせかえアレンジ」も始まったが、真っ先にMNPの武器として「VIVID UI」を活用するアイディアは、いかにもソフトバンクらしい。
■ 国際展開も並行し全く新しいUIのスタンダードを目指す
“ガラパゴス”と揶揄される日本のケータイだが、「VIVID UI」は国際展開も視野に入っており、その意味では十分グローバルスタンダードな技術といえる。アクロディアは、すでに、サムスンやソニー・エリクソンといった、海外でシェアの高いメーカーとも契約済み。「どちらかというと、サムスンはiPhone的なリッチUIを作るために、ソニー・エリクソンはリテラシーの低い人向けのUIを作るために、当社の技術を利用するようだ」(堤氏)という。ソニー・エリクソン端末のWindows MobileらしからぬUIも、同社の技術が使われている。海外市場は「今後も広げていく」(堤氏)といい、Googleが開発するAndroidにも「対応してきたい」(堤氏)と意気込む。
国内でも、「より広く使ってもらえるようにしたい。例えば、ドコモだと、さらに深い部分までカスタマイズできるようにするといった課題がある」(堤氏)と、各キャリアとの取り組みを強化していく構えだ。「行動履歴」に応じたリコメンドサービス的なUIも目標の1つだ。
「『VIVID UI』では利用した機能のログを取ることができ、メニューの順位を変えられる。このログを応用して、例えば、毎日設定していたアラームを使わなかったら、『今日は設定していませんよ』とリコメンドすることも不可能ではない」(堤氏)
さらに、ユーザーのログが蓄積されれば、「全部入り端末から落とすべき機能も分かるようになる」(堤氏)という。UIの自由をユーザーに与えた「VIVID UI」だが、この試みが上手くいけば、UIと同じく、端末そのものもさらに個性豊かになるのかもしれない。
■ URL
アクロディア
http://www.acrodea.co.jp/
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