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「P706ie」開発者インタビュー
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先端機能搭載で使いやすさに配慮、そこにある課題とは
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P706ie
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ドコモが夏モデルの1つとして発表した「706ieシリーズ」は、今どきの携帯電話として十分な機能を搭載しながら、より使いやすく、より楽しんでもらうためのモデルとされている。パナソニックが開発した「P706ie」もまた、ユーザーから寄せられた使いやすさを求める声に応えるべく開発された新機種だ。
プロダクトマネージャーの大北 英登氏、商品企画担当の笠原 亮一氏、ユーザーインターフェイス担当の佐井 章重氏、外観デザイン担当の山下 公明氏、電気設計担当の萱森 学氏、機構設計の佐々木 智氏、ソフトウェア担当の有田 俊幸氏、山本 喜郎氏に聞いた。
■ 開発に至った背景
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商品企画担当の笠原氏(左)とプロダクトマネージャーの大北氏(右)
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――706ieという型番の機種が目指すコンセプトをあらためて教えてください。
大北氏
それでは開発の発端からお話ししましょう。これまで、数多くの機種を提供してきましたが、使いやすさや見やすさの向上を求める声は非常に多いのです。携帯電話の多機能化が進む一方、電話として基本の部分で使いやすさ、見やすさに配慮すべきだという考えがありました。
「NTTドコモの携帯電話」という観点からすると、既にらくらくホンシリーズが存在していますが、「機能を進化させつつ、使い勝手に配慮した機種」は今までなかったと思います。「P706ie」は、機能と使い勝手の両立を目指し、総合的に網羅した端末にすべく開発してきたということです。らくらくホンシリーズではなく、90Xiシリーズや70Xiシリーズを使ってきた方にとっても、P706ieは機能面を充実させていますので、仕様に対するニーズとデザインに対するニーズ、使い勝手に対するニーズを満たせる機種に仕上がったと自負しています。
――すると、パナソニックから「706ie」というモデルを提案したと?
大北氏
それはパナソニック、ドコモさんどちらもというところですが、新しいカテゴリーとして、通常の706iとは異なる位置づけの製品にするという提案もさせていただきながら、ドコモさんと協議してきました。
――使いやすくするために工夫した点とは?
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外観デザイン担当の山下氏(左)、ユーザーインターフェイス担当の佐井氏(右)
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佐井氏
1つはテンキーのサイズ、もう1つはフォントです。テンキーについては、かねてより九州大学にお願いして、携帯電話を手にした時に指の動く範囲などを検証してもらっていました。その結果を今回反映させ、キーピッチやキーサイズを導き出しています。
そしてフォントについても見やすさ重視の新フォントを開発して搭載しています。また携帯電話では、画面サイズが限られていまので、縦横に拡大するフォントでは、一画面内に表示できる文字数が減ってしまいます。
そこで今回は、縦横に拡大するフォントだけではなく、縦方向だけ拡大するフォントも採用しました。このフォントがいかに読みやすいかという点は、神戸女子大学などでも研究しており、7月上旬に開催された「モバイル学会」でも報告されています。
――視力への影響というと老視(老眼)ですか。50歳くらいからの症状かと思いがちですが、40歳くらいから自覚症状が出るという話もありますね。
佐井氏
これまで「使いやすい携帯電話」と言えば、携帯電話そのものに慣れていないユーザーに向けた製品という流れがありました。しかし、これからは、ITリテラシーの高い人であっても、年齢を重ねていって「普通の携帯電話を使いたいが目が……」となります。そういう層が拡大していきますから、十分な機能を搭載しながら使いやすさに配慮するという考えが重要です。
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指の動きを検証し、テンキーのデザインに反映させた
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縦に拡大したフォントも採用
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■ 4つのメニュー
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上段左:サインメニュー、上段右;カラーメニュー
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――メニューアイコンのデザインを見ると、従来のPシリーズから少し変化した印象を受けますが、第2階層以下は従来通りですね。
笠原氏
今回は4つの異なる切り口のメニューデザインをプリセットしています。アイコンが大きく見やすい「サインメニュー」、色で区別する「カラーメニュー」、文字で各項目を表す「テキストメニュー」、説明文を添える「ガイダンスメニュー」です。P706ieは、使いやすさを追求したモデルですが、シニア層だけに限定したモデルではなく、誰にとっても使いやすいということを目指しましたので、デザイン性を追求した上でのメニューとなっています。第2階層以下については、従来の使い方を踏襲できるよう、あえて変更を加えていません。
大北氏
技術面ではPシリーズの本質を踏襲し、その上で使いやすさということですから、パナソニックが目指す高機能化の道にも乗って、スタイリッシュさや格好良さも追求しました。
有田氏
ソフトウェアの実装面では、全階層で縦倍角フォントを搭載すること自体が難しいところでした。機能面はP906iをベースにした部分が数多くありますが、フォントサイズやポップアップの見せ方によっては、らくらくホンシリーズに近くなってしまいますので、そのあたりは難しいところでした。
■ 新デバイスで通話性能も向上
大北氏
通話関連では相手の声がゆっくり聞こえる「ゆったりトーク」、通話中の周辺騒音に応じて音量を調整する「しっかりトーク」を用意しています。このうち「しっかりトーク」は、周囲が騒がしい場合、声か雑音か分析した上で通話中の音量をリアルタイムに制御しています。たとえば駅のプラットフォームで通話する場合、電車が目の前を通過する場面でも電車の走行音のようなノイズを検知して、受話音量を制御するのですが、ここで処理が遅れて遅延してしまうと通話に違和感がでてしまいますので、リアルタイムに制御しているのです。
一方、「ゆったりトーク」は相手が早口で喋る場合などで、単語と単語の間の時間を利用して、相手のトークのスピードを可変させています。これらの機能は、DSPを使ってソフトウェアで処理しています。
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電気設計担当の萱森氏、ソフトウェア担当の有田氏、山本氏
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萱森氏
ハードウェア面では、新たなレシーバーを搭載しました。このレシーバーを使うことでP705iよりも音量そのものを1レベル上げています。また、「ゆったりトーク」「しっかりトーク」の処理を行う際にも互いの声色を変えないような処理をしています。つまり、周波数特性を変えない処理ということですね。
――音の再生速度を変えると音の聞こえ方も変化するというイメージがありますが……。また携帯の通話機能で聞きやすくするというと、他社の携帯電話で、高音域のボリュームを上げるという手法が過去にありましたね。
萱森氏
低音域は、うるさい環境では埋もれてしまいますので、確かに高音域をはっきりさせるという手法があります。しかし、P706ieでは、音質の変化などの違和感をなくすため、音の中から声のボリュームだけをアップするという手法にしています。また、マイクを2つ搭載してノイズを分析する機種もありますが、P706ieではマイク1つで処理しています。
■ 「使いやすい」「高機能」を伝えるデザイン
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外観デザインは、コンセプトにあわせたもの
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――ボディデザインを見ると、パナソニック製の携帯電話の中でもスタンダードなデザインを継承したという印象です。このあたりはスムーズに固まったのでしょうか?
山下氏
今回ハードデザインを担当しましたが、最終的にはハイスペックでありながら使いやすさとのバランスを追求することになりました。というのも、携帯電話は所有者のこだわりやファッションセンスを表すアイテムという性格もあるからです。人によっては、シニアと言われる年齢になってきたとしても、「シニア向けケータイ」を使うことに抵抗を感じる場合もあります。現実の使いやすさと、抵抗の心理のバランスを満たすものとして、706ieシリーズのような製品は、今後重要視される分野だと考えていました。
――機能を充実させながら使い勝手をよくするという考え方は非常に納得できます。一方で、スタンダードなデザインを採用することは、地味なケータイ、初心者向けケータイと勘違いされるかもしれません。
山下氏
最終的に仕上がったデザインは、「普通」「どうってことない」「どこが新しいかわからない」と感じるかもしれませんが、いろいろと考え、検討を重ねた結果、「コンセプトに対して、素直に従うデザインで良いだろう」というところに至りました。いわゆるデザインケータイのような特徴的な形状を採用した場合、店頭でのアピールする力は強くなりますが、そこに期待して購入する人にとっては「P706ie」のコンセプトにギャップを感じるでしょう。多くの調査を行いましたが、今回は、コンセプト通りのデザインを採用しました。
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P706ie開発陣
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――ただ、店頭では70Xiシリーズより、90Xiシリーズのほうが人気という話もあります。ユーザーにそのコンセプトを伝えるのは難しいところですね。
大北氏
確かにそのあたりは難しいですし、開発する上で大きな課題でした。そこでユーザーにP706ieの特徴を伝えていく手法にいろいろと取り組んでいます。オリジナルの小冊子を作成していることも、その取り組みの1つですね。
笠原氏
繰り返しになりますが、「P706ie」は使いやすさに配慮したケータイであり、限られた機能だけの搭載するエントリーモデルではありません。正常進化した機種でありながら、“機能を削る”という引き算ではなく、“使いやすさを加える”という足し算をして、「使いやすいケータイとは」と世に問う機種です。
山下氏
デザインにおいても、高機能搭載=先進的なデザインという時代ではなくなりつつあるのだな、と感じています。もちろん「機能が多くて使いにくい」となってはダメで、高機能化がすすんだものこそ、より使いやすくできるはずだと思います。多機能化が進む中で、どのようにして使いやすさという考え方を取り入れてユーザーにアピールしていくか。非常に難しい課題でしたし、これからも考え続ける点ですね。
大北氏
一見するとスタンダードなモデルと思われるかもしれませんが、細部までこだわった機種です。70Xiシリーズの中で起爆剤になることを願っています。
――ありがとうございました。
■ URL
製品情報
http://panasonic.jp/mobile/docomo/p706ie/
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(関口 聖)
2008/08/12 11:04
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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