GPSや基地局で位置情報を把握できるのは、ケータイならではの“強み”だと言われている。だが、この強みを生かしたサービスやコンテンツは、決して多くない。地図やナビゲーション以外の分野は、まだまだ未開拓だ。サイバーマップ・ジャパンが提供する「ケータイ国盗り合戦」は、こうした状況に風穴を開ける可能性を秘めている。熱心なファンを生み出し、会員数も急増している「ケータイ国盗り合戦」の裏側を、同社に聞いた。
■ 位置情報を元に「国盗り」をリアルで行う新感覚のゲーム

|
ケータイ国盗り合戦
|
ケータイ国盗り合戦は、ゲームとコミュティが一体となったコンテンツ。さまざまな「国」が用意されており、「国盗りボタン」を押して領土を広げていくだけと、遊び方はいたってシンプルだ。ただし、国は実際の位置情報と紐づいており、全国制覇するためには、本当に日本全国を回らなければならない。ゲームとはいえ、あくまでもリアルな行動が必要なのだ。
また、同サイトはSNS機能を備え、他のユーザーのランキングやプロフィールを確認することができる。最近のSNSでは常識になりつつある仮想通貨も用意した。仮想通貨は「コバン」と呼ばれ、クイズや友達紹介で増やすことができる。コバンはゲーム内で使用可能なほか、今後は、アバターなどへの交換にも対応していくそうだ。同じ仮想通貨でも、「コバン」と呼ばれるところが、いかにも戦国時代をモチーフにした同サイトらしいといえるだろう。

|
サイバーマップ・ジャパン、事業準備室、モバイルビジネス開発グループの加藤隆志氏
|
サイトオープンは今年の4月だが、実は、すでに相当の実績を重ねており、熱心なファンは多い。では、どのような経緯でサービスが始まったのか。サイバーマップ・ジャパン、事業準備室、モバイルビジネス開発グループの加藤隆志氏は、「2001年からMapionのモバイルサイトを運営しているが、位置情報サービス以外のエンタメコンテンツとして、スタンプラリーを始めた。2004年ごろからタイアップ的なキャンペーンを展開し、2005年にはJRトラベルナビゲーターと一緒に『お宝☆探検隊』をスタートさせている。そのキャンペーンに、“国盗り”の味付けをしていき、2006年から『ケータイ国盗り合戦』になった」と話す。
戦国時代をモチーフにした背景には、ユーザー層がある。加藤氏は「こちらの想像以上に男性が多かった」と明かす。ケータイといえば若者中心と思われがちだが、仕事をしていないと全国各地を回るのが難しいという事情もあり「当初は若年層を狙っていたが、結果としてメインはサラリーマン」(加藤氏)になったという。正式版でのデータだが、学生の割合はわずか8%。7割ほどが会社員という、今どきのケータイサイトにしては珍しいユーザー構成になっている。「旅好きな大人」というターゲットが明確になったことに加え、「観光地などは歴史的にゆかりのある場所が多い」(加藤氏)という理由で、“歴史”という味付けがほどこされたのだ。
■ 熱烈なユーザーに支えられ会員数も急上昇

|
ボタン1つで国盗りが可能
|
「キャンペーンの時は約300だった国を、正式版では約600に増やしている。開始は4月25日だが、6月にはすでに全国制覇した人がいたほど(笑)」と加藤氏が語るように、ヘビーユーザーも多い。「2004年の時点でも、全地点を制覇する人が3カ月で3人出た」(加藤氏)ほどである。4月に正式版の「ケータイ国盗り合戦」を始めたのも、熱心なユーザーの声を反映させた結果だ。
「キャンペーン終了間近に『やめないで』という声を多くいただいた。(期間限定ではなく)ゆっくり国を回っていきたいという声も少なくなかった」(加藤氏)という。
サイト開始からわずか50日で、ユーザー数は5万人を突破。現時点では6万3000人ほどのユーザーを抱える。「ほとんどプロモーションは行っていない」(加藤氏)というが、ファンの口コミで着実に成長しているようだ。

|
歴史好きもうならせるクイズ
|
一方で、加藤氏の「ゲームというよりはコミュニケーションのきっかけ。週明けの社内で『国盗りしに○○へ行ってきた』という会話をしてほしい」(加藤氏)という言葉どおり、ライトなユーザーも大切にしている。元々、国盗りはボタンを押すだけなので、間口は広い。「電池の消費量や、測位までの時間を考えてGPSは使っていない」(加藤氏)という設計も、気軽さを演出する。ケータイに不慣れだと思われがちな50代が3%もいるのは、こうした企画意図が伝わった証拠といえるだろう。
「毎日国盗りができない人には、クイズが人気」(加藤氏)と、国盗り以外のコンテンツも盛り上がりはじめている。問題が難しいこともあり「Yahoo!の急上昇ランキングに、国盗りがクイズで出したキーワードが何回か登場している」(加藤氏)ほどで、歴史ファンをうならせているという。
■ ユーザー層やサイト特性を活かしたビジネスモデル
だが、600国を制覇したユーザーはどうするのか。ゲームをクリアしてしまうと、ユーザーが離れる心配もある。これに対する回答となり、同サイトの収益にも貢献するのがキャンペーンだ。現在も、全国各地のお城を攻略していく「ケータイ国盗り合戦 2008夏の陣」というキャンペーンを実施中。「ユーザーを飽きさせない仕組み」(加藤氏)として、今後も続々とキャンペーンを開催する構えだ。8月11日からは、山手線内を対象にした「山手の合戦コース」を、8月19日からは一泊旅行で完結する「一日天下コース」を予定している。キャンペーンの参加率も高いそうで「去年は全利用者の10%が参加した」(加藤氏)そうだ。
Suicaポスターの仕組みに対応しているのも、キャンペーンの幅を広げる。Suicaポスターとは、JR東日本のSuicaと連動したサービスのこと。カード型のSuicaや、モバイルSuicaをタッチすると、URLがケータイに送られる仕組みだ。カード型の場合は事前にケータイのメールを登録しなければならないが、モバイルSuicaなら、タッチするだけで画面上にURLが現れる。
ケータイ国盗り合戦での位置情報は、基地局のものを使用しているため、正確な場所までは分からない。つまり、Suicaポスターに埋め込んだURLで位置を判断すれば、その弱点を補うことができるというわけだ。例えば、先に開催された「WIRELESS JAPAN 2008」の会場内で行われた「有明の合戦コース」でも、Suicaポスターが使用されていた。有明の合戦コースは、2つの隣合うブースに設置されていたSuicaポスターをタッチするというものだが、これを応用すれば、「テーマパーク内での国盗り」といったようなキャンペーンも不可能ではない。

|
夏のキャンペーン
|
「国盗りと旅をセットで売る」(加藤氏)というタイアップも展開した。「『JRモバイルびゅう』で販売している、新潟や秋田、八戸を日帰りで回る『弾丸ツアー』へ、サイトから誘導した。まさに国盗りユーザーのためのような商品なので、反応も良かった」(加藤氏)という。
1日でなるべく多くのポイントを回りたい国盗りユーザーなら、日帰りで東日本をぐるっと回るこの商品に、魅力を感じないはずはない。加藤氏が同サイトを「移動させてナンボのビジネス」と表現するように、同サイトにはユーザーを“動員する力”がある。サイトはスタートしたばかりだが、「年内の黒字化を目指す。会員数は100万人が目標」(加藤氏)という。SNS機能の拡充も急ぎ、「アバターなども早期に導入していく」(加藤氏)そうだ。
おサイフケータイやGPSが一般化したのに伴い、ケータイ業界では、「リアル連動」というキーワードを頻繁に耳にするようになった。常に持ち歩き、GPSやモバイルFeliCaを内蔵しているケータイは、最も現実の世界と連携しやすい情報機器だ。こうした強みを活かし、さらに、それを国盗りという分かりやすい形で提示できたことが、同サイト躍進の秘訣といえるだろう。
■ URL
ケータイ国盗り合戦
http://kntr.jp/
■ 関連記事
・ モバイルプロジェクト・アワード 2008の受賞プロジェクト発表
・ モバイルプロジェクト・アワード2008表彰式
・ 「ケータイ国盗り合戦」で期間限定のスタンプラリー
・ お出かけ先で国盗り「ケータイ国盗り合戦」が正式サービスに
(石野純也)
2008/07/30 11:05
|