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「WILLCOM 9」開発者インタビュー
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「シンプルでミニマムの世界」はどう進化したのか
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「WILLCOM 9」は、2006年12月に発売された「9(nine)」のコンセプトを受け継ぐ端末だ。形状はストレート型から折りたたみ型に変化したものの、シンプルさを追求したボディデザインは引き続き採用されたほか、新たに130万画素CMOSカメラを装備し、インターネット関連サービスを手軽に利用できる「ウィルコム ガジェット」をサポートする。
デザイン担当の堀田峰布子氏、商品企画担当の阿部 祐一氏、ソフトウェア担当の筒井竜志氏と高橋竜之介氏、製造メーカーのKESで機構設計を担当した古川正明氏と営業担当の中島文秋氏に開発コンセプトなどを聞いた。
■ コンセプトを継承した理由
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左から当初のコンセプト案、KESからの第1弾案……となり、右端が製品版
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――9(nine)のコンセプトを継承するとのことですが、なぜ同じ路線を辿ることにしたのでしょう?
堀田氏
先代の9(nine)は、発売から1年半かけて、約43万台販売されました。この台数は、ウィルコムにとって規模の大きいものですし、これだけ長期間にわたって販売されたというのも、国内の携帯電話市場においては異例と言える商品です。つまり、9(nine)の「シンプルでミニマム」というコンセプトを求める市場が存在するということです。一方、9(nine)発売以降、「この機能があれば」「あの機能があれば」という声もありました。
阿部氏
開発そのものは2007年2月ごろにスタートしました。そこで今回はカメラを装備し、Javaもサポートしました。要望に応えて搭載する機能と、インターネットをより使いやすい形する機能を実装していて、9(nine)らしさを追求したのです。
堀田氏
他の形状も検討しましたが、音声端末としては最もメジャーな形状である折りたたみ型を採用し、9(nine)の世界観で選択肢を用意することを目指したということです。9(nine)のスクウェアなストレートという形状は、技術的に見れば難しいところはなくて、やろうと思えばどのキャリア、どのメーカーでも開発できる機種です。しかし、あそこまでスクウェアなデザインを思い切ってやろうとする事業者はいませんでした。そこにあえてアプローチするのが9(nine)のコンセプト、というか、ウィルコムの進むべき道と言えるかもしれません。
――このデザインは、当初のイメージ通りですか?
阿部氏
コンパクトシェルという形状を目指しましたが、W-SIM対応ということで、限界と見られるサイズまで詰めました。他キャリアにない形状を求めると、幅と高さを極限までコンパクトにしようと考えたのです。
堀田氏
かつて国内の携帯電話市場には、コンパクトな折りたたみ型端末が多く登場していましたが、今や影を潜めています。私としては、その現状がもったいなく感じていたんですね。今回、コンパクトシェルをイメージしたのは、その影響もあります。
■ コンパクトにする難しさ
――メーカーとしては、そのようなデザイン案を提示され、どう受け止めましたか?
古川氏
当初のデザイン案を受けたときには、非常に開発が難しいと感じました。そこでこちらから「このサイズならできます」と返したのですが……。
堀田氏
そのKESさんからの反応を見たときには、正直いって「これでは売れない」と思いました。コンパクトシェルを目指しているのに、コンパクトとは呼べないサイズ感だったからです。
古川氏
もちろん、当社にとっても最初に我々が出したサイズでは大きすぎるとわかっていましたので、小型化に取り組みました。堀田さんから「OK」と言われないだろうとも思っていましたし。苦労したのは、液晶ディスプレイのモジュールや電池パック、カメラなどで、小型薄型のパーツを選定することです。当社としては、9(nine)で用いたパーツをそのまま今回も利用できれば、実績もありますし、利用したいところでしたが、それでは満足いくサイズに到達できません。国内外を走り回って、なんとか良い部品を見つけだしました。
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デザイン担当の堀田氏(左)と商品企画担当の阿部氏(右)
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KESの古川氏(右)と中島氏(左)
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堀田氏
開発中には、KESさんから「これは9らしい」という言葉がありました。つまりエンジニアサイドが9(nine)のコンセプトイメージをきちんと理解してくれたということです。このあたりのイメージをきちんと共有できたことで、すごくクリエイティブな関係が築けたと思います。ただ、デザイン案をきちんと量産品に反映させるために、たとえば「充電端子の真ん中に位置する部分に赤外線ポートを配置して欲しい」「バッテリーカバーの延長線上にLEDを配置して欲しい」などと説明したこともありましたね。
――設計時に難しかった点は?
古川氏
たとえばヒンジ部は、一般的な折りたたみ型端末では1軸ですが、「WILLCOM 9」は2軸ヒンジです。これはネガアールと呼ぶデザイン形状を活かすことから採用しました。また、キー配列を見てみると、ボディの際までテンキーが配置されていることがわかると思います。これは、単純に設計すると、テンキーの隙間に入る格子状のパーツの剛性が確保できませんので、マグネシウムシャーシを用いるなど、いくつか工夫しています。
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WILLCOM 9のパッケージも本をモチーフにしている
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――ネガアールという形状を採用した理由は?
堀田氏
「WILLCOM 9」は、折りたたみ型端末ですが、“開くもの”という点から連想して、本をモチーフにしています。丸く凹む形状は、本の小口と呼ばれる部分をイメージしました。購入後は置き場に困るパッケージも本のモチーフを採用しており、書棚に飾ってもらえれば嬉しいですね。
古川氏
ネガアールという形状を採用したことで、角にあたる部分は、プラスチックが分厚くなっています。ここがいわば骨、あるいは梁と呼べるほど本体を支える役割を果たしていると思います。
■ ガジェットでウィルコムの強みを発揮
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WILLCOM 9では「ウィルコム ガジェット」をサポート
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――続いて、ウィルコム ガジェットについて伺います。いつ頃から開発が進められてきたのでしょうか?
筒井氏
2007年早々から検討しはじめていました。パソコンの世界で、ガジェットというサービスが登場してきて、個人的にツールを開発して楽しんでいました。しかし、ガジェットがパソコンの世界だけというのが残念で、音声端末の世界に持ち込めれば、新たな体験ができると感じていました。
一方、ウィルコムらしい、あるいは9(nine)らしい新しいサービスの検討も進めていました。新しいユーザーインターフェイスによって、より長く端末に愛着を持って使ってもらいたいと考えていたのです。たとえばFlash Liteを使ったガジェット風サービスも検討しましたが、1画面内に複数のガジェットを配置することは難しいことが判明して見送るなど、ずいぶんと悩んでいました。そして2007年3月ごろに、3Dエンジンを提供するエイチアイさんから新たな開発提案を受けました。悩んでいた時期でしたが、当社向けの技術と感じて、渡りに船だと。そして、ガジェットを開発する上では、既に関係のあったACCESSさんに相談したところ、乗り気になってくれて、共同で開発していくことになりました。
――ガジェットという仕組みを取り入れるには、ハードウェア面をそれなりに増強する必要がありそうです。
阿部氏
そうですね、メモリは倍増することになりました。そこでコスト面に影響はでてきますが、ガジェットを搭載することと、ウィルコムの強みを発揮することのバランスを考えたときに、ガジェットは最適なアプリケーションだと判断したのです。
――ACCESSでも独自名称のガジェットツールを発表していますが。
筒井氏
基本的にウィルコム ガジェットと同等と言えるでしょうが、ウィルコム ガジェットには、データフォルダやアドレス帳、位置情報を利用できる点が独自機能と言えます。
――ガジェットがローカル情報にアクセスできるとなると、セキュリティ面の対応が気になるところです。
筒井氏
ガジェットには、レベルに応じた証明書を発行しています。つまり、証明書の内容によってガジェットがアクセスできるレベルを制限しています。ウィルコム ガジェットは、将来的に一般向けに開放していく考えですが、コンテンツプロバイダ向けの証明書と、一般向け証明書は異なるレベルにするというイメージです。
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ソフトウェア担当の筒井氏と高橋氏
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高橋氏
ある程度自由な環境というのは、ウィルコムらしい点だと思いますので、あまりガチガチにするところではないかなとも感じています。もちろん自由にしすぎるのは危険ですので、そのあたりのバランスの取り方は今後の検討課題ですね。
阿部氏
将来的にウィルコム ガジェットの一般開放を目指していきたいのですが、まずはプリインストールで提供し、続いてコンテンツプロバイダから配信される段階を経て、最終的に一般開放という流れになるでしょうか。ただ、現時点では将来案はまだまだ草案レベルですね。
――ウィルコム ガジェットのコンセプトは、確かにウィルコムらしいと感じます。一方で、「シンプル、ミニマム」なWILLCOM 9とは異なるコンセプトという印象も持ちました。
堀田氏
WILLCOM 9では、必要な機能だけを搭載するという考え方です。「ウィルコム ガジェット」という1つのプラットフォームを用意することで、ユーザー自身が必要な機能を取り入れられるというのは、WILLCOM 9のコンセプトに合致していると考えています。現時点では、あまりガジェットの数が多くなく、始まったばかりのものということで違和感を感じてしまうのかもしれませんが、環境が整っていくことで「欲しいものだけを貼り付けていく」という使い方が馴染んでいくと思います。
WILLCOM 9には「スロットアクセサリー」と呼ぶ待受画面機能を用意していますが、これはKESさんから「9らしい機能」として提案いただき、採用した機能です。スロットアクセサリーがメーカー主導、キャリア主導の待受とすれば、ウィルコムガジェットはユーザー主導の待受と言えます。
――ありがとうございました。
■ URL
製品情報
http://www.willcom-inc.com/ja/lineup/ws/018ke/
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(関口 聖)
2008/07/29 11:02
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