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【キーパーソン・インタビュー】
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夏野氏が語る、ケータイ業界の現状とこれから
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夏野剛氏、インタビューは常勤顧問を務めるドワンゴ社内で行われた
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夏野剛氏が榎啓一氏や松永真理氏とともに生み出したiモードは、瞬く間に広がり、今では5000万人に近いユーザーが、日常的に接している。また、同氏が「このためにドコモに入社した」と熱を込めるおサイフケータイも、対応端末はドコモだけですでに3000万台を突破している。そんな夏野氏が、既報の通り、ドコモを退職した。その後、多くの会社から、同氏を役員に迎え入れるというリリースが出されている。最近では、ドワンゴの顧問に就任したことも、周知の事実だ。
同氏の退職と呼応するように、業界の構造も徐々に変わり始めている。最近では、iPhoneの上陸にともない、ケータイとインターネットの関係が改めて注目を集めるようになった。と同時に、「日本のケータイ業界に閉塞感が漂っている」という声もさかんに聞かれる。では、iモードやおサイフケータイで業界を牽引し、“今のケータイの原型”を生み出した張本人は、iPhoneの影響力や、ケータイ業界の動向をどのように考えているのか。ドコモを飛び出した夏野氏が、今後の展望や業界動向を熱く語った。
――ドコモを退職されてから、さまざまな会社で役員になられていますが、どのようなお仕事をしていきたいのかを教えてください。
iモードの時からずっと変わってないんですが、大きなミッションは「IT革命をビジネスに取り入れる」というものです。ポテンシャルをまだまだ活かしきれていない企業はいっぱいあります。もっと効率的で、もっと付加価値のあることをやっていこうと提案していきたいですね。
例えば、セガサミーホールディングスの場合は、ネットワークゲームだったりモバイルの分野だったりを期待されています。ぴあのチケットも、ITを使いこなせばもっと便利になるでしょう。ただ、ドワンゴだけは元々IT系の会社なので、そちらは進んでいます。むしろ、もっと基礎的なビジネスの話をしなきゃいけない(笑)。
――その中で、あえてドワンゴをメインに据えた理由を聞かせてください。
ニコニコ動画は世界にないし、やっぱり凄い。動画が面白くなくても、コメントで面白くなったりと、付加価値があります。SNS的なコミュニケーションともいえるでしょう。もっと簡単に説明すると、テレビに向かってツッコミを入れている感じ。時間、スペースを超越して、お金もかからない。まさにニコニコ動画はIT革命そのものです。
ドワンゴでの役割は3つ。ニコニコ動画の「黒字化」と「一般化」、最後に「国際化」の3つです。1日のアクセスがユニークユーザーで160万人なんてメディアはそうそうないから、有料課金や広告を組み合わせていけば黒字化は達成できるでしょう。それに来期までに達成するって公約しちゃったし……頑張ります(笑)。
そのためにも一般化が必要。ユーザーは800万人もいますが、もっと普通の“オッサン”にも使ってもらいたい。サービスモデルから全て組み直して、普及させていきます。それを国内だけにしとくはもったいないから、海外にも打って出るということです。カラオケが海外でも流行ったように、字幕で盛り上がるのは日本固有の文化ってわけじゃないから、結構いけると思いますよ。
サマーは夏で終わっちゃうけど、次のニコニコ動画(ββ)で、ガーっとやってきますよ! 今のニコ厨にとってはグレードアップになるし、新しい人はとっつきやすく変わったと感じる、そんな風に一般化していきます。
――ニコニコ動画モバイルも強化されるのでしょうか?
わざわざアイテムの1つ挙げる必要もないくらいで、モバイルも当然やる。僕は“モバイル人間”にはなりたくないんですよ。確かにモバイルはものすごく重要ですけど、あくまで数ある出口のうちの1つでしかない。もっと大きな仕事をしたいですね。
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購入したばかりのiPhoneを手に
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――ちなみに、さっきからずっと触られている、それ(iPhone)に対するインプレッションはいかがですか。
とにかく芸が細かい。このグニュとする動き(注:Safariなどのスクロール)もいいし、ロックを解除するバーの動きも自然。メールの署名に「iPhoneから送信」って入ってるのも心憎い。自分で書くとちょっとあれだけど、最初から入ってるからそれとなく自慢できる(笑)。
いや~、参りました。こういうのを作りたかったなぁ。900iシリーズの時は独断でやって、12月発売だったのを2月に遅らせたりしました。結局、ダメダメだったFOMAを復活させたけど、やっぱり社長のように強引にやらなければiPhoneみたいな端末は作れないよね。
――iPhoneの強さはどこにあると思いますか?
2つあって、1つはインターフェイスの新しさや面白さ。もう1つは、販売奨励金モデルで安いということ。NO.1キャリアですら奨励金をやめっちゃったから、店頭で比べると、そりゃこっちを選ぶでしょ。ソフトバンクのインフラはちょっと気になるけどね。ドワンゴの社内でも電波が弱いし。ドコモのMzoneに加入したいぐらい(笑)。
――ビジネスモデルがiモードと似ているという指摘もありますが?
同じところと違うところがありますね。まず、同じなのは、サードパーティの力を120%活かす仕組みが入っているということ。900iでやったのはまさにそれで、App Storeの代わりがドラクエ、FFでした。
iモードがインフラビジネスで、iPhoneは電話機ビジネスという部分は決定的に違う。よく公式サイトは「ドコモの囲い込みだ」って言われるけど、あれは間違い。公式サイトの手数料は全体から見れば、小さなもの。あくまで初心者にインフラを使ってもらうためのもので、お手本です。割とオープンにやってきたと思っています。
――役員を務められている会社はコンテンツプロバイダー系などが多いですが、今後、もう一度端末を作るご予定はありますか? iPhoneを超える“夏野端末”を見てみたい気もします。
好き勝手に、独裁的にやらさせてくれるんだったら引き受けるけど(笑)。今のiPhoneは本当によくできてる。何をもって“超える”というかは難しいけど、当然、足りないところや飛べるところはある。互角に戦うことぐらいはできると思いますよ。
――iPhoneのような、いわゆるスマートフォンの登場で、ケータイサイトはいらなくなるという意見もありますが。
それは絶対ない。スクリーンサイズの問題があるからね。iPhoneだって、PC用のサイトを見るのはちょっと厳しいでしょ。デバイスに合わせたサイトは残ります。
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キャリアとメーカーの気持ちがシュリンクしているという夏野氏
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――ケータイ業界が閉塞しているとも言われていますが、自分なりの見解や打開策はありますか?
まず全体がシュリンクしているというイメージですが、コンテンツはむしろ拡大していて、キャリアのパケット収入もどんどん増えています。裾野は確実に広がっているんですね。インターネット業界全体を見ても、モバイルの売上は以前より上がっています。
一方で、キャリアとメーカーは気持ちがシュリンクしているかもしれません。そりゃ台数を減らして単価を下げると言ったら、メーカーにもメリットがないから、モチベーションは上がりませんよ。こういうのが高らかに宣言されるのは、ちょっと寂しくなるよね。縮小均衡的な考え方になると、チャレンジもできなくなってしまいます。
ドコモを離れたからやっと言えるけど、日本のケータイ業界には「世界でいい商品を売ろうよ」と言いたい。日本のケータイは最高水準だと思っています。何でそれでiPhoneができないのか? それは能力を活かしきれていないから。3~5年のアドバンスがあるんだから、それを活かさなきゃ。アップルの考え方は、日本の企業に近いと思います。今こそ、世界で売れるケータイを作るべきです。
キャリアにも、やれることはまだまだある。2位、3位の会社は1位を目指せばいいし、1位のところは、もっと大きなところで戦わなきゃ。消耗戦をやっていちゃダメ。ビジネスを拡大するチャンスはいくらでもあるはずです。DCMXもすごく伸びてるでしょ? 新しい事業をどんどん作っていくことに尽きますね。
――力強いお言葉ですね。本日はどうもありがとうございました。
■ URL
ドワンゴ
http://dwango.jp/
ニコニコ動画
http://www.nicovideo.jp/
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・ 夏野氏が語る携帯の未来、すべては普通の人々のために
(石野純也)
2008/07/25 16:09
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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