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夏野氏が語る携帯の未来、すべては普通の人々のために

夏野氏
 モバイル学会は、携帯電話のシンポジウム「モバイル08」を開催した。7月4日の特別講演には元NTTドコモのキーパーソンで、慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授、ドワンゴの常勤顧問などを務める夏野剛氏が登壇。「ケータイの未来」と題して今後の携帯電話の世界について語った。

 夏野氏が冒頭、「ちょうど2週間前、円満にNTTドコモを退社し、せいせいしました」と語ると、シンポジウムの参加者からは笑い声がもれた。同氏は「日本の携帯電話はものすごい進んでいる。世界中でこんなにケータイを持っていて、普通の人がどこに行くにも触っているような状況はない。もちろん部分的には海外でもあるが、トータルパッケージで実現されているのはまず日本だけだ」と述べた。

 また、IT系のメディアを除くマスコミの話として、「日本が遅れているとか、ガラパゴスだと書かれるが、ガラパゴスというのは半分当たっていて、半分間違っている」とコメント。同氏は、「確かに日本メーカーの精神はガラパゴス的なところがある。島耕作が社長になっても、上の方に行ったらあまり仕事をしていない。島耕作は日本の団塊世代のサラリーマンの理想という面もある。ぼくはあれは理想じゃない、彼は個人では何もやっていないから」と話した。

 夏野氏は、ガラパゴス的な意識があることは認めつつ、日本の携帯電話について、ガラパゴスのように他の場所では生きていけない遅れているものではなく、日本はむしろ進んでいるとの見解を示す。日本の携帯電話市場について、「ダーウィンの進化の法則には反している。競争が激しく大きな市場の方が進化するはずなのに」と語り、「欧米で携帯電話メーカーにライバルは誰か? と聞けば、ほかの端末メーカーということになるが、日本の携帯電話業界はあらゆるものが競争相手、産業の多重性があり、競争範囲が広いから進んでいる」と述べた。


SF映画から見るケータイの未来

未来の家のシーン
 今回の講演のために、独自のプレゼンテーションを用意してきたという夏野氏。1997年からドコモに在籍し、さまざまなサービスを提供してきたと振り返り、「今から思えばよく好き勝手やってきたなと思う。キッズケータイなんて子供が生まれなければ作っていなかった。50万台売れたが、あれは完全に自分の娘のために作った」と述べた。また、Javaアプリやおサイフケータイなどについても説明し、そういった新サービスを思いついたきっかけについて、「ぼくはクリエイティブな人ではない。全部、今自分が困っていること、パッと見たときになんでこんなに分厚いんろう? こういうことがあったら便利なのにといった素朴なもの。そういったものを解決してきた」と語った。

 夏野氏は、こうした新サービスのきっかけになるものとして、SFをあげた。自身がSFオタクであると明かした同氏は、「2001年宇宙の旅」の著者として知られるアーサー・C・クラークの大ファンだという。とくに、物理法則に従って描かれるハードSFというジャンルが好きで、ハードSFの元にした映画は未来を予測する上で役に立つとした。今回の講演を「映画大会」と話す夏野氏は、「IT革命で何が一番変わったか、未来が現実になるスピードが早くなった」と語った。

 「SF映画にみる未来の家のシーン」と題してまとめられた映画のワンシーンは、洗面台の鏡の部分にニュースやスケジュールが表示されるエージェント機能、食料品の不足を感知し、その場で購入も可能なIT冷蔵庫、帰宅を感知して照明が点灯する機能、音声で温度調節や音楽再生が可能なシャワールーム、ホログラムによって3Dで映像視聴が可能なバーチャルディスプレイの5種類。夏野氏は、技術的には実現可能なものもありバカにできないとし、関連する研究開発事例としてMITのプロジェクトなどを紹介した。

 こうした、家の中において行動の起点となる場所で情報を出すというアイデアについて、夏野氏は「これを屋外でやるとなれば当然ケータイがやることになるが、誰も本気でやっていない」と語った。

 また、バーチャルディスプレイについて言及し、国内のディスプレイ技術者らが物理的なディスプレイサイズの中で、いかにきれいなものを提供するかを競っていると述べた。同氏はこうした考え方を「20世紀的な考え方」と言い切り、「空間に投射できるようになれば、ケータイのような小さいなデバイスでも大きな画面で映画が見られる。こういうところにヒントがある」とした。


MITの研究 関連する研究開発事例

 ディスプレイに注目していると語った夏野氏は、ウェアラブルディスプレイなど、人が使う際に実際のディスプレイサイズよりも大きく見えるなど、表示部分に新たな展開をあれば、携帯電話で映画を見るシーンも現実のものになると話す。「今、携帯電話で映画を見る人はいない。ぼくが言うのもヘンだが、予告編や見たいシーンだけ閲覧することはあっても、2時間この画面で見るのはキツい。これがバーチャルディスプレイなら実現する」と話した。

 「SF映画にみる電話使用シーン」と題してまとめられたワンシーンでは、携帯電話を使って映像を投射し、テレビ電話を行ったり、公衆電話に検索機能を搭載し、情報エージェントによる番号案内などが紹介された。

 このほか、映画に登場する電子ペーパーや電車の乗客全てに虹彩認証を行い、犯罪者を監視するなど、さまざまな映画のワンシーンを紹介しながら、現実へのヒントを示唆した。

 夏野氏は、「SF映画では、科学の知識ない人にわかるように作られているから面白い」と話した。映画の中の未来のタクシーでは、ディスプレイ上に料金メーターが表示され、指紋を押しつけると決済できるシーンがあった。夏野氏は、ITだからこそ重要な点として、「人間が普通に使えるUI、人の体感に訴えるということが大切。普通の行動に近い形で操作させる、普通のお客が違和感なく使えることが大切」と語った。

 また、車関連のコンシェルジュサービスについても、日産のCARWINGSとトヨタのG-BOOKを例に出し、CARWINGSの方が実際にオペレーターと電話で話せるため、はるかに使いやすいとコメント。ITだからといって全てをテクノロジーにする必要はないとした。

 さらに、「アップルがタッチ入力を出してきたからと言っても、タッチ入力を実現することで何か価値を生まなければならない。それではダメだ。技術を実現することが目標になってしまってもいけない」とした。


表示デバイス SF映画の電話シーン

携帯電話の形状について コンセプトモデル

移動シーン 電子ペーパーの事例

ケータイの未来を予測するキーワード
 最後に夏野氏は、今後のキーワードとして、エージェント機能などの人工知能(AI)機能、ディスプレイやキーボードのバーチャル化など、の入出力部(I/O)、生体認証(BIO)、バッテリーなどをあげた。また、それらを繋ぐ意味で「For Ordinary People」(すべては普通の人々のために)」という言葉をあげた。「普通の視点を忘れてしまうと見えなくなってしまう、是非みなさんと考えていきたい」とした。

 時間の関係で、シンポジウムでの質疑は1つのみとなったが、来場者から、安心で使えるネット環境のためのアイデアを求められると、その前提として携帯電話について何が問題か議論されていないとの認識を示した。「新しいものには負の側面があるが、議論している人たちはケータイを使わない人たち、悪いことをしているのはほんとんどオヤジたちで、むしろオヤジフィルターが必要だ」と語ると拍手が起こった。

 続けて、「持たせなくていいという結論はどうかと思う。それでは大人の議論になっていない。居心地がいい場所というのは人によって違う。それは現実世界も同じ。エロやピンクというものが現実に存在する以上、ネットでも同じように存在する。負の側面をコントロールしようと複数の団体が生まれていることは、人間の良い面だと思う」と語った。


オフィスシーン 虹彩認証技術

バーチャルキーボード ショッピングシーン

ドイツのスーパーの事例 ドイツの事例、エージェント機能など


URL
  モバイル学会
  http://www.mobilergo.com/

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(津田 啓夢)
2008/07/04 21:24


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