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「P705iμ」「PROSOLID μ」開発者インタビュー
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薄さと機能を追求、細部に至るこだわりを聞く
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最薄部9.8mmを実現した「P705iμ」と「PROSOLID μ」は、世界で最も薄い3G折りたたみケータイだ。薄さを追求してきたパナソニックが機能面の充実を図った機種は、どのような工夫が凝らされているのか。プロジェクトマネージャーの三浦 毅氏、機構設計担当の太田 康彦氏、電気設計担当の島田 肇氏、デザイン担当の浅野 陽氏に聞いた。
■ 「薄さ」という原点を追求
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左からデザイン担当の浅野氏、プロジェクトマネージャーの三浦氏、機構設計担当の太田氏、電気設計担当の島田氏、
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――パナソニック製の薄型FOMA端末としては、やはりP703iμから続く路線を継承するモデルということになるのでしょうか。
三浦氏
そうです。薄型、あるいは最薄という点はパナソニックの一番の特徴で、大事にしているところ、ずっと追求している部分です。P703iμでも世界最薄を実現していましたが、今回はスペック面でも時代にあったものを搭載すべく、バージョンアップした形になります。
――スペック面で新たに搭載したものとしては、どのようなものが挙げられますか?
三浦氏
やはりP703iμで実現できなかったワンプッシュオープンの搭載です。そして、P703iμでは2.2インチという液晶サイズで、当時としても大きな部類ではありませんでしたが、今回は3インチ液晶と大画面にしました。そしてもう1つ、FeliCaですね。
――ワンプッシュと大画面というのは薄々予想していましたが、「FeliCa搭載」がそこまで重要なこと、というのは少し意外です。
浅野氏
まずP705iμとPROSOLID μのターゲットは、ビジネス層をイメージしており、そういった方々は外出が多いだろうと考えました。FeliCaの利用シーンが拡大していて、ここは取り込んでいかねば、と判断しました。商品の魅力としても、FeliCaがないよりあったほうが手が伸びやすい、という面もあります。
■ 薄くしてもFeliCaを搭載
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FeliCaのアンテナは、バッテリーカバーの上、カメラ周辺をぐるっと囲んでいる
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P705i/P705iμ/PROSOLID μの電気設計を担当した島田氏
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――薄さを追求する場合、FeliCaチップやアンテナの実装を考えると、搭載は難しいのでは?
太田氏
FOMA端末では、かなり多くの機種でFeliCaが採用されています。携帯電話の基本的な機能として、どこまで標準的なものとして搭載するか考えると、FeliCaは基本的機能になったと言えるのでしょう。もっとも機構設計や電気設計という観点からすると、FeliCa搭載は苦労したポイントです。
島田氏
電気的特性を考えると、FeliCaを使うアプリケーションのうち、たとえば「モバイルSuica」は改札だけの検証ですが、最近のFOMA端末では、iC通信(2つの機種でFeliCaアンテナ部分をかざしあってデータをやり取りする機能)がサポートされており、数多くの携帯電話と重ね合わせてテストすることになります。さまざまな形状の携帯電話が市場に出ており、その通信性能を検証するのは苦労したポイントです。
太田氏
ヒンジ部のとがったあたりにFOMAのアンテナが搭載されており、その下にFeliCaのアンテナが張り巡らされています。ちょうどFeliCaマークが中心にくるようになっています。
――FeliCaのアンテナによる面積はずいぶん狭く見えます。
太田氏
フロントパネル(サブ液晶が配置されている面)はステンレスパネルです。また、バッテリーカバーもステンレスを使っています。FeliCaの通信性能を上げるには、単純に言えば面積が広ければ広いほど良いということになりますが、今回は金属部品を多く使っていますので、電気的な性能、無線特性を確保するのは難しかったですね。そこをなんとか確保しました。
■ 外部接続端子とイヤホンジャックを1つに
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P705iμで10mmを切ることを目指したのは「当然の流れ」だったという
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――薄さの話に戻りますが、今回は9.8mmという薄さになっています。10mmを切るということは、開発当初からの目標だったのでしょうか。
太田氏
はい、そこは自然な流れでしたね。P703iμで11.4mmでしたので、次は10mmを切るぞと。
島田氏
ただし、P703iμの内部構造を比べると、部品の数が少なくなったわけではなく、部材が小さくなったわけではありません。むしろ性能が向上したことで、部品数は増えています。
――では、どうやって薄型化を実現したのでしょうか。
太田氏
まずFeliCa搭載を実現するために、外部接続端子とイヤホンジャックを一体化することで、FeliCaの実装面積を確保しました。また、内側のカメラ(インカメラ)の搭載を見送ることで、液晶の大型化を実現しています。
■ 薄型で搭載したワンプッシュオープンの秘密
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従来のμシリーズと異なり、ワンプッシュオープンボタンを装備
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機構面の苦労を語る太田氏
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――P703iμと比べ、ワンプッシュオープンボタンが実装できたのはなぜでしょうか?
太田氏
まずワンプッシュオープンのヒンジ部は、直径が従来より小さいものを採用しています。ただ構造自体は、従来のワンプッシュオープンを踏襲したものです。
――直径が小さくなる、つまり細くなるということは、薄い端末に搭載できるということですね。その分、剛性に不安が出てきそうですが。
太田氏
はい、ですから剛性を確保できたからこそ搭載できたと言えます。ヒンジ内部には、多くの部品が存在します。ヒンジ部は開閉するときにかかる重さを受け止めますので、部品が小さくなると破損の可能性が増します。これまでは、小さな部品を作る技術がありませんでした。あまり詳しい技術内容は明かせないのですが、今回は特殊な工法で作り込むことで、小さな部品を使いながら剛性を確保したということになります。ただしガチガチに固くすると、その分、折れやすくなります。剛性を保ちながら、ねばり強い機構にするということで、そのバランスをいかにとるか、複数のパターンの金属を組み合わせてテストし、なんとか実現できました。
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デザイン担当の浅野氏。薄くしながら、持ちやすさ、開けやすさを追求したという
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浅野氏
P705iμとprosolid μのボディサイズは、109×50×9.8mmとなっています。横幅が50mmというカタログ値ですが、実は49mmにすることも可能でした。しかし、開けやすさを追求するため、左右に0.5mmずつ、計1mm大きくしたのです。
――どういうことでしょう?
浅野氏
側面をよく見てもらえれば、ディスプレイ側ボディとキー側ボディが密着する面に向かって、窪みを付けて、隙間を作っているのがわかるでしょう。我々は「リブ」と呼んでいるものですが、あえて0.5mmずつ側面を大きくして、へこませるようにしています。というのも、薄さ9.8mmを実現したことで、端末を手にするとキー側ボディを持っているつもりでも、ディスプレイ側ボディまで指がかかってしまいます。一般的な携帯電話では、キー側ボディが厚いので、このようなことはありません。
ディスプレイ側ボディまで指がかかってしまうと、せっかくワンプッシュオープンで開けようとしても指にひっかかってしまいます。リブを設けて、そこに指を置けるようにしたことで、引っかからずにスムーズに開けられるようにしたのです。
持ちやすさを追求すると、48~49mmという横幅が一番持ちやすいという評価を得ていますので、ボディの中でもヒンジ側はスペック値の50mmですが、手のひらでホールドする先端部付近は49mmになっており、持ちやすいという感覚は得られるでしょう。
■ ボードモールドとステンレス
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ステンレスやボードモールドで補強
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――薄くしても剛性を確保するということで、1年前に登場した「P703iμ」では基盤を樹脂で固める「ボードモールド」という技法が使われていましたね。
太田氏
今回もボードモールドを採用しています。ただ、P703iμでの経験で、樹脂を薄くしても剛性が保てることがわかっていましたので、樹脂部分は薄くなっています。これは、内部に金属パーツを入れて、内部の骨格のように剛性確保で頼りにできたことが大きいですね。また、ボディにステンレス素材を用いたことも剛性確保に役立っています。
――ステンレスボディはデザインだけではないのですね。
太田氏
金属を使うのであれば、加工技術が確立されているアルミという選択肢もありえますが、強度面ではステンレスのほうが強いんです。一口にステンレスと言っても、種類がいくつかありますが、今回はかなり固いステンレスを採用しています。固い材料でも、それを加工しているのですが、特にフロントパネルはサブ液晶周辺は磨いて、艶を出した質感ですが、その他の部分はヘアライン加工しています。1枚のパネルでヘアラインと表面研磨と複数の処理を行なっているのは、当社だけの特徴でしょう。
■ ほぼ同じように見えても……
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プロジェクトマネージャーの三浦氏
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歴代のPシリーズ。初代FOMA端末(P2101V)の厚みは36mmだったが、P705iμでは9.8mmに
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――P705iμとPROSOLID μは、外観を見るとカメラの有無だけが違いのようですが、開発はどのような形だったのでしょうか?
三浦氏
もともとコンセプトとして、最初からP705iμとともにPROSOLID μを開発することは決まっていました。705iシリーズの発売時には、カメラなしのビジネス向けモデルを作り、そのベースはμシリーズをベースにするのが一番だろうと考えていましたね。
太田氏
カメラがないことが「その分、楽」とは言えません。同じように見える両機種ですが、構造的には異なります。たとえば、落下テストを行なうと、P705iμではカメラ部が弱いという結果になると、そこを補強する形になるわけですが、カメラなしのPROSOLID μで落下テストすると、カメラがないためP705iμとは異なる部分の剛性が弱いという結果になるのです。
――つまり、カメラの有無によって剛性を確保するための構造が異なると。
太田氏
そうです。これまで国内の携帯電話で、法人向けとして登場した他社製端末のなかでは、カメラ機能だけ使えないようにしたモデルがありますが、その場合、構造は同一と言えるでしょう。
浅野氏
P705iμのカメラ部は、何も考えずに出っ張らせたように見えるかもしれませんが、開発時にはカメラ部をボディのシルエットになじませる方法を検討したこともあります。ただ、ありのままの形状を素直に出した方が全体の質感が高くなりますし、ホールドした際の感覚が悪くなると判断しました。P705iμとPROSOLID μは、いわば余分な肉をそぎ落としたボディに仕上げているのです。
――そのほかにこだわったポイントは?
三浦氏
VIVID UIが導入されたこともあり、メニュー画面でも動きが演出できていますし、全体的な質感に合うようにTGB designさんにコンテンツを制作してもらっています。
島田氏
P703iμに対しては、バッテリーの持ちが短いという指摘の声が寄せられました。そこで、パナソニックが開発したチップセット「Uniphier」を搭載しており、低消費電力化を実現しています。携帯電話では、特にアプリを動作させると多く電力を消費しますが、P703iμと比べて倍程度の時間、駆動するようになっています。より一層、安心して利用していただけるのではないでしょうか。
――ありがとうございました。
■ URL
P705iμ 製品情報
http://panasonic.jp/mobile/docomo/p705imyu/
PROSOLID μ 製品情報
http://panasonic.jp/mobile/docomo/p705icl/
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・ 「ワンセグ最薄」実現の背景とは
(関口 聖)
2008/02/21 11:08
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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