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P904i シャンパン×サーキュラー
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NTTドコモから発売された「P904i」は、パナソニック製のFOMA端末。これまでと同様、着せかえパネルの「カスタムジャケット」に対応しながら、カメラの位置を変更し、カスタムジャケットを付けないスタイルも重視するなど、一歩進んだ変更が行なわれている。
パッケージに付属する、メーカー製ならではのカスタムジャケットや、アシンメトリーな本体デザインを中心に、「P904i」の特徴などを担当者に聞いた。
インタビューには、パナソニック モバイルコミュニケーションズ 第一ビジネスユニット 商品企画グループの笠原 亮一氏、同社 第一ビジネスユニット プロジェクトマネジメントグループ プロジェクトマネージャーの萩原 裕照氏、同社 技術部門 商品開発センター 商品機構設計チーム 設計第二チーム 主任技師の山本 孝一氏、パナソニックデザイン社 AVCネットワークデザイン分野 AVCNモバイルグループ コミュニケーションチーム 主任意匠技師の古宮 幸昌氏の4名に参加していただいた。
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左から、山本氏、古宮氏、笠原氏、萩原氏
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――「P903i」から変わった点や、「P904i」の特徴はどのあたりになりますか?
笠原 亮一氏(商品企画グループ)
大きく変わった点はデザインです。カスタムジャケットという従来からこだわってきたところに加え、ヒカリアイコンや宝石のように光るキーバックライトなど、細かいところにも配慮しています。
もうひとつ、液晶の大画面化と高画質化に取り組み、動画を1000:1のコントラストで綺麗に再生できる機能を搭載しています。
三番目はエンタメ機能として、バンダイナムコの「塊魂モバイル」をプリインストールしました。直感ゲームに対応しています。また、ミュージックプレーヤーは統合プレーヤーとして搭載しています。
――Bluetooth機能が引き続き搭載され、ペアリングなど使い勝手も改善されているようです。
笠原氏
Bluetoothでは利便性を進化させ、あらかじめ接続しておけば3タッチで接続できるようにし、ワイヤレスをもっと身近なものにできるようにしました。Bluetoothは早くから取り組んできた部分ですし、音楽での利用でワイヤレスのBluetoothを訴求してきましたが、今後は動画、テレビでの利用も増えてくると思います。
――ほかに機能面で強化された部分はありますか?
萩原 裕照氏(プロジェクトマネジメントグループ プロジェクトマネージャー)
カメラでは静止画手ブレ補正に対応していなかったのですが、今回、静止画の6軸手ブレ補正に対応しました。
笠原氏
動画では、パナソニックの映像技術を活かし、青や肌色などが綺麗でなめらかに表現できるようになりました。
萩原氏
10MBのiモーションもサービスとして提供されますし、そこに合わせて技術も拡大させています。動画再生時のコントラスト比は1000:1を実現していますが、記憶色補正などの技術を組み合わせて高画質化を行なっています。
笠原氏
メニューでは第2階層までデザインして、本体のイメージに合うよう、各色分のデザインを用意していますね。
■ 新カスタムジャケットで「違う携帯になったかのように」
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デザインされた“ノンジャケスタイル” ※ミラー部の模様は写り込み
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新カスタムジャケットはデザインの自由度が増した
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――「カスタムジャケット」を継承していますが、「P904i」でのコンセプトは?
古宮 幸昌氏(AVCNモバイルグループ コミュニケーションチーム 主任意匠技師)
最初の段階では、カスタムジャケットの採用がはっきりと決まっていなかったこともあり、我々が“ノンジャケスタイル”と呼ぶ、カスタムジャケットの無い状態でも完成するデザインを心がけました。カスタムジャケットの採用が決まってからは、今までのグラフィック・柄で遊ぶタイプではなく、質感を変える、という方向に決めました。カスタムジャケットを付けることによって金属のような質感になるといった、違う質感に変わるというもので、あたかも携帯を買い替えたような気分になれれば面白いのではないかと思いました。
もう一つは、これまでのカスタムジャケットではそのままだった、サブ液晶の形も変えられるという点です。サブ液晶の形が変わるだけで携帯電話の表情は大きく変わりますし、丸い窓になったり見え方が変わったりと、違う携帯電話になったかのように見えると思います。
これまでのグラフィックで遊ぶカスタムジャケットが、Tシャツを違う柄のものに変えることだとするなら、今回の「P904i」のカスタムジャケットはTシャツをYシャツに変える、あるいはジャケットに変えるといった、基本的な構成が変わるものになっていると思います。
――au向けの「W52P」でも“質感”をテーマにした着せかえのパネルが採用されていますが、近いテーマになっているのは偶然でしょうか?
古宮氏
「W52P」もほぼ同時期の開発だったので、「P904i」が金属系の質感、「W52P」は洋服の生地の定番の柄をテーマに、従来のカスタムジャケットとは違う、2つのパターンを検討しました。見え方も含めて、それぞれ方向性は異なっていると思います。
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一見すると金属のような「シャンパン×サーキュラー」付属のカスタムジャケット
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――「シャンパン×サーキュラー」のカスタムジャケットは金属製のようですね。
古宮氏
スピン加工のカスタムジャケットは一見すると金属製に見えますが、実際は樹脂を加工して、蒸着で着色を施しています。デザインモックの時点では、樹脂にイメージ通りのスピン加工が再現できず、仕方なくアルミにスピン加工したものを作りました。このアルミにスピン加工したパネルの見栄えがとても良く、山本に渡して「これと同じものを樹脂で作ってくれ」と頼みました(笑)。
山本 孝一氏(商品機構設計チーム 設計第二チーム 主任技師)
サンプルを渡されたらアルミ製だったので驚いたのですが、社内でもドコモさんでも、このスピン加工の見栄えが大好評でした。樹脂製パネルで再現するために、デザイン側からスピン加工のピッチと深さのデータをもらい、部品メーカーで金型を起こして作るのですが、アルミに施した内容をそのまま樹脂に適用してもアルミでの見え方を再現できず、綺麗にみえるピッチと深さを見つけるまで金型を何度も作り直しました。
古宮氏
どのカラーに付属するカスタムジャケットも金型から起こしていますし、メーカーだから提案できるカスタムジャケット、という内容になっていると思います。
――「ヒカリアイコン」は見た目も面白いですが、こちらも苦労は多かったのでしょうか?
山本氏
当初は、ボディの裏側から絵柄を印刷し、それを透過させて表示しようとしていました。ところが、例えば「シャンパン」では、表面塗装の塗料にアルミが含まれており、光が塗料を通過する課程で影響を受け、どうしても絵柄の輪郭がぼやけてしまっていました。最終的には、よく見ると点灯していない時でも絵柄が見えてしまうのですが、ボディの表面に絵柄を印刷することでクッキリとした見え方を実現しています。「シャンパン」と「プラチナ」のボディは表面に印刷し、「アスファルト」と「ローズ」は裏側に印刷しています。
「アスファルト」に関しては、黒い塗料に光の拡散性が無く、ただ真上に光が抜けていくだけになってしまっていたので、光を拡散させるシートを追加しています。苦労しましたが、それぞれの色にあったチューニングを施しています。
古宮氏
当初、山本は簡単に実現できると踏んでいたようですが、いざ始めてみるとなかなか綺麗に光らず、とても苦労していましたね。「こんなぼやけた光り方なら光らない方がいいね」なんていう話も出たりして、話すと一瞬なのですが、開発にかなり長い時間をかける結果になりました。
山本氏
何度も諦めかけましたが(笑)、なんとか開発できました。
■ 同色系のカラービスを採用
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特に苦労したという「ローズ×ファセット」のカラービス
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――本体カラーに合わせて、カラービスも採用されていますね。
古宮氏
「P904i」ではカスタムジャケットが無いスタイルも重視したいということで、なるべく表面のビスを目立たせない方向で検討し、最終的にはビスにそれぞれの本体カラーに合わせた提案をしました。
開発途中では、付けられていても違和感のない、デザインされたかっこいいビスを採用するという案もありましたが、量産性や製造工程の問題から実現が難しく、少なくとも色だけは本体に合わせる、ということになりました。
山本氏
「アスファルト」「プラチナ」に付けるビスはクロムメッキで難しくなかったのですが、ドライバーを当てても塗装が剥げない、という硬度の面で「ローズ」に付けるピンクのカラービスは苦労しました。当初は、アルミ素材のビスに高硬度なアルマイト処理で着色しようと考えていましたが、通常の鉄ではなくアルミを素材にしたことで、どうしてもビスとしての強度が足りないという問題が発生しました。最終的には、鉄のビスに、部品メーカーと新たに開発した特殊高硬度塗装を施すことで、色の剥げにくいカラービスを開発しました。
■ 色の着いたハーフミラーパネル
――表側のハーフミラーパネルは左右非対称で、色についても同色でまとめられています。
古宮氏
これまでと違う、カメラを裏側にしたデザインが社内でも自然に受け入れられ、では具体的にどういう風に“顔”を作っていこうかな、と考えたとき、一番心がけたのは、飾り立てて個性を出すのではなく、シンプルでありながら一目で分かるような特徴を持たせたい、ということでした。そこで左右非対称のデザインに行き着いたのですが、人によってはバランスが悪い、という印象になる場合もあります。「バランスの良い左右非対称」を探す中で、黄金比と呼ばれる比率を参考にしてデザインしたところ、非常にバランス良く、落ち着いて見えるようになりました。
ハーフミラーパネルについては、山本からハーフミラーができるよ、と提案があり、使ってみようとなりました。ただ、当初予定していた工法ではフラットで綺麗な面にならず、途中で工法を変えました。変えたことでゆがみのない、きれいな面が作れることになったのですが、次は色を出すのに苦労することになりました。
基本的には蒸着という手法で着色しているのですが、蒸着は正面以外の、斜めから見た場合などで色が大きく変わって見えるのです。製造する工場などに何度も足を運んで細かく調整しました。
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開発途中に検討された同色系以外のハーフミラーパネル
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山本氏
例えば開発途中の「シャンパン」のハーフミラーは、傾けると青く見えてしまうものでした。蒸着の層を重ねていく多層蒸着という手法を使うのですが、色の重ね具合で見え方が変わってしまうので、いろいろな組み合わせをシミュレーションし、実際の出来を見て修正する、という作業を部品の製造メーカーと繰り返しました。
古宮氏
どのハーフミラーも最初は傾けると色が変わったりしていましたが、「ローズ」だけはどうしても色の変化を修正できなくて、途中で考え方を変えましたね。
山本氏
通常は透明な素材に蒸着で着色していくのですが、「ローズ」のハーフミラーだけは、着色された素材に蒸着を重ねる、という方法を採用しました。製造時の部材管理が大変なのですが、ここまで色の付いたハーフミラーはなかなか少ないのではないかと思います。
■ カメラ位置を変更
――機構面で、「P903i」から変更した点はどこでしょうか?
萩原氏
機構面も大きく変更しています。まずカメラの位置がサブ液晶側からテンキー側本体の背面に移動しました。液晶も大きくなり、同等以上の性能を実現しながら、全体のサイズは一回り小さくなっています。
山本氏
カメラを反対側のボディに移動し、液晶側のボディを薄くしていますが、液晶側には強度を保つために板金を入れています。補強に板金を使うメーカーは増えていますが、我々として液晶側に板金を使ったのは初めてで、液晶パネルと板金を構造的に成立させるのに苦労しました。
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キー部分は、「P703iμ」のシートキーとほぼ同じ薄さを実現したという
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――カメラの位置を移動させたのはなぜでしょうか?
萩原氏
これまでの配置で液晶を大型化しようとすると、どうしてもカメラと干渉してしまう問題がありました。
山本氏
これまでカメラを液晶側に付けてきたので、デザインを変えても、カメラが液晶側にあることによる、見た目の代わり映えの無さ、という点でユーザーからも意見をもらっていました。カメラを移動させたことでデザインの自由度も上がったと思います。
薄型化という面ではほかにも、テンキー部分でクリアな樹脂による品の良いボタンを採用しながら、「P703iμ」のシートキーとほぼ同じ薄さを実現しました。
古宮氏
904iシリーズは定番のモデルですし、キーの押しやすさを犠牲にしてはダメだろうと考えています。
――本日はどうもありがとうございました。
■ URL
製品情報(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/product/foma/904i/p904i/
製品情報(パナソニック)
http://panasonic.jp/mobile/p904i/
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(太田 亮三)
2007/07/12 11:23
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