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クアルコムジャパン山田社長に聞く
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BREW、チップセット、MediaFLO――今後の動きは?
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刻々と進化する携帯電話の心臓部であるチップセット、auの携帯電話で標準機能となったBREW、そして米国で先行スタートした携帯向け放送サービスのMediaFLO。いずれもクアルコムが提供するプロダクトだ。その最新状況をクアルコムジャパン代表取締役社長の山田 純氏に聞いた。
■ BREWアプリの配信システムも進化
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クアルコム山田氏
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2005年5月に発売されたW31T(左)と、W32SA(右)がKDDI初のBREW 3.1搭載機
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――まずBREWの話題から伺います。BREWでゲーム配信する場合、審査などに時間がかかるということでしたが、最近は「BREW 3.1になってスピーディになった」という話を耳にします。
まず、KDDIさんで利用されているBREW 3.1はもう2年ほど利用されています。そもそもBREWは、コンテンツプロバイダでも、携帯電話固有のネイティブな機能をメーカー同様のレベルで利用できるというのが特徴の1つです。携帯電話のプラットフォームとしての部分に加えて、End-to-Endのサーバー配信システムも含まれていますが、配信システムはエンドユーザーもコンテンツプロバイダからもあまり見えません。しかし、KDDIさんで2003年にBREWが導入されて以来、着々と配信の仕組みも進歩してきました。BREW 2.1から3.1にバージョンアップするのに伴い、配信関連の部分が改善され、無駄な時間が極力省かれているほか、検証ツールが充実してきたなど、目に見えない部分が進歩してきて、「スピーディになった」ということに繋がっているのでしょう。
KDDIさんから直接聞いたわけではないのですが、検証プロセスが大きく簡略化されており、特に実績のあるコンテンツプロバイダさんであれば、より簡便な審査になるなど、運用上の工夫をされているようです。
クアルコムとしては、それでもコンテンツプロバイダさん全てに満足してもらっていないということは認識しています。これからも改善していきたいですね。
――配信システムの進歩、検証ツールの充実、運用上の工夫ということですが、もう少し詳しく教えて下さい。
BREWアプリは、ウィルス対策という点からも、検証を経て電子署名を入れてから配信する形です。数年前に作られた、古い仕組みですが、現在でも通用しています。BREWアプリが実際に配信されるまでの流れを見ると、実はかなりマニュアルで操作しなければなりませんでした。1つのアプリが登場すると、機種ごとの組み合わせを検証しなければなりませんが、そこは非常に人手のかかるプロセスでした。そこで、当社とKDDIさんが協力して、その部分を自動化し、端末とアプリの組み合わせによる検証を改善しました。
また、検証ツールが充実する一方、端末メーカーさんもBREWの搭載にノウハウを積み重ねてきましたので、「機種ごとの差異」がだんだんとなくなってきています。さらに、エミュレーターも登場していますので、実機に頼らなくても検証できる環境が整ってきました。また、先述したように、実績あるコンテンツプロバイダさんに対するKDDIさんの運用方針もスピーディさを実現した点と言えるでしょう。
――BREW Debuggerというツールが登場する予定ですが、これにより、さらに効率化が進むことになるのでしょうか?
ええ、BREW Debuggerはコンテンツプロバイダさん向けのツールですが、非常に有効と見ています。BREWアプリのデバッグを行なう際には実機、あるいは、ICE(In-Circuit Emulator)と呼ばれる機器が必要でした。しかしICEを持っているコンテンツプロバイダは存在しないでしょうから、これまでは実機上でデバッグするしかなかったと思います。しかし、BREW Debuggerは、ICEなしでの検証を可能にするツールです。組込エンジニアがメーカーで行なうような検証をコンテンツプロバイダも行なえるようになります。
――KDDIでは、KCP(KDDI Common Platform)を取り入れていますが、これはBREWアプリのスピーディな配信に関連するのでしょうか?
BREW 3.1に移行したことにより、これまで端末メーカーさんが独自実装していたユーザーインターフェイスやブラウザ、メールといった組込アプリと、ダウンロードするゲームなどのBREWアプリが同じネイティブ機能に触れられるようになりました。これはBREWの本質的な仕様であり、名実ともに3.1から実装され、コンテンツプロバイダさんもメーカーさんと同じように携帯電話のネイティブ機能にアクセスできるようになりました。
KCPは、独自実装されていたユーザーインターフェイスやブラウザ、メールなどを取りまとめて用意したものです。これらをBREWの上に構築したものです。KCPによってスピーディになったと言うよりも、「BREW 3.1」によって、BREWの本質的な部分がうまく利用されているのです。
このような状況は、他キャリアにはありません。ドコモさんはMOAPという形でプラットフォーム作りを進めていますが、ネイティブアプリとJavaアプリという形で環境が異なります。ソフトバンクモバイルさんは「POP-i(ポパイ)」というプラットフォームを開発すると発表されていますが、メーカーの環境とコンテンツプロバイダの環境が異なるかどうか、という点については言及されていません。今もなお、BREWのコンセプトはユニークなもの、という状況が続いていますね。
――今後、BREWで実現できるアプリは、従来より幅広くなるのでしょうか?
BREWの最新版としてバージョン4がリリースされる予定ですが、その際には、複数のアプリケーションを同時実行できる、パソコンと同じようなマルチタスクが実現されます。既に、一部の携帯電話ではメーカーさんの独自実装でマルチタスクが実現されていますが、BREW 4.0の機能としてマルチタスクをサポートします。BREWアプリの幅に変わりはありませんが、複数のアプリを同時に実行できるわけです。
■ チップセット
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3月末の「CTIA WIRELESS 2007」でもMSM7500をアピールするデモが用意されていた
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――auの夏モデル発表会では、今冬モデルで新チップの「MSM7500」を搭載することが明らかにされました。MSM7500はデュアルCPUですから、それでマルチタスクが実現するのかと想像していました。
チップというよりも、MSM7000シリーズと同時に導入するBREW 4.0によってマルチタスクが実現することになります。というのも、世界全体で見ると、シングルCPUのチップセットを求める市場のほうがまだ大きい。従って、海外市場では現行のチップセットにBREW 4.0を搭載することになります。チップセット能力が限られるため、同時にできることは少なくならざるを得ず、それでユーザーが満足するかどうかわかりませんが……。ただし、ハイエンド機種へのニーズが高い日本市場では、そういう状況にならないでしょう。まずはハイエンド市場でMSM7500とBREW 4.0を導入した上で、中下位機種に向けて展開していくことになります。
――そのMSM7500は3年前に発表されたチップですが、あらためて特徴を教えて下さい。
もちろん携帯電話としての最終規格がどうなるかはわからないところがありますが、MSM7500導入にあわせた一番のトピックはBREWのマルチタスク化でしょう。また、音楽や映像など、いわゆるマルチメディア機能が強化されており、ワンセグのような重い処理が要求されるものでも、ワンチップで処理できます。これまでワンセグ機能搭載の携帯電話は、専用受信機と信号処理チップが必要でしたが、MSM7500では受信機直結でデコードできますので、よりシンプルな構造になり得ます。消費電力や発熱にも影響を与えない形になっています。
――昨年から今年にかけて、携帯電話の音楽再生機能は、専用チップを搭載することで駆動時間の長時間化が図られてきました。
音楽再生のようにディスプレイを使わない機能であれば、メインCPUを休ませるメリットは大きいでしょう。しかし、ワンセグのような機能であれば、異なります。オーディオとビデオの違いですね。
――ワンセグに限らず、MediaFLOも同じということに?
ええ、CPU側で処理する内容に変わりはありませんから。
――「MSM7500」はCDMA2000向けチップですが、W-CDMA向けチップの国内動向は?
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山田氏は、MSM7500や今後のCPUロードマップ、BREW 4.0のマルチタスク化について説明
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現在、W-CDMA方式を利用しているNTTドコモ、ソフトバンクモバイル、イー・モバイルの全社で当社のチップは利用されています。シェアとしてはイー・モバイルが一番大きいですね(EM・ONEで採用)。ソフトバンクモバイルさんでは2~3社に利用されていて、シェアも高いです。NTTドコモさんでは、現在、海外メーカーさんの端末でのみ利用されています。一部の携帯電話で、当社の社名が刻印されていることもありますが、これはあくまで「クアルコムの特許を使っている」ことの証であり、チップを使っているという意味ではありません。
――W-CDMA向けチップのロードマップは?
CDMA2000向けより、若干遅れることはありますが、ほぼ同じような形で進めています。2007年からはMSM7200が供給されていますね。世界規模で見ると、W-CDMA方式向けでは、Windows Mobileのようなスマートフォンで当社のチップが多く利用されています。
日本と韓国以外の世界各国では、ハイエンド端末と言えばいわゆるスマートフォンです。モバイル環境下でイントラネットと接続して利用するという形、これが実情でしょう。これまでは、メーカーさんが独自実装で当社のチップセット上でWindows Mobileを実行するという形でしたが、今年後半からはクアルコム・マイクロソフトの協業によるソリューションが提供されはじめ、年内にも同ソリューションを利用したWindows Mobile端末が登場するでしょう。
■ スマートフォンの動向
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ユーザーとは異なる観点から、iPhoneへの期待が語られた
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――そういったスマートフォンは、日本でも登場するのでしょうか?
正直に申し上げて、日本についてはよくわかりません。携帯電話でのデータ通信という使い方は、日本では一般消費者がリードして、マルチメディアやメールなどで盛り上がっています。海外のような「ビジネス層がワイヤレスでPDAを使う」という形とは異なる発展形態です。今後、日本でスマートフォンがどうなるか、まずは様子見というところでしょうか。個人的には「話題になっているほどは成長しない」と感じています。海外では携帯電話は電話であり、もっと幅広いことをやるならばスマートフォンという形になってきましたが……。
――余談ですが、iPhoneはどう見ているのでしょうか?
GSM対応ということで、当社のチップは利用されていませんが(笑)、当社のビジネスにとって良い提案だと思います。iPhoneによってマルチメディアなサービス、リッチなコンテンツを使うという利用シーンが欧米の一般ユーザーに広まればと。当社では、「3G端末でデータ通信をもっと使って欲しい」と考えていますので、iPhoneはそういった状況を切り開く存在になり得ると思います。なかなか開拓できなかった欧米市場が開拓される可能性があるということです。非常に、市場の活性化が期待できますね。
――総務省でのモバイルビジネス研究会の流れによっては、日本市場で機種へのニーズに変化が起きるかもしれません。
現状では、ハイエンド端末もローエンド端末も、日本ではしばらく時間が経つと安くなります。ソフトバンクモバイルさんの割賦販売のように、新しい販売方法であれば、エンドユーザーは端末のグレードを選択する可能性がありますね。とはいえ、我々としては機能や性能の良いチップセットを作り、高機能機種と中下位機種の両方を常に追いかけていかねばなりません。
■ MediaFLOについて
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MediaFLOを利用する放送システムは、VHF帯ハイバンドで周波数が割り当てられる可能性がある
(6/8 MediaFLO Conference 2007でのメディアフロージャパン企画増田氏の講演資料より )
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――続いてMediaFLOについて教えて下さい。日本では企画会社が立ち上がっていますね。
まず、ワンセグによって携帯電話で映像を見るということが認知され、良い流れができています。2011年7月以降は、VHFハイバンドのうち17MHz幅が放送用途に割り当てられることになり、非常に楽しみにしています。そのチャンスをモノにしていきたいですし、KDDIさんやソフトバンクさんとは事業化に向けて検討を進めていますから、そのタイミングでのサービス提供は十分可能だと思っています。
ただし、2011年の夏はまだまだ先の話です。その頃には「放送型サービスが何なんだ」と陳腐化するかもしれません。市場の流れを見極めて、MediaFLOが活かされる形態を模索していきます。
ワンセグ端末は今年度末に2,000万台に達するという話もありますが、実際にユーザーがどの程度利便性を感じているのか、サイマル放送という点から、携帯の小さな画面で視聴するものが据置テレビと同じで良いのかどうか、提供コンテンツの内容はじっくり考えていきたいですね。
――現在の状況で想像すると、ワンセグは固定テレビモバイル版で、MediaFLOは異なる内容として、差別化されるのかと思っていましたが……。
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ユーザーが作ったコンテンツがMediaFLOで流れれば、と考えるのも面白いと語っていた山田氏
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2008年秋以降は、サイマルではなく、ワンセグ独自の内容になる可能性はあり、実際にいくつかそうなるのでしょう。ただ、ワンセグは1チャンネルで1種類の番組内容ですが、MediaFLOは1チャンネルで複数の番組を提供できます。蓄積型のクリップキャストなどが同時に提供できますから、ワンセグとは違いが出せるでしょう。
――放送以外に、MediaFLOではどのようなサービスを?
やはり特徴はクリップキャストだと思います。携帯電話の内蔵メモリは倍増しているような状況で、受信して蓄積できるコンテンツの量はどんどん増えていく。その時々に応じて、クリップを楽しめるというのがMediaFLOが得意とする使い方になるのでしょう。既にEZチャンネルというサービスが登場していますが、さらに容量の制限がなくなれば、どんな映像が配信されていくのか、これは注目に値すると思います。
たとえばiPod向けとしてスタートしたポッドキャスティングはそれなりの人気を博していますね。これがクリップキャストの代表だとすれば、携帯向けサービスとして、より多くの人にリーチできるというのは非常に大きなことです。放送局が作り込んだコンテンツだけではなく、YouTubeのようなものがモバイルに来て、自動的に蓄積されたり、通信経由で配信され、趣味趣向にあわせて楽しめると。
――MediaFLOでは、オープンな環境として誰もがコンテンツを配信できるようにするということですか?
既にMediaFLOの商用サービスがスタートしている米国では、ワンセグがありませんから、多チャンネルの有料テレビサービスになっています。しかしこれは、有料かどうかという違いがあるだけで、ワンセグとほぼ同じ構造です。
数年後のコンテンツ配信状況を考えると、現在ネットの世界で発生していること、UGC(ユーザー生成のコンテンツ)がMediaFLOとうまく統合していくということになって、意味があるのではないでしょうか。
現在、YouTubeのようなサービスは、なんとなく悪いイメージがついていますが、今後どう運営されるのか。きちっと確立されていけば、大手のコンテンツプロバイダだけという状況ではなくなるでしょう。ネット利用の広告などもMediaFLOが取り込むとどうなるか、考える余地は十分あります。YouTubeのような存在が地位を確立したときに、MediaFLOがその分野とフレンドリーであれば何がどうなるか、考えてみるのも面白いですね。
■ 広域・高速無線通信
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3月の「CTIA WIRELESS 2007」では、4種類の通信でUMBを紹介
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――3月末にCTIA Wireless 2007でUMB(Ultra Mobile Broadband)のデモを拝見しました。これはCDMA2000 1xEV-DO Rev.Cのうち、下位互換性のない技術とのことですが、インフラをゼロから構築するのは難しいのではないでしょうか?
まず「互換性とは」という話から入りますが、そもそもCDMA2000 1xと1xEV-DO(auのCDMA 1X WINの通信方式)は互換性がありません。ですから、日本では異なる周波数となっています。1xは音声と電話と低速データ通信で、より高速データ通信であればEV-DOを、ということですね。そこで、携帯電話側はデュアルモードにしておいて、一般ユーザーから見えない形で統合していったことになります。ただ、1xとEV-DOは、同じアンテナから電波が発されれば、同じようなエリアカバーで、ハンドオーバーなども同じような性能になっています。UMBも似たような形なのです。ゼロから作るよりも、既に3G免許を持っている事業者が展開していったほうが有利でしょう。もちろんそれは「新規参入では無理」というわけではありません。投資と顧客獲得などを考えた経済合理性での話ですね。
――技術面での話と経営判断の話ということですね。ところで、昨年までクアルコムではIEEE802.20をアピールしていましたが、これはUMBと同じものなのでしょうか?
技術としてはほぼ同じものです。ただ、UMBは3G事業者が3Gの延長として適用する場合に用いる呼び名、802.20は携帯用周波数とは異なる技術を導入する場合に……ということです。
――なるほど。高速無線通信という点では、WiMAXが有力視されていますが、現時点ではどう見ていますか?
どんどんやっていただきたいと思います。そうすれば、現在の(WiMAXの)仕様では良い性能が出せないというのがわかるでしょう。
――仕様、性能とは1基地局あたりの収容数や、ハンドオーバーのことでしょうか?
そうです。容量とモビリティを確保していこうとすればするほど、WiMAXも最終的にはこちら(UMB/802.20)に近づかざるを得ないと思います。話題になっているからといって、すぐにWiMAX市場に参入する予定はありません。だからといって、WiMAXに対抗するような積極的なキャンペーンを打つつもりもない。WiMAXはWiMAXでぜひやってみて、その結果、性能がどう出るか見ていただければと思います。
ユーザーのニーズを満たし続けるのは難しいでしょう。たとえばVoIPのようなアプリケーションから、映像のダウンロードまで、そういったことをきちんとやろうすると、限界はおのずと見えてきます。もちろん、我々のWiMAXに対する分析が誤っていることはありえます。そのときはそれでかまいませんよ。
――ありがとうございました。
■ URL
クアルコムジャパン
http://www.qualcomm.co.jp/
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(関口 聖)
2007/06/13 14:54
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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