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フジテレビに聞く、放送と通信の連携
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テレビの常識を覆す「アイドリング!!!」プロジェクト
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「アイドリング!!!」パソコン向けサイト
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フジテレビは、アイドルをテーマにした番組「アイドリング!!!」を制作し、CSでの放送とパソコン向けにオンデマンド配信を行なっている。メディアミックスプロジェクトとして、テレビ放送、パソコン、携帯電話の連携を前提に企画されたもので、放送と通信との連携を進める同社の“本気”のプロジェクトと言えるだろう。
同番組では、9人のアイドルの卵が登場。平日の生放送のほか、オンデマンド配信やブログを通じて日々アイドルとして成長していく姿を見ることができる。視聴者は、番組のさまざまな企画に意見などを応募・投稿して参加できるなど、通信との連携を大胆に取り込んだ企画になっている。
フジテレビが描く放送と通信の連携について、バラエティ番組を中心に数々の人気番組の制作を努める、編成制作局 バラエティ制作センター 部長の吉田 正樹氏に話を聞いた。
■ “さざ波”の原点を求めて
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フジテレビジョン 編成制作局 バラエティ制作センター 部長の吉田 正樹氏
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――本格的に放送と通信が連携する番組が始まったわけですが、ここに至るまでどのような経緯があったのでしょうか?
配信用のコンテンツを作りたいという考えは、かなり以前から持っていました。最近はデジタルコンテンツを積極的に手がけていかなければいないという状況もありますが、地上波のテレビ放送のリーチが変わってきたのではないか、とひしひしと感じるようになっていました。
これまで、「井の中のカワズ君」という検索をテーマにした番組を2005年の秋からヤフーさんと組んで作りました。今までテレビ番組で採り上げるものは、テレビマンの個人的なマーケティングによるところも大きかったのですが、ここでの仮説は、検索というものの本質は一人ひとりは意識しなくても数になると大きなトレンドになるのではないか、そこには何か“宝の山”があるのではないか、というものでした。
遡る2004年6月頃にはすでに、インターネットとテレビの放送で一緒になにかをやる番組を作りたいね、という話がその頃に知り合った仲間の間で出ていました。当時はポータルサイトがインターネットの入り口で、いかにそこに人を集めるかが注目されていましたが、いずれ検索ページがインターネットの入り口になる、というのが私たちの勘でした。
今ではその通りになっていますが、2005年の春の番組改編に向けた準備を進める中で、検索をテーマにした番組の企画を通そうと考えていたのです。ところが年が明けて2005年に入るとライブドアとの一件があり、社内で「ネットと放送の連携・融合」といったことを言い出しにくい空気になってしまいました(笑)。
現場の人間としては、インターネットやモバイルと、テレビ放送・番組がどうやって調和をとっていけばいいのか、という課題はずっと持っていましたし、ライブドアとの一件も落ち着き、2005年の10月には深夜で先ほどの「井の中のカワズ君」をスタートしました。しかし1年の出遅れは大きく、当初は検索が来るぞと思っていたものの、番組を始めた時にはもう検索がインターネットの入り口になるのは当たり前になっていました。
番組としてはその後、くるぞくるぞ、ドカン、という意味の「くるくるドカン」という番組を作りました。これはトレンドの“波”の最初を感じよう、というものでした。この番組を作って初めて気が付いたのですが、まず、既存のメディアが何かを採り上げることでネットの世界を中心に“さざ波”が起こり、そのさざ波を地上波などのテレビ番組が採り上げると検索がドーンと伸びて、それをさらに我々が注目して、というように、ネットと既存メディアでピンポンのようなやり取りになっているということです。
2006年の秋からは、「カワズ君の検索生活」と名前を変えて検索の番組を放送しています。ここでは「グルメ急上昇ランキング」というコーナーがありますが、これは番組で採り上げた後に検索数が伸びて変化が起こったものを紹介するという内容です。
こういったように、最初の“さざ波”はどうやったら作れるのか、“さざ波の原点”は何か、というテーマがここ1年半のフジテレビの番組制作のテーマであると言えます。テレビは大きな波を起こせますが、最初の波が大事だろうということで、2006年の春からは放送側だけでなくデジタルコンテンツにも注力しています。
■ 「お金を払ってでも見たいものにしたい」
――放送とデジタルコンテンツの連携で難しかった部分はどこでしょう?
これまでは、放送と通信の連携がうまくできていない状況だったのですが、通信側に近い感覚のCS放送は10年の歴史があり160万人の有料会員がいますし、CSは放送と通信との橋渡し的な役割を担えるのではと考えています。まずはしっかりとしたコンテンツを作り、たまたま出口が地上波であったり、インターネットであったりという、正攻法というか、利益最優先ではなくまずちゃんと番組を作る、ということが重要です。
“さざ波”を起こす、という点では、フジテレビの王道として「お笑い」も選択肢してありますが、伝統芸ともいえる「アイドル」しかないんですね。「夕ニャン」「ひょうきん族」といった1980年代の成功のDNAを持っていますし、1990年代はその成功パターンをやってもやっても当たらなくて混迷したんですが(笑)、21世紀になり、この必勝パターンでもう一回ちゃんとやれば必ず当たる、という確信があります。マイナー、メジャーのピンポンとでもいうか、マイナーなものがメジャーになっていく過程が面白く、今度はメジャーになった波及効果でマイナーなものに光を当てていくという構図ですね。
今回の「アイドリング!!!」で一番難しかったのは、リアルタイムに進めていくという部分です。「アイドリング!!!」の基本は生放送で、「生放送」「ベルト(放送)」「アイドル」「リアルタイムの成長」がコンセプトですが、これはつまり、視聴者がリアルタイムに共有できるということです。「夕ニャン」が良かったのは、毎日そこで生でやっていたからです。録画でまとめてみせられてもリアルさは出てきません。お笑いの世界で言えば、「笑ってる場合ですよ!」「笑っていいとも!」がアルタで毎日やっているということが大切で、そこでお祭りをやっているということ。毎日お祭りをちゃんとコツコツ送り出せる、というのがフジテレビの優れている部分なんですね。
良い物を作れば見てくれるだろう、ということではなく、集まった人垣をかき分けても見たいような、ビビッドな祝祭性がないとだめなんです。そして、その次にあるのは、お金を払ってでも見たい、垂れ流されていないけれど見たい、という部分につなげる、ということです。CSは加入すれば見られますが、オンデマンド配信との連携にもこだわったのは、最終的にはお金を払ってでも見たいという、テレビの常識を覆すものにしたかったからです。
これからはテレビマンもこういう点を意識することが大切になると思います。(番組)枠があって、電波が守られていて、「タダだから見られているんじゃないの?」と言われることに対する危機意識が「アイドリング!!!」の制作につながっています。
チーフプロデューサーには「トリビアの泉」をはじめ「笑っていいとも!」「クイズ!ヘキサゴンII」「HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP」などを担当した各スタッフが集まり番組をスタートできたという点も、自信を持っているところです。
■ 本格的な配信も前提にした番組作り
――携帯サイトですでにさまざまな番組のコンテンツを配信していますが、違いはどこにあるのでしょう?
デジタルコンテンツ局では、通常は地上波の部署にコンテンツや素材を提供してもらって有料コンテンツとして配信しています。公式サイトは便利なシステムですが、いつまでも頼っていられないという考えもあり、自ら市場を開拓していくにあたって、勝手サイトやFMCを意識した展開で、放送と通信が連携することを前提に企画をたてていこう、ということになりました。
「アイドリング!!!」に関しても、通信での展開を中心にした企画で番組をつくれないか、というものです。番組を制作した後で配信を決め、配信前になって権利関係を調整するのではなく、最初から通信でビジネスを行なうことを前提に権利者との話し合いを行ない、配信の了解なども得た上で番組を制作しています。
――配信を前提に番組を企画・制作するのはテレビ業界的に珍しいのでしょうか?
恐らく本格的には初めてではないしょうか。日本音楽事業者協会(芸能事務所が加盟する業界団体)でも協議され、理事会の了解も得て、実験的にやってみようということになっています。「アイドリング!!!」には有名なプロデューサーが名前を連ねていますし、フジテレビ全社として本気で番組を制作していくという姿勢が伝わったのだと思います。
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携帯サイトからでもさまざまな企画に参加できる
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――ワンセグやデジタル放送そのものと連携した取り組みはあるのでしょうか?
ワンセグについては2008年のサイマル放送義務終了後にどういったコンテンツを出していくか、社内でも議論しています。ただ、まだ未知数の部分もあり、現在の地上波と同じ内容を見たいというニーズに応える中でどこまで新しいことができるのか、正直まだ分からない部分ですね。
「アイドリング!!!」ではテーマの投稿といったように、携帯電話からファンが参加できることを前提に番組を企画していますが、ワンセグ端末が普及すれば、データ放送部分から参加できる、といったことも出てくるかもしれません。
――FMラジオでは携帯電話との連携も顕著になっていますが、同じようなことがテレビでも起こるのではと期待しています。
リクルートと組んで「コネテレ」という会社を作りました。ワンセグのデータ放送部分で番組内容に連携した誘導やクーポンを提供するというもので、クーポンを利用した場合にはアフィリエイトによる収入が発生します。こういった、視聴をきっかけにしたビジネスもやっていきたいですね。ただ、今は番組があって、おまけでそれらの要素が付いてくる、という状況は否めません。
「アイドリング!!!」はまだ地上波の番組ではありませんが、携帯電話向けサイトでの展開も前提にしていますし、制作発表の記者会見の模様も公開していたりします。通常はプロダクションとの交渉も絡むため記者会見の様子まで公開しないのですが、それもビジネスに絡めて公開していこうというもので、そういう発想でスタートするのはすごく新しいことでした。
ワンセグがどのようなビジネスになるのか分からない部分は多いですが、ワンセグで親和性の高い「生」「参加性」「毎日定時にあるような習慣性」といった要素は今の「アイドリング!!!」でもすべて満たすように作ってあります。特に生という要素は重要で、FMのようにリクエストをすぐに投稿して瞬時に番組に反映できるようになれば理想的ですが、それができなくても、意見を翌日には盛り込むといったように、自分達が育てたという参加感が携帯電話ならではの特徴になると思います。
今はまだCS放送がメインで、本当に“さざ波”程度ですが、地上波に出れば大きな波になると予想しています。
――オンデマンド配信を携帯電話でも見たい、という要望も出てくると思うのですが。
次の世代の携帯電話がどこまで動画が見られるものになるのか、という点と連動してくる部分だと思います。画質を意識してパソコン向けは1.5Mbpsでも配信していますが、携帯電話向けとして最適な画質や、30分なのかダイジェストなのか、配信する長さも市場と相談しながら考えることになると思います。動画配信自体は、今後十分あり得るコンテンツだと思います。
――携帯電話キャリアも注目し始めたブログやSNSについてはどう考えていますか?
フジテレビではパソコンと携帯で楽しめる「フジテレビZOO」というブログを集めたサイトを始めていますし、「アイドリング!!!」メンバーが交代で更新するブログもあります。
――携帯電話でリアルタイムに参加できるような企画はあるのでしょうか?
地上波で本格的に始めることになれば、という内容ですね。もちろんそういった試みも前提としていますが、現在はまだ母集団がそれほど多くないという面もあります。現在、携帯電話などで各アイドル別にテーマを毎日投稿してもらっていますが、これが地上波になると投稿される数の桁が2つは違ってくると思います。
――ワンセグなど携帯電話の機能連携で要望などはありますか?
キャリアには、ワンセグを見ることでトラフィックの減少につながるのではないか、という警戒感があると思います。ワンセグのデータ放送のリンクからサイトへ飛ぶ数も思ったほどではない、と言うキャリアの担当者もいましたし、キャリアにとってどういう意味があるのかという状況なのかもしれません。
しかし我々にとってみれば、普及のためにももっとワンセグ対応端末を出してほしい、と感じていることは確かです。ワンセグは決してキャリアのトラフィックを減らすことが目的ではないですし、トラフィックを使うような新しい展開はまだまだこれから出てくると考えています。
そのためにも、家ではテレビやパソコンで、外出先では携帯で、といった展開を、番組を絡めて行なっていくのがポイントになると思います。
――本日はお忙しい中ありがとうございました。
■ URL
「アイドリング!!!」番組ページ
http://www.fujitv.co.jp/idoling/
フジテレビジョン
http://www.fujitv.co.jp/
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(太田 亮三)
2006/12/12 11:12
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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