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「9(nine)」開発者インタビュー
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通話・メール・Webに絞ったシンプルデザイン思想
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12月14日、W-SIM対応のケーイーエス製PHS端末「9(nine)」(WS009KE)が発売される。カメラやマルチメディア機能は搭載せず、通話・メール・Webブラウジングと3つの機能に特化し、シンプルなストレート形状が採用されている。ウィルコム プロダクト統括部で「9(nine)」プロダクトマネージャーの田尻圭史郎氏とデザイナーとしてプロジェクトに関わった堀田峰布子氏に、開発コンセプトを聞いた。
■ ミニマルを追求
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ウィルコムの田尻氏(左)と堀田氏(右)
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右がプロトタイプ
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――「9」の誕生まで、どのような経緯を経てきたのでしょうか?
田尻氏
開発にあたっては堀田の想いがあって、それを具現化してきたことになります。
堀田氏
まだ「9」の開発企画そのものが存在しない段階の話ですが、ウィルコムのラインナップはもちろん、世の中の携帯電話を見渡した時、手に持った時のフィット感などを踏まえて「9」の原型となるプロトタイプを作っていました。この形状は、ありそうでなかったものです。いわゆるデザインケータイとは少し違うアプローチを目指し、どこまでそぎ落としたデザインが成立し得るか、考えていました。
そこへ「9」の企画がスタートしました。そしてスタンダードな機能、つまりユーザーが本当に使う機能は何だろうと調査し、検討した結果、やはり通話・メール・Webブラウジングだろうという結論に達しました。そして、そのコンセプトを伝えるにはこの形状が最適だと考えたのです。
「仕方ないから搭載する」「仕方ないから見送る」という考え方ではなく、自分たちも含めて、本当に使う機能をより使いやすくするということです。
他社の端末では折りたたみタイプが主流です。大画面化などのメリットはありますが、「本当はストレートが欲しい」という方は確実に存在します。そういった方たちに向けて、新たなアプローチとして、機能をそぎ落とした潔い端末として、このスクウェアなデザインが響くのではないでしょうか。
田尻氏
最終的には、機能もデザインもそぎ落として洗練された製品を目指すことになりました。
――携帯電話・PHSでは多機能な製品がもてはやされているように思えます。「9」のコンセプトをシンプルな方向にすることに不安はありませんでしたか?
堀田氏
確かに怖さはありましたね。ただ、SIM STYLEであったからこそ「9」が実現できたと思います。ユーザーが多機能なものを求めるのであれば、「W-ZERO3[es]」がありますし、もっとシンプルなものということであればnico.が利用できます。各機種の役割が明確にポジショニングされているからこそ、「9」の開発というチャレンジができたと思います。
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スクウェアでシンプルな外観
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――開発にあたって、社内から反対の声などはありましたか?
田尻氏
これまでを振り返ると、難産だったかなと思います。ここまでそぎ落として市場が存在するのか? という疑問に対して否定も肯定もできない時期がありました。開発を進めていく中で、だんだんとコンセプトが明確になって、力強くなってくると、社内でも「これであれば」という意見が多く寄せられましたね。
堀田氏
そういう意味で、プロダクトデザインとともにユーザーインターフェイスを含めた完成度の高さを目指してきたところがあります。上質で精緻な雰囲気をいかにして作るか、考えてきましたね。コンセプトは明確でしたので、それをケーイーエスさんに伝えると、非常によく理解してもらい、共感していただけました。
田尻氏
最初の頃は分厚い形状でしたが、部材の1つ1つを表に書き出して「これは削れる」「まだいける」とやってきました。たとえばバッテリーは、最後の最後まで薄い部材を探して、最終的にそれまでよりも0.2mm薄いものを見つけ出して、薄さ11.5mmというボディ形状が実現できました。
堀田氏
スクウェアなデザインでしたので、そのこだわりを実現するためにケーイーエスさんには機構設計と金型にこだわっていただきました。ただ、いわゆるデザインケータイではありませんので、デザインにこだわりながらもものづくりの部分でも合理的なものになるよう、ケーイーエスさんとともにできる限りの努力をしました。
■ ハード開発について
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薄いボディを実現するために苦労を重ねたという田尻氏
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――ケーイーエスは、ユーザーからするとあまり馴染みのないメーカーです。
田尻氏
まず開発にあたっては、W-SIMだからこそ手間が省けた部分はあります。ただ、ケーイーエスさんは無線通信機器を手掛けており、中国向けPHS端末を製造するなど、技術面では信頼性が高いメーカーさんです。高速道路に設置されている非常電話や、自衛隊向け機器なども製造されています。真面目な一面があって「9」の開発では、「本当に四角くて良いんですか? 耳が痛くなりませんか?」と心配されたこともありましたね(笑)。
――ハードウェア開発で苦労したところは?
堀田氏
11.5mmという薄さにたどり着くまで、非常に大変でしたね。
田尻氏
また2インチというディスプレイサイズに決定するまでも悩みました。この端末デザインでありながら、Webブラウジングすることを考えると、バランス的に2インチが最適という結論になりました。また、「9」の横幅は、アップルコンピュータの「iPod nano」と同等ですが、このサイズ感にたどり着くまで苦労しました。最近は、ワイドQVGAディスプレイも登場してきていますが、「9」は胸ポケットにすっぽり収まるサイズにしたいと考えていました。
――通話・メール・Webブラウジングに絞ったということですが、搭載するかどうか迷った機能はなかったのでしょうか?
田尻氏
たとえばイヤホンジャックです。そして個人的にはカメラ機能を搭載するかどうかという点は大きかったですね。ただ、ボディの薄さや本当に必要な機能かどうか、という点から、カメラを搭載しないという決断を下しました。
堀田氏
「この機能、欲しいですか?」と聞くと、誰もが「それは欲しい」と答えます。ただし、本当に欲しいかどうか、突き詰めていくとある程度本質的な部分が見えてきます。
田尻氏
そこでW-SIMだからこそ、という点が活きてきますね。カメラなど他の機能を求める場合は、他の機種でフォローできると考えました。
――実際に使ってみるとサクサクした操作感が印象的です。
田尻氏
「9」では、もたつく印象を与えないように、ARM9ベースのアプリケーションチップを搭載しました。これは“○○機能”とは言えませんが、特徴の1つにしたかったポイントです。また、使い勝手にこだわって、さまざまなショートカット・長押し・短押しを用意しています。
堀田氏
W-OAM対応のW-SIMが同梱されるということで、機能はそぎ落としながら、使用感やユーザービリティは向上していると思います。
■ 軽快な操作感、シンプルなボディカラー
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分を示す数字が15秒ごとにズレていく
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――ユーザーインターフェイスは独特の雰囲気に仕上げられています。
堀田氏
端末デザインと同じシックなモノクロの世界観をベースにしています。単色の待受画像は、当初からプリセットしたいと考えてしましたね。またユーザーさんが店頭で買うかどうか、ユーザーインターフェイスが最後の一押しになればと考え、たとえば待受時の時刻表示では15秒ごとに分として表示されている数字が少しずつズレるなど、遊び心を入れています。
田尻氏
メニューアイコンは、角張った外観よりも丸みを感じられるように、少し可愛さがあるイラストを採用しています。また9分割アイコンとなっていますが、リスト型メニューなどと比べると、より少ない操作で各種機能を選べることがメリットだと思います。使い勝手の面で、9分割アイコンにしたということですね。
――W-SIMではなく、通常の音声端末として設計すると、現状よりもさらに薄くできるのではないかと思うのですが。
堀田氏
確かに薄さという意味では、そうかもしれません。ただ、それはニッチなマーケット向け端末となってしまうと思います。将来的に、「9」のような音声端末が登場する可能性は否定できませんが、もし登場するとしてもここまで機能をそぎ落とすことは難しいのではないでしょうか。
――同梱されるW-SIMは、W-OAM対応型ではなく、従来型でも問題ないのでは?
田尻氏
そうですね、アプリケーションチップのおかげでサクサクと操作してもらえますので、ストレスはないと思います。ただしW-OAMによる高速通信、そして通信中着信やリモートロックなど、新しいW-SIMで追加された機能もありますので、電話機として現時点では突き詰めたレベルにあると思います。
――ホワイトとブラックの2色は、コンセプトからすると当然な選択と思えますが、他のカラーへの誘惑はなかったのでしょうか?
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堀田氏はカラーコンセプトについての想いも語っていた
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堀田氏
ブラックとホワイトは、「機能をそぎ落とす」「ミニマル」というコンセプトを最も効果的にアピールできるカラーです。ただ、質感としては、ブラックがマットで、ホワイトは光沢感があります。W-ZERO3[es]ともお似合いのカラーになったと思います。
また他のカラーでは、グレーを入れたいなと思いましたね。モノクロの中にグレーという見せ方は、これまでにないですし、スクウェア・フラットでソリッドな「9」だからこそやってみたいとも思いました。ただ、それよりもブラックとホワイトのみのほうがコンセプトがより強く伝わるだろうということで、2色展開になりました。
その他のカラーについても、やってみたいとは思いますが、まずは市場へのファーストインパクトとして、ブラックとホワイトのカラーで「9」を知って欲しいですね。その後に、幅を拡げるということで、更なるカラーバリエーションはあり得ると思います。ただ、1色だけ追加するというのは非常に難しいですね。2色追加、ということであれば、そこで新しい世界を演出できると思います。
――10月中旬の発表以降、ユーザーからの反応はどのようなものと捉えていますか?
田尻氏
肯定的に受け止めてもらっていると思います。WPC TOKYOの会場では、ブース内で「9」の説明を行なっていましたが、展示していることを知らなかったような来場者の方でも、「9」に惹きつけられるように、数多く展示コーナーへ来ていただけたので、そういった力がある端末なんだと思いましたね。
堀田氏
「こういうストレート端末が欲しかった」という声がありますね。「9」ほどシンプルなものはあまりなかったため、「これなら持っても良いかも」という肯定的な声がありますね。
――ありがとうございました。
■ URL
製品情報
http://www.willcom-inc.com/ja/lineup/ws/009ke/
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(関口 聖)
2006/12/07 11:18
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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