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ボーダフォン「春モデル」インタビュー
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受け身ではない端末づくりを
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番号ポータビリティ制度(MNP)の導入を控え、競争が激化するであろう2006年、ボーダフォンは春モデルとして「904T」「804SS」「804N」「V403SH」の4機種をリリースする。
それぞれ異なる個性を持ったラインナップに、ボーダフォンはどのような狙い、想いを込めたのか。プロダクト・サービス開発本部 プロダクトマネジメント部課長の安東幸治氏に聞いた。
■ 4機種発表までの流れ
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ボーダフォン安東氏
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ボーダフォン春モデル、左から804SS、804N、904T、V403SH
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――1月に4機種が揃って発表されましたが、どのような経緯を経てきたのでしょうか?
当社では2005年の秋冬モデルごろから、開発スタイルを変えてきました。当社のターゲットカスタマーに絞って、デザインや機能での商品作りを進めています。今回の4機種は、バラバラに開発されていたものを1つにまとめた、という形ではありません。商戦期に向け、開発もリリースもコントロールし、春モデルとして作り込んだものです。
開発そのものは、1年ほど前にスタートしました。端末開発時では、新デバイス搭載といった要素があれば、もう少し時間がかかる場合もありますが、今回はおよそ1年です。
春モデルにあわせて、「Vodafone live! CAST」「Vodafone Address Book」「デルモジ表示」といった新サービスも発表しましたが、端末開発時にメーカーへリクエストしたのは、それらの新サービスへの対応がやはり一番大きな部分です。デザインも当社から提案したものになります。これまではメーカーさんからの提案をチューニングする、という形でしたが、2005年の中頃からは、我々が最初により具体的なデザインコンセプトを明確化し、それにあった作り込みをお願いしています。
当社が受け身となれば、メーカーさんも出荷数が伸びそうなデザイン、無難なほうへ落ち着きがちです。実際、そういう時期もありまして、現場からは「店頭の陳列棚には同じような製品ばかりだ」という声が寄せられたこともありました。その状況を変えていくためには、ボーダフォンから提案していこうと。ターゲットごとに作り込み、それ以外のユーザーからは「これは嫌いだ」と言われたとしても、そのターゲット層には「これは良い」と言われるものですね。機種ごとの持ち味、距離感を保てるようにしようという考え方です。
――カスタマイズなどへの取り組みは?
1つはソフトウェア、もう1つはハードウェアで突き詰めていく形になります。ソフト面では、たとえばシャープ製端末にはカスタムスクリーンが搭載されるなど、プリセットしたもので楽しんでいただけるほか、ユーザーさん自身の手で待受画像などを変えたりもできます。
ハード面では、コストやデザインなどでの制約もあって、さほど強くは突き詰めていません。カラーバリエーションでカバーする、といったやり方もありますし、着せ替えパネルも手軽な方法ではあります。ただ、着せ替えパネルについては、「ユーザー自身の手で外す」といった点や品質面などでやや躊躇しているところもあります。とは言え、ノキア製端末やシャープ製端末ではサポートされていますので、徐々に、といったところでしょうか。
こういったカスタマイズ性は、ただユーザーが好みの端末にできるという側面だけではなく、1つのモデルを長く使っていただくための工夫とも言えます。愛着を持って、長く使っていただくために、カラーバリエーションを追加したり、着せ替えパネルを増やしたりといったことを模索していますし、今後はソフトウェアのアップグレードも視野に入れています。
■ 904T、V403SHのコンセプト
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904T
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――春モデルそれぞれの特徴も教えてください。
まず東芝製の「904T」は、新サービスを含め、3Gの各サービスに全て対応したモデルです。2軸回転ヒンジを採用し、ディスプレイを露出したまま折りたためる機構となっていますが、ヒンジ部には方向決定などを操作できるボタンが配置されています。我々は「グリップスタイル」と呼んでいますが、ディスプレイを反転させたまま操作できるということで、使い勝手の面での新たな提案をしています。
GPS機能も用意していますが、折りたたみ型端末でナビゲーションを使う場合は、慣れてくると、毎回端末を開けるという動作がやや煩雑に思えるかもしれません。しかし904Tのグリップスタイルであれば、胸ポケットなどに入れて移動していた場合、端末を出して画面を確認して、すぐしまうという動作が可能ですね。また、今回の新サービスの1つに、端末内とサーバー側でアドレス帳を同期できる「Vodafone Address Book」がありますが、当初は904Tのみが対応機種となっています。
まさにパイロットモデルという位置付けで、アクティブなユーザー層に受け入れてもらえるのではないでしょうか。年齢や性別で言うと、若い男性層、という方々が中心になるかもしれません。ガンガン携帯電話を使いこなして、どこにでも行くぞ! という方ですね。
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V403SH
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シャープ製の「V403SH」は、2G(PDC)端末ですので、新機能ではなく、デザインで工夫を凝らした機種です。やや立体的に見えるストライプ模様を採用し、ターゲット層は、30代後半~40代の女性になるでしょうか。高機能はあまり求めていないけれども、自分らしさや人とは少し異なるものを求めたいという方ですね。
人に見せた時には「ちょっと良いね」と言われるような、ひとつ光るデザインを追求しましたが、開発時には我々とメーカーさんに加えて、デザイン事務所の方々の協力も得ています。
■ 804Nに大容量メモリが採用された理由
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804N
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――携帯に音楽再生、という流れが盛り上がっていますが、「804N」では大容量メモリが採用されました。
「804N」は、コンパクトで使いやすい3G音楽ケータイ、というコンセプトです。これまで当社ではメモリカードの利用を推奨してきましたが、メモリカードを使わない方も存在します。同梱する場合、コスト面などから64MBのメモリカードが現実的なラインですが、本当に音楽を聴きたい方には足りない容量です。また、ユーザーさんからは「メモリカードではなく、本体に曲を入れたい」という声もかなり寄せられていました。そこで、大容量メモリを採用し、メモリカードはプラスアルファという形にしました。
メモリではなく、HDD(ハードディスクドライブ)という選択肢も一時は検討しましたが、我々が検討したモデルは厚く、大きく、重いものでした。持ち歩くことを考えると、アップルさんのiPod nanoなどが出ている現状では、果たして使っていただけるだろうか、と考えたのです。コストも高めになりますし、直接iPodとバッティングするような面が携帯電話に求められているだろうか、という疑問もあり、我々は「まだHDDは良いだろう」と見ています。当面、HDD搭載モデルはあまり積極的には考えていません。
携帯電話で音楽を聴くシーンは、通勤・通学時が日常的で、100曲ほど収納できれば十分でしょう。そういう条件下で、大きさや重さは普通の機種と変わらず、コンパクトさや使いやすさを追求したのが804Nになるのです。
ケータイでの音楽機能は、やはり使い勝手が重要です。曲の取り込み部分と、端末の操作面ですね。取り込みという面では、auさんの「LISMO」は良い仕組みと捉えていますが、我々も簡単に操作できるよう工夫しています。
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安東氏は、microSDカードやBluetooth製品についても語った
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――先の話になりますが、804Nユーザーが将来機種変更する場合、大容量メモリのデータをどうすれば良いのか、少し不安な点として捉えられる可能性があると思うのですが。
データ移行手段の1つはメモリカードでしょう。804Nでは、デザイン性や端末内部のスペースの関係上、メーカーさんから提案を受けた形でmicroSDが採用されています。当初、我々は「まだ早いかもしれない」とも感じましたが、今後のトレンドとして、microSDの普及に期待が持てると判断し、今回より切り替えたというわけです。microSDカードそのものを入手するには、2006年前半の状況はあまり良くないかもしれません。大手量販店さんでは取り扱われると聞いていますが、地域によってはうまくいかないこともありえます。そこで、ボーダフォンショップでもmicroSDカードを取り扱う方向で現在検討しています。ただ、実際にショップで取り扱いを開始するのは、804Nの登場より少し遅れるかもしれません。
――かねてよりボーダフォン端末では、Bluetooth機能が積極的にサポートされてきましたが、804NのBluetooth機能は音楽機能と連携していないのでしょうか。
そうですね、実装したいところだったのですが、この時期に実現できなかった理由の1つは、サードパーティ製品を含めて、ヘッドセットできちんとした準備ができていない、という面があります。2年ほど前から、さまざまなメーカーさんと話はしてきましたが、あまり良い返事はいただけませんでした。
ただ、今年の中頃からはさまざまな製品が登場することでしょう。我々もステレオ対応製品を検討しています。その場合は、主に標準的な仕様をサポートしたもの、ということになります。コストやサイズを問わなければ、さまざまな製品が存在しますが、同梱品、あるいはオプション品として捉えると、それなりの使い勝手や品質を求めていくことになりますが、今後は純正品と言うべきオプションを1つ用意し、その他の製品で我々の基準をクリアするものについては、認定品という形でロゴを付与していく予定です。
■ 薄さ追求の804SS
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804SS
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14.9mmという薄さ
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――今回の春モデルでは、サムスン製の「804SS」が話題が集まるところです。
日本市場において、一般的に韓国メーカーは「一流」とは捉えられていないでしょう。携帯電話の世界でも、NTTドコモさんはLG電子製を、auさんがパンテック&キュリテル製を導入、あるいは予定していますが、どちらも手頃な価格帯の端末と聞いています。
しかし、当社では他社さんとはちょっと異なるスタンスで考えています。もともとボーダフォングループ全体として、サムスン電子さんは取引もかなりの数にのぼる大口メーカーです。逆に言えば、投入されていないのは日本市場くらいなものでした。彼らの技術力は高く、コスト競争力も結構高い。そろそろ日本でも投入して良いのではないか、互いにどういった提案をしていこうかと話し合いを進めていく中で、これならば日本市場でも受け入れられるのではないかという端末が「804SS」になります。開発にあたって、彼らは日本市場の経験が全くありませんので、頻繁にコミュニケーションしながら、日本で必要とされる品質をわかりやすく伝えられたと感じています。
804SSの開発では、単に薄さだけを求めたのではなく、サブディスプレイやステレオスピーカー、新サービスの「デルモジ表示」など、どの切り口からでも、さほど妥協した点はないと思います。今回は、ミドルに位置付けられる804SSですが、今までにはない操作する楽しみなど、商品力としてかなり高く位置付けられるものになっています。
――確かにサムスンが海外向けにリリースする製品は個性豊かなモデルが多く、技術力の高さが窺えますが、804SSが薄さを追求したモデルとなった理由は?
携帯業界のトレンドとして、今年はやはり薄さが挙げられるでしょう。コンパクトという点もあるかもしれませんが、ディスプレイサイズを考えると、小さくしていくのには限界があります。携帯電話のディスプレイサイズは、今後、2.4インチ、2.6インチ、2.8インチに移っていくと見ています。先日、当社でも発表しましたが、精細度という面でもVGAに移っていくという流れにあるでしょう。やはり大きさには限界があり、追求するならば薄さということになります。
3G開始当初にリリースされた端末は厚みがありました。今は、PDC端末並の薄さ、さらに一歩進んで15mm付近の薄さというのは、1つのボーダーライン、目指すべきところではないでしょうか。もちろん過去にも薄型端末を検討したこともありましたが、液晶ディスプレイの表面強度や、ボタンのプッシュ感・クリック感は、我々の品質基準からすると満足いくレベルではありませんでした。特に日本市場ではボタンのクリック感に拘る方が少なくありません。サムスン電子さんから「804SS」を提案された時、その点でも違和感がなく、品質基準をクリアできるものだったのです。
――薄型以外に、どのような提案・候補があったのでしょう?
コンパクトという方向のものもありました。おそらく当社のラインナップでは最も小さなボディサイズになるだろうというものですね。ただし、液晶サイズが2インチ程度で、厚みもそれなりにありました。当社のラインナップと比べると、702MOほどではありませんが、それでも“ごろっ”とした感じで、そういった製品はあまり日本市場では好まれません。それよりも面が広くとも、薄い機種が受け入れられると判断しました。
今回、サムスン電子製端末が初めて日本に登場することになり、今後の展開を考えれば、まずはちゃんとしたもの、魅力があってバランスが取れていながら1つ飛び抜けている機種から入ったほうが良いでしょう。
我々は、サムスン電子さんと一緒に「サムスン」というブランドを日本市場で育てていきたいと考えています。一発だけ花火を打ち上げるのではなく、きちんとしたポジションを確立し、継続した商品作りを行なっていく。ブランド認知度が上がった時にハイエンドやローエンドのモデルを投入すれば良いでしょうし、欧州では日本メーカー以上に高く評価されているサムスン製品を「日本市場では敢えてローエンドで投入する」という選択肢は、彼らもプライドがありますし、最初からなかったように思います。
今後もサムスン電子さんにしかできないことを互いの力で商品の形にしていきたい。その第一弾が「804SS」なのです。
――サムスンが本気で日本進出する、ということの表われですね。
彼らは商品を仕上げる技術力、スピードのレベルが本当に高い、というのが正直な感想です。日本のメーカーは、このままでは置いていかれるかもしれないとも感じていますので、日本メーカーにも頑張っていただきたいところですね。
――ボディカラーは、ブラックとオレンジという2色展開ですね。
我々は804SSの薄さに、未来的なものを感じています。それを体現するためにどういうカラーが良いのだろうと検討を重ねました。ブラックそのものはベーシックカラーですが、804SSでは金属のような素材感を表現しています。サブディスプレイ周辺の面部分はマットで、縁のエッジ部分はチタン調のメッキ加工です。また、ブラックは男性のビジネス層中心に受け入れられると考えていますが、ターゲットユーザー層を広げるために、薄さが際だち、アルミを加工したような処理が映える色としてオレンジも用意しました。
このオレンジは、我々から全てオーダーして作ってもらったもので、ブラックと同じようにマットさと金属の質感を出して、うまく表現できていると思います。似たようなカラーは過去の機種でもありましたが、表現方法はだいぶ異なっています。
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804SSのメインメニュー
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――海外メーカーの端末、となればユーザーインターフェイスも気になるところです。
今回が日本市場に投入する初めての機種ということもあって、100%日本メーカーと同じレベルというところまでは行っていないと思います。これは経験が必須で、一気に追いつけるものではないでしょうが、基準点はクリアしたと見ています。と言っても、昨冬に投入した、いわゆるコンバージェンス端末ほど違和感があるものではありません。メニューの一部で、日本語の表記がちょっと腑に落ちない程度で、意味は通じますし、気にならない方も多いでしょう。
■ 新サービス、おサイフケータイなど気になる点も
――今回、おサイフケータイとしての機能は904Tのみでサポートされました。
先駆けて804SHも投入し、904SHも発表いたしました。今年の後半以降は、もう少しおサイフケータイの比率を高くしていく考えですが、携帯電話はコミュニケーションツールです。もう少しスタンダードな部分で楽しみを増やすことがボーダフォンに求められているのではないでしょうか。その一環が、今回スタートする「デルモジ表示」と言えるでしょう。
――では同じく新サービスのVodafone live! CASTはどういう位置づけのサービスなのでしょうか?
2G向けの「ステーション」の延長線上にあるサービスです。これまで3Gではステーションをサポートしていませんでしたが、今回から導入していくことになります。生活情報誌や週刊誌といった情報を夜間に取得するというものです。
auさんもEZチャンネルというサービスを展開していますが、Vodafone live! CASTの利用料は、通信料込みで月額315円だけです。コンテンツごとに異なる料金ではありません。
――GPS機能の活用、そして他社が展開しているPush-To-Talk(PTT、プッシュトゥトーク)はいかがでしょうか?
GPS機能は、もちろん今後も継続していきます。子供の場所を検索する、といった第三者位置情報開示サービスもニーズとしてあると認識していますので、早期に具体化したいと考えています。また、海外ローミング時でもGPSが利用できるようにしていますが、エリアをもっと広げていきたいですね。
PTTは、米国での動向を見ると、個人利用は急速に盛り上がった後、すぐ下がってしまいました。一方、ビジネス向けサービスとしては内線電話代わりとして引き続き好調なようです。我々としては、法人向けとして前向きに取り組んで行ければと思います。
――ありがとうございました。
■ URL
ボーダフォン
http://www.vodafone.jp/
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(関口 聖)
2006/03/07 11:12
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