4月末、4GB HDDを搭載したミュージックプレーヤー機能が特徴の「N91」を筆頭に、マルチメディア機能を前面に押し出した新シリーズ「N series(Nシリーズ)」(日本発売は未定)を発表した北欧の巨人、ノキア。
欧米での圧倒的ブランド力を背景に、世界トップシェアを守る一方、国内では昨年末にボーダフォンに「702NK」を供給し、注目を集めている。さらに今年は、「702NK」と同型機で、キャリアを問わず利用できるノキアブランドの「Nokia 6630」を投入予定だ。ノキア・ジャパン 代表取締役社長のヘイッキ・テンフネン氏に日本市場での戦略について聞いた。
■ 「Nシリーズ」はマルチメディアだけではない
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ノキア・ジャパン 代表取締役社長のヘイッキ・テンフネン氏
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――まず、4月末に発表された「Nシリーズ」について、概要をお聞かせください。
Nシリーズは、4桁数字の型番というこれまでの製品名とは一線を画したサブブランドとして立ち上げました。マルチメディアに力を入れた製品群で、今回の3機種のように、2メガピクセルカメラとMP3プレーヤー機能、というのが基本的な仕様になっています。もちろん、Symbian OS搭載スマートフォンとしての機能は備えていますから、マルチメディアだけが特徴というわけではありません。パソコンとの連携に強いPIM関連ソフトも充実していますし、BluetoothやVPNクライアントにも対応しています。Series 60対応ですから、ソフトウェアの追加も柔軟に行なえますし、決してマルチメディアだけではない製品に仕上がっています。
――端末メーカーとして世界ナンバーワンのシェアを持つノキアがただハイスペックなだけではなく、マルチメディアを強く意識した端末をリリースしたことは、携帯電話業界に大きなインパクトを与えたと思うのですが。
日本やヨーロッパの状況を見ますと、音楽プレーヤー機能や高画素のカメラがトレンドになっているのは確かです。我々は昨年、メガピクセルカメラを主力端末に搭載することで、ひとつのブレイクスルーを起こしました。メガピクセルカメラ端末は今年も世界を席巻するでしょう。では、次は何かとなると「音楽プレーヤーだ」と言うことです。
あと、このブランドにはもうひとつの意図があります。我々の製品だけではなく、今やさまざまなメーカーが、膨大な数の端末を供給しています。そのため、ユーザーにとっては、どの機種を買っていいのかわからない、という状況が少なからずあります。新たな「Nシリーズ」というブランドは、これを買っていただければ基本的な機能も、マルチメディアの機能も、すべてを満たし、ご満足いただける端末ですよ、というメッセージでもあるのです。
■ ケータイの音楽プレーヤー化は加速する
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音楽再生機能などを備えた「N91」
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――日本では音楽配信対応の携帯電話が好評ですし、GSMの世界でもMP3プレーヤー機能は高機能端末には必須の機能になっています。携帯電話の音楽プレーヤー化は、否応なしにこれからも進むのでしょうか。
それは音楽プレーヤーだけにとどまらないでしょう。現に、カメラも携帯電話の中に入ってしまっていました。1台のデバイスを電話、PDA、音楽プレーヤー、デジタルカメラとして使い、持ち歩くデバイスの数が減らしたいというニーズは根強くありますから。そういった意味では、おっしゃるとおり、携帯電話が電話以外のデジタルデバイスの役割を担っていく、という流れは間違いないと思います。
――Nシリーズのようなデジタルガジェットの要素を含んだ高機能端末は、特にアジア人が好む、という話を聞いたことがあります。欧州市場が飽和している今、中国を中心としたアジア市場は、格好のバトルフィールドになっていますが、Nシリーズの登場は、アジアを意識してこのタイミングに出た、ということなのでしょうか。
アジアの市場といっても、一言では言えません。エントリークラスの商品が中心となっている発展途上の市場もありますから。しかし、インド、インドネシア、中国といった国は、携帯電話の普及率自体はまだまだなのにもかかわらず、「Nシリーズ」のような高機能端末への関心は非常に高いですし、一方、東京や大阪、上海、香港、シンガポールのような大都市は、無線LANスポットも発達していて、高機能端末を受け入れる環境が整っていることは間違いないでしょう。
■ 「ドコモさんとは長年培ったパートナーシップがある」
――日本市場に話題を移します。日本ではご存じのように、音楽配信端末も高画素カメラ端末もあり、すでにマルチメディア化が進んでいる状態ですが、この日本市場においては、どういったテーマを掲げてビジネスを行なっているのでしょうか。
日本はご存じの通り、携帯電話事業者の影響力が非常に強い市場ですから、まず、彼らのパートナーとしてうまくやっていくことがテーマになると思います。端末として、マルチメディアはもちろん大きなトピックですが、それ以上に大きいのがW-CDMA方式の導入です。ノキアもグローバル市場に目を向けると、すでに相当数のW-CDMA端末をリリースしていますし、2005年の新製品も、40機種のうち10機種がW-CDMA端末となります。これらを日本でも販売できるように、事業者さんにご提案し、働きかけているのが現状ですね。
――日本法人であるノキア・ジャパンは、日本での端末の供給よりも、W-CDMA先進国である日本のビジネス動向を観察し、欧州のビジネスへ活かすための情報収集拠点として機能しているではないか、という見方もあるようですが?
我々ノキアは、10年以上に渡って、ドコモさんと協議しながらW-CDMA方式の策定に当たってきました。そのような協力体制は両者にとって良い結果を生んでいると思いますし、W-CDMAが世界統一規格として認められたのも、この協力関係があったからこそです。日本でただウォッチャーとして見ていた、ということではなく、W-CDMA方式をともに作り上げてきた、という自負があるのです。
現在、製品という形で、積極的に日本市場に展開しているわけではありませんが、我々はW-CDMA方式を軸にした長期的な商品戦略に立って考えています。ドコモさんとは、W-CDMA方式がここまで来る過程で培われたパートナーシップがありますから、いずれ、ドコモさん向けにも製品が提供できるようになると思います。
■ W-CDMAが転機。国内メーカーの海外進出も海外からの参入も活発になる
――かつて日本向けの端末供給が積極的に行なわれていた時期がありましたが、ここ数年は消極的と言える状況でした。消費者に対するブランド力をあらためて浸透させるのは難しいかと思うのですが。
日本でブランドを拡大するには、近道などありません。良い商品を出していく以外にないのです。これまで世界のさまざまな市場でノキアは実績を残していますが、それはひとえに、ノキアの携帯電話がユーザーに「新たな体験」というものを与えてきたからにほかなりません。
我々は、日本で特別なことをしようと思いません。一夜でブランドイメージを築き上げることは不可能ですが、辛抱強く、長期的にやっていくしかないですね。もちろん、我々は日本のお客様に喜んでいただける端末を提供できる、と自負しています。
――国内携帯電話業界において、2Gにおいて日本独自のPDCを採用したことや、事業者中心のビジネスモデルなどによって、日本は他の国に比べて閉鎖的な側面があったことは否めません。そのことが、日本でのビジネスを難しくしているのでしょうか。
W-CDMA方式の登場が日本の携帯電話市場において、大きなターニングポイントになると思っています。ただ単に海外メーカーが日本市場に参入するだけではなく、日本メーカーも海外へ進出するチャンスがあるからです。そうなると答えはシンプルで、どこが良い端末を作るか、ということが重要です。もう、そういう時期になっているのではないでしょうか。
■ 「国内向け端末との操作性のギャップは、さほど気にしていない」
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ボーダフォン向けノキア端末「702NK」
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――関連するところでは、国内の携帯電話と、ノキアをはじめとした海外メーカーの端末は大きく操作性が異なります。こうしたギャップについてはどう対処されますか?
まず、我々のユーザーインターフェイスは単純でわかりやすいと自負していますし、むしろメリットではないかと思っています。もちろん、ノキアの端末には日本メーカーの端末のユーザーインターフェイスとは異なる部分もあり、初めて利用されるお客様には、学んでいただかなくてはいけない部分も多少あるとは思います。
その一方で、今、国内メーカーや事業者がSymbian OSに対して積極的な姿勢を取っていることは、ノキアとしてはよい方向性だと思っています。ユーザーにとっても、よりリッチな機能が得られますしね。
――ワールドワイドのスケールで端末を供給するとなると、なかなか「日本仕様」という製品を作るのは難しいかと思いますが、ユーザーへの教育によって「世界基準」と「日本仕様」のギャップを埋めるのでしょうか? それとも、ノキアからユーザーに歩み寄ったインターフェイスにしていくのでしょうか?
両方です。日本のお客様にノキアの端末を受け入れていただくためにも、ユーザーインターフェイスの改善に引き続き取り組みますし、マニュアルをはじめとするユーザーさんへの教育についても、力を入れたいと考えています。一度使っていただいたお客様には、非常に気に入っていただいているのは事実ですから、我々としては、ノキア端末のソフトウェアの良さをいかに伝えていくか、という部分が一番の課題でしょう。
しかし、私はこの点については楽観視しています。日本のユーザーはレベルが高いですから、このくらいのギャップはクリアできると思っているのです。日本の家電を見てみると、そのユーザーインターフェイスは多種多様です。(インタビュアーが使用しているICレコーダーを指して)現に今、あなたがたがお使いになっているICレコーダー1つとってみても、操作の仕方は異なります。
携帯電話のユーザーインターフェイスは、確かにほぼ統一された状況ですが、日本のユーザーは、いろいろなインターフェイスに合わせる柔軟性を持ち合わせていると思っています。もちろん、サポートデスクや当社のWebサイトなど、お客様とのコミュニケーションについても、より良いものを目指していきたいですね。
――最後に、まず、なかなか発売されないNokia 6630の現在の状況と、Nシリーズの国内発売の可能性についてお聞かせください。
Nokia 6630については、今も各所で調整をしていますが、全力を挙げて取り組んでいる最中です。「Nシリーズ」については、ノキアブランドで出すとなると、どうしても5万円や7万円、10万円といった価格になってしまいます。日本の市場ですとその価格では厳しいですから、事業者さんに採用していただくようがんばっていきたいと思います。幸い、今回の「Nシリーズ」も、日本語表示には対応していますから、日本の皆様にもぜひお届けしたいですね。
――ありがとうございました。
■ URL
ノキア・ジャパン
http://www.nokia.co.jp/
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(伊藤 大地)
2005/05/27 15:37
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