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「PENCK」開発者インタビュー
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アイデア次第で思いのままにつき合って欲しい
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au design projectの第4弾として発売された「PENCK」は、角のないオーバルフォルムが特徴のCDMA 1X WIN端末。総合クリエイター、サイトウマコト氏によるデザインで、3種類のボディカラーでも特に注目の「メタル」は、全面に蒸着と呼ばれる技術で金属被膜を施したもの。これまでの携帯電話にはない新鮮な組み合わせと、柔らかくシンプルな外観は、サイトウマコト氏が“使いたい”と思う携帯電話を形にしたものだという。
PENCKについて語る上で外すことのできない「メタル」や、au design projectそのものについて、同プロジェクトを統括するKDDI au商品企画本部 プロダクト統括部 プロダクトマネジメントグループ プロダクトデザインディレクターの小牟田 啓博氏、およびプロダクト統括部 プロダクトマネジメントグループ プロダクトマネージャーの近藤 隆行氏にお話を伺った。
■ エンジニア達の集中力、魂、根性
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小牟田 啓博氏
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近藤 隆行氏
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――PENCKの開発はいつ頃から始まっていたのでしょうか?
近藤氏
企画だけなら1年以上前からですが、造形などを含め、ちょうど1年ぐらい前にプロジェクトはスタートしています。
――サイトウマコトさんにデザインの依頼をしたのはその時期になるのでしょうか?
近藤氏
そうですね。プロジェクトがスタートする少し前でしょうか。
小牟田氏
1年前あたりからは技術の打ち合わせがディープになってきた、という感じでしょうか。
近藤氏
実際にこういう商品・デザインでやろうと決めて、このメッキ感やメタルのモデルが象徴的なイメージとして当時からありましたので、これは実現できるんだろうか? というところから、いろいろ探し始めました。
――作る上で最も難しいのは、やはり蒸着の部分でしょうか?
小牟田氏
そうですね。蒸着自体は簡単ですが、蒸着を綺麗につくることが難しいのです。今となっては教科書ができている状況ですが、それでもできるものなやってみろ、というぐらい難しいですね。
それは蒸着の技術だけではないからです。蒸着のベースになる、“生地”と呼んでいるプラスチックの成型材の成型条件から、それを打ち出す金型もパーフェクトに作られなければいけませんし、その金型を綺麗に作り込むための技術も必要になってきます。表層的な塗膜の蒸着技術だけではなく、何重にもノウハウを重ねていった上でこのクオリティを実現しています。
蒸着をしてなおかつ難しいのは、蒸着は金属被膜なので触って指紋が付くと、やがて酸化して跡が取れなくなってしまうのです。また、蒸着の被膜は通常の塗料と違って物理的にたっぷりのっているわけではないですから、少しぶつけるとすぐにキズがついて剥がれてしまいます。ですのでトップコートにはUVクリアコーティングを施していますし、デリケートな金属被膜ということでUVコートはダブルでコーティングしています。わざわざUVコートをダブルにするのはコスト的な面でも難しくなるのですが、とにかく、層をさらに1層のせることでレベリングと呼ばれる層をシャープにして面をフラットにキープすることがとても難しくなります。蒸着を綺麗に仕上げ、その上にUVコートをダブルでのせて、そのすべてがピタっとうまくいくことでこれだけの綺麗な面ができ上がっているのです。
苦労してくれた人達がたくさんいますし、命を掛けてくれた職人のおじさんもいて、本当に凄いことになっているのですが、僕は苦労談を伝えたいわけではなくて、一番分かって欲しいのは、いろんな人達の愛情を経てできたものは勝手に魅力が宿っているはず、ということです。理屈で説明しなくても感じ取ってもらえるものに仕上がっているんじゃないのかなと思いますし、スピリッツみたいな部分をつかんで頂けたらいいなと思います。それこそが日本のエンジニアリングだし、テクニックなんですよ。エンジニアの人達の集中力、魂、根性ででき上がっていますし、それなくしてこのモデルは語れないですね。
――ほかのカラーバリエーションもありますが、お話を伺うと、やはりこのメタルが一番苦労されているのでしょうか?
小牟田氏
蒸着の表面コーティングに加えてUVコートのダブル、というのはメタルだけですが、ミルクもビターも鏡面仕上げでペイントをのせたい、というイメージがあったので、じゃあこれはもうしっかりと金型などから対策をして、ということで、メタルが難しくてもミルク、ビターが簡単、ということはありません。塗装、という意味においては、ミルク、ビターは現時点で業界ナンバー1のクオリティだと思います。
――この形に蒸着を施す、ということも難しいでわけですよね。
小牟田氏
それもそうですし、蒸着は金属被膜ですから、もともと電波を通さないための技術です。PENCKはアンテナが突起していませんし、WINに対応するために2カ所にアンテナを内蔵しています。電波が通る性能を落とさずに蒸着を施していますが、ではどうやって蒸着から電波を通しているのかといえば、それはメーカーさんの命運をかけた企業秘密です。我々も、実際に工場で現場を見せてもらったことはありません。
■ PENCKは、絵画のカンバス
――今までにない形ですが、ケースに入れたりといったように、想定している携帯の仕方などはあるのでしょうか?
小牟田氏
ないですね。そこが分かってもらいたいコンセプトの部分です。PENCKは持ちやすいけれど、落としやすいのです。実際僕も落としたことがあってショックでしたが、持ちやすいということは、落としやすいという矛盾した要素をはらんでいて、だからといって落とさないようにいろいろな細工を施しても、落とすときは落とすのです。
PENCKが持つ魅力とはそういう狭いレベルの話ではありません。いろいろなモノを付加していくことではなく、できるだけ削ぎ落としていくことです。サイトウマコトさんが仰っていのが、これは絵画でいうところのカンバスで、ストラップを付けたり、自由に使って欲しい、ということです。人によっては羽のような可愛いストラップを付けるかもしれませんし、キャラクターを付ける人もいるでしょう。たくさんぶら下げる人もいれば、センスのいい物を1つ選んで付ける人もいるでしょう。中にはドクロのストラップを付けるひともいるかもしれません。それでいいんです。その人がやりたいことや、合わせたい服装、そちらを楽しめばいいのです。アイデア次第で思いのままに、その人なりのつき合い方でこの端末とつき合って欲しい、そして飽きずに永くつき合って欲しい、ということなんです。ストラップが飽きたら違う物に変えたり、ケースを自分で作ってみたりしてもいいですし、時にはケースの素材を変えてみたりと、飽きずに楽しめる方法を見つけていって欲しいのです。持ちやすいとか、落としづらいとか、理屈の部分を超えたつき合い方をして欲しいですね。
音やインターフェイスについても、見やすいから、操作性がいいから、という理屈だけでなく、テンキーのフォントなら数字がデカければ気持ちがいいじゃん、見やすいじゃん、という発想のものです。サウンドについても、ミュージックという意味では今ならいくらでもダウンロードできますからそれは好きにカスタマイズしてもらえればよくて、このPENCKの世界観はあくまで素材なのだから、素材のクオリティに徹したい、というところで、音楽をいっさい排除したサウンドで、オリジナリティがあるけど、でも全く聴いたことがないような奇妙な物ではない、何かコイツがいる、あるいは異星からやってきた何か、みたいなサウンドを入れました。
【お詫びと訂正】
初出時、小牟田氏の発言として「フォントもサイトウさんが、こだわった手書きのフォントを作ってくれました」という一文を掲載しましたが、PENCKのテンキーに搭載されたフォントは、足立祐司氏が作成したフリーフォント「Major Kong」であることが判明しました。お詫びして訂正いたします。詳細はこちらの記事をご参照下さい。
■ 見えないものを探り、パーフェクトを追い求めて
――他キャリアからもデザインにこだわった端末が出ていますね。
小牟田氏
僕はライバルを想定していませんし、自分たちが信じるべきナンバー1を追い求めています。自身が武道をやっているからというわけではないですが、「究極は何なのか」と天下無双を求めるわけです。本当に人にとって素晴らしいプロダクト、回答は一つではないことは間違いなのですが、まだまだパーフェクトではないはずだと。本当に天下無双のハードとは何なのか、と常に考えています。それを実現するとしたら、僕はau design project発でやりたいと思っていますし、それを成し遂げるのに、誰かに勝つため、といったモチベーションではくじける要因が来たときに五分五分の確率で投げ出してしまうでしょう。見えないものを探り、パーフェクトを追い求めているからこそクオリティが高まっているのであって、経過を見てくれている人が毎回良いよね、と言ってくれるのは、僕にとっては当たり前のことともいえます。
デザインが優れたものは十分できていますが、デザインだけではダメです。使いやすさ、持ちやすさといったバランス、総合力としての物のクオリティとはどういうものか、仕事としてではなくても常に考えています。
auでの僕の役割は、ハードを中心にセンスというクオリティを上げていくことだと思っているので、これに関してはライバルはいなくて、何がパーフェクトなのかと、いろいろなベクトルを、自分という型にとらわれずに探すことを考えています。
――WINでau design project、ということで、本気のモデルといった風に見えます。
小牟田氏
気合い、という意味ではすべて一緒です。というより、分け隔てしている余裕がないほど常に本気です。ですが、このPENCKがそういう風に感じるのは、今まで何台も手がけてきて、例えばデザインからスタートしたINFOBARも技術的に難しいチャレンジをしてきましたが、端末のプロダクトとして、あるいはそれを使ってもらう環境として、ビジネス寄りに拡大して考える知恵がauにも付いてきたということです。
例えば、同じメーカーさんが作ったINFOBAR、talbyについてなら、デザインに関するモチベーションは全く同じです。ただ、INFOBARと比べてtalbyはアンテナを内蔵してみたりと、INFOBARにはなかった難しさがtalbyにはあったりしますが、その逆もありますし、talbyには音楽系のアイデアを入れて広がりを持たせるといった進化をさせています。ペイント技術ひとつとっても以前の水準とは比べ物にならないぐらい、情報も入ってきますし、技術も進んでいます。
パーフェクトを僕自身が追い求めてきた際に、結果論になりますが、技術が追いついてくれた、ということになると思います。結果、いろいろなメーカーさんをまたがって、いろいろな技術を知っているのは我々だけ、という状況に気が付いたらなっていたのです。INFOBARでアンテナを内蔵できなかったのなら、当然次はできるように頑張ろう、と考えますし、そのときにできなかった金属被膜などの表現もチャレンジしよう、となり、結果として“進んで”見えるのだと思います。それは単にデザインというものを超えて、つまりデザインだけではなく、エンジニアリングだけでもなく商品企画だけでもなくて、そのすべてがグレードアップしたと受け取って頂けているのだと思います。
同じ物、同じデザイン、同じモチベーションで2つの製品を出したなら、人の印象としてファーストインプレッションの方が絶対良いのです。つまりINFOBARと同じことをやっても、INFOBARには勝てないのです。同じようなものを出したなら、価値は半分ぐらいと判断されてしまいますし、そう見られてはビジネスとして失敗で、モノを出すこと自体も失敗といえるでしょう。
今後、アイデア的に厳しくなってくるとは思いますが、その中でもやはり日本人が凄いと思うのは、チームワークとか、物に対して愛情を注いでいくだとか、技術とかノウハウとか、根性とかいうところであって、そういうガッツで乗り越えてきたのがau design projectです。
――本日はどうもありがとうございました。
■ URL
ニュースリリース
http://www.kddi.com/corporate/news_release/2005/0207/
製品情報
http://www.au.kddi.com/au_design_project/seihin/penck/
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(太田 亮三)
2005/03/10 15:57
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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