『恋空』や『赤い糸』などのケータイ小説で一躍有名になった「魔法のiらんど」だが、サイト自体の歴史は長く、サービスのスタートは1999年12月にまでさかのぼる。iモード初期の頃の「勝手サイト」は、多くが同サービスを利用して作られていたほどだ。今では国民的関心になりつつある「ケータイの安全性」に対しても、同社は早くから取り組んでいた。それが、魔法のiらんど内を巡回・監視する「アイポリス」だ。では、具体的にどのような取り組みを行っているのか。魔法のiらんど、アイポリスグループ、マネージャーの鎌田真樹子氏に聞いた。
■ ユーザーの啓蒙活動に力点を置いた監視活動
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魔法のiらんど、アイポリスグループ、マネージャー、鎌田真樹子氏
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フィルタリングの原則化を契機に、ケータイサイトの安全性・健全性をいかに高めていくかという議論が巻き起こった。モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)が設立されたのも、その一環だ。同機関の認定を受けたサイトも、少しずつ増えている。だが、魔法のiらんどが、サイトの健全化を始めたのは、それよりはるかに前の話だ。アイポリスを立ち上げたのは、魔法のiらんどのサービス開始直後だったという。鎌田氏は次のように話す。
「魔法のiらんどで作られたサイトには、色々なものが混在していた。これはちゃんとしなければいけないと考え、サービス開始から3週間後ぐらいでアイポリスを始めた」
その頃から「ケータイにはPCの世界とは違った対策が必要」(鎌田氏)と感じていたそうだ。「業者の書き込みをユーザーが削除すると、それだけでパケット代がかかってしまう」(鎌田氏)との理由から、規約違反の書き込み削除も積極的に行った。当時は、このような活動も珍しかったという。
アイポリス開始当初は、限られたリソースで運営していたこともあり、数々の苦労を重ねた。
「私がアイポリスに参加したのは、開始から約2年後だが、当時は人数も少なく、トラフィックも急増していたため、違反しているものは理由も知らせず削除せざるをえなかった」(鎌田氏)
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アイポリスのトップページ
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だが、「なぜ削除されたのか」が分からなければ、ユーザーのスキルは向上しない。理由が分からなければ規約違反のユーザーが減らず、結果としてさらに監視体制を強化するという“いたちごっこ”に陥ってしまう。そこに気づいたアイポリスでは、「手間やコストがかかっても『インターネットとはどのようなものか』というところから、教えていくようにした」(鎌田氏)という。当時は、魔法のiらんどがネット上のサービスであることすら、知らないユーザーが多かったそうだ。
こうした考えは今でも継続しており、「問題点は可視化するようにしている」(鎌田氏)という。例えば、アイポリスの警告を受けると、サイトに「警告中」の画像が表示される。ここをクリックすると、警告の詳細が分かり、修正したら掲示板でアイポリスに報告しなければならない。やり取りまでしっかり可視化されるため「90%ぐらいの警告はこの方法で改善される」(鎌田氏)。違反ユーザーを通報する機能も、「場所(URL)や被害内容まできちんと書く仕様にした」(鎌田氏)という。こうすると、「ちょっと気に入らないからという理由で、いたずらのように通報する人はいなくなる」(鎌田氏)と、ユーザーが通報機能を真剣に受け止めてくれる効果が生まれる。
このようにアイポリスでは、ユーザーが自発的にルールを守るような仕組み作りを心がけている。元々は“警察”が由来だったらアイポリスだが、今では「(自治を理想としていた)古代ギリシアの“ポリス”から取っていることに変更した」(鎌田氏)という。権力で法律に違反したものを捕まえる警察から、住民同士が自発的に決まりを守る自治へ。アイポリスの活動には、このような想いが込められているのだ。
■ 積み重ねた実績で効率的な巡回・監視を行うアイポリス
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警告を受けた場合の対処も丁寧に説明する
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アイポリスは約30名で、24時間365日の監視活動を行っている。SNSのモバゲータウンやGREEと比べると人数はやや少ないが、サイトの性質が違うため、この体制でも十分効果的だという。鎌田氏は「私たちのサイトはあくまで“表現系”で、コミュニケーションはそこに付随するもの。ユーザーは自分の作品が載っているサイトが閉鎖されることをいやがるので、わざわざ規約に違反しようとはしない。サイトの性質上テキスト量は多いが、コメントや書き込み件数がSNSとは全然違う」と話す。魔法のiらんどはあくまでもホームページという位置づけ。リアルタイムのやり取りに重きが置かれるSNSと比べれば、書き込み件数は少なくなる。前述のように、ユーザーの教育も行き届いているので、効率的に管理していけるというわけだ。
iモード黎明期から事業を行っていた“長年の実績”も生きている。「1人1人のノウハウも高く、中には8年間この仕事をやっている人もいる」(鎌田氏)と、経験の積み重ねがスタッフのスキルにもつながっていることが伺える。「ツールを作りこんできたことも大きい」(鎌田氏)という。
「例えば、ケータイ小説と掲示板では使われる言葉も違う。禁止ワードや監視ワードも、それぞれに合わせてカスタマイズしている。また、推奨はできないが規制対象にもならないようなコンテンツは、目に触れないようにする“ゾーニング”も行っている」(鎌田氏)
新着やランキングは常に目視で確認し、推奨できないサイトは掲載しない。また、魔法のiらんどでは、ケータイ小説のコンテストなどが行われているが、ここでもケータイ小説そのものだけでなく、サイトの中身までチェックしている。こうすることで「応募してくる人は、自分のホームページまでキレイにする」(鎌田氏)そうだ。
蓄積したノウハウは、コンサルティングという形で他社にも提供している。自社でゼロから立ち上げるより、効率的に監視体制を作り上げられるため「クライアントは新しい事業者が多い」(鎌田氏)という。経験を積んでいるだけに、同社のアイポリスから学べることは多いだろう。
■ 「ケータイが空気」の子どもたちに寄せる期待
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サービス停止数、改善数、警告数は年々減っている
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先に述べたように、アイポリスが“自治”を重視しているのは、「空気のようにケータイに接する子どもたち」(鎌田氏)の可能性を信じているからだ。鎌田氏は、こう話す。
「今の子どもたちは、ケータイがメインでPCがサブという感覚。普段は全部ケータイだが、サイトをじっくり探すときはPCで、あとはケータイに転送するというような使い方をする。ちょうど、私たちが空気のようにテレビと接しているのと、同じようなもの。この子たちが大きくなったらどうなるのか。私たちは期待している」
中にはケータイビジネスに興味を持つ学生もいて、「修学旅行で当社を訪れた中学生の女の子に、『魔法のiらんどのビジネスモデルは?』と聞かれたこともあった(笑)」(鎌田氏)という。確かに、大人に比べれば知識は乏しいかもしれない。だが、鎌田氏は「感覚的に、ネットがどのようなものかを理解している」と感じている。
ユーザーやその親へ、直接語りかけることもアイポリスの仕事だ。鎌田氏は、学校や市町村に出向き、ネットやケータイの安全を教える講演活動を行っている。子どもにはネットの本質を伝えつつ、親にも「危険な部分はしっかり伝えたうえで、闇雲に恐れる必要はないと教えている」(鎌田氏)と語っているそうだ。鎌田氏が話すように、危険と決め付けたものにフタをしていくだけでは、問題は何も解決しない。逆に、問題をより根深くしてしまう可能性も考えられる。ユーザーのスキルを高め自治を促すアイポリスの取り組みは、一見回り道に思えるが、実は問題解決の最短ルートなのかもしれない。
■ URL
魔法のiらんど
http://ip.tosp.co.jp/
アイポリス
http://ipolice.jp/
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