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モバイルネットワーク開発本部の大内氏(左)と新名氏(右)
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KDDIと沖縄セルラーは、10月1日より大量通信ユーザーを対象にしたEZwebの通信速度制限を導入する。対象となる時間は21時~翌1時で、月間通信量が300万パケットを超えてauのネットワークに過大な影響を与える場合に、翌々月に通信速度が制限されるというものだ。
携帯電話でのパケット通信定額サービスは、auが2003年に導入し、今では各社で提供されている。その結果、携帯向けコンテンツのリッチ化が進み、利用シーンもさまざまな形に多様化してきている。一方で、帯域が限られた携帯電話の通信網では、混雑を軽減するための仕組みが求められている。そのため、たとえばNTTドコモが「パケ・ホーダイ」を導入する際には、場合によっては帯域制限を実施するとしていた。
今回、auでは明確な基準を掲げて通信速度の規制を行うことになったが、基準を明示するのは国内キャリアでは初めてのことだ。定額導入から約5年、通信制限がなぜ本格運用されることになったのか、KDDIのモバイルネットワーク開発本部の大内良久氏と新名豪氏に聞いた。
■ 規制は「不公平性の解消」が目的
――今回、EZwebで通信速度制限が導入されることになりましたが、最近のEZwebのトラフィック動向を教えてください。
新名氏
総務省のデータなどでも示されていますが、国内のデータ通信量はここ数年、2倍、3倍といったペースで急激に増加しています。携帯電話でもその傾向は同じで、当社ではCDMA2000 1xEV-DO(Rev.A)、他社ではHSDPAの導入に加えて、パケット通信定額サービスが登場したことで、固定通信のトレンドと同じく急激にデータ通信量が増加しているのです。
あまり知られていないかもしれませんが、たとえばドコモさんの場合、約5300万契約のうち、パケット通信定額ユーザーは約1300万です。一方当社は、約3000万契約のうち約1500万がパケット通信定額ユーザーです。
――ドコモはユーザーの1/4ですが、auは5割に及ぶのですか。
新名氏
はい、そしてドコモさんより絶対数でも多いという状況ですので、現時点ではauの方が設備を流れるデータトラフィックが多いのではないかと推測しています。
――なるほど。
新名氏
たとえば固定通信でもP2P通信などへの対応策として制限を導入しているISPが存在しますが、その場合、ボトルネックはコアネットワークになります。一方、携帯電話のようなモバイル通信の場合、ボトルネックはユーザーが共有する無線部分です。
――通信速度制限は、共有する部分をコントロールするということですか。
新名氏
1xEV-DOやHSDPAは、電波環境が良い端末を優先してデータを配信するという特性があり、その特性を利用して電波の利用効率をアップさせたり、高速化したりしています。一方、その特性のために、高速通信できる環境に位置するユーザーが大容量通信を長時間行うと、その帯域が占有されてしまい、電波環境が劣る他のユーザーにとっては通信しづらい状況になります。そこで今回、公平な利用状況を実現するため、一部ユーザーを対象にした速度制限を実施することにしたのです。
――ちなみに「ダブル定額」の利用動向は、地域差があったりするのでしょうか?
大内氏
データ通信の利用動向を見ると、23時が利用のピークで、その時間帯では都心部より郊外の住宅地のほうがよく利用されています。「ダブル定額」の加入率は地域によって若干の差はありますが、文化の差は少ないと見ています。
ちなみに音声通話では、沖縄や九州では他の地域より通話時間が長いという傾向があります。これは、地域や文化の差があると言えるのかもしれません。また音声通話は花火などのイベント会場、台風などの災害発生時では利用率が非常に高くなりますね。
――auユーザーの間には、「都心部では繋がりにくい」と感じている人が少なからず存在するように思えます。このあたりは今回の速度規制と何らかの関わりがあるのでしょうか?
大内氏
確かに設備が追いついていない場所が局所的に存在します。しかし設備増強を怠っているわけではなく、どうしてもカバーしきれない部分があります。都心部での繋がりにくさと、今回の速度規制の原因は別要因と捉えていて、都心部での対策は別のアプローチで対策を進めていますので、2008年度の下期から(都心部対策の)効果が出てくると見ています。
一方、速度規制については、新名が述べたように不公平性の解消が大きな目的です。我々が調査したところ、ある基地局の直下で多大な通信を行うユーザーが120人ほどいるのを確認したことがあります。我々は加入者獲得計画や平均的なトラフィック傾向から基地局を建設していますが、ごく一部のお客様の使用方法が他の利用者に影響を及ぼすことも確認されています。もちろん設備状況を行って対応しますが、不公平性の解消という意味で、設備増強以外の方策でも対応していく必要があると判断し、今回の実施に至ったのです。
■ 基準を明示した理由
――速度規制が必要な状況になった、というのはいつ頃から認識していたのでしょうか?
新名氏
一部ユーザーの通信が大量になって他のユーザーに影響を及ぼしていることを確認し、対策検討に入ったのは、もう2年半ほど前のことです。
大内氏
通信状況を云々する以前より、当社では2年半前から「au品質向上連絡会」を設置し、ユーザーの満足度向上に向けた品質向上施策の立案と推進を行っています。今回の速度規制による不公平性の解消は、その活動の1つです。
――本格導入に向けて今年5月下旬から1カ月、実験が行われました。フィールドトライアルとして1カ月というのは短く感じたのですが……。
新名氏
最小限の影響で最大の効率を上げるためのモデルパターンはいくつかあるのですが、試験パターンは全て想定していたものです。
大内氏
技術的な評価期間と実験期間は別です。実験は確かに1カ月間だけでしたが、その前に準備を進めてきていましたし、実験終了から1カ月以上かけて、綿密にデータを分析しました。もしかしたら、「通信状況が逼迫していることに気づいたauがあわてて1カ月だけで実験して、速度規制導入を性急に進めている」と思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
――準備万端の上で実験したということですか。ところで今回は300万パケットという基準値が明示されています。他社でもパケット通信定額で規制するケースがあることをアナウンスしていても、明確な基準値を出しているのは今回初めてだと思います。なぜ明示することになったのでしょうか?
大内氏
明示しなければ「私の使い方では規制されてしまうのでは?」と、疑心暗鬼になりかねませんが、繋がりやすさや通信速度はさまざまな要因が影響しますので、疑心暗鬼を招くようなやり方は避けたかったのです。
新名氏
つまり通信定額という有料サービスを提供する上で、“お客さまへのわかりやすい説明”が必要なため、規制の適用条件などはできるだけ明らかにすべきと考えました。
■ 300万パケットに達するには……
――300万パケットを携帯電話で使うためには、相当な通信が必要です。いったいどういった使われ方になっているのでしょうか?
大内氏
300万パケットは、もしパケット関連の割引がなければ約60万円になるほどの通信量です。携帯向けの大容量コンテンツとしては、着うたフルや動画などになりますが、動画をよく利用される方が対象になりやすいと想定しています。無料サンプル動画を用意しているサイトにアクセスして、毎日欠かさず動画を10本近くダウンロードしていれば、月間で300万パケットに達するのではないでしょうか。
――規制を受ける対象ユーザーは、1~3%程度と想定されているそうですが、これはauユーザー数から考えると、30万~90万人程度になりますね。規制対象となるのは、300万パケットという基準を超え、なおかつ「auの設備に深刻な影響があると想定される場合」となっていますが。
新名氏
はい、ただ実験を行った結果、最小の影響で最大の効果を得るためには、想定対象数の1/3~半分程度、つまり全ユーザーのうち、1%~1.5%になると見ています。
――規制が適用されると、どうなるのでしょうか?
新名氏
水道にたとえると、ギリギリまで絞って細くちょろちょろと水が流れるようなイメージですね。
――規制導入の発表後、ユーザーの反応は?
大内氏
トライアル期間中にお叱りの言葉をいただいたのは事実ですが、中にはスループットが速くなったという肯定的な意見もありました。
――速度規制の適用はなぜ2カ月後なのでしょうか? リアルタイムの規制はやはり難しいのでしょうか?
新名氏
リアルタイムの規制というのは、基準設定が難しいのです。品質が悪くなってからでは予防になりませんし、徐々に通信量があがっていったとしても、どこまで通信するのか判断できませんから、ちょっと使っているだけという人を規制しかねません。一方、2カ月後の規制適用というのは、請求書が届いてから「あ、来月は規制対象になるな」とわかるタイミングなのです。
■ Rev.AでのQoS、EZアプリの通信規制との違い
――auが2006年12月に導入したCDMA2000 1xEV-DO Rev.Aという通信方式には、通信品質を維持するQoS(Quality Of Service)がありますね。
大内氏
Rev.AのQoSは、どちらかと言えば、データ通信の収容効率を高める技術という位置付けです。一方、今回実施する規制のような“QoS”は、どちらかと言えば、イベント時や災害発生時への対処法に近いものです。たとえばドコモさんでは、災害発生時にデータと音声を分離してコントロールするという手法を用いていますが、当社ではもともとデータと音声は分かれているため(EV-DOの“DO”とは「Data Only」の略語)、データの中での規制技術について、以前から検討していました。
――auでは、EZアプリ(BREW)の通信が1日あたり最大3MBと制限されています。この制限と今回の規制は関わりがありますか?
新名氏
いいえ、関係はありません。EZアプリの通信制限の目的は、不正アプリの防止です。EZアプリはBREWというプラットフォームを使っていますが、この仕組みは、ソースの組み方次第でどのようなアプリでも開発できます。つまり、VoIP(IP電話)のような用途で利用されると、他キャリアに影響を与える可能性も出てしまいます。
――さきほど都心部対策と、今回の対策は異なるものという話がありました。では、都心部対策はどのような形に?
大内氏
都心部で局所的に繋がりにくいという事象があることは認識しています。具体的な対策は明らかにできないのですが、2008年上期まではシステムのパフォーマンスを向上させるようなパラメーターの調整を行ってきました。基地局増強を行いつつも、一部で追いつけない部分がありますし、そもそも基地局設置が困難なエリアもあります。
そういったエリアでのパフォーマンスを向上させるための作業がようやく終了しつつあります。ただ、その効果は数値で表現できるものではないため、きちんとアナウンスしづらいところがあります。それでも下期以降は品質向上を少しずつ実感してもらえると考えています。
――新機種や新サービスというものであれば、目に見えて手に取れるだけにわかりやすいものですが、エリアというものは確かにわかりづらいものかもしれませんね。
大内氏
基本的に、我々としては広くあまねく、一定のパフォーマンスを提供したいと考えています。その結果として、今回は一部のお客さまの利用を制限する形になってしまいますが、その一方で頑張って接続増強を行っており、なんとか満足していただける環境を作ることに腐心しています。より良いサービスを提供するために、インフラ作りは要になる部分です。地味な存在かもしれませんが、1人でも多くの方に満足していただけるよう、強い信念を持って挑んでいます。
――今日はありがとうございました。
■ URL
auからのお知らせ(夜間帯の通信規制導入について)
http://www.au.kddi.com/news/au_top/information/au_info_20080730151159.html
auからのお知らせ(通信規制実験について)
http://www.au.kddi.com/news/au_top/information/au_info_20080516124839.html
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(関口 聖)
2008/09/26 16:00
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