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GREE
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日本でいち早くSNSを開始したGREEだが、ケータイへの対応を加速させ、今では全く“別物”と呼べるサイトになっている。ケータイ向けのコンテンツを多数用意したことをきっかけに、ユーザー数も急増。5月末の時点で、500万人を突破している。同サイト内で人気のバーチャルペット「踊り子クリノッペ」(以下、クリノッペ)が「モバイルプロジェクト・アワード2008」を受賞したのを契機に、改めてケータイ版GREEやクリノッペの魅力や企画背景をうかがった。
■ ケータイユーザーの急増を受け、サイトのコンセプトを大幅に変更
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グリー、メディア開発部プロデューサー、荒木英士氏
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SNSが一部のユーザーの間でひそかに広まり始めていた頃、GREEはどちらかと言えば“やや硬めのSNS”として有名だった。当時のGREEを知る者が、同じ感覚で同サイトのケータイ版にアクセスすると、まるで、浦島太郎のようになった感覚を味わえるはずだ。
雰囲気はガラッと変わり、ゲームやデコメといった、ケータイならではのコンテンツも多い。サイト内で流通する「ゴールド」という仮想通貨も用意され、アバターのアイテムなど購入することも可能になった。
では、なぜこのような形に変化したのか。グリー、メディア開発部プロデューサー、荒木英士氏は「2005年頃から、各種の数値でケータイがPCを上回り始め、“一番使われているネット端末はケータイ”という状況になった。デコメなどのリッチコンテンツが盛り上がってきたのも、その頃。できるだけ多くのユーザーにサービスを使ってもらうと考えると、ケータイ対応は欠かせない」と話す。
サイトの雰囲気やデザインなどは、「当初女性を意識していた」(荒木氏)そうだ。こと人気のケータイサイトに関しては、PCのネット上にほとんど情報が出ていなかったため、「女子中高生が読む雑誌を見て、どういうコミュニケーションをしているのかを研究した」(荒木氏)という。デコメや着うた、ケータイ小説など、すべて女性から火が付いたことを考えると、この戦略は正解だ。
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クリノッペ
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事実、GREEはユーザー数が急増した。だが、当初の目論見以上に、幅広いユーザーがアクセスしているという。「実際にケータイサイトをもっと見ていくと、ユーザーは10代だけじゃないことが分かってきた」(荒木氏)というように、ユーザー構成は男性が53%に対し、女性は47%。20歳未満が31%、20代が36%、30代が23%、40代が10%と、多様なユーザーに満遍なく使われている様子がうかがえる。荒木氏は「20代、30代のアクティブ率が一番高い。ケータイサイトというと、女子高生向きのイメージだが、実際は主婦なども頻繁にアクセスしている」と語る。
ケータイ向けに用意したコンテンツの中から、ヒット作も生まれた。男性ユーザーに人気なのが、釣りをモチーフにした「釣り★スタ」。女性には、先に挙げたクリノッペが支持されている。両ゲームとも、コミュニケーションと密接に連動しており、ユーザー間のコミュニケーションを盛り上げるのが特徴だ。
特にモバイルプロジェクト・アワード2008を受賞したクリノッペは、SNS発のキャラクターとして注目を集めている。「ケータイでここまで使われているペットは、おそらく初めて」(荒木氏)というが、成功の秘訣は一体どこにあるのか。クリノッペの誕生秘話から、ヒットの理由を探った。
■ 表情をなくし、カスタマイズ欲求に応える
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「世話する」のメニュー
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クリノッペは、表情がなく、生物のような無生物のような、なんとも形容しがたいバーチャルペット。Flashで制作され、クネクネと“キモカワイイ”動きで、ユーザーを魅了する。アバターと同様、着せ替えにも対応。ダンスを覚えさせたり、「飴ちゃん」と呼ばれるアイテムを与えたりと、様々な方法で愛情を注ぐことが可能だ。
ユーザー同士の交流も盛んで、他人のペットに飴ちゃんを与えたり、突っついたりすることもできる。筆者も、クリノッペをしばらく放置していたら、見るに見かねたユーザーが、飴ちゃんを与えてくれたほどだ。
このようなキャラクターを採用した経緯を、荒木氏は「デザインはもめにもめて、今の形になった。GREEというプラットフォームと連動する上で、ひとりひとり違った表現ができることが重要。そのため、動いてほしい、カスタマイズは無限大の方がいい。結果として、シンプルな形状に落ち着いた」と説明する。
クリノッペに顔がないのは「感情が出せないから踊りでご主人様の感情を表現するという設定がある」(荒木氏)という。
「最初は試行錯誤な部分があった」と語る荒木氏だが、結果、クリノッペは大ヒット。度々開催されるコンテストにも、毎回30万人程度が参加するという。ユーザーの盛り上がりは、GREE内のコミュニティからもうかがえる。サイト内には「3000以上のコミュニティがあり、活発に情報交換している」(荒木氏)そうだ。
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グリー、メディア開発部エンジニア、佐藤真広氏
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“ヘビーユーザー”も存在し、ゲームのパラメーターまで、すぐに解析されてしまうという。「アンケートで統計を取って、数値を解析してしまうユーザーもいるほど。こちらとしても『その通り』という感じ(笑)」と語るのはグリー、メディア開発部エンジニア、佐藤真広氏。同サイトをのぞくと分かるが、ユーザーがクリノッペにインスパイアされて制作したコンテンツも多い。画像が中心だが、中にはムービーまである。「よほど悪質なものでない限り、クリノッペに関するサイト内の二次利用は容認している」(荒木氏)というスタンスは、ファンの創作を支持するゲーム会社に近いといえるだろう。
一時はキャリアの通信に影響を与えるほどアクセスが集中し、「他のSNSで日記を書いて広めてくれるユーザーもいる」(荒木氏)と、GREEの急成長にも大きく貢献しているようだ。
■ GREEのビジネス拡大にもつながるクリノッペ
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きせかえも可能
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GREEは、登録して基本的な機能を使うだけなら、月々の使用料は一切かからない。これは、クリノッペも同様だ。GREEのビジネスは、他のケータイ向けSNSサイトと同様、広告とアイテム課金の2つに主軸が据えられている。
クリノッペのブームは、この2つの収益にも貢献する。服や飴ちゃん、成長促進アイテムを入手するには、同サイト内で流通するゴールドが必要となるからだ。GREEはドコモ、au、ソフトバンクの公式サイトになっており、キャリアの月額課金を利用すれば、ゴールドが毎月付与される。これをクリノッペの育成に利用できるのだ。ゴールドは他のユーザーをGREEに招待することでも得られるため「ある程度ポイントを消費してユーザーを招待する」(荒木氏)というサイクルも生まれた。
一方で、広告クライアントも付き始めている。「ローソンさんにも、ゲームの世界観と一体化した広告キャンペーンを展開していただいた。ナショナルクライアントも徐々に増えている」(荒木氏)というように、ケータイサイトと縁遠いと思われがちな、大手企業も、クリノッペに興味を示す。
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多数のユーザーが参加するコンテスト
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「あくまで広告でもユーザーが楽しめる形にしている」(荒木氏)と、単に利益だけではないのも、クリノッペのイメージを高める。「キャンペーンの内容に注文をつけたり、制作ディレクションにも気をつけたりしている」(荒木氏)そうだが、こうした世界観を大切にする姿勢も、イメージを大切にする大手企業に受けている理由といえるだろう。
荒木氏は「外でのプロモーションは一切していない。本当にユーザーのお陰。愛情を裏切らないよう、今後も丁寧にやっていきたい」と、モバイルプロジェクト・アワード2008受賞の喜びを語る。
モバゲータウンのヒットを受け、ゲームを絡めたケータイSNSが、雨後の筍のようにも登場した。しかしながら、単に形を真似ただけのサイトは、ほとんどが二番煎じのポジションに甘んじている。そうした状況の中で、GREEが頭角を現したのは、ユーザーのことを熱心に考え、他のサイトにはないオリジナリティの高いコンテンツを提供できたからだ。クリノッペのブームには、GREE成長の理由が凝縮されている。
■ URL
GREE
http://gree.jp/
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(石野純也)
2008/07/14 14:27
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