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「W61P」開発者インタビュー
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au端末随一の多機能薄型モデル、その秘密に迫る
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W61P
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2007年、5年ぶりのau向け端末「W51P」を開発したパナソニック。2008年春モデルとして登場した「W61P」は、再参入から3機種目となるモデルだ。「W51P」「W52P」ではアシンメトリーデザインを採用し、女性ユーザーをメインターゲットに据えていたが、「W61P」は薄型化に注力し、狙うべきターゲット層も大きく変わったという。
プロジェクトマネージャーの細井 茂氏、商品企画担当の大西 恵加氏、電気設計担当の増田 達也氏、機構設計担当の大平 明典氏に「W61P」のコンセプトや内部構造などについて話を聞いた。
■ ターゲット層はビジネスユーザー
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左から商品企画担当の大西氏、電気設計担当の増田氏、機構設計担当の大平氏、プロジェクトマネージャーの細井氏
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左からW52P、W51P、W61P
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――最初に「W61P」を目にしたとき、その薄さに大きなインパクトを受けました。W51PやW52Pから、外観ががらりと変わりましたね。
細井氏
au再参入から3機種目と、ここらで毛色を変えなければという考えがありましたね。
大西氏
過去のモデルでは女性向けモデルに仕上げていましたが、今回はよりビジネス層に広げたいと。パナソニックらしさという特徴を打ち出す際に、1つはワンセグ、もう1つが薄型という路線があって、今回は薄型に注力しようということになったのです。薄型にする場合、機能をそぎ落とせばよりスムーズに開発できますが、増田が「機能を盛り込んで薄く」と主張していました。そこで、ワンセグ用のアンテナも内蔵するといったアイデアが浮かび、デザイン面でもフロントパネル(サブ液晶がある背面部)は携帯電話らしさをできるだけ消して、新しい雰囲気作りを目指しました。
増田氏
私自身は、「W51P」からau向け端末の開発に携わっていますが、これまでは女性向けモデルとされ、男性である私が持つには、少し躊躇するところがありました。これまでが女性向けならば、次は男性向けでいこうと考え、その中でも薄さは受け入れられやすい要素だろうということですね。
大西氏
薄さを追求したモデルは、社内外から多くの要望をいただいていました。W51P/W52Pは上質感を持たせてきましたので、今回も単なるビジネス向けモデルにはしたくなかったのです。
――ということは、W51P/W52Pで女性ユーザーを順調に獲得できたと見ているのですね。
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端末コンセプトを語っていた大西氏
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細井氏は「薄さがパナソニックらしさ」と語る
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大西氏
ええ、我々としてはそのように分析しています。
――うまく市場に受け入れられたモデルから一新する、というのは不安に思いませんでしたか?
細井氏
そのあたり、W61Pの基本コンセプトはすんなり決まりましたね。
増田氏
W51P/W52Pでアシンメトリーデザインを採用して、「もう一回やろうか」という声もありました。確かに、その考え方もありますが、デザインやサイズを進化させなければいけません。
細井氏
今回は、薄さという点が「パナソニックらしさ」としてフォーカスした部分です。その上で、ワンセグ機能が一般化し、もはや当たり前という時期でしたので、薄いワンセグモデルを目指したのです。
大西氏
au全体のラインナップを見ると、ワンセグはほとんどの機種で取り入れられており、W61Pも薄型に特化するのではなく、基本的な機能を用意してバランスの良い機種にしました。
■ 薄さの秘密
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薄いケータイ開発の難しさを語っていた大平氏
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――薄くして、なおかつFeliCaやワンセグ機能もあるとなると、その内部構造が気になります。
大平氏
部品をどのように配置するか、スペースがどうしても限られるのは確かです。ただ、搭載デバイスは、W51P/W52Pと比べて、大きく刷新したわけではありません。これまで使っていた部品を元に、より薄くしたのです。イヤホンジャックや外部接続端子を設けながらフォトライトを搭載していますし、FeliCaやワンセグのアンテナもある。ワンセグという利用用途を考えると、バッテリーパックのサイズも小型化できません。このあたりは難しいところです。
――W61Pは薄さ12.9mmです。13mmを切ることが目標だったのでしょうか。
大西氏
これまで14mmを「薄い」と感じていた人は何mmになれば、もっと薄いと思うのか、などと薄さに対する印象を調査し、そのあたりから13mmという目標を導き出しましたね。
大平氏
たとえば薄さ23mmというボディサイズが1mm減って22mmになっても誤差と捉えられるでしょうが、14mmのものが13mmになるとグッと薄く感じてもらえるのです。10mm台前半になると1mmの比率が大きくなって、実際、目で見ても14mmと13mmは違いがわかるのです。
――他社製品を含め、これまでのauのラインナップを見ると、薄さを前面に押し出したモデルはあまりありません。ところがW61Pは薄い。このあたりの差はどういった理由があるのでしょう?
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W61Pの分解モデル。本体のうち、手前がディスプレイ側、奥がキー側。バッテリーが占める面積などがよくわかる
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最薄部12.9mm
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増田氏
携帯電話の薄さを追求するには、それなりに難しく大変な部分があります。開発陣としては、ユーザーが望むモノと考えるとモチベーションが上がって「大変だけれども喜んでもらえるなら、いっちょやってみようか」と思うところはあります。
W51Pで再参入したわけですが、最初から薄くするのは難しい部分がありました。今回、再参入から3機種目となりましたが、このこと自体が薄型化実現の一因と言えます。つまり、先ほど「デバイスは刷新していない」と言いましたが、これは使い慣れた部品で開発を進めたという意味でもあります。使い慣れた部品だからこそ、部品の特性を理解して「ここまで薄くできる」と判断できるんですよ。
液晶や電池の厚みを薄くするだけではなく、「この部品とあの部品の組み合わせでは……」というノウハウの蓄積が影響したと言えます。薄さだけではなく、性能にもそのノウハウは現われていて、たとえばW61Pのカメラ用デバイスはW51P/W52Pと同じですが、デバイスの特性を理解していましたので、チューニングによって性能を向上させています。
たとえばW52Pの開発時には、部品間の干渉を防ぐため、基板上にはある程度のスペースを設けていました。ところが、W61Pは同じ部品を使いながら基板のシールドを少なくして余分な空間を埋めています。この結果、大きな部品1つ分の場所が稼げるほどの影響があります。
――部品と部品の間にスペースを設けて干渉を防ぐということですが、干渉とはいわゆるノイズのようなものを意味するのでしょうか?
増田氏
そうですね、たとえばカメラで言えば、撮影時にメールが届いたりすると相互に影響を与える可能性があります。開発時には、その影響を排除することになるわけで、いわば部品と部品の間に“壁”をつくってやることになるんです。各部材の特性を把握できていなければ、「全てに壁を」ということになりますが、だんだんわかってくると、「ここの壁はいらないな」と本当に壁が必要な部分がわかってきます。そういったノウハウの積み重ねによって、基板そのものも小さくなっています。
――なるほど。では、パナソニックの薄型モデルは、他キャリア向け製品で実績があります。そのあたりで培ったノウハウは、W61Pにも活かされているのでしょうか?
大平氏
ええ、その技術の1つが「ボードモールド」ですね。
――樹脂で基板を固めて、剛性を確保するという技術ですね。
大平氏
W61Pを見ると、キー側ボディの半分以上をバッテリーが占めていることがわかるでしょう。キー側ボディの残りのスペースににau ICカードスロットや、microSDカードスロット、カメラモジュールを入れます。基板を入れるスペースはキー側ボディにはなく、液晶側ボディしかありません。液晶側の剛性を確保するためにボードモールドで固めているのです。
■ 薄くすることの難しさ
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増田氏は、限られた空間に部品を詰め込む苦労を説明
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――仮にボードモールドという技術を使わなければどうなるのでしょう? 薄い携帯電話では金属を用いて剛性を確保するモデルもあります。
大平氏
たとえば強度を無視すると、もっと薄くできますが、その代わり破損しやすくなりますよね。そういったバランスを考えると、今の構造は正しい薄型化の流れに乗っ取ったもの、と考えています。確かに金属によって固くすることはできます。ただ、アンテナとの兼ね合いが難しくなる。かといって、樹脂を用いると、金属を使うよりも厚みが必要です。このあたりはジレンマに感じることもありますね。
増田氏
アンテナの性能を決めるのも、本当にもう、血まみれになって検討を重ねた部分ですよ(笑)。さらに、おサイフケータイの機能を実現するためにFeliCaのアンテナも搭載していますし。いくつものシミュレーションを行なって、特性を解析しながら検討していきました。実際にボディ内部へ部材を配置してみると、ちょっと特性がずれたりする。これらのチューニングを何度も行ないましたね。
■ レリーフキー
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数字部分が盛り上がった形状のレリーフキー
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――テンキー部分のデザインが印象的ですね。このあたりのデザイン、仕組みはすんなり決まったのでしょうか?
大平氏
このキー形状は「レリーフキー」と呼んでいるのですが、もちろん多くの議論を重ねた部分です。
大西氏
デザインコンセプトしては、「something like fashion」というキーワードを掲げていました。つまり、いかにも携帯電話、という雰囲気を払拭しようと考えていたんです。ですからフロントパネル周辺は、フラットな面をアピールし、ファッション性を高めようと注力した部分です。
全体的なデザインを追求する中で、たとえば大振りの押しやすいキーを採用すると、デザインコンセプトとはズレてしまいます。しかし、押しやすさそのものは大事にする。デザイン性と押しやすさを両立させるものとして、レリーフキーを採用したのです。
写真では平らに見えてしまうかもしれませんが、実際は数字の部分が盛り上がっていて、指で触るとよくわかります。しかし、「押しにくい」という印象を与えてしまうと、「メールが使いにくいかも」と敬遠されてしまう可能性があります。そこで、操作性とデザイン性については、きちんと調査した上でレリーフキーを採用しましょうと考え、その結果「やってみると押しやすい」ということで、採用に至ったのです。
増田氏
開発時には、W61Pそのものがありませんから、W52Pにレリーフキーの試作を貼って試しましたね。
■ 薄くてもワンセグ
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ワンセグ用アンテナは内蔵
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――13mmを切りながらワンセグ、というスペックを見たときは驚きました。
大西氏
おまけのように思われるかもしれませんが、きちんとワンセグを楽しめるよう、そのあたりもきちんと注力しています。色遣いや明るさをきちんと出せるように。液晶そのものは過去の機種と同じものではなく、新たな部材を採用しています。照度センサーも設けて、屋内外で明るい画面で視聴できるようにしました。
――パナソニック製の携帯電話でワンセグ、といえばUniPhierなどを用いているのでしょうか?
大平氏
いえ、UniPhierやモバイルPEAKSプロセッサーは利用していません。それでも他のパナソニック製ワンセグ対応ケータイに遜色ない画質と自負しています。
アンテナ技術は、NTTドコモ向けの「P705i」などに実装された技術と同じ考え方です。いわば、端末全体がアンテナになってワンセグの映像を受信しています。この技術はW51Pにも搭載されていて、ワンセグだけではなく、さまざまなアンテナに活用できるのです。
――なるほど。本日はどうもありがとうございました。
■ URL
W61P 製品情報
http://panasonic.jp/mobile/au/w61p/
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(関口 聖)
2008/03/28 11:07
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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