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「SO905i」開発者インタビュー
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復活のジョグダイヤル、ハイスペックな全部入りケータイ
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SO905i開発陣。左から増田氏、千葉氏、竹井氏、西田氏、倉島氏、安達氏
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NTTドコモ端末としては、「SO505i」以来、上下に回転するジョグダイヤルを搭載した端末となる「SO905i」は、音楽再生やワンセグ視聴機能などを備えるだけではなく、ソフトウェア面でも大きく改善されるなど、従来のソニー・エリクソン端末の集大成とも言える機種だ。
今回は、プロジェクトマネージャーの千葉氏、商品企画担当の安達氏、デザイン担当の竹井氏、機構設計担当の増田氏、ソフトウェア担当の倉島氏と西田氏に話を聞いた。
■ 「機能を溶かし込むデザイン」
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「機能を溶かし込むデザイン」を目指したという
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――最初にSO905iのデザインコンセプトを教えてください。
竹井氏
SO905iは“どの点でもハイスペック”というところからスタートしています。登場感や斬新さをアピールするため、特定の方向に偏ってインパクトのある形状を採用しがちですが、あらゆる機能が搭載されることになり、「機能を溶け込ませる」というコンセプトに基づき、シンプルでソリッド、飽きの来ないデザインを目指しました。その代表例がタッチキーです。並行してハードキー搭載のデザイン案も検討しましたが、ガジェット感が強調され、コンセプトにそぐわないと判断し、タッチキーを採用しました。
「溶け込ませる」という考え方は当社の製品には従来あまりなかったものです。そういう意味で、SO905iのデザインはソニー・エリクソンが新たなフェーズに入ったことを表現できたと考えています。
――ミュージックタッチキーはSO903iがベースと言えると思いますが、ソニー・エリクソン端末のうち、比較的最近リリースされたSO903iやSO903iTVの機能を継いだのはなぜでしょう?
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プロジェクトマネージャーの千葉氏
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千葉氏
携帯電話開発は非常に大変なもので、毎回全てを入れ替えるわけにはいきません。ユーザーから評価された良い機能は残して、さらに改善していくべきだと考えています。機種それぞれにコンセプトがありますが、基本的な部分は引き継いでいきたいですね。特に、ソニー・エリクソンは、FOMAでは他社を追う立場。常にチャレンジャーであるという意識を持ち、今あるものをどんどんブラッシュアップしていきたいです。
SO903iとSO903iTVは、それぞれ音楽、ワンセグという機能に特化したデザインでしたが、SO905iでは、コンセプトが変わりましたので形も変わりましたが、引き継いだ部分もあります。以前あった機能という点では、今回はやはりジョグダイヤル(+JOG)が大きな特徴ですね。ジョグダイヤルだけはどうしても復活させたかったという想いはありました。ユーザーから寄せられている要望には応えたいと考えていました。
■ タッチキーの採用について
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機構設計担当の増田氏
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デザイン担当の竹井氏
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――タッチキーの採用はコンセプトに基づくとのことですが、最初から採用されることになっていたのでしょうか?
増田氏
SO903iのミュージックキーは好評でした。音楽を楽しむ人にとってはぴったりなキーだったのです。ただ、SO905iは音楽だけに特化した携帯電話ではありません。ワンセグを楽しむ時や、それらの付加機能を使わない時には、ハードキーは少し邪魔になってしまうかもしれません。そのことを考慮し、タッチキーにしたことで操作時だけ浮かび上がって、しかもSO903iやSO903iTVと同様の機能を使えるようになっています。
――コンセプトとタッチキーは確かにマッチしている印象ですが、タッチキーはすんなりと出てきたアイデアだったのでしょうか?
千葉氏
いや、そうでもなかったのです。まずワンセグ用のビューイングタッチキーは最初から決めていました。それは、SO903iTVでは、アンテナが外側に出ているため、アンテナの下に操作キーを収納できましたが、SO905iは外観を考えると、アンテナを収納式にしたいと考え、あわせてビューイングタッチキーの採用を決めました。
一方、ミュージックタッチキーは搭載は、さまざまな議論を経ており、半年近くかかっています。
安達氏
タッチキーは、SO903iが登場する前から検討しておりました。SO903iは音楽再生機能に注力し、ユーザーからも高く評価していただいていました。おかげさまで音楽と言えばソニー・エリクソンというイメージもできあがったと思っています。SO903iでは、長時間再生、ウォークマンの技術を使った高音質を実現し、音楽再生機能もよく作り込むことができました。パソコンからのデータ転送もMP3をドラッグ&ドロップだけで可能でした。これらSO903iの音楽機能の良さを、SO905iでも継承できたと思います。
――高評価を得たものを採用しない、というのは大きな決断に思えます。
竹井氏
先ほど述べたように、1つの機能を突出させるのではなく、機能を溶け込ませるという考えを重視した結果ですね。
――フォースリアクタという機能も特徴的ですね。
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背面のミュージックタッチキー。触れると振動する「フォースリアクタ」も搭載されている
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千葉氏
バイブレーションとは別に実装した機能です。タッチキーのようなインターフェイスと組み合わせることで、フィードバックを与える、つまり押すとカチッと反応が返ってきて、操作した感触がわかりやすくなります。ただし、タッチキーを使わない人もいることを考えて、OFFにできるようにしました。
――タッチキーとフォースリアクタは、ハードキーよりも実装しやすいのでしょうか? ビューイングタッチキーとミュージックタッチキーは比較的近い場所に配されていますが。
千葉氏
部品が占める体積で特に有利というわけではないですよ。かなり苦労した部分です。ビューイングタッチキーとミュージックタッチキーを近くしたのは、操作性と電気特性を確保するためですね。
――携帯電話としてのアンテナに加えてワンセグやFeliCaなどのアンテナも搭載されていますが、タッチキーに干渉しないのでしょうか?
本当に「タッチキーはやめてしまおうか」と考えるほど苦労しました。電気的に見ると、タッチキーは浮いた状態で置く必要があり、近くに金属があると静電容量が変化して、誤検出してしまうのです。ぎりぎりまでチューニングに時間を費やしました。
■ ソフトウェアが一番変わった
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ソフトウェア担当の倉島氏
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メニュー周りは100項目以上改善されたという
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――メニュー周りも、SO903iなどから比べるとだいぶ変化したという印象です。
安達氏
そうですね。一見するとタッチキーやワンセグ機能、+JOGが注目されがちですが、一番変化したのはソフトウェアかもしれません。
――ユーザーインターフェイスの変化というのは、旧来のユーザーにとって抵抗を覚える部分なのでは?
倉島氏
SO905iでは、きせかえツールに対応していますが、それだけでは他の端末と差別化できません。ソフトウェア面では、設計のフェーズがかなり進んだ段階においても、SO903iTVユーザーの要望なども取り入れ、100項目以上の改善を施しています。
メニューカスタマイズだけではなく、たとえばジョグを回したときに起動する機能、ディスプレイを露出したまま折りたたんだ時に起動する機能など細かく設定できるようにしています。どの操作でどの機能を起動させるか、好みによって異なりますから、選択肢を設けることにしたのです。
安達氏
「過去のユーザーに抵抗感があるかもしれない」という点ですが、ひとくくりにはできません。カスタマイズ性を向上させたのは、「ここでこうなったら便利だろうな」という部分をできるだけ取り入れたからです。
――カスタマイズ性が高まるのはユーザーにとって歓迎すべきことですが、開発陣にとっては検証作業などが膨大になるリスクもあります。
倉島氏
はい、そのあたりは苦労しましたね。
――その大変な作業は過去にも経験していたのでしょうか? それとも今までないほどの作業量だったのでしょうか?
倉島氏
どちらかと言えば……後者ですね(笑)。
千葉氏
今回はディスプレイのVGA化などもあり、過去の物を引き継げない部分がどうしても発生してしまいますので、渡りに舟ということでソフトウェア面で刷新した部分もありますね。
――マルチタスクも手が加わっていませんか?
安達氏
SO902iで採用した仕組みとは異なるタスクメニューになっています。これは、今回きせかえツールに対応したことで、他社製の携帯電話とできるだけ整合性をとりたいと考えたからです。コンテンツプロバイダさんからきせかえツール用コンテンツが配信されると思いますが、SO905iだけ仕様が大きく異なれば、対応コンテンツが出てこないかもしれない。そういう事態を招くのは避けたかったのです。
倉島氏
一部メニューだけ、従来機種と同じようなタスクメニューにすることもできなくはなかったのですが、1台の端末の操作として異なる操作方法があるのは混乱を招く、という懸念もあり、全面的に変更することにしました。
安達氏
レッド以外の3カラーでは、リストタイプではなく、アイコン型のメニューをプリセットにしていますが、これは「SO905iではこういうこともできる」というアピールですね。
――文字入力では、POBoxの新バージョンが搭載されていますね。
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ソフトウェア担当の西田氏
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倉島氏
それも改善項目の1つです。長い文章を入力して変換するときにも、文節変換に物足りなさを感じるというユーザーの声がありました。
安達氏
とりあえず全部入力してから変換する方には連文節変換が適していますし、これまでのPOBoxのように単語ごとに入力して変換するよう方もいるでしょう。
ユーザビリティに関するところでは、この文字入力やメール、アドレス帳などのプライオリティを従来よりも大幅にアップさせて、精力的な改善に取り組んでいます。
西田氏
ちょっとしたことですが、ジョグダイヤルでスムーズに電話発信できるよう工夫しています。たとえばアラーム登録数は3件から12件に増加させています。アラームの一覧画面では、ON/OFFくらいしかわからなかったのですが、検討を重ねた結果、その他の設定などもわかるようにしています。少しでも便利になるようにしたかったのです。
■ ジョグダイヤルの復活
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上下に回転するジョグダイヤルはSO505i以来。ちなみに方向決定キーの色は、ボディカラーによって若干異なる
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――「+JOG」の搭載は、ユーザーインターフェイスへの影響も大きそうですが、実際どうでしたか?
千葉氏
+JOGで変わった部分はあまりなかったですね。ただ、チューニングには時間をかけました。調整を重ねていくと、「もっとこうしよう」と欲が出てきます。過去に搭載していたジョグダイヤルを回すと、アドレス帳が表示されていたのですが、現在のユーザーインターフェイスをそのまま引き継ぐと、アドレス帳は表示できない。そこで、カスタマイズできるようにしています。
安達氏
SO905iの文字入力では、漢字変換のときにジョグで選択しようとすると、デフォルト設定ではアルファベットの「Z」を描くようにカーソルが移動します。一方、方向決定キーの上下で操作すると「Z」ではなく、上下だけに動きます。
しかし、この部分も好みによっては「ジョグでも上下のみにカーソルが動く方が良い」という人もいるでしょう。そこで、デフォルト設定とは別に、「+JOG」と方向決定キーでのカーソルの動き方を変更できるようにしているわけです。
作り込んでいくほど、どんどん課題が出てきます。そのたびに議論を重ねて、担当者に苦労してもらって改善していきました。
千葉氏
かつてジョグダイヤルをやっていたということで、こだわりはありますよ。ある程度スムースに使えなければジョグとは呼びたくないというか。
安達氏
そういう意味では、今回はただジョグダイヤルが復活させただけではないのです。「+JOG」という名称の“+”とは、ジョグを足したという意味もありますし、方向決定キーの形や、方向決定キーにジョグが付加されたという意味があります。
増田氏
ジョグダイヤルの搭載は、すなわちレイアウトの制約が大きくなるということです。厚みも通常のキーより増えます。通常の決定キーの操作感、方向決定キーの操作感とさらにジョグダイヤルの回転を両立させたのも苦労しました。ハード的なクリック感のあわせこみも時間をかけました。
千葉氏
方向決定キーの形状は、ぱっと見ると普通に見えますが、かなり検討を重ねました。
――SO905iでジョグダイヤルが搭載された、というのはフルスペックの機種だからでしょうか?
千葉氏
ジョグダイヤルへの要望は、常に頂いていました。新機種をリリースするたびに、「ジョグはありますか?」と毎回聞かれていましたし……どの端末を企画するにせよ、毎回アイデアは必ず出ていました。90Xiシリーズを購入されるような方は、ジョグダイヤルのような機能を好むと考え、今回の搭載にいたりました。
安達氏
ですので、SO905iの開発当初からジョグダイヤルの搭載は決断していましたね。
――良くも悪くもジョグダイヤルの存在感は大きいんですね。
竹井氏
ソニー時代からずっと搭載されユーザーから評価されていたので、搭載が見送られるようになっても、デザイン側ではなんとかアイデンティティとして復活させたいと取り組んできました。SO905iの開発とは別の流れで、アイデア自体は練ってきました。方向決定キーとジョグダイヤルの組み合わせのアイデアはかねてより考えていたものです。
ジョグダイヤルは便利だと思っていますが、利用しない方もいるでしょうから、邪魔にならないような形状を目指していました。従来のジョグダイヤルは、操作感を踏まえて、ボディから出っ張った形になっていましたが、SO905iでは、ボディ内部に入れて、ジョグ周辺を削り、回転しやすいスペースを作っています。完全に真っ平らですと操作できませんから、操作感を出せるよう、相当苦労しました。増田からは安易に「できない」とは言ってきませんでしたね。その分、機構設計は苦労したと思うのですが……。
増田氏
全体的に言えることですが、設計の都合で格好が悪くなるのは嫌ですから、さまざまな検討をしました。ジョグダイヤルの構造は、これまで接触型スイッチでしたが、今回は磁石を利用した非接触型にしています。
千葉氏
昔はメカ的な接点でクリック感を出していましたが、今回は磁石でクリック感を出して、電気的にON/OFFしています。これらの試みで、さらに信頼性が増していますよ。
■ スタンド機構
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背面のパーツがスタンドになる
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――ワンセグ視聴に関連して、背面のパーツがスタンドになるという仕組みには驚かされました。
増田氏
SO903iTVでは、傾けて立てられるようにしていましたが、同じ形状にするとワンセグを強調することになりますから、SO903iTVとは違うデザインにしたいというところから出てきたアイデアですね。
安達氏
SO903iTVでは、「これからワンセグ」という時期でしたから、自立できる機構を取り入れました。SO905iでも何らかの形で据え置きでワンセグを楽しめる仕組みを取り入れたかったのです。
竹井氏
デザイン面から見ると通常は背面のアクセントになっています。全体的なデザインのテイストにあまり影響を及ぼすことなく、シンメトリーな形状を保っています。
安達氏
使わない人にとっても邪魔にならないようになっています。
――出っ張らせたほうが機構設計は楽だと思えますが……。
千葉氏
そこはやはり出っ張らせてはデザインを損なうと考え、スマートに収納できる形にしました。
安達氏
ワンセグの利用という点では、スピーカーを3つ搭載したことも隠れた特長と言えます。携帯電話のスピーカーは、背面にあったり、液晶ディスプレイ側ボディの両側面というパターンが多いのですが、SO905iは、前向きに音がきちんと伝わります。
千葉氏
携帯電話のスピーカーは、「着メロが聞こえればよい」という時代からどんどん求められる性能が変化しています。音楽再生やワンセグに対応したことで、スピーカーもきちんと音が聞こえるようにしましょうと。さすがにスピーカーを4つ入れようという話はなかったですけどね(笑)。スピーカーを搭載すると、音を鳴らす空間が必要になりますから。
■ その他の特徴
――USB 2.0に対応したというのも特徴とされていますね。このタイミングでサポートされたのはなぜでしょう?
千葉氏
これまではパソコンと携帯電話を接続してもやり取りするデータは、アドレス帳のバックアップ程度で、高速通信の必要性はありませんでした。ところが、パソコンから音楽を転送する機会が増え、高速な転送速度が求められるようになってきました。そこで今回高速化することになったのですが、初期の段階からサポートすることは決まっていましたね。画像関連ではIrSimpleに対応したことも新機能の1つです。対応できるものはできるだけ、というところです。
――もう1つ気になるのは、microSDカードへの対応です。
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商品企画の安達氏
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安達氏
フラッグシップなので注目されますが、ソニー・エリクソンとしてはSO703iで既にmicroSDカードに対応しています。
千葉氏
SO703i以来、今回で4機種目です。ユーザーが持っている音楽などの資産をmicroSDになっても活かせるようにすることを重要視し、microSDカードでATRAC3が利用できるようになりました。
――ドコモさんがリードした規格としては、GSM方式への対応も挙げられるかと思いますが、海外にも拠点があるソニー・エリクソンとしてはスムーズにクリアできたのでしょうか?
千葉氏
海外向けモデルと国内向けモデルを開発するチームは異なるため、国内担当の我々にとって、GSM方式の開発は初めての部分もかなりありました。ただ、ソニー・エリクソンの海外開発拠点から情報をもらったりできましたので、その点は助かりました。
――このほか、特徴的な機能は?
安達氏
ACCESSさんと共同開発したフルブラウザで「ブックマークサムネイル」という機能を実現しています。ブックマーク登録時にWebページをキャプチャーしておき、サムネイル画像で表示するようにしています。
また、「PagePilot(ページパイロット)」という機能を搭載しています。これはWebページ全体を表示して、見たい部分を拡大するというものですね。携帯電話の画面サイズが限られていますが、そのなかでもスムーズにWebサイトをブラウジングできるようにする機能ですね。実はフルブラウザは、SOとしては初搭載なのですが、かなり新しい機能を詰め込んでいます。
――ありがとうございました。
■ URL
製品情報(ソニー・エリクソン)
http://www.sonyericsson.co.jp/product/docomo/so905i/
製品情報(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/product/foma/905i/so905i/
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(関口 聖)
2007/12/07 11:11
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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