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「W53SA」開発者インタビュー
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薄さ20mmの防水ワンセグを実現したポイントとは
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「W53SA」は、IPX5/IPX7準拠の防水性能をサポートしたワンセグケータイだ。三洋電機としては、これまでもジュニアケータイA5525SAなどで防水仕様に対応した機種は存在したが、CDMA 1X WIN端末というハイエンド機種で、さらにワンセグまでサポートした「W53SA」の内部機構はどうなっているのだろうか。商品企画を担当した鳥取三洋電機の徳原康隆氏と、機構設計を担当した上山知毅氏に聞いた。
■ ユーザーが気づいてきた
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機構設計を担当した上山氏(左)と、商品企画担当の徳原氏(右)
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――まず「W53SA」のコンセプトやターゲット層、そして防水という仕様をサポートした理由を聞かせてください。
徳原氏
ターゲット層は20台後半の女性、上質なものを好み、トレンドをリードするような方々ですね。そういったユーザーがバスルーム内で使いたいケータイというコンセプトで「W53SA」を開発してきました。
何のための防水か、これまでは曖昧だった部分もあったと思います。たとえば雨が降ってきても安心して使えるというシーンもあるでしょうが、わかりやすいところとして、バスルームでの利用が挙げられます。当社がマーケット調査を行なったところ、ターゲットである女性ユーザーからは、携帯電話に防水を求める声はワンセグよりも多いくらいで、そこに応えた形になります。
――携帯電話に防水、というのは昔から求められていることなのでしょうか?
徳原氏
あったら便利な機能として求められてきた機能なのでしょう。ただし、ユーザーが気づいてきたのは比較的最近のことではないでしょうか。たとえば、半身浴のブームがあったからこそ、バスルームでの時間の使い方として携帯電話を……という言い方もできると思います。やはり、昔は水回りで電化製品を使うという考え方自体ありませんでしたよね。また、防水ケータイを開発するには、技術的に難しかったところもありました。
■ 防水の仕組み
――防水ケータイでは、外部接続端子のカバーなどがパッキン処理されていることが特徴的です。パッキン以外ではどういった形で防水を実現しているのでしょう?
上山氏
たとえばキー側ボディは、基本的に1つの箱、密室にして、主要パーツはその内部に収納されています。外部接続端子やイヤホンジャック、バッテリー収納部が外部に露出する部分になるため、それぞれのカバーにパッキンを付けているのです。
またディスプレイ側ボディは、メイン画面側とサブ画面側と2つのボディパーツを組み合わせたものですが、その組み合わさる部分にはパッキンが入っています。折りたたみ型ですので、キー側とディスプレイ側のボディをヒンジでつなぐことになりますが、それぞれのボディ内部に繋がる部分はゴムで塞ぎ、そのゴム内に配線しています。ヒンジそのものは水が入り込む形ですが、腐食を防ぐ処理などを施しています。
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キー側ボディは密室状態
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ディスプレイ側ボディにはパッキン処理が施されている
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ヒンジ内の配線もゴムで防水
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――三洋製品としては、最近、防水仕様のデジタルカメラ(Xacti DMX-CA65)が発売されています。何か関連はあるのでしょうか?
上山氏
「W53SA」は、鳥取三洋電機が開発を担当した機種ですが、防水については三洋電機のデジタルカメラ部門に技術協力をいただき、開発時には幾度も相談にのってもらいました。「W53SA」完成時にもデジタルカメラ担当者に来てもらい、「W53SA」の防水機能を確認してもらいましたね。
携帯部門内には、防水を実現するためのプロジェクトチームも作りました。事業部長をトップにし、製造や品質、資材、設計などの各部門からメンバーを選出し、形状や材質などの工夫を凝らしてきました。デザインや商品企画、設計などあらゆる部門が同じ敷地内にあり、開発時に問題が発生すれば、すぐに会議を招集し、スピーディに解決できます。同じ敷地内という物理的な成り立ちがあるから各部門が連携しやすい。携帯電話は垂直立ち上げの世界で、流行の移り変わりが激しいですから、組織としての特徴が活かされると思います。「W53SA」はその集大成です。
■ プロジェクトチームで取り組む
――これまで国内に登場している防水ケータイと比べ、「W53SA」はハイエンドという点が異なる部分と思えます。
上山氏
特徴的な機能としてワンセグ、そしてFeliCa(おサイフケータイ)やステレオスピーカーも搭載しています。これらの影響度が大きい部品を入れた上でコンパクトサイズを実現するわけです。商品企画側からコンセプトを伝えられた後、何度も何度もレイアウト案を検討し、試行錯誤を重ねた結果、薄さ20mmで幅50mm、長さ104mmというボディサイズに搭載することができました。
多機能さと防水、そしてコンパクトボディと、それぞれを1つの製品で実現したことになりますが、構想設計を行なった3週間では、いくら検討しても部品が収まらず、ひたすら悩み続けた時期もありました。最終的に、それまでためらっていた部分に手を付けてレイアウト面の解決が見えたことになります。
――「防水でなければ……」と考えてしまいそうですね。
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ディスプレイ周辺の部材をはずすと、12カ所のネジが見える
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ディスプレイ部のネジにも防水のためパッキン処理
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上山氏
ええ、防水でなければ、すぐにでも解決できたことでしたし、もっと薄くできますね(笑)。
徳原氏
ただ、商品企画としてはユーザーに受け入れられるために便利な機能を搭載し、デザイン性を追求しなければなりません。たとえばサブディスプレイを搭載しないなど、使い勝手を損なっては意味がありません。ユーザーの立場になってみれば、最新の携帯電話であれば、機能も最新であって欲しいと思うのではないでしょうか。
特に今回ターゲット層となった女性層は、ワンセグよりもデザインやサイズ感を重視する層です。そこで、スタイリッシュな防水をコンセプトにし、デザインと防水の両立を目指したのです。
上山氏
今回は20mmという薄さを実現しなければなりませんでした。そこで、高い剛性を持つ特殊なプラスチック素材を採用し、薄さと強さを両立させています。「W53SA」は、女性を意識したコンセプトの元に開発されましたが、その内部はかなりしっかりしています。この剛性感は男性的とも言えます。たとえば、メインディスプレイ周辺のネジ止めは、12カ所にも及びます。通常の機種では4カ所程度ですので、3倍程度、強く締めているわけです。このネジにもパッキンが施されており、内部への浸水を防いでいます。
――特殊な素材ということですが、デメリットはなかったのでしょうか?
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マトラッセと呼ばれるデザインに仕上げられている
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上山氏
この素材は、その特性上、塗装しづらいという点が挙げられます。とはいえ、コンセプトとしては色の艶や光沢感が重要な要素でしたので、そのあたりをどう実現するか悩みました。最終的には、特殊な塗料を開発し、3層に重ねて塗っています。ただ、ワインレッドだけは4層塗りになっています。物作りの工程において、重ね塗りすることはその分、ホコリなどが付く可能性が高まりますので、品質維持という点で高いレベルが要求されますね。
――サブディスプレイ周辺のボディは窪みがつけられた形状ですが、フラットにしたほうが開発しやすいのではないか、と思えます。
上山氏
今回の形状は「マトラッセ」という名称ですが、当初はフラット形状の予定でした。確かにフラットのほうが薄さの実現などで開発しやすかったと言えますが。しかし、デザインと質感という点で、マトラッセが採用されました。この窪みの部分も、光の反射具合がベストになるよう3次元CADで何度も修正を重ねました。溝の深さや山のようなカーブ形状を調整しましたが、窪みを付けながら20mmという薄さを実現するため、たとえばサブディスプレイは有機ELになりました。
有機ELのほうが薄くできるということで採用しましたが、当社としては初めて使う部材ということでハードルもありました。サブディスプレイはハーフミラー仕上げですが、これはデザインという点に加えて、紫外線をカットして有機ELの耐久性を高めています。このハーフミラー仕上げは、ボディカラーによって色が異なっていて、ワインレッドのサブディスプレイは、シャンパンゴールドになっています。
■ 「防水ならでは」の工夫ポイント
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2段式の防水ワンセグアンテナ
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――防水でありながらワンセグ対応という点が特徴的ですが、どういった工夫を?
上山氏
ワンセグ搭載で工夫したポイントとしては、防水対応の2段式ホイップアンテナが挙げられます。これも構造や材質を何度も見直しながら、なんとか実現できたのですが、アンテナを閉じた時と伸ばしきった時に水や空気が入らない機構になっています。
徳原氏
アンテナが中途半端な長さの場合、アンテナ内部に浸水することになりますが、アンテナの性能自体に問題はありません。ただ、浸水したままアンテナを閉じてカバンに入れて、何かの拍子でアンテナが少しでも伸びると、水がでてきてカバンの中が濡れてしまう恐れがあります。そこで「バスルームで使う場合はアンテナを伸ばしきる」という使い方を案内しています。
――防水でワンセグということであれば、これからの季節は海水浴に持って行きたくなります。
徳原氏
その気持ちはわかりますが、「W53SA」は海水浴、温泉などで利用しないよう案内しています。これは海水を1度浴びたら、すぐ故障するという意味ではありません。「W53SA」に限らず、国内の防水ケータイすべてが真水以外での利用を想定していないと思います。
これは、海水などを浴びた場合、素材の耐久性が落ち、通常利用と比べて劣化する可能性が高まることが理由です。また、防水に関する規格は、真水での利用を想定したもので、海水などを想定した標準規格が存在しないため、現状では評価しづらいと言えます。その一方で、「Xacti DMX-CA65」は真水と塩水での利用に対応したデジタルビデオカメラですので、技術的に不可能というわけではありませんね。
――防水ケータイの場合、カバーの閉め忘れで浸水してしまう……というケースがありそうです。
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バッテリーカバーのツメをひっかけるような仕組み
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徳原氏
バッテリーカバーのロック機構はそのあたりを踏まえ、搭載した形になります。ロックしなければいけない、ということで一手間かかることになりますが、その分、きちんと閉めるという点を意識することになります。バッテリー周辺にはmicroSDカードスロットがあり、開閉頻度も高いでしょうから、閉めたつもりというのが一番怖いところですので、ロック機構を採用しました。これは安心感に繋がると思います。また、パッケージには閉め忘れをしないよう呼びかける用紙を封入します。
上山氏
バッテリーカバーには3カ所ツメを設けており、本体にひっかけるような仕組みになっています。密閉度を高めるために、どうすれば良いかと考えていたときに、弁当箱でフタをしっかりと閉じる機構にヒントを得て、3カ所のツメを付けました。
■ ブランドとのコラボ
――5月下旬の新機種発表会では、auの各機種がファッションブランドとコラボすると発表されました。「W53SA」はどのブランドと協力するのでしょう?
徳原氏
「W53SA」は、Francfrancさんのバス関連グッズシリーズ「Love Spa」とコラボレーションし、Francfrancさんの79店舗で展示されます。「W53SA」は購入できませんが、オリジナルのEZケータイアレンジ用コンテンツを用意するといった展開を行なっていきます。このほか、さまざまなブランドとのコラボグッズが登場する予定です。
――バスルームでの利用にあわせたコラボと言えますね。
徳原氏
帰宅後に家事に追われる人にとっては、なかなか自分の時間は持てません。防水機能が備わったことで、キッチンでも気遣うことなく携帯電話が利用できますので、効率的な時間の使い方ができるようになるのではないでしょうか。
――ありがとうございました。
■ URL
W53SA 製品情報
http://www.sanyo-keitai.com/au/w53sa/
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(関口 聖)
2007/07/17 11:11
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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