シャープのSH904iは、これまでのシャープ端末同様に、スペックとデザインのバランスの取れた端末だ。904iシリーズの共通仕様である「うた・ホーダイ」や「2in1」といった機能とともに、タッチパッド型の入力インターフェイスという、ちょっと変わった機能も搭載している。
これまで通りのスペックとデザインのバランスに加え、新たなインターフェイスを追加した意図はどこにあるのか。開発を担当したシャープ 通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部の木戸貴之氏と安田一則氏に話を聞いた。
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シャープの安田氏
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――まずはSH904iのコンセプトについてお聞かせください。
安田氏
「NEW UI」をコンセプトに、ユーザーインターフェイス(UI)の強化を意識したモデルになっています。
まず最初に、これまでのFOMA開発の考え方をご説明します。シャープの端末は、「スペック」「デザイン」「UI」の3つの要素のバランスを常に重視して開発しています。FOMA初期のSH900iやSH901iCでは、カメラや液晶など、ハイスペックを追求、、お客様からご支持いただきました。その後も最新のデバイスを応用したスペックの追求は続けながら、デザインにも重点を置いて端末を開発しました。たとえばSH901iSでは、アルミを使うことで、素材面で革新させました。SH902iSやDOLCEでもアルミや皮を使い、素材感を活かした高級感のあるデザインを訴求しました。流れとしては初期のスペックからデザインへと重点ポイントを変わっていきました。
SH904iは、スペック重視、デザイン重視という、これまでの流れも踏まえつつ、UIも徹底的に追求しています。いまの携帯電話市場では、MNPの影響もあり、選べる端末種類が増えています。SH904iでは、基本部分を改めて見直し、強化し、既存ユーザーさんにも新規のユーザーさんにも使いやすい端末を目指しました。
いまの携帯電話市場を見ると、買い換えサイクルとしては、1ユーザーにとって2~3台目くらいでしょう。ケータイに触れたことがない人はほとんどいません。そうはいっても、ケータイの操作面では、テンキーと十字キーなどはあまり変化してきませんでした。ユーザーはみんな、この操作に慣れていますが、このままでは使いやすさの向上も限界があります。それを踏まえ、SH904iではUIの革新を図りました。
――SH904iでは、ケータイには珍しいタッチパッド型の入力デバイス「TOUCH CRUISER(タッチクルーザー)」が特徴となっていますね。
安田氏
タッチクルーザーについては後ほどご紹介しますが、UIの改革はそれだけではありません。入力部分だけでなく、画面表示という面のUIも強化しています。たとえばディスプレイは3インチのワイド大画面となっています。SH903iでは2.8インチでしたが、デバイスの進化により額縁が狭額化され、本体の大きさはほぼ同じです。
さらにフォントも変わっています。従来と同じLCフォントも搭載していますが、新たにSHクリスタルタッチというフォントを搭載しました。一括でフォントを拡大設定させる機能も搭載しています。
細かいところでは名刺リーダーやパノラマ撮影といったカメラを使った機能も強化して使いやすくしています。ドコモさんの新サービスである直感ゲームにも対応していますし、カスタムメニュー機能も強化しています。
■ 指を滑らしてポインタを操作するタッチクルーザー
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十字キーの上の部分がタッチクルーザー部分
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――UI部分はスペックに現われないポイントですが、なんだか盛りだくさんですね。まずはタッチクルーザーについてお聞かせください。どのような機能になっているのでしょうか。
安田氏
十字キーの上にノートパソコンのタッチパッドのような「タッチクルーザー」が内蔵されています。このパッドを指でなぞることで、画面上のポインターを操作します。フルブラウザやiモード、メニューにおいて、このポインターによる操作に対応します。
木戸氏
ポインターを利用するという発想は以前からありましたが、今回、搭載に至った決め手は、カスタムメニュー機能にあります。コンテンツが増えるのに伴い、従来のメニューのようにアイコンが上下左右規則正しく並んでいないメニュー画面も見られるようになりました。十字キーではカーソルの動きがわかりにくく、それを見て「ポインターしかないな」と思いました。
安田氏
タッチクルーザーはポインタ操作ができるだけではありません。リストメニューでも、たとえば5個下の項目を選ぶとき、いままでは十字ボタンを5回押していたところですが、タッチクルーザーならば指を素早く1回スライドさせるだけで済みます。漢字変換の候補選択時やパノラマ画像のスクロールにも、タッチクルーザーを使えます。ポインタ操作だけでなく、従来の操作も使いやすくなっています。
といっても、初めてのものなので、慣れない人が操作を誤らないように、データの削除や通信に関する部分などは十字キーで操作するようになっています。
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シャープの木戸氏
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――他社ですと、auの三洋電機製端末「W42SA」が、ボタン面全体をタッチパッドにしています。タッチクルーザーを十字キーの上だけに限定した理由はどのあたりにあるのでしょうか。
木戸氏
全面にしようという話もありましたが、新しいインターフェイスということもあり、今回はタッチクルーザーと十字キーの両方を使えるように、と考えたので、あえて分離しました。デザイン上の制限で、画面が縦に長いのにタッチクルーザーは横に長くなっています。そのため、実際にはタッチクルーザーの挙動は、縦方向が敏感になっています。
ちなみにタッチクルーザーのセンサ自体は、十字キーの最上段まで入っています。そうすることで感度をしっかりとしたものにしています。
初めての試みなので、従来の使い勝手を損なわないよう気をつけて開発しました。ノートパソコンと同じ仕組みなので慣れやすいかもしれませんが、使う指が違います。だからチューニングも苦労しました。
――タッチクルーザーの操作は、片手で行なうことを前提にしているのですか?
木戸氏
ケータイは片手が基本です。タッチクルーザーもほかのキーと同じように、親指で操作します。コツは指を立ててそっと操作することです。慣れていただくと、キーを押すよりも早くなります。
――確かに指の動きの量とカーソルの動きが量が連動するのは、パソコンに慣れていると使いやすいですね。タッチクルーザーは今後の機種にも搭載されるのでしょうか。
木戸氏
今回が初めてなので、お客様のお声をお聞きして、今後につなげていきたい思います。
■ カスタムメニューやフォントなど、スペックに現われないUIも強化
――カスタムメニューも強化されたと言うことですが、どのあたりが変わったのでしょうか。
安田氏
プリインストールされているメニューデザインは、4色のカラーバリエーションごとに変えていますが、たとえば黒の場合、1階層目から2階層目に入る、戻るだけでなく、2階層目から1階層目に戻ることなく、別の2階層目メニューに移れるようになっています。
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メニューデザインの1つ。階層的には第2階層目だが、リストの外へカーソルを移動させると、ほかのリストに移る
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第2階層と第1階層の画面切り替えがないデザインタイプ。上部のタブを左右で切り替えてリストを切り替える
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――そういえば1階層目と2階層目を同時に表示させるデザインもありますね。
木戸氏
SH904iのカスタムメニューでは、新たに2階層目まで扱えるようになったことで、そうした操作が可能になりました。他社ではメニューにFlashを使っていますが、シャープでは独自の「Vivid UI」を使っていまして、新着メールの有無も反映できたりします。
――確かにメールが来ると背景の画像が微妙に変わってますね。なんというか芸が細かいですね。
安田氏
もちろん、プリインストールのものだけでなく、ダウンロードで新しいデザインも追加できます。シャープのサイトからもダウンロードできますが、コンテンツプロバイダーさんからも出てきます。
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右が新着メールがある場合。ファイルを模したメニューに付箋紙が貼られている
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左が新着メールがある場合。デザインに微妙な違いがある。こうした目立たない部分にもこだわりが感じられる
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ポップ調の「SHクリスタルタッチ」フォント
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――新しいフォントも搭載されたと言うことですが、これはどういったフォントなのでしょうか。
安田氏
「SHクリスタルタッチ」というポップ調のフォントです。よく見ると線の端が6角形の半分になってまして、それが名前の由来になっています。元々はシャープのワープロ「書院」に搭載されていましたが、書院の生産終了とともに姿を消していました。それが今回復活した格好です。
木戸氏
いままでもLCフォントがありましたが、フォントで差をつけるべく、新しいものを追加しました。明朝体という選択肢もありましたが、明朝体が生きてくるのはVGA解像度の液晶からかと考えています。
見やすさとしては、ディスプレイが大きくなっているので、同じ文字フォント・サイズでも、従来機種より見やすくなっていますね。
――名刺リーダーも搭載されているようですが、これはどういった機能でしょう。
木戸氏
SH904iに搭載されているものは、名刺1枚を丸ごと一度に読み取れます。W-ZERO3[es]Premium Versionに搭載されているものとベースは同じです。縦書き他、様々なスタイルの名刺にも対応するほか、漢字の読み仮名は、漢字だけでなくメールアドレスから自動的に推測したりもします。
――パノラマ撮影機能というのがあるようですが、これはどういった機能でしょうか。
安田氏
実際に試していただけるとわかりやすいかと思います。撮影を開始して、カメラの方向を横に動かしていくと、自動的に横長の画像が撮影できます。解像度としては1280×320ドットになります。撮影中に多少上下にぶれても、ちゃんと中央をつなげてくれます。
――これは面白いですね。あまり広角ではないレンズでも、部屋の全景とかが撮れて便利ですね。どのくらいの角度が行けるのでしょうか。
安田氏
180度前後までは撮れますが、全周はつながりません。
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パノラマ機能による撮影サンプル。狭い部屋でも魚眼レンズのように全景を撮影できる(リンク先の画像は無加工、204KB)
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色ごとにまったく異なる表面仕上げを採用する
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――シャープ端末というと、いつもデザインにこだわりがありますが、SH904iでのこだわりはどのあたりでしょうか。
安田氏
ディスプレイ側の背面パネルは全カラーともにアルミですが、カラーバリエーションごとにすべて変えています。ブルーは従来モデルでもやったヘアライン仕上げとなっています。黒とピンクは同心円状のラインで削っていますが、まったく異なる表現をしています。白はそうした削り仕上げではありませんが、パールの3層コーティングを施しています。
木戸氏
これまでもいろいろな素材でやってきましたが、いちばんバリエーションが作りやすいのがアルミです。SH904iではいろいろな削り方や塗装でバリエーションを出しています。黒なんかはいちばん削っていますが、表面はダイヤモンド工具で工作しました。天然物のダイヤで削っています。
――普通、人工ダイヤの方を使いそうなところですが……。
木戸氏
人工ダイヤと天然ダイヤを試したのですが、天然ダイヤの方がキレイに削れましたね。
――相変わらずのこだわりを感じますね。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
■ URL
製品情報(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/product/foma/904i/sh904i/
製品情報(シャープ)
http://www.sharp.co.jp/products/sh904i/
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(白根 雅彦)
2007/05/23 11:05
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