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【キーパーソン・インタビュー】
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イー・モバイル種野社長に聞く
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3月31日、イー・モバイルがデータ通信サービス「EMモバイルブロードバンド」を開始する。日本の携帯電話市場にとっては13年ぶりとなる新規参入だが、同社ではHSDPA網での定額データプランによって、「日本の携帯電話に革命を起こす」と意気込む。
同社代表取締役社長の種野晴夫氏に、料金体系やEM・ONE投入の背景などを聞いた。
■ 誰も本気にしなかった
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イー・モバイルの種野社長
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――社長という立場から見て、携帯電話への新規参入は、これまでのADSL事業とどういった点で異なりますか?
手掛けることは全く違いますね。私がイー・アクセスに入ったときにはある程度事業のベースがありました。しかし、今回は全くゼロから立ち上げていきました。移動体通信をやりたいけれど、雲を掴むような話でしたね。まずは免許が必要となるわけですが、どうやれば交付されるのかという点から検討しなければいけませんでした。
世界中を回って、技術面でも勉強を重ねました。一時は、総務省でTDD用に周波数を割り当てるという話がありましたので、米Navini(ナビーニ)社の技術で事業展開しようと検討していましたが、1.7GHz帯での割当という話が出てきました。それも新規参入事業者に割り当てるらしいという話で、千載一遇のチャンスと思いました。ところが当時は、ソフトバンクが大本命で「イー・アクセスって何だ?」とも言われ、相手にされませんでした。広報活動などにも力を入れて、“ソフトバンクとイー・アクセス”という形にしてきて、2005年秋に免許が交付されたというわけです。
――3,500億円という資金の調達にも成功しました。この資金で全国でのエリア展開も可能ですか?
資金調達では、エリック(イー・アクセス副社長のガン氏)も頑張ってくれましたから。携帯電話の免許が交付されるというのは非常に難しいですね。今回は本当に幸運だったと思います。また全国カバーについても、この資金で充分やっていけます。
■ 料金はドコモ対抗
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料金体系はシンプルな形を目指しているという
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――料金設定についてですが、どのように決まったのでしょうか?
競合他社のプランを見て比較した結果と言えます。1つはNTTドコモさんの「パケ・ホーダイ」ですね。あちらは音声通話も利用しなければならず、基本料を含めると1万円近くしますが、通信料だけ見るとパケ・ホーダイフルは月額5,985円です。あれを基準の1つとして参考にした形になります。
当社のサービスは、データ通信のみですが、下り最大3.6Mbpsです。データサービスだけで見ると、ドコモさんと同じレベルの料金ですが、より高速で、ユーザーにとってはメリットがあると思います。
――国内のデータ通信市場は、PHSのウィルコムが牽引してきた部分がありますが、意識していないのでしょうか?
かつて、一緒にやりました(旧DDIポケット会長職を務めた)ので愛着はありますし、頑張っておられると思います。ただ、速度面ではまだ高速とは言えません。当社は3Gで、PHSとは異なる技術だと思っています。彼らは安価なサービスも提供していますが、そこにあわせる必要はないと考えました。
――パソコン向けデータ通信も定額の範囲内ですが、これについては最初から決まっていたことでしょうか?
いろいろと議論はありましたね。ただ、安売りはしたくないと考えていました。とはいえ、あまり高過ぎると加入してもらえません。
ソフトバンクモバイルさんは、音声基本料で980円というプランを発表されましたが、そういった価格帯でサービスを提供する考えはありませんでした。採算が取れて、ユーザーに満足してもらえるギリギリの基準が5,980円という価格だと思います。
――サービス内容を見ると、6,000円を切るという価格帯は安いと思いますが、価格だけ見ると「高い」と感じる方もいると思います。今後はどうアピールしていくのでしょう?
1年、あるいは2年経つと4,980円という価格になりますし、キャンペーン期間中であればADSL込みで5,980円という価格になります。他社のサービスは、データ通信を行なうといくらになるかわからないというのが現状です。定額で使い放題、そして一定期間経つと4,980円ですから、安いと見てもらえると思います。
また、他社の料金は複雑ですね。知っている人だけ割引で安くなる、という形ですから、当社はできるだけシンプルな料金体系にしていきたいのです。
■ エリア展開について
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関東でのエリア展開イメージ
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――エリアが狭いと考えて、様子見する人もいると思いますが、サービス開始時期を遅らせてエリアを充実させてから、というプランはなかったのでしょうか?
確かにエリアは広い方が良いでしょう。しかし、我々は早くサービスを始めたかったのです。始めることで、ユーザーの声も上がってきますし、品質も向上できます。また、データ通信の利用動向としては、ある程度利用する場所が決まっていると思います。たとえばオフィス街だったり空港、新幹線の駅といったところですね。そういったところをカバーできればアーリーアダプター層のニーズも満たせるだろうと思います。何よりも、できるだけ早くスタートして品質を向上させていきたいと考えています。
――サービスそのものの開始時期を2008年3月にして、音声通話とデータを一緒にスタートする、ということを避けたのは、同じ考えによるものでしょうか?
そうですね、音声通話を提供するには、やはりエリアが広くなければなりません。まずはドコモさんとのローミングという形になりますが、当初はデータのみということでエリア面でのハンデはなんとか乗り越えられるだろうと思います。
――ドコモとのローミングで料金はどうなるのでしょう? また、今後のエリア展開は?
まずドコモさんとのローミングで全国で音声が利用できるようになりますが、その価格はまだ未定です。直前に発表することになるのでしょう。
エリアは関東、中部、関西、そして札幌、新潟、福岡を自前で展開して、その他はドコモさんとのローミングで音声通話サービスをスタートすることになります。そして5年かけて全国をカバーしていきます。来年には人口カバー率で60%程度になるでしょう。
なお、現在発表済の端末はドコモさんとのローミングには非対応です。あくまでデータ通信のみで当社のネットワークにのみ接続します。従って、「ドコモエリアに接続して従量課金」ということはありません。
■ 端末について
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「EM・ONEいいですよ」と語っていた種野氏
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――どの程度のユーザーが加入すると予測していますか? EM・ONEとカード型のどちらが人気でしょう?
初年度の目標は約30万人ですね。ニーズについては、半々かなと思います。仮に都内でしか使えないとしても「それで充分」というユーザー層はいますので、まずはそういった方に利用してもらえるのではないでしょうか。
――仕事で、ということであれば法人市場で需要があるのでしょうか?
もちろん法人市場は開拓していきたい、これからの分野だと考えています。実際にSI業者などからの問い合わせも来ていますので、法人向けアプリケーションなどを一緒に開発していくことになるのでしょう。
しかし、最初に狙っているのは、ビジネスユースに使う個人ユーザーです。というのも、法人での調達となれば、社内システムとの接続検証や購入にかかる手続きなどが必要で、購入までの道程が煩雑と言えます。いわゆるプロシューマー、仕事半分、趣味半分といった方がまず加入していただけるのではないでしょうか。
――そういったユーザー層にとって、EM・ONEは魅力的な端末と思えます。
ありとあらゆる機能を盛り込んでいますからね。一番の魅力は高速通信でしょう。そしてもう1つがワンセグですね。
――国内の携帯電話市場でもワンセグ機能が流行しつつありますが、そういった動向の影響を受けたということになるのでしょうか?
いえ、そういうことはありません。EM・ONEの使い方を考えた結果ですね。Webブラウジングやメールが主用途でありながら、途中でちょっとテレビを見るという使い方は便利でしょう。大画面ですから、長時間テレビを見ても疲れませんね。
――海外メーカーから既存製品を調達するのではなく、シャープの新製品となるEM・ONEを投入した理由は?
最初、どういう端末を出すか検討していく中で、たまたまシャープの方と話をしていって、EM・ONEに通じるコンセプトが出てきたということです。シャープの町田勝彦社長と、千本(イー・アクセス会長)が懇意だったから、ということもあります。EM・ONEを開発したシャープさんの部隊はかつてザウルスを手掛けていましたので、「次の端末を」という考えがあったのかもしれません。
ただ、全てをシャープさんに任せっきりにしたのではなく、当社からは大画面化や薄型化を提案するなど、互いに議論して形にしていきました。イー・モバイルのコンセプトがかなり入った端末になったのです。それを実現するために、クアルコムやマイクロソフト、ヤッパなどの力を結集したということになります。
――海外メーカー端末の調達という選択肢を採らなかった理由は?
もちろん検討はしました。ただ、彼らの製品は、たとえば画面が小さくワンセグ非対応など、日本市場にはインパクトが出せないと判断しました。また同じような製品が既に他社向けにも出ているというのは面白くない。イー・モバイルの最初の端末として、「あっ」と言わせるものを出したかったのです。
――今後についてはいかがでしょう?
次の機種は、音声サービスに向けて開発を進めていますが、メーカー名を含め、まだ明かせません。
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当分は、EM・ONEやカード型端末のみの提供となる
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――音声サービスがスタートするまでは、EM・ONEと発表済のデータ通信端末以外に登場する製品があるのでしょうか?
いえ、音声サービスまではこの機種群でいきます。それ以外の製品は考えていません。当然、将来的にはEM・ONEを上回るものを作っていくことになるのでしょう。
――おサイフケータイ(FeliCa)やGPSといった機能については?
個別の機能について、現時点では明らかにできませんが、携帯電話の付加価値として搭載していくことになりますね。全機種というよりも、機種によって必要とあれば搭載することになるのでしょう。
――子供向け、シニア向け端末については、どう見ていますか?
そういったところにターゲットした端末が最初から出てくることはないでしょう。どちらかと言えば若い方に使って欲しいと思っています。まずは、若い男性に魅力を感じてもらえる商品を出していきたいですね。
――SIMロックに関して、昨今話題になっていますが……。
我々からすると、端末が市場で自由に出回って、ユーザーが端末を持ち込んでくれるのが一番理想的だと思いますし、そういった形に持っていきたい。しかし、「明日から」と突然実施して、ユーザーに受け入れてもらえるでしょうか? なかなか難しいと思いますね。
――たとえばEM・ONEを2年契約で購入して、2年後にSIMロックを解除すると言うことはあり得るのでしょうか?
EM・ONEは1.7GHzを利用します。1.7GHzだけに対応するキャリアは、国内には他にありません。将来、全ての携帯電話が1.7GHzと2GHz対応となれば、SIMロック解除はありえるかもしれません。他社で購入した携帯電話を持ち込んでもらえれば、端末コストなしに新規ユーザーを獲得できるわけですから。
――SIMロックフリーの端末の利用では、キャリア固有のサービスが使えるかどうかという点も気になります。
それは「使えない」ということになるのでしょう。それでも良い、そんなサービスはいらないという人もいると思いますね。そういう流れになってくれば、当社では対応していきたいと思いますね。
■ コンテンツ、MVNO、サービス体制について
――たとえばiモードのようなクローズドなコンテンツ環境についての考えは?
オープン系とポータル系と両方やっていくことになります。コンテンツは、今後の重要な戦略の1つですから、現在準備を重ねています。
コンテンツはサービスも重要な柱の1つです。たとえばEM・ONEであれば、電子書籍・電子コミックや映像が楽しめます。まずはオープン系コンテンツから始めますが、今後はそういったところも提供していきたいと考えています。
――MVNOについて、あらためて考え方を教えて下さい。
当社はMVNOをやるということで、ニフティさんやSo-netさんと話し合いをしています。条件さえあえば回線を提供していきます。ただ、どこまでお手伝いするのか、端末メーカーとの交渉などが考えられますが、そこまでやるMVNOはいないかもしれません。当社は新規参入ですから、どんどんMVNOをやっていきたいと思います。
――店頭でのサポート体制について、量販店内にカウンターを設けるということですが、今後もその方針に沿っていくことになるのでしょうか?
基本的に「買ったお店に相談してください」という形のほうが分かりやすいと考えています。専門のキャリアショップを設けない理由は、魅力なしということではなく、最初はユーザーが0人という状況からスタートするためですね。また、キャリアショップを展開することで「量販店で相談したらキャリアショップへ行ってと言われた」というケースがあると思います。これはちょっと不便ですから、そういうことはなくしていきたい。
できるだけシンプルでわかりやすく、説明をきっちりとやっていきたいと思います。ただ、最初は「自宅で使えなかった」などエリアに関するクレームが多いだろうと思っています。そういった点を店頭で明示していきます。何かあったら買ったところに持ってきてください、というのは一番わかりやすいですし、安心感があると思いますが、将来的に要望があればキャリアショップも展開していくことになるのでしょう。
当社サービスの一番のポイントは定額、そして高速ということです。実際に使って頂ければ実感してもらえると思います。特にパソコンに装着して使う場合はよくわかると思います。
――ありがとうございました。
■ URL
イー・モバイル
http://www.emobile.jp/
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(関口 聖)
2007/03/01 11:24
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